とどめに等しい(呉鳳明)
主人公のお名前を。無ければ「沙苗」に。
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「んー、綺麗だなー。」
庭でキラキラと朝露に濡れる植物を座りこんで眺めていた。
自分の元いた時代の庭と比べて、規模の違いは一目瞭然。
広大な敷地に存在する庭は、芸術品のように美しく、感動を覚え。
「…おい、そこで何をしている。」
庭の素晴らしさを堪能していた所、声がかかった。少し怒気を含んだその声は、私を現実へと引き戻すには十分なもので、少しの恐怖を抱きながら返事をした。
「…っ呉鳳明様、その、美しい庭を眺めていまして…」
冷汗ものだ…。
彼の美しい顔に、少しずつ皺が寄っていくがわかる。
…怒って、いる。
「…名の知れた商人の娘が、軽率に地面に座るものではないと、俺は一度言ったはずだが。」
「は、はい。…すみませんでした。」
前にも一度、今と似たような場面で怒られたことがある。呉鳳明という軍師は、美しい容姿と恐ろしいほどの頭脳を持っている。他者の行動に興味が無いように見えて、私の行う物事には細かく厳しい。…あと、怒ると怖い。
サッと立ち上がって謝罪すれば、険しい表情の呉鳳明はこちらを見つめた。
そしてふと、彼は話し始める。
「…強き者が残らねばならん。世とは、そうなっている。」
"強き者が残らねば"
その言葉には妙に重みがあった。
「隙を見せること、それは時に死につながる。お前の場合、養子であったとしても、魏国で力を持つ商人の子だ。ああいった所を見られ、広められれば家の名に傷がつく事も有り得る。」
「…っ。」
確かにそうだ。ああいった…人によっては"はしたない"と思えるような行動で、広められ方次第では、家の看板に泥を塗ってしまう可能性が十分にある。
私の顔が段々と青ざめていくのを感じた。
「王宮に少しでも関わったお前は、行動の仕方一つ一つに気を使わねばならんのだぞ。」
言葉の一つ一つがグサグサと刺さる。
戦も政にも関わることのない平和な世界で生きてきた私には、恐ろしい言葉ばかりで、息苦しさを感じはじめた。
「…すみません、でした。私の行動は、あまりにも軽率であったと反省します。」
深々と頭を下げ、謝る。
--本当に、軽率だったのだ。
私には戦う力も何も無い。自分を拾ってくれた家があり、私は今生きることができている。恩に報いる為には、どんな形であれ、強くあらねば。
頭を上げ、決心を口に出そうとした時だった。
「…沙苗。お前には、残ってもらわねば困るのだ。」
突然の事に驚いた。あまり呼ばれた事がない自分の名前が出てきたことも、彼の発言にも。
「…え?」
どういった意味合いなのか。…彼はこの先、駒として私を利用するという事なのか。もしくは、父親の件の事を思ってのことだったのか…
表情を見ても、変化があまり無いようで、掴めない。
「…生憎俺は手放す気はない。お前から消えるような事も許さん。」
だから、それはどういう意味なのか。先程の言葉と相まって何だか変な勘違いをしてしまいそうになる。
自分の顔が真っ青から真っ赤に変わった。
「…そうならないよう、努力します…。」
赤みがさした頬を隠すように少し俯きながら答える。
彼の師匠である霊凰は、呉鳳明が恐ろしく育ったと言っていた。考える策も容赦がないと。
私はストレートな言葉にきっと弱いんだ。都合にいいように捉えてしまっただけ。
そう自分に言い聞かせて、なんとか平常心に戻す。
「呉鳳明様、その、ありがとうございました。家の為、呉鳳明様のこの先の為、頑張ります。」
そう笑顔で言うと、少し心が軽くなった。
例え駒としてであっても、彼の為に頑張ろう。
「…そうか。」
「はい。その為にも、まずは霊凰様の所で学んでこようと思います。…失礼します。」
知識をつけようと意気込み、霊凰の所へ向かう。
「霊凰様に何を聞いたか知らんが、俺が言ったことに裏などない。」
「え?」
突然聞こえた言葉に驚いて振り返ったとき、呉鳳明はすでに自分と反対の道へと歩いていた。
"裏などない"
駒としてではない、という事だろうか…
