この名を君に(李牧)
主人公のお名前を。無ければ「沙苗」に。
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それは、唐突な一言。
「…沙苗、私の事を敬称無しで呼んでみてくれませんか?」
「…え、李牧様を…?…あはは、いや、何ですか急に…」
本当に突然何だろうか。…心臓に悪い。
趙国宰相という立場の彼を敬称無しで呼ぶなどという事はできない。
いくら趙国の有名な商人の養子という立場であれ、その地位は天と地の差なのだ。
「あなたが誰かの名を呼ぶときは決まって様を付けているでしょう。」
「いや、だからといってですねそれはできないですよ。」
爽やかなオーラを纏って言ってくるあたり、本人としては大きく捉えていないかもしれない。
いやもうそう呼んだら死罪に値するというか、個人的に言えないというか。
「私と二人の時だけです。…呼んでは、くれませんか?」
彼の私室で行われるやり取りは、どうにも終わりを見せない。
少し悲しそうな表情で聞くものだから心が痛かった。
それに、この人は美形が過ぎる。この人は自身の使い方をわかっているんじゃないだろうか…
「そ、それでもだめです…身分というものがありますし…」
だんだんと声が小さくなっていく。
目をあちらこちらに彷徨わせて視線を合わせないようにする。
「宰相として命令する…と言ったらどうしますか?」
「え…」
彼の一言に驚いて思わず見つめれば、口元は少し笑っているものの、真剣な目でこちらを見てくる。
心臓が波打った。
「うっ、それは、その……断れないじゃないですか…」
これは職権乱用だ…何て使い方を…!
彼をジト目で見ると、彼の方は眉尻を下げながら、
「こう言わないと、あなたは呼んでくれないでしょう?あなたは色々な事へ気を遣いますからね。」
そう言った。
「そ、れはそうですけど……あー、本当に呼ばないといけませんか…?」
こういった事はカイネ様に強要した方が絶対に可愛い。
…この人はとても損をしている。
「…沙苗。」
「……わっ、わかりました…!」
真剣な顔で名前を呼ばれてしまえば、自分が折れる以外に選択肢は無いことを理解せざるを得ない。
宰相・李牧という人物は、とても優しく、部下や民から慕われている。
趙国軍略家として時に非情になることも。
しかし、今私の目の前にいる彼は、非情では無いが、少し意地悪だ。
「…り……李牧…さま。」
「…様?」
小さく様を付けたのがバレた。
まるで顔に体中の温度が集まったかのように顔が熱く、心臓も五月蝿くてたまらない。
私はこの状態でも、相手は顔色一つ変えやしないのが悔しい。
心の中でブツブツと色々呟く。
しかしその間に、
「…まだですか?」
「うわっ、え、え…!!」
彼の顔が近づき、鼻先がくっついてしまうのではと思うほどの距離になった。
「ああああのっ、近いです!」
「…」
訴え掛けても至近距離で見つめてくるだけで、何も答えない。
混乱した頭で抵抗しようととりあえず何か言う。
「近いです…り、李牧…!」
もうダメだ、顔から火が出そう…
自分が近いと訴える段階で敬称無しで名前を呼んでしまった事実はあまり理解できなかった。
「…フッ、すみません。少し意地が悪かったですね。」
彼はそう言ってそっと顔を離した。
「そう思うのならやめて下さい……」
自分の声の大きさが予想以上に小さくて驚いたが、それどころじゃない。
私は顔を両手で覆い、少しずつ後退していく。
そして少し移動し、止まった。
「…はぁ、まったく……愛らしい方だ。」
「え?何か言いました…?」
一瞬、彼がボソリと何か呟いたような気がしたのだ。
「さあ、どうでしょうね。」
…しかし、聞いてみても笑顔で誤魔化されてしまった。
「…李牧様、誤魔化さな…あの、なぜ近づいて、」
「沙苗…」
誤魔化された事に抗議しようとした時…彼は突然距離を詰めてきた。
咄嗟に後ずさろうとするも、腕を掴まれ阻止される。
「また、様を付けていますよ?」
「っ…!」
「…慣れるまで続けるしかありませんね。」
彼はそう言うと目を細め、腕を掴んでいる方とは逆の手で私の唇に触れた。
「…あ、の…」
戸惑いで唇が震える。
「これからも二人の時は"李牧"と、そう呼んでください。」
何かを言おうとするも、声が出ない。
唇に触れる指が、射抜くような瞳が、纏う雰囲気が、香りが…それらが許さないのだ。
