第二十六話 赤い稲妻
暗闇の中に、女性が一人いる。
作り物のような琥珀色の翼を負った、中性的な顔立ちの女性だ。
女性が前を見やると、暗闇の中に現在の日時だけが、白く浮かび上がって見えた。
女性は唇を結び、思う。
…あれから、五年もの歳月が過ぎた。
…二人は…元気でいてくれているだろうか。
ここを忘れて、生きてくれているだろうか…。
私は…二人が元気で生きてさえいればいいけれど、二人は…。
「いた! ジョウガ姉様!!」
突然声が聞こえ、女性は驚いて顔を上げる。暗闇の中を近づいてくる光が見えた。光はすぐに人の形を成して行く。
女性に近づいてくるのは満面の笑みで手を振るジェミニと、腕を掴まれて引きずられるように後から来るライカだった。
「…ここが曙光研究所か…。」
ボストークのメンバー達は、曙光研究所の門前に到着した。
皆は緊張した面持ちでわずかの間、お互いの顔を見渡した。お互いの意思が揺らがないことを確認し、頷き合う。
「…行こう。」
虎徹は門に向かって踏み出す。皆が後に続くと、すぐに守衛が二人走ってきた。
若い方の守衛が皆に声をかける。
「待ってください。ここは関係者以外立ち入り禁止です。」
皆はその言葉に一瞬戸惑ったが、瑠璃は守衛に懸命に話をした。
「わ、私達は、ライカさんを取り戻しに…。」
「ライカ? また…。先輩、何か知ってますか?」
若い守衛が初老の守衛を見る。初老の守衛は唇を結んで黙った。
「またって…ライカさんのことで来た奴がいるのか!?」
若い守衛の言葉に反応し、虎徹が思わず身を乗り出すと、若い守衛は驚いて話した。
「さ、さっき、高校生位の女の子が…。」
「…ひょっとして、さっきいなかったあいつらの仲間…?」
嵐が考えながら口にする。若い守衛は混乱しながら声を上げた。
「き、君達こそ何なんだ! 何か身分を証明するものは!?」
身分証明と言われ、皆は困惑気味に顔を見合わせた。
「とにかく、何だか解らない人間をこれ以上入れる訳には…。」
若い守衛が言った直後。
突然、空に黒く厚い雲が立ち込め、周囲は暗くなった。
暗闇の中、ライカとジェミニの姿を見た女性…ジョウガはしばし唖然として二人を見ていたが、次には唇を固く結び、二人をキッと睨みつけた。
ジェミニは意に介さないように、はしゃいだ笑顔を見せる。
「そんな顔しないでよ姉様! せっかくまた三人会えたんだよ!!」
ジョウガは唇を固く結んだまま、手で払う仕草をした。そこでジェミニは初めて戸惑いを見せた。
「え、何、姉様…ちゃんと喋ってよ。」
「姉様の能力は、言葉にすることで物事を動かすこと。だから迂闊に喋れないんだよ。」
後ろにいたライカが冷静に話した。ジェミニは戸惑いを大きくし、ライカを見る。
「え…。」
「…ここから帰れ、そう言ってるんでしょう?」
「な、何でだよ!!」
ジェミニが声を荒げると、ジョウガは答える代わりに睨みを強くした。
ライカはゆっくりと話し出した。
「…ジェミニ。あの時、君には理解出来なかったかもしれないけど、ジョウガ姉様は危険なこの場所から、僕達を逃がしてくれたんだよ。」
ジェミニの瞳が揺れる。ライカは落ち着いた声で続けた。
「あの時もう僕達は、神舟にとって無くてはならない部品だった。お父様がいなくなって、僕達はどんな扱いを受けるか解らなかった。ジョウガ姉様はそれを察して、僕達をここから逃がしてくれたんだよ。」
「…だ、だったら、ジョウガ姉様もここから一緒に逃げよう!! そうすれば…!」
ジェミニが懸命に言うと、ジョウガは首を横に振り、自身の片腕を軽く上げて見せる。ジョウガの身体中には、沢山の重い鎖が巻き付いていた。
