第二話 それでもやっぱり自分は
朔が目を開けると、見たことのない天井が見えた。疑問符を浮かべながら、しばらく天井を見上げていると。
「気がついたか。」
横から聞いたことのない声が聞こえ、朔は起き上がろうとした。
「てっ…!」
「無理に動かないほうがいい。怪我はオレが再構築して『直した』が、元通りになっていない部分もある。」
痛みに顔をしかめた朔に、聞いたことのない声は静かに響かせた。
朔は何とか体を起こし、声の方向に振り向く。そこには二〇代前後だろうか、黒髪のショートヘアに冷静な瞳を持った青年が、朔を見下ろしながら座っていた。
「あんたは…?」
「オレは北見 悠里 。ここの店主だ。」
「店主…?」
「ここは『カフェ ボストーク』。オレの店だ。」
そこまで聞いた朔は、不意にハッとして声を上げた。
「! オレの友達が、変な奴に襲われて…鼎は!?」
悠里はわずか黙ってから、口を開いた。
「…『ベルカ』は無事だ。ベルカが君をここに運んだんだ。」
「…ベルカ…?」
聞き慣れない言葉に、朔がまた疑問符を浮かべた時。
「…何で普通の奴をここに連れてきた? …何とか言えよ、ベルカ。」
誰かを非難する男の声が、部屋のドアの向こうから聞こえてきた。
悠里はため息を一つ吐くと立ち上がり、ドアを開けた。
扉の向こうにはカフェスペースがあり、そこには鼎と、朔より少し年上と思われる男女が一人ずついた。
「! 『ユーリィ』さん!」
若い男は悠里を見るとハッとして呼んだ。悠里は落ち着いた様子で若い青年に話す。
「…『ヴェテロク』。ベルカを責めるな。」
「で、でも…!」
「ベルカは彼を助けたかったんだ。その意思を尊重してやれ。」
悠里にヴェテロクと呼ばれた、赤く染めた短髪の青年は口をつぐんだ。もう一人いる、ピンク色の髪と瞳の少女は、黙ってヴェテロクに体をぴったりとくっつけている。
朔はゆっくりと立ち上がり、扉の向こうに出た。
…カフェスペースには鼎と悠里、ヴェテロクと少女がいる。彼らは朔を見る。その視線を受けた瞬間、朔は足元がおぼつかなくなるような、居心地の悪さを感じた。
…この場所は、オレを歓迎していない。
鼎が口を開いた。
「朔、起きたの。だったら、帰るよ。」
「あ、あの! ここは…。」
「朔君だったか。…君はここの事は、忘れた方がいい。」
悠里の声は落ち着いて、だが突き放すように響いた。
「え、えっと…。」
「帰るよ、早く。」
鼎が朔の手を引く。
「あ、えっと…あ、ありがとうございました!」
朔は慌てて一礼する。鼎は黙って朔を引っ張り、カフェを出た。
朔と鼎は星空の下、重い沈黙を引きずって歩いていた。
「な、なあ…。」
かなり長いこと逡巡していた朔が口を開いた。
「…『ベルカ』って、鼎のあだ名か?」
「そうだよ。」
鼎がつっけんどんに返す。朔は少し押し黙ってから、また問う。
「…あの人達、友達なのか?」
「そうだよ。」
鼎はまた突き放すように返した。
朔は視線を落とし、またしばらく黙った。かなり考えている様子で黙ってから、思い切った様子で問うた。
「…あの時…。鼎の目、青く光ってたな。それでお前、何かが解った感じになって…。」
鼎はかなり長い時間、何も答えなかった。朔も黙って鼎の隣を歩いていた。
朔の家が近づいてきた辺りで、鼎は話し出した。
「あの青い目は、僕の能力。あらゆるモノの『真実』が見える。…あの時は、襲ってきたあいつが何を考えているのかを見てた。…『真実の目 』…ホント、笑っちゃう能力だよ…。」
最後の辺りで掠れていた鼎の声を聞き、朔が口を開こうとした時。
「ほら、着いたよ朔。」
朔の自宅にある大きな門が、すぐ目の前にあった。
「あ…。そうだ、鼎、ありがとう。お前がオレを運んで…。」
「じゃあ、さよなら。」
