絵画
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
赤い人と青い人…エムリットさんとアグノムさんに私は事の顛末を一通り説明して貰ったが、如何せん記憶が無い為、聞いた事ない言葉ばっかりで半分も理解出来なかった。それでも2人は懇切丁寧に私の身に起こった事を分かりやすく話してくれたが、まるで他人事だとしか思う事が出来ない自分がいた。
2人はやけに''ユクシー''という名前を口に出していた。どうやらこの人が私の記憶を全て消し去った元凶らしい。何でこのユクシーという人は私にそんなひどい事をしたのかと問うてみるも、2人共「一目惚れしたから」の一点張りだった。意味が分からない。
正直ふざけるのも大概にしろと思った。惚れた腫れたのくだらない色恋沙汰で1人の女の記憶が消えるものか。しかもそっちから惚れてきた癖にどうして此方が人生を滅茶苦茶にされなければならない。
「…あの、ユクシーさんってどういう人なんですか」と2人の説明に口を挟む様にして質問してみれば、2人共口を揃えて「自分勝手な屑野郎」と半ば吐き捨てる様にそう教えてくれた。エムリットさんはともかく、パッと見優しそうなアグノムさんにまでそう言われてしまうって相当なのでは。
「僕達はね、俗に言う''心の神''ってやつなんだ。ああ、ここで言う僕達の中にはユクシーも含まれてるから覚えておいてね」
「そーよ!覚えておきなさい!それでね、あたし達にはそれぞれ能力があるの!その辺にいるポケモンの持つ特性とは違って、あたし達しか使えない特別な能力!」
エムリットさんがそう声高らかに説明してくれた言葉を必死に噛み砕いて理解しようと奮闘していたら、いつの間にかエムリットさんが懐からメモ帳を取り出して何かをサラサラと流暢に書き出していた。何を書いているんだろうと不思議に思ってじっと見つめていると、もう書き終えたのか、エムリットさんが白魚のようにしなやかで綺麗な手を私の顔の前にずいっと近付けて来た。その細い指の間には、1枚のメモ用紙が挟まれている。
「はいこれ。あんた今の説明全然理解してないみたいだったから、分かりやすいように纏めてあげたわよ!感謝なさい!」
そのメモ用紙を受け取ろうとした際、僅かにエムリットさんの手と私の手が触れ合った。この人、遠目で見てた時は気付かなかったけど、案外筋張った手してるんだなあ。とぼんやりそんな事を思いながら渡された紙を見てみると、そこにはこんな事が書かれていた。
その ポケモンの めを みたもの
いっしゅんにして きおくが なくなりかえることが できなくなる
その ポケモンに ふれたもの
みっかにして かんじょうが なくなる
その ポケモンに きずを つけたもの
なのかにして うごけなくなり
なにも できなくなる
「こ、これ…」
「上から順に誰の能力か教えてあげる。1番上がさっきも言ったユクシー。2番目がこのエムリット。それで3番目の能力が僕のだよ」
「もっと分かりやすく教えてあげると、アンタはこの中でも1番異質なユンちゃんの能力を受けちゃった訳!しかも完全なる惚れたユンちゃん側からの逆恨みでね」
それを聞いた途端、私の感情はもう怒りや呆れを通り越して無になってしまった。勝手に自分より弱い存在に惚れておいて、都合が悪くなれば己の能力を悪用して人の記憶をいとも簡単に消し去るのが神の所業か。自分の記憶が消えた原因を知れた事に対する安堵か、それともユクシーという神に対する呆れか、どちらが原因か定かではないが、気付いたら深い溜息を1つ吐いていた。
「…あ、ていうかさっき私、エムリットさんに触れてしまった気がするんですけど、」
「ああ!あれは特別にノーカンって事にしてあげる!アタシはユンちゃんみたいに自分勝手じゃないし!」
「もう片足突っ込んでる感じはあるけどね…それはそうとして。君はこれからどうしたい?」
「…え、」