「ダメだよ。姉様の意識は、この神舟に縛り付けられてる。無理に動かせば、研究所にバレる。研究所にバレたら、あの研究員達は血眼になってでも僕達を探し出して、今度こそ僕達は逃げられない。」
ライカは改めて、ジェミニに語りかけた。
「もう解ったでしょう、ジェミニ。あの頃にはもう、どうやっても戻れないんだよ。」
「今更! 今更そんなこと言うな!!」
ジェミニは叫び、血走った目でライカを睨んだ。
「また三人一緒にいるために、オレが独りでどれだけ頑張ったと思ってるんだ!! ライカ姉さんが全部忘れてあいつといちゃついてる間にも、オレは独りであらゆる手段を考えて、やっと全部実行に移せたんだ!! 今更そんなこと言われて、黙って帰れるか!!」
ジョウガの手が、叫び捲し立てるジェミニの頬を張った。
「っ…!」
ジェミニはジョウガをぎろりと睨んだ。
ジョウガは怯む様子もなく手を伸ばす。鎖を巻かれた腕を懸命に伸ばし、ジェミニを抱きしめた。
ジェミニの吐き出す息が震えた。彼を抱きしめるジョウガの腕も震えていた。
「…っ…う…。」
ジェミニの瞳に、涙が溜まっていく。ライカは静かに声をかけた。
「…行こう。君のそばには僕がいてあげる。だから…。」
「…いやだ……嫌だ!!」
ジェミニが頭を振り、涙声で叫んだ瞬間、三人の周囲が真っ白な光に襲われた。
神舟のそばで、ディスプレイを前に天宮が声を上げる。
「見ろ! 星海博士が出したあの数値に近づいている…!」
「…ええ、そのようですね。」
長征が抑揚の無い声で返す。天宮は興奮気味に口にした。
「戻ってきた…! 行ける、こいつらを使えば、研究は…!」
「…ジェミニ。家族に会えたの? 良かったね…。」
エンデバーはスマートフォンを出し、ジェミニに語りかける。
『が…ぐ、がぁ…!』
スマートフォンから聞こえる声は、締め上げられる様に苦しげな、言葉にならない呻き声だった。
エンデバーは小首を傾げる。
「…でも、何で? 苦しそうだよ…?」
神舟が高速で演算を始める。黒い塔の様な本体がガタガタと揺れ始めた。
「来た…! あの時と同じだ…!! これを今度こそ制御出来れば…!」
天宮は目を爛々と光らせ、コンピューターのキーボードを叩き続けた。
曙光研究所の門前では、若い守衛が突然暗くなった空を見上げていた。
「な、何だ!? いきなり空が…!!」
初老の守衛は呼吸を震わせ、目を見開いた。
黒い空に危機感を覚えた虎徹は、大声で若い守衛に訴える。
「頼むから中に入れてくれ! ライカさんを助けないと…!」
「だから身分証明するものは!?」
初老の守衛が若い守衛を押しのけた。ポケットから小さなカードを出し、虎徹に差出す。
「この電子キーで、この施設内の鍵は全部開きます。」
「先輩何を!?」
若い守衛が混乱するのに構わず、初老の守衛はわずかに俯き、朔達に小さな声で言った。
「早く行ってください。…あの子達を助けてあげてください。」
初老の守衛の表情は見えなかった。皆は一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。虎徹が鍵を受け取り、門にかざすと、ガラガラと音を立てて門は開いた。
ボストークの皆は研究所に走った。虎徹が研究所の玄関を電子キーで開け、皆で内部に突入する。内部にもいくつかドアがあったが、電子キーで難なく開けて走っていく。
間も無く大きな白い部屋に出た。
「これは…!?」
大きな部屋の中では、巨大な塔のような黒い機械が、ガタガタと揺れていた。
キーボードを叩き続けていた天宮が気付く。
「? 何だお前達…長征、つまみ出せ。」
「私がやる。邪魔させない。」
