08
主人公のお名前を。無ければ「沙苗」に。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
・・
不思議な気分だった。町の景色や雰囲気は秦国とほとんど変わらない。けれども、趙国独自の空気があってとても新鮮な気分だ。
浮かれそうになる気持ちを抑え、様々なお店を見て回る。美味しそうな食べ物を見つければ食べてみたり、装飾品や武器をじっくりと見たり、とにかく自分が気になる所へ足を運ぶんだ。
廉頗将軍はというと、少し離れた所から私の様子を観察したり、お店の店主と私の会話に入ってきたり…気がついた時には片手に大きな酒甕(さかがめ)を持ってそれを豪快に飲み、歩いていた。
そんな姿にクスリと笑ってしまう。
さてと、気を取り直して次へ…と思った時、
「わ、綺麗…」
ふと視界にキラリと光る存在が目に入った。近づいてみれば、今まで見てきたお店の中で一番じゃないかと思うほど細かく繊細な彫りが施された装飾品の数々。
「お嬢ちゃん、凄いだろう?俺の店の装飾品はどの店にも負けねぇぐらい美しいんだよ!」
「はい、本当にどれも美しいですし、彫りも細かくて素晴らしいです…!」
店主が自信満々に言うが、間違いないほど本当にどれも素晴らしい。
ずらりと並ぶ装飾品の中でも、植物の葉を模して作られたであろう、所々に翡翠が散りばめられている簪に惹かれた。
「お嬢ちゃんはそれが気に入ったかい?うんうん、お嬢ちゃんだったら絶対に似合うよ!」
凄くいいデザインだし、欲しくないと言えば嘘になる。…でも、自分には贅沢だし、こんなにも綺麗な簪は似合わないだろう…
「…すみません、私のは大丈夫です。母上に贈りたいのでこの朱の簪をお願いします。」
「…そうかい?似合うと思ったんだがね、残念だ。」
少ししょんぼりとした様子の店主にもう一度すみませんと言うと、代金を支払って簪を受ける。持っていた布に包んで懐にしまうと、少し離れた所で黙って様子を見ていた廉頗将軍に駆け足で近づき、
「廉頗様、次へ行きましょう。」
そう声をかけて歩き始める。
しかし、廉頗将軍はこちらを見て少し黙ったあと、"そこで待っておれ"と言ってどこかへ向かった。
「…どうしたんだろう…怒らせては…ない、よね…?」
少し不安になってきた。しかし、意外にもすぐに廉頗将軍は戻ってきて、"ほれ、行くぞ"と何事も無かったかのように進む。
驚いて一瞬フリーズしたが、すぐに我にかえって廉頗将軍を追いかけた。
・・
あれからまた少し色々なお店を回った後、随分と焦った様子の養父の使いの者から、急用が入ったので戻ってきて欲しいとの伝言を受け取り、廉頗将軍と養父の元へ向かうことにした。
戻ってきて早々、顔面蒼白な養父の姿が。私は廉頗将軍の方を向いて頭を下げる。
「…廉頗様、町に連れていってくださったのに、突然だったとはいえ、こんな形で終わることになってしまい申し訳ありません…」
何か非常事態があったとはいえ、本当に申し訳なかった。
「とりあえず、父上の所へ………廉頗様?」
廉頗将軍はまたも黙ってこちらを見ている。しかし、先程と違って片手を私の頭の上乗せ、くしゃりと撫でた。そして、その手を頭から離し、自分の懐から何かを探り出すと、
「…え…??」
サラリと私の髪を耳にかけながら何かを差し込む。
突然の行動に頭は混乱する。
「…っ…!!」
顔に熱が集中する。今の私の顔はきっと真っ赤だろう。
養父はといえば、少し離れた位置からこちらの様子を固唾を呑んで見守っている。
「…なんじゃ、似合うではないか。」
「…え?」
言葉が詰まる中、廉頗将軍の一言を聞き、耳元に手をやると、硬い感触。そっとそれを抜きとってみる。
「あっ、これは……さっきの…!」
私が似合わないからと諦めた簪。
見て、いたのだろうか……
「…あのっ、ありがとうございます!」
本来結い上げた髪に差し込む物だけど、それでも、嬉しかった。
「うぬはもう少し着飾らんか。」
「うっ…はい…」
嬉しさも束の間、急な現実的発言がグサリと刺さる。
確かにそうだ。
いつも、自分が本来生きてきた現代とは違い、きらびやか過ぎて着飾るのに慣れなかった。
他の女性に比べれば私は地味だし…
「再び酒を酌み交わす時、どのように変わったかを期待しておるぞ、沙苗。」
「…再び…あ、はは、なんとかします…?」
引き攣った笑顔になってしまった…
「次はもっとマシな国で飲めるといいが。」
「…今のは聞かなかったことに…」
アハハーと笑って誤魔化す。
まあ確かに次会うときは趙国から他国へ亡命してるでしょうから…
最後にこんな会話してたなんてバレたら生きて秦国に帰れないよ…
ヒヤヒヤする会話に血の気が引く頃、やっと養父が助け舟を出した。
「…で、では、将軍、そろそろ…」
「なんじゃ陵安、焦りおって。フッ、うぬもついに王に目をつけられたか。」
廉頗将軍が言うと冗談が冗談じゃなく思える…
「恐ろしい事をおっしゃらないでください、将軍…!焦っているのは事実ですが…」
急いで訂正する養父だが、その顔はどんどん青ざめていく。…廉頗将軍は愉快そうに笑っているが。
…しかし、いったい何があったんだろ。
「もう良い、早く行かんか。沙苗に関わることであろう?」
「…!?」
「は、はい…誠に申し訳ありませんが…」
待って、今サラッと流してたけど、私に関わるって事って何…?
