白竜は可惜夜に誓う
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『よぉ片割れ、久々だな!元気そうで何よりだぜ。相変わらず眉間に皺寄ってるけど!』
「……お前が突然来るからだこの馬鹿。何故来た」
突然の来客の招待。それはまさかの我が片割れもとい、理想を司る黒竜、ゼクロムであった。相変わらずの無遠慮な言葉遣いと無作法な態度のノンデリ男ぶりである。本当に何もかもが私とは真逆の男だ。普段冗談ばかり言う英雄でさえ、自分の置かれている立場と地位を理解して最低限の品位は保っているというのに。この片割れと会う度、本当に私達は相容れない存在なのだと再認識する。これだから理想ばかり追い求めて現実を見ない愚者は嫌いなのだ。
取り敢えず、原型時のゼクロムのオーラに当てられて口すら開けられなくなっている門番とナマエを安心させた後、改めて応接間に人の姿にさせたゼクロムを通す。その間もゼクロムが「相変わらず目が痛くなる城だな」だとか「長すぎるだろこの廊下」だとか文句ばかり垂れる為、堪忍袋の緒が切れて怒鳴りつけてやりたくなったが、ナマエが見ている手前何とか堪えた。大の男が憤慨している様子なんて、子供にとっては目に毒である事この上ないだろう。つまり教育に悪いから止めた。
「俺自分のとこの城からずーっと飛んでここまで来たし喉乾いたぜ。何かくれ」
「…はぁ、今持ってくる。待っていろ」
本当は「外に溜まった泥水でも啜ってこい」とこいつに言ってやりたかったが、ナマエの以前の生活をハッと思い出して、私は寸での所で言葉を飲み込んだ。怒りは今にも爆発しそうだが。
「レシラムさま、私が紅茶をお淹れしてきます」
「…悪いな、頼んだぞ」
また仕事が増えるのか、とうんざりしながら部屋を出ようとした私に、ナマエの鶴の一声。流石の私も疲れ果てていて少し休みたかったので、ここはナマエに任せる事にした。
いくらこの城の廊下が長いとはいえ、ここからキッチンまではそう遠くない。ここでの生活も慣れてきた様だし、まあナマエ一人でも大丈夫だろう。先程までの過重労働で我々も疲弊していた所だったので、ナマエの淹れた紅茶が飲めるのは素直に嬉しい。こいつ が突然我々の城に来た目的は不明だが、仕事の休息を取るついでに聞き出せばいい事だ。
まあ、こいつの態度次第では休息どころか先程の激務以上に疲れそうだが、それは自分の運に賭ける事にした。...という訳で英雄と私が並んで座り、ゼクロムを私達の正面に座らせる。座る際にも「あそこに飾ってある絵と同じ作者の絵、うちにもあるぜ」とか何とか元気に話していたがもう反応する気力も残っていない為無視を決め込むことにした。お前のような奴にボッティチェリの良さが分かってたまるか。ヴィーナスの誕生を見て欲情してそうな男の癖に。
「そういえばレシラム、さっきの子供って誰だ?英雄の隠し子か?」
「違う」
「そんな訳無いだろう」
「うわ同時に否定された!お前ら俺のこと嫌いすぎるだろ!…で、誰なんだよあの餓鬼」
「…英雄が拾ってきたのだ」
「は?意外すぎるだろ。何でまた…」
「...いつもの英雄の気まぐれだ。まあその話は良いだろう。何故お前が急にここまで来た。一応今の私達は敵同士…」
「まあまあ敵とか味方とかそんな細かいことはこの際置いとこうぜ。んで突然来た理由なんだけど…俺、自分側の英雄と喧嘩したんだよ。だから一日だけここで泊めてほしくて」
その発言を聞き、我が同胞ながらその身勝手さにぶん殴りたくなる気持ちをぐっと堪え、私はまた面倒事が増えた事に対し深く溜息をついた。それただ気まずいから逃げているだけじゃないか。どうせお前が悪いのだから、さっさと誠心誠意謝って許して貰えば良いだろうに。…まあ、この考えを伝えたとてこいつが素直に聞くとも思えないが。頑固で厄介な質の男なのだ、この男は。
「…仕方ない。今日だけだからな」
「えっマジで良いの!?サンキューレシラム!」
何だかんだで私も身内には甘いもので。こいつの我儘さがとんでもなく面倒くさい事を理解していながら、すんなりと許諾してしまった。これは今日の分の仕事を終わらせることは諦めた方が良いだろう。天上天下唯我独尊。我こそは神だひれ伏せ下民。と言わんばかりの態度で生きてきたこのゼクロムという男は、周りの生き物は全て自分のために動いてくれると本気で思っているのだから。それに1度言ったらこちらがイエスと言うまで絶対に聞かない為、最初からこちらに拒否権もクソもなかったのだ。嗚呼誰か助けてくれ。