エンデバーは歩を進め、皆の前に立ちはだかった。眉間にしわを寄せて前を睨むと、周囲に無造作に置かれていたパソコンの残骸が浮き上がり、朔達に向かって思い切り飛んだ。
「うわ!」
皆はそれを辛うじて避ける。
「…避けるな。しつこい。」
エンデバーが呟くと、別の残骸が朔達に向かって飛んだ。虎徹がエンデバーに叫ぶ。
「止めろ! お前の仲間はもう逃げた!」
「そんなの関係ない。ジェミニは家族に会えた。邪魔させない。」
動じる様子もないエンデバーに、虎徹は歯噛みする。
不意に、鼎が声を上げた。
「あの、でかい機械の中…!」
鼎の瞳は青く光っている。鼎の瞳は真っ直ぐに黒い機械を見ていた。
その時、研究所内のスピーカーから女性の声が響いた。
『みんな!! 逃げて!!』
「い、今のは!?」
聞き覚えのない女性の叫び声に皆は驚く。鼎は黒い機械を睨んでいた。
「ライカがあの中に捕まってる! ジェミニって奴も、一緒に縛り付けられて…!」
「じゃあこれが!?」
「全ての元凶になったっていう…!」
『お願い逃げて!! みん…ぶつっ。』
スピーカーからの叫び声が途絶えた。天宮がキーボードを叩きながら呟く。
「まだ意識があったか。だがこれで…。」
突然、ディスプレイ上で見えていた演算が、濁流のような勢いで流れ始めた。黒い機械…神舟の揺れも激しくなった。
天宮は慌ててキーボードを叩くが、神舟は演算のスピードを増す一方だ。
「な、何だ、コントロールが…!」
瞬間、神舟から赤い光が発せられた。それは稲妻のような光線に姿を変え、轟音と共にエンデバーの体を貫いた。
「…あ…!!」
「あかい、いなずま…!」
瑠璃の表情は恐怖で満ちた。燐は震えながら掠れた声を出した。
赤い稲妻が落ちた。
それを目の当たりにし、皆は戦慄した。
赤い稲妻の直撃を受け、倒れたエンデバーがむくりと起き上がる。体に外傷は一切なかったが、その瞳は赤く爛々と輝き、理性は完全に消えていた。
エンデバーは朔達を睨めつける。皆の背中を凍るような寒気が襲った。
「うう、ぐるっ…!」
エンデバーは呻き声を上げる。次には虎徹の体が宙に浮いた。
「うああ!」
虎徹の体が振り回されるように宙を舞い、瑠璃、そして歩に激突する。
「きゃああ!」
「うあ!!」
三人は壁に思い切り叩きつけられた。
「この…!」
嵐がエンデバーに反能力を向ける。燐の周囲からは炎がエンデバーに襲いかかる。
だが、嵐の反能力を受けたはずのエンデバーは、何も堪えた様子はない。燐の炎はエンデバーの力で捻じ曲げられ、嵐と燐を襲った。
「があっ!」
「うあ…!」
他の皆が倒れていく中、鼎は顔色悪くふらつきながら、研究所の窓の外を見ていた。
「あの時と、同じだ…。」
窓の外では黒く厚い雲が空を覆い、世界は闇に包まれていた。黒い雲の間では、赤い光が蠢くように時折見えていた。
「鼎!」
エンデバーが今度は鼎に襲いかかる。朔は鼎を庇おうと前に出た。
エンデバーは朔を睨む。次の瞬間、朔は押されるように吹き飛ばされ、鼎に激突し、二人は一緒に壁に叩きつけられた。
不意に神舟が静まり返った。ディスプレイ上をずっと流れ続けていた演算も止まった。
神舟の演算に翻弄され続けていた天宮が、震える声で呟く。
「…もどっ、た…?」
天宮は恐怖に強張った顔で、長征に叫んだ。
「…何をしている長征! そいつらを早く山に捨ててしまえ!!」
朔達は皆、山中に放り出された。全員身体中が痛み、意識も虚ろだった。
「…いたぞ!!」
「ボストークの奴らだ!!」
「おい、しっかりしろ!!」
そんな声を遠くに聞きながら、朔は意識を手放した。
暗闇の中。
朔が前を見ると、鼎が目の前にいた。
…鼎…?
鼎は朔に向かい、寂しそうに笑んで見せると、朔に背を向けて歩き出した。
鼎? どこにいくんだ…?