もしや、今回の春平君と合わざるをえない状況にしたあの人物と関係が…?
人間、嫌な予感ほど当たるという…
ああ、もしそうだとすれば、まだ趙国に滞在する方が良く思えてきた……
_ _ _
「…主よ、陵安殿には無事に。趙国から帰り次第、すぐにお会いできるでしょう。」
薄暗い部屋で、配下の者…"介億"から報告を受ける男が一人。
「そうか。引き続き動向を注視しろ。」
「はっ。」
介億が暗闇へと姿を消す。
丞相が自陣営の強化の為に陵安、娘共々をこちらに引き込む為の策。丞相が陵安が断れないよう手を打ったらしいが…噂では娘の背後には六大将軍の王騎がいるという。
こちらの行動次第で今後の動きに影響が出る可能性は高い。
利用価値がどれほどのものか…
薄暗い部屋に月の光が淡く差し込む。
男は一人、月を見上げた。
_ _ _
不思議な気分だった。町の景色や雰囲気は秦国とほとんど変わらない。けれども、趙国独自の空気があってとても新鮮な気分だ。
浮かれそうになる気持ちを抑え、様々なお店を見て回る。美味しそうな食べ物を見つければ食べてみたり、装飾品や武器をじっくりと見たり、とにかく自分が気になる所へ足を運ぶんだ。
廉頗将軍はというと、少し離れた所から私の様子を観察したり、お店の店主と私の会話に入ってきたり…気がついた時には片手に大きな酒甕(さかがめ)を持ってそれを豪快に飲み、歩いていた。
そんな姿にクスリと笑ってしまう。
さてと、気を取り直して次へ…と思った時、
「わ、綺麗…」
ふと視界にキラリと光る存在が目に入った。近づいてみれば、今まで見てきたお店の中で一番じゃないかと思うほど細かく繊細な彫りが施された装飾品の数々。
「お嬢ちゃん、凄いだろう?俺の店の装飾品はどの店にも負けねぇぐらい美しいんだよ!」
「はい、本当にどれも美しいですし、彫りも細かくて素晴らしいです…!」
店主が自信満々に言うが、間違いないほど本当にどれも素晴らしい。
ずらりと並ぶ装飾品の中でも、植物の葉を模して作られたであろう、所々に翡翠が散りばめられている簪に惹かれた。
「お嬢ちゃんはそれが気に入ったかい?うんうん、お嬢ちゃんだったら絶対に似合うよ!」
凄くいいデザインだし、欲しくないと言えば嘘になる。…でも、自分には贅沢だし、こんなにも綺麗な簪は似合わないだろう…
「…すみません、私のは大丈夫です。母上に贈りたいのでこの朱の簪をお願いします。」
「…そうかい?似合うと思ったんだがね、残念だ。」
少ししょんぼりとした様子の店主にもう一度すみませんと言うと、代金を支払って簪を受ける。持っていた布に包んで懐にしまうと、少し離れた所で黙って様子を見ていた廉頗将軍に駆け足で近づき、
「廉頗様、次へ行きましょう。」
そう声をかけて歩き始める。
しかし、廉頗将軍はこちらを見て少し黙ったあと、"そこで待っておれ"と言ってどこかへ向かった。
「…どうしたんだろう…怒らせては…ない、よね…?」
少し不安になってきた。しかし、意外にもすぐに廉頗将軍は戻ってきて、"ほれ、行くぞ"と何事も無かったかのように進む。
驚いて一瞬フリーズしたが、すぐに我にかえって廉頗将軍を追いかけた。
・・
あれからまた少し色々なお店を回った後、随分と焦った様子の養父の使いの者から、急用が入ったので戻ってきて欲しいとの伝言を受け取り、廉頗将軍と養父の元へ向かうことにした。
戻ってきて早々、顔面蒼白な養父の姿が。私は廉頗将軍の方を向いて頭を下げる。
