バタン、と玄関のドアが開閉する音が聞こえ、私は緩む頬を抑えながら玄関へと急ぎ足で向かう。まず労りの言葉を掛けて、その後はゆっくりと甘やかして…何て事を考えながら玄関への階段を下ってゆくと、そこには疲れきった顔で玄関の手すりにもたれかかるナマエの姿があった。

「おかえりなさい、ナマエ」

私はそう言って彼女を腕の中に閉じ込める。ナマエの匂いが鼻を擽り、胸が幸福感に包まれるこの感覚が、私は大好きだ。だが柔らかくて細いナマエの身体は、聖剣士と呼ばれている自分とはあまりにも違いすぎて、たまに潰してしまわないか不安になってしまう。

「ただいま、ビリジオン。出迎えてくれてありがとね。」

疲れきった顔とは逆に、明るさを取り繕っている様なその声。きっと私を心配させない為の小細工なのだろう。それを察した私は、とりあえず彼女をリビングのソファへと座らせ、隣に腰掛ける。

「今日も一日、お疲れ様でした。」

優しい声色でそう言い、彼女の髪を指に絡ませながら静かにナマエの頭を撫でる。するとナマエは、私の胸に頭を預けながら甘えるように私の名前を呼んだ。

「ビリジオン…」

「はい。どうしました？」

「もう人生辞めたい…何もかも失敗だらけだし、友達は減る一方だし、そういう時に限って人の幸せばっかり目に入ってくるし…もうやだ！外出たくない！！ずっとあなたと一緒に居たい！」

「あらあら…」

そう感情を爆発させながら駄々をこねるナマエを見て、私は彼女の可愛さで緩む表情筋を必死に隠しながら、静かに口を開く。

「そうですねぇ。私も貴方とずっと一緒に過ごしていたいと思っていますよ。」

「…！そうよねビリジオン！あなたもそう思うわよね！」

「はい。ですが、あなたにはあなたのやるべき義務がありますし、それを放棄する事は出来ませんよ。人生って理不尽なものです。」


「…イケメンの癖に意外と厳しい事言うじゃない。このお堅い聖剣士め。」

「えぇ。下手に甘い言葉を掛けるより、冷静に諭した方が効果的な場合もありますから…ていうか今私の顔は関係ないでしょう。」

私はそう言って、不満げな表情をしている彼女の頭をもう一度撫でる。嗚呼、可愛い可愛い私のご主人。出来ることならばあなたをこの家に閉じ込めて、縛り付けて、ずっと一緒にいたい。でもきっと、私がそんな事をしたらあなたは私を怖がってしまうでしょう。だから私はあなたを諭す事しか出来ない。こんな私をどうか許して下さい。

「でも確かに、変に優しい言葉を吐かれるよりもそうやって諭される方が良いかもしれないわ…ありがとね、ビリジオン。」

「…いえいえ。また何かあれば、手遅れになる前に言ってくださいね。あなたは私の大切な存在なんですから。」

昔から人間なんて大嫌いで、忌まわしいとさえ思っていた。でもあなただけは別。私を助けてくれたあの日から、あなたを何があっても守ると誓ったんです。

愛しています。私のご主人。