06

主人公のお名前を。無ければ「沙苗」に。

この小説の夢小説設定
主人公の名前

「さあ沙苗、こちらで話さぬか?」

「は、はい。ありがとうございます。」

春平君にニコニコと席に促され座ったはいいものの、彼の親しげな物言いにどう反応していいのかわからない。

春平君の方はそんな事はどうでもいいのだろう、私に質問を投げかけた。

「そなたの活躍を聞き、そなたに憧れた…いったいどうすればそなたの様になれるのだ?」


…初めから質問が難しいのだけど。

「ははは…えー、その、どうすれば……」

困った。憧れだと言われた事なんてない。しかも私の様になる方法を、というのも…

頭が痛くなってきた…

「…すまぬ、困らせてしまったようだな。…そなたの様になれば、今以上にあの方に喜んでもらえると思ったのだ…」

春平君の美しい顔が悲しみに染まった。
自分に罪はないが、罪を犯したような気持ちになる。

「…春平君様、私の様にならずとも良いと思います。」

私は、一途に誰かを想って動いていない。
…己の為とも取れる。
ここは、"やめたほうが良い"と遠回しにでも言ったほうがいいのかもしれない。

「それはどういう事だ?…なれぬと申すか。」

彼の目が潤み始めた。

発言を間違えたか、と思いつつも言ってしまったからにはどうしようもない。

「"なれない"ではなく、ならなくて良いんです。」

「ならなくて良い…」

潤んだ瞳を向けられ、心が痛い。
しかし、負けずに続ける。

「はい。春平君様は、ただ一人の方を想ってそうなりたいと…ならば、私のような行動をなさらずとも、春平君様が私を呼んでまで変わろうとした、そのお気持ちだけで十分だと思います。」

「…気持ち。それは真か?」

春平君は目を見開き、驚いた表情でこちらを見た。
その目に期待の色が伺える。

私はその期待に応えるかのように、

「はい。」

そう答えた。
実際に偃という人物を見たことがない(正直怖くて見たいと思わない)のでどう思っているのか、考えているのかといった事はわからない。
しかし、史実でも今の世界でも春平君を寵愛しているという事実がある。ならばきっと、何をしなくとも彼が持つこの純粋さだけで十分だろう。

「そうか…ならばそなたの言葉を信じよう。」

「はい。ありがとうございます。」


それに…寵愛される人間が、力をつけた時…

己の身に危険が生じてしまう。

…それは、周りに存在する寵愛を受けられなかった者達の妬みからであったり、寵愛する側の、"地位を狙っているかもしれない"という懐疑心を生み出してしまった場合であったり…

とにかく、純粋に役にたちたいと思ってやった事が必ず良く出るとは限らない。


……すっかり忘れていたが、偃という人物は性格に難がある。やはり何かさせる訳にはいかない。

「…沙苗、改めて詫びる。すまなかったな。」

「いえ、謝らないでください。」

やはり春平君は悪い人ではない。
私の一言が間違っていない事を祈ろう。

「ところでそなた、まだ時間はあるか?」

「は、はい。ありますが…」

他にも何かあるのだろう。
微笑みながら尋ねてきた。

「良ければ何か話を聞かせてくれぬか?そなたとまだ話したいのだ。」

「は、はあ。えー、どう、しましょう…?」

とりあえず、地名も名前も伏せて、日本の歴史でも話そうか。

この世界に来てから初めて話す内容に少しだけ気分が良くなる。

・・・

「……ふむ、そなたの話は面白いな!」

「ありがとうございます。」

説明が上手くないので不安だったが、春平君が満足そうに笑ってそう言ってくれたので安心した。


しかし、彼と一緒の空間に居るのも慣れはじめた頃だった…

「…ん?…日が沈み始めたな。」

「え? あ、本当ですね。」

気付かなかった…
あまりにも楽しそうに聞いてくれたものだから、話し過ぎてしまったようだ。
あまり長居すると何か誤解されかねない。

「話し過ぎてしまいましたね。すみません。…では、これでお終いという形にしますか?」

「…うむ、名残惜しいがそなたに迷惑をかけるわけにもいかぬ。そうしよう。」

「あ、迷惑という訳では…も、もう暗くなり始めましたし…」

迷惑云々というより、誤解を招いた時の恐怖が大きいのだ。

私は席を立った。すると、春平君も席を立つ。

「そうか…では、使いの者に陵安の元まで送らせよう。」

「すみません。春平君様、本日はありがとうございました。」

「いや、礼を言いたいのはこちらだ。感謝する。…また聞かせてくれるか?」

春平君は軽く頭を下げこちらを見た。

私も頭を下げ、答えた。

「機会があれば、是非。」



彼の立場が今の様でなければ、友達になれたかもしれない。
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