死して尚も(輪虎)
主人公のお名前を。無ければ「沙苗」に。
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「君も僕も、天の計らいによって殿と出会い、こうして生きている。」
「まあ、そうだね。」
韓・魏・趙・燕・斉・楚・秦の七国が『戦国七雄』として並立する時代。
戦が続く世とは、破壊や侵略が常。
…その戦の世で、名家の娘として生まれた私はその"戦"によって全てを失った。
そして、今私と話すこの"輪虎"という男も、(初めの身分は違えど)戦によって全てを失った。
そんな私と彼は、運悪く一人生き残り、運良く殿…廉頗大将軍に出会った。
辛くとも、私達は天に生かされた。これは天の慈悲なのか…
彼とは、殿と出会った時期も少し近く、年齢も近い。
殿に先に出会ったのは輪虎。私はその後。
彼は私より少し年齢が上で、それもあってか、兄妹のように育ってきた。
…しかし、やはり血の繋がりがないからか。
彼は戦の天才に。私は戦場における才能を開花させることができなかった。
私の場合、人材登用の際に力を発揮する、人を見る目が優れただけ。だからこそ、戦の際は戦場にあまり呼んではもらえない。
「僕はこれから殿と共に行くけど…君は今回もここで待つことになるみたいだね。」
彼はそう言って口元に弧を描いた。
「わざわざそんな事言うなんて、相変わらず意地が悪い。…私は戦場では足手まといになるだけだから、これでいいんだよ。」
前をまっすぐ見つめ、眉間に皺を寄せる。
こういったやり取りは今までに何度もしてきた。
…きっと馬鹿にしているんだろう。
少しの沈黙に、これで会話も終わると思った。
…しかし、
「っ…!?」
突然彼に腕を掴まれ、そのまま腕を強く引っ張られた。
お互いの鼻がぶつかってしまいそうな程の距離で、彼から注がれる強い視線を自身の驚きで見開いた目で受けながら、彼の言葉を聞く。
「じゃあ、そんな足手まといの君は、僕が戻ってくるまで大人しく待っていなよ。」
彼の言葉を聞き、私は驚きの顔から、先程と同様の眉間に皺を寄せた険しい顔に変えた。
「…っまるで子どもに向かって言ってるみたい。意地が悪いあなたじゃなく、私は殿の帰りを待つ。」
「…」
至近距離で再び沈黙が訪れる。
しかし、沈黙もそう長く続かず、彼の呟きによって終わりを告げた。
「…ふーん、そうか。」
彼は真顔でそう呟くと、掴んでいた私の腕をパッと離す。
「うわっ!…ちょっと、せめて何か言ってから離してよ!」
「…」
再び黙る彼に苛立ち、何か文句でも言ってやろうと口を開きかけた時、
「まあいいや。じゃあ、僕はもう行くよ。」
「え?ちょっ…」
さらっと別れを告げて踵を返し進む彼に、驚きでうまく言葉が出てこない。
苛立ちも消えてしまい動揺するも、一言ぐらい何か言ってやろうと声を少し低くして言葉を放った。
「あなたはきっと痛い目に遭う。戦場で敵に教えられるかもね。」
その言葉に彼は一度歩みを止め、振り返りはしなかったものの、
「一応、忠告を受け取っておくよ。…君は、僕達が離れた寂しさで泣かないようにね。」
「なっ!」
そう一言を残し、去っていった。
彼の一言に腹が立つも、その背中はかなり遠ざかっており、何か言う気も失せた。
まあ、戦が終わったら文句をたくさん言えばいい。
これが最後だとは思わなかったから。
・・・
「…輪虎が、死んだ?…そっか。」
「…」
---今回の"秦国"との戦で彼…輪虎は、若き将に討ち取られた。
彼と同じ廉頗四天王の一人"姜燕"は、戦場から帰還すると、私の元へそれを伝えに来てくれたのだ。
「…姜燕、わざわざ伝えに来てくれてありがとう。」
「…意外だな。輪虎が死んだと知って涙すると思っていた。」
「悲しいけど…なんというか、ほら、ケロッとした顔で突然出てきそうな気がするし。」
まぁ、それは無いことぐらいわかるけれど。
…けれど、不思議な程に、涙が出てくる様子がない。
「…出てきはしないだろうけど。」
「…」
「はは、ごめん。報告ありがとう。今回の件、まだ色々あるんでしょ?もう行って大丈夫だよ。あ、私もあとで手伝うから。」
「…ああ。」
少し何か言いたそうな顔をしていたものの、何も言わず、彼はその場を後にした。
…さて。
私の方は、今回の戦いの被害状況に応じてまた人材登用しなければいけない。もう少しすればまた国を出なければいけなくなる。その前に少しでも優秀な人材は確保しておいた方がいいだろう。
もっと詳しい情報を聞きに行こうと思い、廊下を真っ直ぐ進もうとした足を止め、踵を返す。
…が、