「お待たせしました。お紅茶です」
タイミングよくナマエが紅茶を持って帰って来た。一先ずこの美味い紅茶を飲んで気持ちを落ち着けよう。でないとストレスで禿げてしまいそうだ。禿げた伝説のポケモンなんぞみっともないだけである。
「ご苦労だった、ナマエ。さあ、お前もここに座れ」
ナマエに優しく声をかけ、自分の隣に座らせる。相変わらずナマエの淹れる茶は美味い。一口啜るだけでたちまち荒んでいた心が安らぐようだ。
「へぇ、ナマエっていうのかお前」
「はい。英雄さまに拾って頂き、先月からここに住まわせて貰ってます。元孤児の浮浪者ですが、お二人にはとても良くして頂いております」
「ふ〜ん…元孤児兼浮浪者ねぇ…それにしては礼儀作法とか身に付いてんのな」
「…お二人に、沢山教えて頂いたんです」
「へえ。可愛がられてんな」
「何か家族って言うよりペットみてー」と無遠慮に呟き、ゼクロムはナマエの淹れた紅茶を一口飲んだ。その動きに合わせてティーカップの中に波々と注がれた紅茶が揺れ、アールグレイの香りがふわっと香る。やがてカップから唇を離したゼクロムが、驚いた様子でこう放った。
「…めっちゃ美味いなこの紅茶!え、お前ら毎日これ飲んでんの?」
「あぁ。朝昼晩と毎日飲んでるが」
「えー羨まし…なあナマエ、お前俺の城来ねえ?今ならお小遣いとでっかいケーキもやるぜ?どう?」
「それ以上言ったら追い出すぞゼクロム」
眉を顰めてゼクロムにそう告げる。ちらりと隣に目を向けてみると、英雄も珍しく額に青筋を浮かべてゼクロムを見つめていた。間違いなく怒りが沸点に達している。どうやら自分の見つけた獲物をそうそう敵に譲る気は無いらしい。この男は時たま、私以上に頑固で気が強くなるのである。まあ、今だけは怒りたくなる気持ちも大いに理解出来るが。
「...わ、私はここに居たいです。ごめんなさいゼクロムさま」
「ちぇ〜振られた」
「当然だ馬鹿め」
そんな言葉を2、3度交わし合っていた途端。突如、ゼクロムの赤い瞳と私の碧眼が、示し合わせたかの様に数秒だけ交わった。それは敵対している者同士の宣戦布告とも取れる目付きでもあったし、逆に久方ぶりに顔を合わせた同胞への親しみを込めた目付きの様でもあった。だがその真意は、互いの目線が外れるまで読み取ることは出来なかった。
「……お前が突然来るからだこの馬鹿。何故来た」
突然の来客の招待。それはまさかの我が片割れもとい、理想を司る黒竜、ゼクロムであった。相変わらずの無遠慮な言葉遣いと無作法な態度のノンデリ男ぶりである。本当に何もかもが私とは真逆の男だ。普段冗談ばかり言う英雄でさえ、自分の置かれている立場と地位を理解して最低限の品位は保っているというのに。この片割れと会う度、本当に私達は相容れない存在なのだと再認識する。これだから理想ばかり追い求めて現実を見ない愚者は嫌いなのだ。
取り敢えず、原型時のゼクロムのオーラに当てられて口すら開けられなくなっている門番とナマエを安心させた後、改めて応接間に人の姿にさせたゼクロムを通す。その間もゼクロムが「相変わらず目が痛くなる城だな」だとか「長すぎるだろこの廊下」だとか文句ばかり垂れる為、堪忍袋の緒が切れて怒鳴りつけてやりたくなったが、ナマエが見ている手前何とか堪えた。大の男が憤慨している様子なんて、子供にとっては目に毒である事この上ないだろう。つまり教育に悪いから止めた。
「俺自分のとこの城からずーっと飛んでここまで来たし喉乾いたぜ。何かくれ」
「…はぁ、今持ってくる。待っていろ」
本当は「外に溜まった泥水でも啜ってこい」とこいつに言ってやりたかったが、ナマエの以前の生活をハッと思い出して、私は寸での所で言葉を飲み込んだ。怒りは今にも爆発しそうだが。
「レシラムさま、私が紅茶をお淹れしてきます」
「…悪いな、頼んだぞ」
また仕事が増えるのか、とうんざりしながら部屋を出ようとした私に、ナマエの鶴の一声。流石の私も疲れ果てていて少し休みたかったので、ここはナマエに任せる事にした。
いくらこの城の廊下が長いとはいえ、ここからキッチンまではそう遠くない。ここでの生活も慣れてきた様だし、まあナマエ一人でも大丈夫だろう。先程までの過重労働で我々も疲弊していた所だったので、ナマエの淹れた紅茶が飲めるのは素直に嬉しい。