去って行く後ろ姿を見て、自分の顔に再び熱が戻ったを感じた。
…本当に、彼は何なんだ…
庭でキラキラと朝露に濡れる植物を座りこんで眺めていた。
自分の元いた時代の庭と比べて、規模の違いは一目瞭然。
広大な敷地に存在する庭は、芸術品のように美しく、感動を覚え。
「…おい、そこで何をしている。」
庭の素晴らしさを堪能していた所、声がかかった。少し怒気を含んだその声は、私を現実へと引き戻すには十分なもので、少しの恐怖を抱きながら返事をした。
「…っ呉鳳明様、その、美しい庭を眺めていまして…」
冷汗ものだ…。
彼の美しい顔に、少しずつ皺が寄っていくがわかる。
…怒って、いる。
「…名の知れた商人の娘が、軽率に地面に座るものではないと、俺は一度言ったはずだが。」
「は、はい。…すみませんでした。」
前にも一度、今と似たような場面で怒られたことがある。呉鳳明という軍師は、美しい容姿と恐ろしいほどの頭脳を持っている。他者の行動に興味が無いように見えて、私の行う物事には細かく厳しい。…あと、怒ると怖い。
サッと立ち上がって謝罪すれば、険しい表情の呉鳳明はこちらを見つめた。
そしてふと、彼は話し始める。
「…強き者が残らねばならん。世とは、そうなっている。」
"強き者が残らねば"
その言葉には妙に重みがあった。
「隙を見せること、それは時に死につながる。お前の場合、養子であったとしても、魏国で力を持つ商人の子だ。ああいった所を見られ、広められれば家の名に傷がつく事も有り得る。」
「…っ。」
確かにそうだ。ああいった…人によっては"はしたない"と思えるような行動で、広められ方次第では、家の看板に泥を塗ってしまう可能性が十分にある。
私の顔が段々と青ざめていくのを感じた。
「王宮に少しでも関わったお前は、行動の仕方一つ一つに気を使わねばならんのだぞ。」
言葉の一つ一つがグサグサと刺さる。
戦も政にも関わることのない平和な世界で生きてきた私には、恐ろしい言葉ばかりで、息苦しさを感じはじめた。
「…すみません、でした。私の行動は、あまりにも軽率であったと反省します。」
深々と頭を下げ、謝る。
--本当に、軽率だったのだ。
私には戦う力も何も無い。自分を拾ってくれた家があり、私は今生きることができている。恩に報いる為には、どんな形であれ、強くあらねば。
頭を上げ、決心を口に出そうとした時だった。
「…沙苗。お前には、残ってもらわねば困るのだ。」
突然の事に驚いた。あまり呼ばれた事がない自分の名前が出てきたことも、彼の発言にも。
「…え?」
どういった意味合いなのか。…彼はこの先、駒として私を利用するという事なのか。もしくは、父親の件の事を思ってのことだったのか…
表情を見ても、変化があまり無いようで、掴めない。
「…生憎俺は手放す気はない。お前から消えるような事も許さん。」
だから、それはどういう意味なのか。先程の言葉と相まって何だか変な勘違いをしてしまいそうになる。
自分の顔が真っ青から真っ赤に変わった。
「…そうならないよう、努力します…。」
赤みがさした頬を隠すように少し俯きながら答える。
彼の師匠である霊凰は、呉鳳明が恐ろしく育ったと言っていた。考える策も容赦がないと。
私はストレートな言葉にきっと弱いんだ。都合にいいように捉えてしまっただけ。
そう自分に言い聞かせて、なんとか平常心に戻す。
「呉鳳明様、その、ありがとうございました。家の為、呉鳳明様のこの先の為、頑張ります。」
そう笑顔で言うと、少し心が軽くなった。
例え駒としてであっても、彼の為に頑張ろう。
「…そうか。」
「はい。その為にも、まずは霊凰様の所で学んでこようと思います。…失礼します。」
知識をつけようと意気込み、霊凰の所へ向かう。
「霊凰様に何を聞いたか知らんが、俺が言ったことに裏などない。」
「え?」
突然聞こえた言葉に驚いて振り返ったとき、呉鳳明はすでに自分と反対の道へと歩いていた。
"裏などない"
駒としてではない、という事だろうか…
去って行く後ろ姿を見て、自分の顔に再び熱が戻ったを感じた。
…本当に、彼は何なんだ…