鼎の姿が見えなくなり、朔の目の前は完全に闇に包まれた。
To Be Continued
作り物のような琥珀色の翼を負った、中性的な顔立ちの女性だ。
女性が前を見やると、暗闇の中に現在の日時だけが、白く浮かび上がって見えた。
女性は唇を結び、思う。
…あれから、五年もの歳月が過ぎた。
…二人は…元気でいてくれているだろうか。
ここを忘れて、生きてくれているだろうか…。
私は…二人が元気で生きてさえいればいいけれど、二人は…。
「いた! ジョウガ姉様!!」
突然声が聞こえ、女性は驚いて顔を上げる。暗闇の中を近づいてくる光が見えた。光はすぐに人の形を成して行く。
女性に近づいてくるのは満面の笑みで手を振るジェミニと、腕を掴まれて引きずられるように後から来るライカだった。
「…ここが曙光研究所か…。」
ボストークのメンバー達は、曙光研究所の門前に到着した。
皆は緊張した面持ちでわずかの間、お互いの顔を見渡した。お互いの意思が揺らがないことを確認し、頷き合う。
「…行こう。」
虎徹は門に向かって踏み出す。皆が後に続くと、すぐに守衛が二人走ってきた。
若い方の守衛が皆に声をかける。
「待ってください。ここは関係者以外立ち入り禁止です。」
皆はその言葉に一瞬戸惑ったが、瑠璃は守衛に懸命に話をした。
「わ、私達は、ライカさんを取り戻しに…。」
「ライカ? また…。先輩、何か知ってますか?」
若い守衛が初老の守衛を見る。初老の守衛は唇を結んで黙った。
「またって…ライカさんのことで来た奴がいるのか!?」
若い守衛の言葉に反応し、虎徹が思わず身を乗り出すと、若い守衛は驚いて話した。
「さ、さっき、高校生位の女の子が…。」
「…ひょっとして、さっきいなかったあいつらの仲間…?」
嵐が考えながら口にする。若い守衛は混乱しながら声を上げた。
「き、君達こそ何なんだ! 何か身分を証明するものは!?」
身分証明と言われ、皆は困惑気味に顔を見合わせた。
「とにかく、何だか解らない人間をこれ以上入れる訳には…。」
若い守衛が言った直後。
突然、空に黒く厚い雲が立ち込め、周囲は暗くなった。
暗闇の中、ライカとジェミニの姿を見た女性…ジョウガはしばし唖然として二人を見ていたが、次には唇を固く結び、二人をキッと睨みつけた。
ジェミニは意に介さないように、はしゃいだ笑顔を見せる。
「そんな顔しないでよ姉様! せっかくまた三人会えたんだよ!!」
ジョウガは唇を固く結んだまま、手で払う仕草をした。そこでジェミニは初めて戸惑いを見せた。
「え、何、姉様…ちゃんと喋ってよ。」
「姉様の能力は、言葉にすることで物事を動かすこと。だから迂闊に喋れないんだよ。」
後ろにいたライカが冷静に話した。ジェミニは戸惑いを大きくし、ライカを見る。
「え…。」
「…ここから帰れ、そう言ってるんでしょう?」
「な、何でだよ!!」
ジェミニが声を荒げると、ジョウガは答える代わりに睨みを強くした。
ライカはゆっくりと話し出した。
「…ジェミニ。あの時、君には理解出来なかったかもしれないけど、ジョウガ姉様は危険なこの場所から、僕達を逃がしてくれたんだよ。」
ジェミニの瞳が揺れる。ライカは落ち着いた声で続けた。
「あの時もう僕達は、神舟にとって無くてはならない部品だった。お父様がいなくなって、僕達はどんな扱いを受けるか解らなかった。ジョウガ姉様はそれを察して、僕達をここから逃がしてくれたんだよ。」
「…だ、だったら、ジョウガ姉様もここから一緒に逃げよう!! そうすれば…!」
ジェミニが懸命に言うと、ジョウガは首を横に振り、自身の片腕を軽く上げて見せる。ジョウガの身体中には、沢山の重い鎖が巻き付いていた。