朔が言うのを遮って返された鼎の言葉は、冷たく響いた。何も言えなくなった朔に背を向け、鼎は走って行った。
鼎は走った。走って、息が苦しくなるまで走った。
朔の自宅からだいぶ離れた場所で、鼎は立ち止まった。ぜえぜえと呼吸をする。呼吸が落ち着いてきた時、鼎の目から雫が零れ落ちた。
「うあ…あっ…あ、あっ…。」
小さな嗚咽を上げ、鼎は溢れ出る涙を拭うこともせず、泣いていた。
翌日、朔は一人で通学路を歩いていた。高校に近くなった辺りで、前方に見慣れた青い髪が見えた。
「! 鼎!」
朔がその後ろ姿に向かって呼ぶと、鼎は一瞬振り向いた後、逃げるように学校に向かって走って行った。
自身を拒絶する行動に朔はひゅ、と息を飲んだ。
「…鼎?」
時間は過ぎて放課後。
朔は帰る支度をして立ち上がり、鼎の席に寄り、再び声をかけた。
「鼎。」
鼎はがたんと音を立てて席を立ち、朔の横をすり抜けて教室を出て行った。
呆然とその後ろ姿を見送る朔を見て、同級生達は後ろから嘲笑った。
「はは、何だあ?」
「コンビ解消ってか?」
一人で帰宅した朔は、自宅の道場で祖父と向き合い、稽古をしていた。朔は息を切らせ、何とか立っている。祖父は呼吸一つ乱していない。
朔の様子を見た祖父は、呆れたように声をかけた。
「どうした朔。今日は一段とへっぽこだな。」
黙って苦しげに呼吸をする朔に、祖父は小さく息をつくと、話した。
「…お前は本当に、真っ直ぐに育ってしまったな。」
朔がゆっくりと顔を上げる。祖父は穏やかな声で続けた。
「今の時代、曲がっていた方が楽に生きられるかもしれないが、お前は本当に真っ直ぐに育ってしまった。」
朔はよく解っていない表情をして、祖父の話を聞いた。
「まあ、そう育ててしまったのはわしだからな。わしから言えることはあまりないが…。」
祖父は朔のそばに寄り、頭をポンと撫でた。
朔が目を丸くしていると、祖父はにっと口角を吊り上げた。
「朔。大切だと思うものは、どこまで行っても、何があっても大切にしろ。わしが言えるのは、それ位だ。」
かけられた言葉に朔が戸惑っていると、祖父は優しい眼差しを向けた。
「鼎君も、今きっと苦しいはずだ。今は伝わらなくとも、お前は自分の思いを変えずにいてやるといい。」
朔の表情からわずかに力が抜けた。朔は小さく頷いた。
「…うん。ありがとう、じっちゃん。」
夕方。
朔は中身の入ったエコバッグを下げて、街中を歩いていた。
「最近、葉物高いよなあ…。」
毎日祖父と交代で食事を作る朔は、そんなことを呟きながら街を歩いていた。
不意に、朔の耳に風に乗って声が聞こえてきた。朔はハッとして一瞬動きを止め、その声を確認する。聞き覚えのある声だった。
朔は声の方向に向かい、急いで走り出した。
一つ路地を入った所にある人気のない広場で、鼎は倒れていた。鼎の前には男が一人立っている。昨日に朔、鼎と相対した、高速移動の能力を持った男は顔を歪ませて笑う。
「何だ、今日はあの普通の奴は一緒じゃないのか。せっかく仕返ししてやろうと思ったのに。」
「…あいつは…もう、関係ない…。」
体が痛む中で鼎が声を絞り出すと、男は嘲笑した。
「もう…? そうか、お前見捨てられたってとこか。そうだよな、所詮能力者じゃない、普通の奴だしな。」
鼎が唇を噛む。男は構わずに嘲笑したまま、鼎に向き直った。
「まあいい、オレはお前らボストークに仕返ししなきゃならないんだ。そうすれば、メルクリウスも…。」
男が足を軽く上げ、一歩を踏み出そうとする。
鼎がぎゅっと目をつぶった時。
「うああ!!」
男の声に鼎が驚いて顔を上げると、男がひっくり返って倒れていた。
更には、男が鼎に迫る直前に体当たりを喰らわせた朔が、目の前にいた。
「…さく…?」
「鼎、大丈夫か!?」
当たり前のように朔が声をかける。鼎は体を起こし、朔を睨みつけた。