「僕達二人の力では、不甲斐ないけれど君の記憶を戻す事も、ユクシーに対して直接的な牙を剥く事も出来ない。神同士の内輪揉めは御法度なんだ。けれどここまで来てしまった以上、君に助け舟を出さない訳にもいかない。なら、君自身がどうするべきか選ぶんだ。君はどう助けて欲しい?僕らに何を望む?」
「私は…」
正直、私に一切の記憶が無い時点で、もう何しても詰んでる気がするのだが。果たしてこのまま目覚めたとして、私の帰る場所も生業も何一つ思い出せないのだから、生きていてもどうしようもない気がする。でも、ユクシーに対して思うことが無い訳でもない。なにか一言言ってやらなければ気が済まないのもまた事実だし、どうせなら記憶を消される前、私がユクシーに何度も何度も振り回された分をそっくりそのまま返してやりたい。…でも、この人達にもそれが出来ないとなれば、私に出来る事も尚更限られている。それならば私は、私1人でしか出来ない事を。
「…何も望みません。ただ見守っていて下されば、それで」
「…良いのかい?」
「はい。神を骨抜きにさせた愚かな人間のさいごを、どうか見届けてください。それだけで十分です」
そう言った途端、私の腹部にエムリットさんの腕が勢いよく回された。何事かと思いながらもそれを受け止めれば、目の前には喜怒哀楽から怒と哀だけを残した様な顔で私を見つめているエムリットさんがいた。
「…あーもう!人間っていうのは何でどいつもこいつも自己犠牲的なのよ!!少しはユンちゃんの事を止められなかったアタシ達のせいにしてくれても良いじゃない!」
「エ、エムリットさん…」
「やっと話がまとまったかと思ったらこれかあ…」
「…でも、僕からも本当にごめんね、アイツと君をもっと早く引き離す事が出来ていれば、こんな事にはならなかったのにね」と悲しげな顔で私を見つめるアグノムさんににっこりと笑いかけて、別れの意を込めてぺこりとお辞儀すれば、自分の身体がだんだん透けて、現実世界に戻ろうとし始めていた。身体が消えてしまう直前、2人に一言「ありがとう」と伝えたその途端、ぐらりとまた意識が遠のき始めた。最後に視界に入ったのは、涙目のエムリットさんと、何処か悲しげな表情で微笑んでいるアグノムさんの顔だった。
2人はやけに''ユクシー''という名前を口に出していた。どうやらこの人が私の記憶を全て消し去った元凶らしい。何でこのユクシーという人は私にそんなひどい事をしたのかと問うてみるも、2人共「一目惚れしたから」の一点張りだった。意味が分からない。
正直ふざけるのも大概にしろと思った。惚れた腫れたのくだらない色恋沙汰で1人の女の記憶が消えるものか。しかもそっちから惚れてきた癖にどうして此方が人生を滅茶苦茶にされなければならない。
「…あの、ユクシーさんってどういう人なんですか」と2人の説明に口を挟む様にして質問してみれば、2人共口を揃えて「自分勝手な屑野郎」と半ば吐き捨てる様にそう教えてくれた。エムリットさんはともかく、パッと見優しそうなアグノムさんにまでそう言われてしまうって相当なのでは。
「僕達はね、俗に言う''心の神''ってやつなんだ。ああ、ここで言う僕達の中にはユクシーも含まれてるから覚えておいてね」
「そーよ!覚えておきなさい!それでね、あたし達にはそれぞれ能力があるの!その辺にいるポケモンの持つ特性とは違って、あたし達しか使えない特別な能力!」
エムリットさんがそう声高らかに説明してくれた言葉を必死に噛み砕いて理解しようと奮闘していたら、いつの間にかエムリットさんが懐からメモ帳を取り出して何かをサラサラと流暢に書き出していた。何を書いているんだろうと不思議に思ってじっと見つめていると、もう書き終えたのか、エムリットさんが白魚のようにしなやかで綺麗な手を私の顔の前にずいっと近付けて来た。その細い指の間には、1枚のメモ用紙が挟まれている。
「はいこれ。あんた今の説明全然理解してないみたいだったから、分かりやすいように纏めてあげたわよ!感謝なさい!」
