ダークライ
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灰色掛かった雲に隠された太陽、そんなグレースケールに覆われたほの暗い空の色、そして、身体に突き刺さるような寒気。この光景を見てお分かりの通り、今季は紛れもない冬である。そういえば今朝のニュースで聞いたが、今日は昨日よりも遥かに空気が冷えているらしい。曰く、最低気温はマイナスまで届くのだとか。シンオウの冬はとにかく急激に冷え込むのが特徴だが、それは今年も例外ではないようだ。さすが雪国、侮れない。
エンドレスに粉雪が降り続いてゆく様子をベランダから眺めながら、肩に掛けているストールで冷えた身体を包み込み、指先の赤くなった両手を擦り合わせて微かな暖を取る。冬にしか見ることの叶わないこの雪景色がどうしても見たかったからと言って、上着も防寒具も身に付けずにストール1枚で外に出るのは流石に自殺行為だった。冬とは言ってもまだ上旬だから、そんなに本格的に寒冷化してないだろう。とシンオウの冬を舐めて掛かっていた数時間前の自分をぶん殴ってやりたい。
一度部屋に戻って防寒具とカイロを取ってこようか、いやでも動くのすら面倒臭いな。身体も重たいし、何よりこの美しい景色から目を逸らしたくない。と頭の中であれこれ言い訳を並べながら、一向にベランダから出ようとしない私。どうやらこの寒さのせいで脳味噌まで凍りついてしまったようだ、正常な判断が出来なくなっている。
「…まあ、別にいいか」
…結局動くことへの面倒臭さが勝ってしまい、懲りずに薄着のままでじっと景色を眺め続ける事に決めた私。すると突然、後ろにあるベランダの扉が何者かによって軋んだ音を立てながら開かれた。その音を聞いてようやく現実世界に戻ってきた私は、緩慢な動作で首を動かし、扉を開けた犯人に対してすっかり乾燥した唇を使って言葉を紡ぐ。
「どうしたの、ダークライ」
「…ナマエ、そろそろ中に入ったらどうだ」
──そのままでは、お前が風邪を引いてしまう。
そう言って彼は私に、湯気の立っている温かいココアと厚手の上着を差し出した。それに触れた途端、掌からじわじわと幸せと優しさの凝縮された温もりが伝わってきて、長時間外に居て感覚が無くなってしまうくらいに冷え固まっていた私の手が、ゆっくりと時間を掛けて元の体温に戻ってゆく。
「呼びに来てくれたの?」
「…私一人では、家で何もする事が無い」
「何それ。もしかして寂しかった?」
「当たり前だ」
そんな言葉を交わしながら、彼に手を引かれるがまま部屋の中へと導かれ、ソファーに二人で腰を下ろす。その衝撃によって、持っていたココアがカップの中で僅かに揺れた。そのココアを1口飲んで身体を温めた後、そのまま私は隣に座っているダークライの肩に頭を預け、猫のように擦り寄った。昼下がりからずっとベランダに出ていた私と違い、暖房の効いた暖かい室内で1人のんびり過ごしていたからか、今の彼の体温は私よりもずっと高い。その温もりを自分の冷えた身体に染み込ませる様にずっと擦り寄ったままでいると、ダークライが私の身体をそっと抱いた。今日はいつになく彼の愛情表現が顕著だ。普段は指先に触れる事すら躊躇するほどなのに。
「ココアと上着ありがとう、ダークライ」
「この季節に薄着で外に出ていては、いつか本当に身体を壊してしまうぞ」
「今更そんな事言ったって…普段から誰かさんのせいで碌に睡眠取れて無いんだから、私の身体は常時不健康みたいなものだよ。免疫も随分低下してるだろうしね」
「…そんな事を言わないでくれ、ナマエ」
しまった、流石に今の言葉にデリカシーが足りていなかった様だ。彼の明らさまに傷ついたような表情を見て、私は直前に吐いた自分の言葉を恥じて口を噤んだ。思い付いた言葉を考え無しにすぐ発してしまうのは私の悪い癖であり、直すべき立派な短所だ。とはいえ、私が全く睡眠を取れていないのもれっきとした事実。そのせいで今の私の免疫力とホルモンバランスは、医者に激怒されそうなくらいにはガッタガタのガタ落ち状態だ。何故そんなに不眠気味なのかって?それは、今私の隣に座っている彼──ダークライが原因である。