『へえ、それだけなんだ。』
「……ん?」
聞き覚えのある声がする。
…疲れすぎて幻聴まで聞こえるようになってしまったんだろうか。
「まあ、そうだね。」
韓・魏・趙・燕・斉・楚・秦の七国が『戦国七雄』として並立する時代。
戦が続く世とは、破壊や侵略が常。
…その戦の世で、名家の娘として生まれた私はその"戦"によって全てを失った。
そして、今私と話すこの"輪虎"という男も、(初めの身分は違えど)戦によって全てを失った。
そんな私と彼は、運悪く一人生き残り、運良く殿…廉頗大将軍に出会った。
辛くとも、私達は天に生かされた。これは天の慈悲なのか…
彼とは、殿と出会った時期も少し近く、年齢も近い。
殿に先に出会ったのは輪虎。私はその後。
彼は私より少し年齢が上で、それもあってか、兄妹のように育ってきた。
…しかし、やはり血の繋がりがないからか。
彼は戦の天才に。私は戦場における才能を開花させることができなかった。
私の場合、人材登用の際に力を発揮する、人を見る目が優れただけ。だからこそ、戦の際は戦場にあまり呼んではもらえない。
「僕はこれから殿と共に行くけど…君は今回もここで待つことになるみたいだね。」
彼はそう言って口元に弧を描いた。
「わざわざそんな事言うなんて、相変わらず意地が悪い。…私は戦場では足手まといになるだけだから、これでいいんだよ。」
前をまっすぐ見つめ、眉間に皺を寄せる。
こういったやり取りは今までに何度もしてきた。
…きっと馬鹿にしているんだろう。
少しの沈黙に、これで会話も終わると思った。
…しかし、
「っ…!?」
突然彼に腕を掴まれ、そのまま腕を強く引っ張られた。
お互いの鼻がぶつかってしまいそうな程の距離で、彼から注がれる強い視線を自身の驚きで見開いた目で受けながら、彼の言葉を聞く。
「じゃあ、そんな足手まといの君は、僕が戻ってくるまで大人しく待っていなよ。」
彼の言葉を聞き、私は驚きの顔から、先程と同様の眉間に皺を寄せた険しい顔に変えた。
「…っまるで子どもに向かって言ってるみたい。意地が悪いあなたじゃなく、私は殿の帰りを待つ。」
「…」
至近距離で再び沈黙が訪れる。
しかし、沈黙もそう長く続かず、彼の呟きによって終わりを告げた。
「…ふーん、そうか。」
彼は真顔でそう呟くと、掴んでいた私の腕をパッと離す。
「うわっ!…ちょっと、せめて何か言ってから離してよ!」
「…」
再び黙る彼に苛立ち、何か文句でも言ってやろうと口を開きかけた時、
「まあいいや。じゃあ、僕はもう行くよ。」
「え?ちょっ…」
さらっと別れを告げて踵を返し進む彼に、驚きでうまく言葉が出てこない。
苛立ちも消えてしまい動揺するも、一言ぐらい何か言ってやろうと声を少し低くして言葉を放った。
「あなたはきっと痛い目に遭う。戦場で敵に教えられるかもね。」
その言葉に彼は一度歩みを止め、振り返りはしなかったものの、
「一応、忠告を受け取っておくよ。…君は、僕達が離れた寂しさで泣かないようにね。」
「なっ!」
そう一言を残し、去っていった。
彼の一言に腹が立つも、その背中はかなり遠ざかっており、何か言う気も失せた。
まあ、戦が終わったら文句をたくさん言えばいい。
これが最後だとは思わなかったから。
・・・
「…輪虎が、死んだ?…そっか。」
「…」
---今回の"秦国"との戦で彼…輪虎は、若き将に討ち取られた。
彼と同じ廉頗四天王の一人"姜燕"は、戦場から帰還すると、私の元へそれを伝えに来てくれたのだ。
「…姜燕、わざわざ伝えに来てくれてありがとう。」
「…意外だな。輪虎が死んだと知って涙すると思っていた。」
「悲しいけど…なんというか、ほら、ケロッとした顔で突然出てきそうな気がするし。」
まぁ、それは無いことぐらいわかるけれど。
…けれど、不思議な程に、涙が出てくる様子がない。
「…出てきはしないだろうけど。」
「…」
「はは、ごめん。報告ありがとう。今回の件、まだ色々あるんでしょ?もう行って大丈夫だよ。あ、私もあとで手伝うから。」
「…ああ。」
少し何か言いたそうな顔をしていたものの、何も言わず、彼はその場を後にした。
…さて。
私の方は、今回の戦いの被害状況に応じてまた人材登用しなければいけない。もう少しすればまた国を出なければいけなくなる。その前に少しでも優秀な人材は確保しておいた方がいいだろう。
もっと詳しい情報を聞きに行こうと思い、廊下を真っ直ぐ進もうとした足を止め、踵を返す。
…が、
『へえ、それだけなんだ。』
「……ん?」
聞き覚えのある声がする。
…疲れすぎて幻聴まで聞こえるようになってしまったんだろうか。