「…廉頗様、町に連れていってくださったのに、突然だったとはいえ、こんな形で終わることになってしまい申し訳ありません…」
何か非常事態があったとはいえ、本当に申し訳なかった。
「とりあえず、父上の所へ………廉頗様?」
廉頗将軍はまたも黙ってこちらを見ている。しかし、先程と違って片手を私の頭の上乗せ、くしゃりと撫でた。そして、その手を頭から離し、自分の懐から何かを探り出すと、
「…え…??」
サラリと私の髪を耳にかけながら何かを差し込む。
突然の行動に頭は混乱する。
「…っ…!!」
顔に熱が集中する。今の私の顔はきっと真っ赤だろう。
養父はといえば、少し離れた位置からこちらの様子を固唾を呑んで見守っている。
「…なんじゃ、似合うではないか。」
「…え?」
言葉が詰まる中、廉頗将軍の一言を聞き、耳元に手をやると、硬い感触。そっとそれを抜きとってみる。
「あっ、これは……さっきの…!」
私が似合わないからと諦めた簪。
見て、いたのだろうか……
「…あのっ、ありがとうございます!」
本来結い上げた髪に差し込む物だけど、それでも、嬉しかった。
「うぬはもう少し着飾らんか。」
「うっ…はい…」
嬉しさも束の間、急な現実的発言がグサリと刺さる。
確かにそうだ。
いつも、自分が本来生きてきた現代とは違い、きらびやか過ぎて着飾るのに慣れなかった。
他の女性に比べれば私は地味だし…
「再び酒を酌み交わす時、どのように変わったかを期待しておるぞ、沙苗。」
「…再び…あ、はは、なんとかします…?」
引き攣った笑顔になってしまった…
「次はもっとマシな国で飲めるといいが。」
「…今のは聞かなかったことに…」
アハハーと笑って誤魔化す。
まあ確かに次会うときは趙国から他国へ亡命してるでしょうから…
最後にこんな会話してたなんてバレたら生きて秦国に帰れないよ…
ヒヤヒヤする会話に血の気が引く頃、やっと養父が助け舟を出した。
「…で、では、将軍、そろそろ…」
「なんじゃ陵安、焦りおって。フッ、うぬもついに王に目をつけられたか。」
廉頗将軍が言うと冗談が冗談じゃなく思える…
「恐ろしい事をおっしゃらないでください、将軍…!焦っているのは事実ですが…」
急いで訂正する養父だが、その顔はどんどん青ざめていく。…廉頗将軍は愉快そうに笑っているが。
…しかし、いったい何があったんだろ。
「もう良い、早く行かんか。沙苗に関わることであろう?」
「…!?」
「は、はい…誠に申し訳ありませんが…」
待って、今サラッと流してたけど、私に関わるって事って何…?
もしや、今回の春平君と合わざるをえない状況にしたあの人物と関係が…?
人間、嫌な予感ほど当たるという…
ああ、もしそうだとすれば、まだ趙国に滞在する方が良く思えてきた……
_ _ _
「…主よ、陵安殿には無事に。趙国から帰り次第、すぐにお会いできるでしょう。」
薄暗い部屋で、配下の者…"介億"から報告を受ける男が一人。
「そうか。引き続き動向を注視しろ。」
「はっ。」
介億が暗闇へと姿を消す。
丞相が自陣営の強化の為に陵安、娘共々をこちらに引き込む為の策。丞相が陵安が断れないよう手を打ったらしいが…噂では娘の背後には六大将軍の王騎がいるという。
こちらの行動次第で今後の動きに影響が出る可能性は高い。
利用価値がどれほどのものか…
薄暗い部屋に月の光が淡く差し込む。
男は一人、月を見上げた。
_ _ _
2/2ページ