死して尚も(輪虎)
主人公のお名前を。無ければ「沙苗」に。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
そっと…声のする方を見た。
「…」
…いる。
"死んだはず"の、彼が。
『…ん?』
「りん、こ…?」
驚きがあまりにも大きくて上手く言葉が出てこない。
そんな私の様子を興味深げに見つめる彼は、表情を明るくさせ言葉を発する。
『"君は"見えるんだね。』
"君は"という言い方に違和感を覚える。
実は生きていた、という可能性がないということなのか…
『…残念だけど、僕は死んでいるよ。』
「…うん。」
理解はした。
よく見てみると少し体は透けているし、足元に影が無い。
僅かな希望が潰えた悔しさに下唇を一度強く噛む。
しかし、浅い呼吸を繰り返し気を鎮めた。
「なんで、ここに居るの。」
絞り出して出た言葉は、これだった。
---自分はこんな事しか言えないのか。
そう忌々しげに胸中で呟くが、相手は私の発言に気にした様子は無く、ふと真剣に考え込むと、数秒もかからぬ内に答えた。
『正直それは僕にもわからない。未練が完全に無かったとは言えないけど、それでも、討ち取られたあの瞬間に僕はこれで終わったと思ったさ。なのに、気づけばこの地に居た。』
「死んでもこの世に居るのなら、心残りがあるってことだよ。…殿に、申し訳ないと思ったんでしょ?」
輪虎という人間は、未練とは無縁だと思っていたけれど…やはりこの先殿を支える事ができないのが彼の心残りとなったんだろう。
『ああ、うん。それはあるね。僕は殿を命ある限り支えるつもりでいたんだ。』
「…これからどうするの。死んでしまった今、あなたにそれはできない。」
未練があるのは仕方ない。しかし、この世に留まっても…どうする事もできない。
彼はどうしようかと考えているのか顎に手を当て黙った。
『…ああ、そっか。』
数拍おいて答えが出たのかそう呟くと、顎から手を離し、口元にニヤリと笑みを浮かべた彼がこちらに近づいてくる。
『そもそも僕は悩まずとも、君の前に現れた時点で答えは出てるんだ。…これから君には僕に代わって殿の力になってもらうよ。勿論、"死人"になってしまった僕だけど出来る限りは力になるさ。つまり、現世(ここ)に残って君を補佐しよう。』
ピタリと、息が掛かるくらいの距離で動きが止まった。
姿が見えるのに、相手の呼吸を感じない。
「…勝手に私を選ばないで。あと、近い。」
『勝手にも何も、君だけにしか僕の姿が見えないんだから仕方ないさ。』
「そう言われても…!」
近いという言葉を無視され、距離はそのままに言い訳される。
あまりの勝手さに、最早言葉も出ない。
そんな私を気にすることなくさらに彼は続ける。
『ああ、今は人材確保に専念してくれて構わないよ。殿も暫くは何もしないだろうし、君は君でできることをすればいい。』
…力になれと言っておきながら、今はいいとはどういう事だ。
「…嫌と言ったら?」
今さらどうにもならないとわかった上で聞いてみる。
『…もちろん、そんな事は許さない。君がそう答えるのなら、僕は君を呪い殺すよ。』
「…!」
近くにある顔は、本気だ。
「…はぁ…殿の為だから断る理由もないし…そもそもあなたに言われるまでもなく殿をこの先も支える。」
『…』
彼は私の言葉を聞くと距離を僅かに離し、何も言わずに透けた腕をこちらに伸ばした。
『…君も変わらないね。…いや、それは僕も同じか…』
「…?」
透けた手は、私の頬に添えられる。
死んでしまった彼は、当然触れる事などできない。
「…っ何を…」
彼の行動を黙って見ていたものの、ハッとなって反射的に手を払おうとする。
「…!」
しかし、払う事などできるわけもなく、私の手は彼の腕を通り抜けた。
『触れられないよ、君も、勿論僕もね。』
目の前にいる彼は、…
「…あなたが、わからない。」
『僕だって君を理解しているわけじゃないさ。』
私の頬から手を引いたと思えば、やれやれといった感じに彼は両手を上げた。
…腹が立つ。
『まあ、お互い理解していく為にも改めてよろしく頼むよ。』
悪戯な笑みを浮かべた彼はそう言って私の元を去ろうとした。
「…去る前に一つ答えて。いつ消えるつもり?」
苛立ちを抑えつつ、最後に聞く。