「…私はあなたに、そう呼ばれたい。」
そう告げ彼は微笑んだ。
…もう、誰か助けて…
→あとがき
「…沙苗、私の事を敬称無しで呼んでみてくれませんか?」
「…え、李牧様を…?…あはは、いや、何ですか急に…」
本当に突然何だろうか。…心臓に悪い。
趙国宰相という立場の彼を敬称無しで呼ぶなどという事はできない。
いくら趙国の有名な商人の養子という立場であれ、その地位は天と地の差なのだ。
「あなたが誰かの名を呼ぶときは決まって様を付けているでしょう。」
「いや、だからといってですねそれはできないですよ。」
爽やかなオーラを纏って言ってくるあたり、本人としては大きく捉えていないかもしれない。
いやもうそう呼んだら死罪に値するというか、個人的に言えないというか。
「私と二人の時だけです。…呼んでは、くれませんか?」
彼の私室で行われるやり取りは、どうにも終わりを見せない。
少し悲しそうな表情で聞くものだから心が痛かった。
それに、この人は美形が過ぎる。この人は自身の使い方をわかっているんじゃないだろうか…
「そ、それでもだめです…身分というものがありますし…」
だんだんと声が小さくなっていく。
目をあちらこちらに彷徨わせて視線を合わせないようにする。
「宰相として命令する…と言ったらどうしますか?」
「え…」
彼の一言に驚いて思わず見つめれば、口元は少し笑っているものの、真剣な目でこちらを見てくる。
心臓が波打った。
「うっ、それは、その……断れないじゃないですか…」
これは職権乱用だ…何て使い方を…!
彼をジト目で見ると、彼の方は眉尻を下げながら、
「こう言わないと、あなたは呼んでくれないでしょう?あなたは色々な事へ気を遣いますからね。」
そう言った。
「そ、れはそうですけど……あー、本当に呼ばないといけませんか…?」
こういった事はカイネ様に強要した方が絶対に可愛い。
…この人はとても損をしている。
「…沙苗。」
「……わっ、わかりました…!」
真剣な顔で名前を呼ばれてしまえば、自分が折れる以外に選択肢は無いことを理解せざるを得ない。
宰相・李牧という人物は、とても優しく、部下や民から慕われている。
趙国軍略家として時に非情になることも。
しかし、今私の目の前にいる彼は、非情では無いが、少し意地悪だ。
「…り……李牧…さま。」
「…様?」
小さく様を付けたのがバレた。
まるで顔に体中の温度が集まったかのように顔が熱く、心臓も五月蝿くてたまらない。
私はこの状態でも、相手は顔色一つ変えやしないのが悔しい。
心の中でブツブツと色々呟く。
しかしその間に、
「…まだですか?」
「うわっ、え、え…!!」
彼の顔が近づき、鼻先がくっついてしまうのではと思うほどの距離になった。
「ああああのっ、近いです!」
「…」
訴え掛けても至近距離で見つめてくるだけで、何も答えない。
混乱した頭で抵抗しようととりあえず何か言う。
「近いです…り、李牧…!」
もうダメだ、顔から火が出そう…
自分が近いと訴える段階で敬称無しで名前を呼んでしまった事実はあまり理解できなかった。
「…フッ、すみません。少し意地が悪かったですね。」
彼はそう言ってそっと顔を離した。
「そう思うのならやめて下さい……」
自分の声の大きさが予想以上に小さくて驚いたが、それどころじゃない。
私は顔を両手で覆い、少しずつ後退していく。
そして少し移動し、止まった。
「…はぁ、まったく……愛らしい方だ。」
「え?何か言いました…?」
一瞬、彼がボソリと何か呟いたような気がしたのだ。
「さあ、どうでしょうね。」
…しかし、聞いてみても笑顔で誤魔化されてしまった。
「…李牧様、誤魔化さな…あの、なぜ近づいて、」
「沙苗…」
誤魔化された事に抗議しようとした時…彼は突然距離を詰めてきた。
咄嗟に後ずさろうとするも、腕を掴まれ阻止される。
「また、様を付けていますよ?」
「っ…!」
「…慣れるまで続けるしかありませんね。」
彼はそう言うと目を細め、腕を掴んでいる方とは逆の手で私の唇に触れた。
「…あ、の…」
戸惑いで唇が震える。
「これからも二人の時は"李牧"と、そう呼んでください。」
何かを言おうとするも、声が出ない。
唇に触れる指が、射抜くような瞳が、纏う雰囲気が、香りが…それらが許さないのだ。
「…私はあなたに、そう呼ばれたい。」
そう告げ彼は微笑んだ。
…もう、誰か助けて…
→あとがき