彼と喧嘩した。原因は些細な事だった。私が我儘で無神経過ぎたのだ。身持ちが固くて硬派な彼に対して踏み込みすぎた。何やってるんだろう本当に。これでは彼の恋人である以前にトレーナーとして失格ではないか。

彼は神様なのだから、人である私が馴れ馴れしく近づいていい存在な訳が無いのに。彼の優しさに甘え過ぎた結果がこれだ。彼を怒らせてしまった。そして挙句の果てに、彼を置いて1人で家を飛び出してしまった。

淡い薄紫色に染まってきた夕暮れ時の空を見上げながら、身勝手な私は1人公園のベンチに腰を下ろすとポケットの中から携帯を取り出して時間を確認する。時刻は18時半。良い子はお家に帰るべき時間だ。なのに私は帰る仕草も見せずに、目に涙を溜めて鼻を啜る事しかしない。そんな惨めな女を一体誰が慰めてやれるというのだ。

「ディアルガ……」

大好きな彼の名が惨めにも口をついて出てきた。どうしようもなく孤独で寂しくて、自分に非があるのに可哀想な振りが辞められなくて。自分から家を飛び出した癖にもう帰りたいだなんてあまりにも身勝手すぎる。

寂しい。寂しいよディアルガ。ごめんなさい。もうあなたの嫌がる事なんて何一つしないから。私に居場所を頂戴。

泣きながらそんな懺悔を頭の中で唱える。こんなに反省しているのにまだ帰る気が起きないのは、私が一丁前に家を飛び出して行った手前、彼に泣き顔を見せたくないという薄っぺらいプライドのせいだ。本当に私はどうしようもない。

でももう暗くなって来ているし、家からだいぶ遠い所まで走って来た為今の内に帰らないと今日は野宿になるかもしれない。それにもし帰らなければ彼を心配させてしまう。もしかしたらまだ怒ってるかもしれないけど…

そう思い立ってベンチから重い腰を上げ、私は家へと帰路に向かおうと公園の出口まで向かう。

…だがその時、私の頭上に冷たい何かが降り注いできたと同時に、雨粒がポツポツと地面を濡らしてゆく。雨が降ってきたのだ。天気予報では今日は一日中晴れている筈だったのに。どうして。

私は急いで帰る為に、未だに涙で滲んでいる目を袖で拭いながらひたすら家を目指して走る。でも服も髪も顔もびしょ濡れで、空も暗くて道も分からなくて。私は無様にも水溜まりの所で足を滑らせてしまい、バランスを崩してしまった。

(どうしよう、転んじゃう…！)

思わずギュッと目を瞑り、受け身が取れるような体制を作る。だがその時、誰かに抱き止められて身体を支えられた。鋼みたいに硬くて無骨な腕に、私よりずっと高い身長。何で。喧嘩してた筈なのに。

「…本当に貴様は危なっかしいな」

「ディアルガ…！なんで、何で来てくれたの…
ごめんなさい…私…」

「…説教は家でしてやる。ほら早く帰るぞ、ナマエ｣

彼はそう言うと、持ってきていたらしい傘を私に差してくれた。そして、彼と一緒に相合傘の状態で家へと向かう。でもその間ずっと無言なのが何だか気まづくて、私はそっと呟いた。

「迎えに来てくれて、ありがとう…」

彼はその呟きに返事を返してはくれなかったが、その表情は少し和らいでいる様にも思えた。そして家の近くまで差し掛かった頃、ディアルガが静かにこう言った。

「家に帰ったら説教だ。覚悟しておけ。私がどれだけ心配したと思っている」

「……うん」

彼はそう言うと、傘を持っていない方の腕で私をそっと優しく抱きしめた。彼の優しい温もりが伝わってきて、私は思わずまた泣きそうになってしまった。勝手に家を飛び出して彼をどれだけ心配させた事だろう。早く謝って仲直りするべきだったのに。被害者面をして、ずっと外に閉じこもっていた。

もう一度傍に置いて下さい。