白竜は可惜夜に誓う
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「とりあえず風呂に入れてやったらどうだ。その体と服装では、此処にいても落ち着かないだけだろう。レシラム、この子を風呂に入れてやれ」
「…承知した。ほら、行くぞ」
「え、わぁ…っ」
取り敢えずその汚れた身体を綺麗にしてやらなければ、城の床がどんどん汚れていって話にならないため、私は女を抱き上げ、そのまま風呂場へ連れて行ってやる事にした。私が身に付けている衣服まで汚れてしまうため、出来れば今の状態で触れる事は避けたかったが、風呂場まで歩かせたところで床が今以上に汚れてしまうだけだ。あの長い廊下を掃除するなんて、比喩でなく本当に骨が折れてしまう。それならば私だけが汚れて、女を洗ってやるついでに自分の身体も洗ってしまえば合理的だ。後で廊下を掃除せずに済む。
本来この様な役目は私ではなく、使用人の者がやるべきなのだろう。だがしかし、この城にはメイドはおろか、給仕をする者すらいない。いつ戦が起こるかわからないこのご時世、他人を自分たちの陣地に引き入れるなど言語道断だという、英雄の考えである。信じるのは自分自身と、その自分が心から信じられる友一人で十分だと。よく英雄は口に出していた。否、それならこんなの拾ってくるなよと言いたいが。まあ国の統治者にとって、汚れた女の浮浪者など、人間にも満たない獣同然の存在なのだろう。だから憐れみ、この城に招いた。相変わらず良い性格をした男である。
「そういえばお前、名を何と言うのだ」
「…わたしに、なまえはありません」
風呂場まで遠いため、暇つぶしにと質問を投げかけてみた所、何とも反応に困る返答を返されてしまった。まあ孤児の様だし無理もないか。元浮浪者とはいえ、女に対してデリカシーのない質問をしてしまった己を、私は心の中でひっそり恥じた。
しかしまあ、名前が無いというのも困った。呼んでやる時にどう呼べば良いのだろう。「人間」?いやいや駄目だ。自分が「ポケモン」って呼ばれている様な物だぞ。私なら御免被りたい。ならば「女」?いや絶対駄目だ。横柄すぎる。呼ばれる側からすれば不愉快極まりないだろう。ならば一体何と呼べば良いのか。想像力の限界に達した私は、結局女自身に委ねることにした。
「ならば、お前は何と呼ばれたいのだ」
「えぇ、えっと…」
「ナマエと、そう呼んでください」と、女は震えながらか細い声でそう放った。成程ナマエか。その名前の由来は一体何なのだろうと、私はふと気になった。先程「名前がない」と言っていた為、嘘をついていない限り、確実に本名ではないのだろう。ならば何処かで読んだ物語に出て来た、登場人物の名前だろうか。だが、年端も行かぬ浮浪者の少女に、文字の読み書きが出来るとも思えない。所々不思議に思う部分はあれど、慣れない場所に来て、神経が過敏になっている様子で震えているこの少女を、これ以上刺激するのも何だか忍びない。迷った挙句私はナマエに、「承知した」とだけ簡潔に伝え、それからは彼女を腕に抱きながら、黙ってひたすら長い廊下を歩くのであった。
「…承知した。ほら、行くぞ」
「え、わぁ…っ」
取り敢えずその汚れた身体を綺麗にしてやらなければ、城の床がどんどん汚れていって話にならないため、私は女を抱き上げ、そのまま風呂場へ連れて行ってやる事にした。私が身に付けている衣服まで汚れてしまうため、出来れば今の状態で触れる事は避けたかったが、風呂場まで歩かせたところで床が今以上に汚れてしまうだけだ。あの長い廊下を掃除するなんて、比喩でなく本当に骨が折れてしまう。それならば私だけが汚れて、女を洗ってやるついでに自分の身体も洗ってしまえば合理的だ。後で廊下を掃除せずに済む。
本来この様な役目は私ではなく、使用人の者がやるべきなのだろう。だがしかし、この城にはメイドはおろか、給仕をする者すらいない。いつ戦が起こるかわからないこのご時世、他人を自分たちの陣地に引き入れるなど言語道断だという、英雄の考えである。信じるのは自分自身と、その自分が心から信じられる友一人で十分だと。よく英雄は口に出していた。否、それならこんなの拾ってくるなよと言いたいが。まあ国の統治者にとって、汚れた女の浮浪者など、人間にも満たない獣同然の存在なのだろう。だから憐れみ、この城に招いた。相変わらず良い性格をした男である。
「そういえばお前、名を何と言うのだ」
「…わたしに、なまえはありません」
風呂場まで遠いため、暇つぶしにと質問を投げかけてみた所、何とも反応に困る返答を返されてしまった。まあ孤児の様だし無理もないか。元浮浪者とはいえ、女に対してデリカシーのない質問をしてしまった己を、私は心の中でひっそり恥じた。
しかしまあ、名前が無いというのも困った。呼んでやる時にどう呼べば良いのだろう。「人間」?いやいや駄目だ。自分が「ポケモン」って呼ばれている様な物だぞ。私なら御免被りたい。ならば「女」?いや絶対駄目だ。横柄すぎる。呼ばれる側からすれば不愉快極まりないだろう。ならば一体何と呼べば良いのか。想像力の限界に達した私は、結局女自身に委ねることにした。
「ならば、お前は何と呼ばれたいのだ」
「えぇ、えっと…」
「ナマエと、そう呼んでください」と、女は震えながらか細い声でそう放った。成程ナマエか。その名前の由来は一体何なのだろうと、私はふと気になった。先程「名前がない」と言っていた為、嘘をついていない限り、確実に本名ではないのだろう。ならば何処かで読んだ物語に出て来た、登場人物の名前だろうか。だが、年端も行かぬ浮浪者の少女に、文字の読み書きが出来るとも思えない。所々不思議に思う部分はあれど、慣れない場所に来て、神経が過敏になっている様子で震えているこの少女を、これ以上刺激するのも何だか忍びない。迷った挙句私はナマエに、「承知した」とだけ簡潔に伝え、それからは彼女を腕に抱きながら、黙ってひたすら長い廊下を歩くのであった。