『…安心しなよ、ちゃんと消えるから。…まあ、』
"沙苗が死んだ時にでも"
…その声はとても楽しげだった。
→あとがき
「…」
…いる。
"死んだはず"の、彼が。
『…ん?』
「りん、こ…?」
驚きがあまりにも大きくて上手く言葉が出てこない。
そんな私の様子を興味深げに見つめる彼は、表情を明るくさせ言葉を発する。
『"君は"見えるんだね。』
"君は"という言い方に違和感を覚える。
実は生きていた、という可能性がないということなのか…
『…残念だけど、僕は死んでいるよ。』
「…うん。」
理解はした。
よく見てみると少し体は透けているし、足元に影が無い。
僅かな希望が潰えた悔しさに下唇を一度強く噛む。
しかし、浅い呼吸を繰り返し気を鎮めた。
「なんで、ここに居るの。」
絞り出して出た言葉は、これだった。
---自分はこんな事しか言えないのか。
そう忌々しげに胸中で呟くが、相手は私の発言に気にした様子は無く、ふと真剣に考え込むと、数秒もかからぬ内に答えた。
『正直それは僕にもわからない。未練が完全に無かったとは言えないけど、それでも、討ち取られたあの瞬間に僕はこれで終わったと思ったさ。なのに、気づけばこの地に居た。』
「死んでもこの世に居るのなら、心残りがあるってことだよ。…殿に、申し訳ないと思ったんでしょ?」
輪虎という人間は、未練とは無縁だと思っていたけれど…やはりこの先殿を支える事ができないのが彼の心残りとなったんだろう。
『ああ、うん。それはあるね。僕は殿を命ある限り支えるつもりでいたんだ。』
「…これからどうするの。死んでしまった今、あなたにそれはできない。」
未練があるのは仕方ない。しかし、この世に留まっても…どうする事もできない。
彼はどうしようかと考えているのか顎に手を当て黙った。
『…ああ、そっか。』
数拍おいて答えが出たのかそう呟くと、顎から手を離し、口元にニヤリと笑みを浮かべた彼がこちらに近づいてくる。
『そもそも僕は悩まずとも、君の前に現れた時点で答えは出てるんだ。…これから君には僕に代わって殿の力になってもらうよ。勿論、"死人"になってしまった僕だけど出来る限りは力になるさ。つまり、現世(ここ)に残って君を補佐しよう。』
ピタリと、息が掛かるくらいの距離で動きが止まった。
姿が見えるのに、相手の呼吸を感じない。
「…勝手に私を選ばないで。あと、近い。」
『勝手にも何も、君だけにしか僕の姿が見えないんだから仕方ないさ。』
「そう言われても…!」
近いという言葉を無視され、距離はそのままに言い訳される。
あまりの勝手さに、最早言葉も出ない。
そんな私を気にすることなくさらに彼は続ける。
『ああ、今は人材確保に専念してくれて構わないよ。殿も暫くは何もしないだろうし、君は君でできることをすればいい。』
…力になれと言っておきながら、今はいいとはどういう事だ。
「…嫌と言ったら?」
今さらどうにもならないとわかった上で聞いてみる。
『…もちろん、そんな事は許さない。君がそう答えるのなら、僕は君を呪い殺すよ。』
「…!」
近くにある顔は、本気だ。
「…はぁ…殿の為だから断る理由もないし…そもそもあなたに言われるまでもなく殿をこの先も支える。」
『…』
彼は私の言葉を聞くと距離を僅かに離し、何も言わずに透けた腕をこちらに伸ばした。
『…君も変わらないね。…いや、それは僕も同じか…』
「…?」
透けた手は、私の頬に添えられる。
死んでしまった彼は、当然触れる事などできない。
「…っ何を…」
彼の行動を黙って見ていたものの、ハッとなって反射的に手を払おうとする。
「…!」
しかし、払う事などできるわけもなく、私の手は彼の腕を通り抜けた。
『触れられないよ、君も、勿論僕もね。』
目の前にいる彼は、…
「…あなたが、わからない。」
『僕だって君を理解しているわけじゃないさ。』
私の頬から手を引いたと思えば、やれやれといった感じに彼は両手を上げた。
…腹が立つ。
『まあ、お互い理解していく為にも改めてよろしく頼むよ。』
悪戯な笑みを浮かべた彼はそう言って私の元を去ろうとした。
「…去る前に一つ答えて。いつ消えるつもり?」
苛立ちを抑えつつ、最後に聞く。
『…安心しなよ、ちゃんと消えるから。…まあ、』
"沙苗が死んだ時にでも"
…その声はとても楽しげだった。
→あとがき