そのメモ用紙を受け取ろうとした際、僅かにエムリットさんの手と私の手が触れ合った。この人、遠目で見てた時は気付かなかったけど、案外筋張った手してるんだなあ。とぼんやりそんな事を思いながら渡された紙を見てみると、そこにはこんな事が書かれていた。
その ポケモンの めを みたもの
いっしゅんにして きおくが なくなりかえることが できなくなる
その ポケモンに ふれたもの
みっかにして かんじょうが なくなる
その ポケモンに きずを つけたもの
なのかにして うごけなくなり
なにも できなくなる
「こ、これ…」
「上から順に誰の能力か教えてあげる。1番上がさっきも言ったユクシー。2番目がこのエムリット。それで3番目の能力が僕のだよ」
「もっと分かりやすく教えてあげると、アンタはこの中でも1番異質なユンちゃんの能力を受けちゃった訳!しかも完全なる惚れたユンちゃん側からの逆恨みでね」
それを聞いた途端、私の感情はもう怒りや呆れを通り越して無になってしまった。勝手に自分より弱い存在に惚れておいて、都合が悪くなれば己の能力を悪用して人の記憶をいとも簡単に消し去るのが神の所業か。自分の記憶が消えた原因を知れた事に対する安堵か、それともユクシーという神に対する呆れか、どちらが原因か定かではないが、気付いたら深い溜息を1つ吐いていた。
「…あ、ていうかさっき私、エムリットさんに触れてしまった気がするんですけど、」
「ああ!あれは特別にノーカンって事にしてあげる!アタシはユンちゃんみたいに自分勝手じゃないし!」
「もう片足突っ込んでる感じはあるけどね…それはそうとして。君はこれからどうしたい?」
「…え、」
「僕達二人の力では、不甲斐ないけれど君の記憶を戻す事も、ユクシーに対して直接的な牙を剥く事も出来ない。神同士の内輪揉めは御法度なんだ。けれどここまで来てしまった以上、君に助け舟を出さない訳にもいかない。なら、君自身がどうするべきか選ぶんだ。君はどう助けて欲しい?僕らに何を望む?」
「私は…」
正直、私に一切の記憶が無い時点で、もう何しても詰んでる気がするのだが。果たしてこのまま目覚めたとして、私の帰る場所も生業も何一つ思い出せないのだから、生きていてもどうしようもない気がする。でも、ユクシーに対して思うことが無い訳でもない。なにか一言言ってやらなければ気が済まないのもまた事実だし、どうせなら記憶を消される前、私がユクシーに何度も何度も振り回された分をそっくりそのまま返してやりたい。…でも、この人達にもそれが出来ないとなれば、私に出来る事も尚更限られている。それならば私は、私1人でしか出来ない事を。
「…何も望みません。ただ見守っていて下されば、それで」
「…良いのかい?」
「はい。神を骨抜きにさせた愚かな人間のさいごを、どうか見届けてください。それだけで十分です」
そう言った途端、私の腹部にエムリットさんの腕が勢いよく回された。何事かと思いながらもそれを受け止めれば、目の前には喜怒哀楽から怒と哀だけを残した様な顔で私を見つめているエムリットさんがいた。
「…あーもう!人間っていうのは何でどいつもこいつも自己犠牲的なのよ!!少しはユンちゃんの事を止められなかったアタシ達のせいにしてくれても良いじゃない!」
「エ、エムリットさん…」
「やっと話がまとまったかと思ったらこれかあ…」
「…でも、僕からも本当にごめんね、アイツと君をもっと早く引き離す事が出来ていれば、こんな事にはならなかったのにね」と悲しげな顔で私を見つめるアグノムさんににっこりと笑いかけて、別れの意を込めてぺこりとお辞儀すれば、自分の身体がだんだん透けて、現実世界に戻ろうとし始めていた。身体が消えてしまう直前、2人に一言「ありがとう」と伝えたその途端、ぐらりとまた意識が遠のき始めた。最後に視界に入ったのは、涙目のエムリットさんと、何処か悲しげな表情で微笑んでいるアグノムさんの顔だった。