「ダメだよ。姉様の意識は、この神舟に縛り付けられてる。無理に動かせば、研究所にバレる。研究所にバレたら、あの研究員達は血眼になってでも僕達を探し出して、今度こそ僕達は逃げられない。」
ライカは改めて、ジェミニに語りかけた。
「もう解ったでしょう、ジェミニ。あの頃にはもう、どうやっても戻れないんだよ。」
「今更! 今更そんなこと言うな!!」
ジェミニは叫び、血走った目でライカを睨んだ。
「また三人一緒にいるために、オレが独りでどれだけ頑張ったと思ってるんだ!! ライカ姉さんが全部忘れてあいつといちゃついてる間にも、オレは独りであらゆる手段を考えて、やっと全部実行に移せたんだ!! 今更そんなこと言われて、黙って帰れるか!!」
ジョウガの手が、叫び捲し立てるジェミニの頬を張った。
「っ…!」
ジェミニはジョウガをぎろりと睨んだ。
ジョウガは怯む様子もなく手を伸ばす。鎖を巻かれた腕を懸命に伸ばし、ジェミニを抱きしめた。
ジェミニの吐き出す息が震えた。彼を抱きしめるジョウガの腕も震えていた。
「…っ…う…。」
ジェミニの瞳に、涙が溜まっていく。ライカは静かに声をかけた。
「…行こう。君のそばには僕がいてあげる。だから…。」
「…いやだ……嫌だ!!」
ジェミニが頭を振り、涙声で叫んだ瞬間、三人の周囲が真っ白な光に襲われた。
神舟のそばで、ディスプレイを前に天宮が声を上げる。
「見ろ! 星海博士が出したあの数値に近づいている…!」
「…ええ、そのようですね。」
長征が抑揚の無い声で返す。天宮は興奮気味に口にした。
「戻ってきた…! 行ける、こいつらを使えば、研究は…!」
「…ジェミニ。家族に会えたの? 良かったね…。」
エンデバーはスマートフォンを出し、ジェミニに語りかける。
『が…ぐ、がぁ…!』
スマートフォンから聞こえる声は、締め上げられる様に苦しげな、言葉にならない呻き声だった。
エンデバーは小首を傾げる。
「…でも、何で? 苦しそうだよ…?」
神舟が高速で演算を始める。黒い塔の様な本体がガタガタと揺れ始めた。
「来た…! あの時と同じだ…!! これを今度こそ制御出来れば…!」
天宮は目を爛々と光らせ、コンピューターのキーボードを叩き続けた。
曙光研究所の門前では、若い守衛が突然暗くなった空を見上げていた。
「な、何だ!? いきなり空が…!!」
初老の守衛は呼吸を震わせ、目を見開いた。
黒い空に危機感を覚えた虎徹は、大声で若い守衛に訴える。
「頼むから中に入れてくれ! ライカさんを助けないと…!」
「だから身分証明するものは!?」
初老の守衛が若い守衛を押しのけた。ポケットから小さなカードを出し、虎徹に差出す。
「この電子キーで、この施設内の鍵は全部開きます。」
「先輩何を!?」
若い守衛が混乱するのに構わず、初老の守衛はわずかに俯き、朔達に小さな声で言った。
「早く行ってください。…あの子達を助けてあげてください。」
初老の守衛の表情は見えなかった。皆は一瞬戸惑ったが、すぐに頷いた。虎徹が鍵を受け取り、門にかざすと、ガラガラと音を立てて門は開いた。
ボストークの皆は研究所に走った。虎徹が研究所の玄関を電子キーで開け、皆で内部に突入する。内部にもいくつかドアがあったが、電子キーで難なく開けて走っていく。
間も無く大きな白い部屋に出た。
「これは…!?」
大きな部屋の中では、巨大な塔のような黒い機械が、ガタガタと揺れていた。
キーボードを叩き続けていた天宮が気付く。
「? 何だお前達…長征、つまみ出せ。」
「私がやる。邪魔させない。」
エンデバーは歩を進め、皆の前に立ちはだかった。眉間にしわを寄せて前を睨むと、周囲に無造作に置かれていたパソコンの残骸が浮き上がり、朔達に向かって思い切り飛んだ。
「うわ!」
皆はそれを辛うじて避ける。