彼の性質─特性のナイトメアによって無条件に悪夢を見せてしまうもの─が原因で、私は彼と一緒に暮らし始めてからというもの、安眠生活に対して永遠の別れを告げなければならなくなった。眠りについてみても、見る夢は彼のせいで当たり前のように悪夢ばかり。その悪夢の内容は過去に経験してきたトラウマや暗い思い出のフラッシュバックが殆どで、私は何度も何度も自分の叫び声と悲鳴によって目を覚ました。当然そんな悪夢を見た後にまた眠気などやってくる筈もなく、少しでも気を紛らわせる為にベランダで泣きながら景色や空を眺めて夜をやり過ごす日々。暇な時に風景を見て呆然とする習慣が身に付いてしまったのも、元はと言えばこれのせいだったようにも思える。
元々彼は自身の住処 で、誰にも迷惑をかけないようにと一人でひっそり過ごしていた。そんな彼の優しさと強さにたまたま旅の最中に通りかかった私が惹かれてしまい、何度目かの逢瀬と説得を重ね、紆余曲折あって何とか絆を深めることに成功して結ばれた結果、今のこの生活に至るのである。だが、私は彼の心から笑った表情を見た事がない。それは当然の事だ。愛する人を自分の力のせいで毎日苦しめているのだから、明るい表情なんて微塵も作れる訳がない。私が彼の力のせいで毎晩苦しみ、彼もまた愛した女を傷付けているという事実に苦しみ、余計に自身の力を恨む。そんなお互いにずっと幸せになれない関係を引き摺っているのが今の私たちだ。まるで泥沼のようにその中身は濁りきっている。
「ねえ、ずーっと一緒にいようね」
「…私のせいで、生涯苦しみ続ける事になっても?」
「眠れない分、きみと一緒に過ごす時間が増えると考えれば安いものだよ」
「何故そこまで苦しんで尚、私と一緒に居る事を望む」
「君の事が何より大切で、誰より好きだからかな」
「……馬鹿げた愛だ」
「でもダークライだって私の事好きでしょ」
結局私達は、自分の心を相手への愛執と劣情で雁字搦めにして、逃げられなくなっているだけなのだ。私が悪夢を見て苦しんでいるのは確かに彼の力のせいだけれど、彼だってその力を自ら望んで得た訳ではない。元はと言えばこの関係は、私が彼に惹かれた事から始まったのだ。今更根を上げて彼を捨てるなんて、そんな自分勝手な事は出来ない。
彼を捨てて一人で生きていくくらいなら、私は悪夢に苦しみながら生きていく方がよっぽど幸せだ。そんな事を思いながら、私はすっかり冷めてしまったココアを1口飲んだ。隣に座る彼は、すっかり濃くなった私の目の隈を見て申し訳なさそうに眉を下げてから、もう一度私の身体を静かに抱きしめてくれた。
エンドレスに粉雪が降り続いてゆく様子をベランダから眺めながら、肩に掛けているストールで冷えた身体を包み込み、指先の赤くなった両手を擦り合わせて微かな暖を取る。冬にしか見ることの叶わないこの雪景色がどうしても見たかったからと言って、上着も防寒具も身に付けずにストール1枚で外に出るのは流石に自殺行為だった。冬とは言ってもまだ上旬だから、そんなに本格的に寒冷化してないだろう。とシンオウの冬を舐めて掛かっていた数時間前の自分をぶん殴ってやりたい。
一度部屋に戻って防寒具とカイロを取ってこようか、いやでも動くのすら面倒臭いな。身体も重たいし、何よりこの美しい景色から目を逸らしたくない。と頭の中であれこれ言い訳を並べながら、一向にベランダから出ようとしない私。どうやらこの寒さのせいで脳味噌まで凍りついてしまったようだ、正常な判断が出来なくなっている。
「…まあ、別にいいか」
…結局動くことへの面倒臭さが勝ってしまい、懲りずに薄着のままでじっと景色を眺め続ける事に決めた私。すると突然、後ろにあるベランダの扉が何者かによって軋んだ音を立てながら開かれた。その音を聞いてようやく現実世界に戻ってきた私は、緩慢な動作で首を動かし、扉を開けた犯人に対してすっかり乾燥した唇を使って言葉を紡ぐ。
「どうしたの、ダークライ」
「…ナマエ、そろそろ中に入ったらどうだ」
──そのままでは、お前が風邪を引いてしまう。