まあ、こいつの態度次第では休息どころか先程の激務以上に疲れそうだが、それは自分の運に賭ける事にした。...という訳で英雄と私が並んで座り、ゼクロムを私達の正面に座らせる。座る際にも「あそこに飾ってある絵と同じ作者の絵、うちにもあるぜ」とか何とか元気に話していたがもう反応する気力も残っていない為無視を決め込むことにした。お前のような奴にボッティチェリの良さが分かってたまるか。ヴィーナスの誕生を見て欲情してそうな男の癖に。
「そういえばレシラム、さっきの子供って誰だ?英雄の隠し子か?」
「違う」
「そんな訳無いだろう」
「うわ同時に否定された!お前ら俺のこと嫌いすぎるだろ!…で、誰なんだよあの餓鬼」
「…英雄が拾ってきたのだ」
「は?意外すぎるだろ。何でまた…」
「...いつもの英雄の気まぐれだ。まあその話は良いだろう。何故お前が急にここまで来た。一応今の私達は敵同士…」
「まあまあ敵とか味方とかそんな細かいことはこの際置いとこうぜ。んで突然来た理由なんだけど…俺、自分側の英雄と喧嘩したんだよ。だから一日だけここで泊めてほしくて」
その発言を聞き、我が同胞ながらその身勝手さにぶん殴りたくなる気持ちをぐっと堪え、私はまた面倒事が増えた事に対し深く溜息をついた。それただ気まずいから逃げているだけじゃないか。どうせお前が悪いのだから、さっさと誠心誠意謝って許して貰えば良いだろうに。…まあ、この考えを伝えたとてこいつが素直に聞くとも思えないが。頑固で厄介な質の男なのだ、この男は。
「…仕方ない。今日だけだからな」
「えっマジで良いの!?サンキューレシラム!」
何だかんだで私も身内には甘いもので。こいつの我儘さがとんでもなく面倒くさい事を理解していながら、すんなりと許諾してしまった。これは今日の分の仕事を終わらせることは諦めた方が良いだろう。天上天下唯我独尊。我こそは神だひれ伏せ下民。と言わんばかりの態度で生きてきたこのゼクロムという男は、周りの生き物は全て自分のために動いてくれると本気で思っているのだから。それに1度言ったらこちらがイエスと言うまで絶対に聞かない為、最初からこちらに拒否権もクソもなかったのだ。嗚呼誰か助けてくれ。
「お待たせしました。お紅茶です」
タイミングよくナマエが紅茶を持って帰って来た。一先ずこの美味い紅茶を飲んで気持ちを落ち着けよう。でないとストレスで禿げてしまいそうだ。禿げた伝説のポケモンなんぞみっともないだけである。
「ご苦労だった、ナマエ。さあ、お前もここに座れ」
ナマエに優しく声をかけ、自分の隣に座らせる。相変わらずナマエの淹れる茶は美味い。一口啜るだけでたちまち荒んでいた心が安らぐようだ。
「へぇ、ナマエっていうのかお前」
「はい。英雄さまに拾って頂き、先月からここに住まわせて貰ってます。元孤児の浮浪者ですが、お二人にはとても良くして頂いております」
「ふ〜ん…元孤児兼浮浪者ねぇ…それにしては礼儀作法とか身に付いてんのな」
「…お二人に、沢山教えて頂いたんです」
「へえ。可愛がられてんな」
「何か家族って言うよりペットみてー」と無遠慮に呟き、ゼクロムはナマエの淹れた紅茶を一口飲んだ。その動きに合わせてティーカップの中に波々と注がれた紅茶が揺れ、アールグレイの香りがふわっと香る。やがてカップから唇を離したゼクロムが、驚いた様子でこう放った。
「…めっちゃ美味いなこの紅茶!え、お前ら毎日これ飲んでんの?」
「あぁ。朝昼晩と毎日飲んでるが」
「えー羨まし…なあナマエ、お前俺の城来ねえ?今ならお小遣いとでっかいケーキもやるぜ?どう?」
「それ以上言ったら追い出すぞゼクロム」
眉を顰めてゼクロムにそう告げる。ちらりと隣に目を向けてみると、英雄も珍しく額に青筋を浮かべてゼクロムを見つめていた。間違いなく怒りが沸点に達している。どうやら自分の見つけた獲物をそうそう敵に譲る気は無いらしい。この男は時たま、私以上に頑固で気が強くなるのである。まあ、今だけは怒りたくなる気持ちも大いに理解出来るが。
「...わ、私はここに居たいです。ごめんなさいゼクロムさま」
「ちぇ〜振られた」
「当然だ馬鹿め」
そんな言葉を2、3度交わし合っていた途端。突如、ゼクロムの赤い瞳と私の碧眼が、示し合わせたかの様に数秒だけ交わった。それは敵対している者同士の宣戦布告とも取れる目付きでもあったし、逆に久方ぶりに顔を合わせた同胞への親しみを込めた目付きの様でもあった。だがその真意は、互いの目線が外れるまで読み取ることは出来なかった。