「…避けるな。しつこい。」
エンデバーが呟くと、別の残骸が朔達に向かって飛んだ。虎徹がエンデバーに叫ぶ。
「止めろ! お前の仲間はもう逃げた!」
「そんなの関係ない。ジェミニは家族に会えた。邪魔させない。」
動じる様子もないエンデバーに、虎徹は歯噛みする。
不意に、鼎が声を上げた。
「あの、でかい機械の中…!」
鼎の瞳は青く光っている。鼎の瞳は真っ直ぐに黒い機械を見ていた。
その時、研究所内のスピーカーから女性の声が響いた。
『みんな!! 逃げて!!』
「い、今のは!?」
聞き覚えのない女性の叫び声に皆は驚く。鼎は黒い機械を睨んでいた。
「ライカがあの中に捕まってる! ジェミニって奴も、一緒に縛り付けられて…!」
「じゃあこれが!?」
「全ての元凶になったっていう…!」
『お願い逃げて!! みん…ぶつっ。』
スピーカーからの叫び声が途絶えた。天宮がキーボードを叩きながら呟く。
「まだ意識があったか。だがこれで…。」
突然、ディスプレイ上で見えていた演算が、濁流のような勢いで流れ始めた。黒い機械…神舟の揺れも激しくなった。
天宮は慌ててキーボードを叩くが、神舟は演算のスピードを増す一方だ。
「な、何だ、コントロールが…!」
瞬間、神舟から赤い光が発せられた。それは稲妻のような光線に姿を変え、轟音と共にエンデバーの体を貫いた。
「…あ…!!」
「あかい、いなずま…!」
瑠璃の表情は恐怖で満ちた。燐は震えながら掠れた声を出した。
赤い稲妻が落ちた。
それを目の当たりにし、皆は戦慄した。
赤い稲妻の直撃を受け、倒れたエンデバーがむくりと起き上がる。体に外傷は一切なかったが、その瞳は赤く爛々と輝き、理性は完全に消えていた。
エンデバーは朔達を睨めつける。皆の背中を凍るような寒気が襲った。
「うう、ぐるっ…!」
エンデバーは呻き声を上げる。次には虎徹の体が宙に浮いた。
「うああ!」
虎徹の体が振り回されるように宙を舞い、瑠璃、そして歩に激突する。
「きゃああ!」
「うあ!!」
三人は壁に思い切り叩きつけられた。
「この…!」
嵐がエンデバーに反能力を向ける。燐の周囲からは炎がエンデバーに襲いかかる。
だが、嵐の反能力を受けたはずのエンデバーは、何も堪えた様子はない。燐の炎はエンデバーの力で捻じ曲げられ、嵐と燐を襲った。
「があっ!」
「うあ…!」
他の皆が倒れていく中、鼎は顔色悪くふらつきながら、研究所の窓の外を見ていた。
「あの時と、同じだ…。」
窓の外では黒く厚い雲が空を覆い、世界は闇に包まれていた。黒い雲の間では、赤い光が蠢くように時折見えていた。
「鼎!」
エンデバーが今度は鼎に襲いかかる。朔は鼎を庇おうと前に出た。
エンデバーは朔を睨む。次の瞬間、朔は押されるように吹き飛ばされ、鼎に激突し、二人は一緒に壁に叩きつけられた。
不意に神舟が静まり返った。ディスプレイ上をずっと流れ続けていた演算も止まった。
神舟の演算に翻弄され続けていた天宮が、震える声で呟く。
「…もどっ、た…?」
天宮は恐怖に強張った顔で、長征に叫んだ。
「…何をしている長征! そいつらを早く山に捨ててしまえ!!」
朔達は皆、山中に放り出された。全員身体中が痛み、意識も虚ろだった。
「…いたぞ!!」
「ボストークの奴らだ!!」
「おい、しっかりしろ!!」
そんな声を遠くに聞きながら、朔は意識を手放した。
暗闇の中。
朔が前を見ると、鼎が目の前にいた。
…鼎…?
鼎は朔に向かい、寂しそうに笑んで見せると、朔に背を向けて歩き出した。
鼎? どこにいくんだ…?
鼎の姿が見えなくなり、朔の目の前は完全に闇に包まれた。
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