そう言って彼は私に、湯気の立っている温かいココアと厚手の上着を差し出した。それに触れた途端、掌からじわじわと幸せと優しさの凝縮された温もりが伝わってきて、長時間外に居て感覚が無くなってしまうくらいに冷え固まっていた私の手が、ゆっくりと時間を掛けて元の体温に戻ってゆく。
「呼びに来てくれたの?」
「…私一人では、家で何もする事が無い」
「何それ。もしかして寂しかった?」
「当たり前だ」
そんな言葉を交わしながら、彼に手を引かれるがまま部屋の中へと導かれ、ソファーに二人で腰を下ろす。その衝撃によって、持っていたココアがカップの中で僅かに揺れた。そのココアを1口飲んで身体を温めた後、そのまま私は隣に座っているダークライの肩に頭を預け、猫のように擦り寄った。昼下がりからずっとベランダに出ていた私と違い、暖房の効いた暖かい室内で1人のんびり過ごしていたからか、今の彼の体温は私よりもずっと高い。その温もりを自分の冷えた身体に染み込ませる様にずっと擦り寄ったままでいると、ダークライが私の身体をそっと抱いた。今日はいつになく彼の愛情表現が顕著だ。普段は指先に触れる事すら躊躇するほどなのに。
「ココアと上着ありがとう、ダークライ」
「この季節に薄着で外に出ていては、いつか本当に身体を壊してしまうぞ」
「今更そんな事言ったって…普段から誰かさんのせいで碌に睡眠取れて無いんだから、私の身体は常時不健康みたいなものだよ。免疫も随分低下してるだろうしね」
「…そんな事を言わないでくれ、ナマエ」
しまった、流石に今の言葉にデリカシーが足りていなかった様だ。彼の明らさまに傷ついたような表情を見て、私は直前に吐いた自分の言葉を恥じて口を噤んだ。思い付いた言葉を考え無しにすぐ発してしまうのは私の悪い癖であり、直すべき立派な短所だ。とはいえ、私が全く睡眠を取れていないのもれっきとした事実。そのせいで今の私の免疫力とホルモンバランスは、医者に激怒されそうなくらいにはガッタガタのガタ落ち状態だ。何故そんなに不眠気味なのかって?それは、今私の隣に座っている彼──ダークライが原因である。
彼の性質─特性のナイトメアによって無条件に悪夢を見せてしまうもの─が原因で、私は彼と一緒に暮らし始めてからというもの、安眠生活に対して永遠の別れを告げなければならなくなった。眠りについてみても、見る夢は彼のせいで当たり前のように悪夢ばかり。その悪夢の内容は過去に経験してきたトラウマや暗い思い出のフラッシュバックが殆どで、私は何度も何度も自分の叫び声と悲鳴によって目を覚ました。当然そんな悪夢を見た後にまた眠気などやってくる筈もなく、少しでも気を紛らわせる為にベランダで泣きながら景色や空を眺めて夜をやり過ごす日々。暇な時に風景を見て呆然とする習慣が身に付いてしまったのも、元はと言えばこれのせいだったようにも思える。
元々彼は自身の
「ねえ、ずーっと一緒にいようね」
「…私のせいで、生涯苦しみ続ける事になっても?」
「眠れない分、きみと一緒に過ごす時間が増えると考えれば安いものだよ」
「何故そこまで苦しんで尚、私と一緒に居る事を望む」
「君の事が何より大切で、誰より好きだからかな」
「……馬鹿げた愛だ」
「でもダークライだって私の事好きでしょ」
結局私達は、自分の心を相手への愛執と劣情で雁字搦めにして、逃げられなくなっているだけなのだ。私が悪夢を見て苦しんでいるのは確かに彼の力のせいだけれど、彼だってその力を自ら望んで得た訳ではない。元はと言えばこの関係は、私が彼に惹かれた事から始まったのだ。今更根を上げて彼を捨てるなんて、そんな自分勝手な事は出来ない。
彼を捨てて一人で生きていくくらいなら、私は悪夢に苦しみながら生きていく方がよっぽど幸せだ。そんな事を思いながら、私はすっかり冷めてしまったココアを1口飲んだ。隣に座る彼は、すっかり濃くなった私の目の隈を見て申し訳なさそうに眉を下げてから、もう一度私の身体を静かに抱きしめてくれた。
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