「何で…何で!」
鼎は朔に向かい、叫んだ。
「お前は、こっちから離れてやったのに、何で!!」
朔は少し考えるように黙ると、鼎に向かい苦笑した。
「どうやって考えても、鼎はオレにとって大事だから。」
鼎が目を見開く。言葉も出せず、大きな目で朔を見ている。
朔は後ろを振り返る。ひっくり返った男が顔を歪ませ、体を起こそうとしていた。
「ここはオレが何とかするから、鼎は逃げろ。」
「馬鹿、何言ってんだ! こいつは能力者、普通のお前が…!」
「いいから、!?」
突然、朔の体を何かの力がホールドした。
鼎がバッと後ろを振り返ると。
「メルクリウスに言われて、お前を連れ戻しにきたけど…仕方ないなあ。オレも手伝ってやるよ。」
後ろから、別の男が笑いながら歩いてきていた。倒れていた男が苦虫を噛んだような顔をしながら、立ち上がる。
「ぐっ…動けない…!」
朔は強い力に四肢を抑えられ、立った姿勢から全く動けなかった。
鼎が別の男に向かって叫ぶ。
「止めろ! 朔は本当に無関係で…。」
「うるさいなあ。」
もう一人の男が指先を鼎に向けると、鼎の体も固まったように動かせなくなった。
「く…!」
「さて、お膳立てしてやったよ。あとは好きなだけ痛めつければいいさ。」
「この野郎…でも、正直助かった。」
二人の男は会話を交わすと、ギラリと光る目で朔と鼎を見た。動けない二人が思わず戦慄する。
「まずは、普通の奴からだな!」
先程倒された男が、朔の顔を思い切り殴る。ついで腹を蹴る。
「がっ、ぐうっ!」
抵抗できない朔は苦痛に顔を歪ませる。男は容赦無く朔に殴る蹴るの暴行を加えた。
動けない鼎は瞳を、呼吸を震わせ、痛めつけられる朔を見た。鼎の口から震える声が出た。
「や、やめ…やめろ…。」
男は好き放題に朔を殴り、蹴る。暴行を受け続け、朔はぐったりとしている。
鼎は渾身の力を込めて叫んだ。
「止めろおおおおお!!」
「いた! ベルカだ!!」
遠くから声が聞こえた。
走ってきたのは、カフェボストークでヴェテロクと呼ばれていた青年と、彼についていた少女だった。
「なっ!?」
「援軍か!?」
男二人は驚きの声を上げた。
ヴェテロクは鼎と朔のそばに走り寄り、守るように両腕を広げた。少女に叫ぶ。
「チェルナ、ぶちかませ!!」
「うん。」
チェルナと呼ばれ、少女が頷く。集中するように呼吸した次の瞬間、チェルナの周囲の電柱や地面、ドラム缶が轟音を立てて爆散した。
「うわあああ!?」
突然のことに二人の男たちはなす術もなく、崩れた地面に飲み込まれた。
ヴェテロク、朔、鼎の周囲は何事もなかった。
「ずらかるぞ、ベルカ。」
「ま、待って!」
鼎の慌てた声にヴェテロクが訝しげに見ると、ボロボロにされ、気絶している朔を鼎が抱えていた。
「…またそいつか?」
ヴェテロクが苛立たしげにため息を吐く。鼎は強い意志を持った目で見上げる。ヴェテロクは負けたと言うように頷いた。
「…解った。そいつもユーリィさんのところに連れて行く。」
ヴェテロクは朔の体を担ぎ上げた。
朔が目を覚ますと、昨夜見た天井が見え、見覚えのある人物が見下ろしていた。
「…あ…。えっと…。」
「君はどうして、こうボロボロになって来るのか…。」
悠里は朔を見下ろして、ため息交じりの声をかけた。
「…鼎は、無事ですか?」
朔が小さな声で問うと、悠里は頷いた。
「無事だ。…でも、君は…。」
「…良かった。」
朔は呟くように言い、身体を起こした。
「また、怪我治してくれたんですよね。ありがとうございます。オレ、帰ります。」
悠里に一礼すると、朔は立ち上がり、歩き出そうとする。その様を見た悠里は、朔の背中に声をかけた。
「…ベルカやここに出入りしている人間は、君達で言う『普通』とは違う。君もここ二日の出来事でそれが解っただろう。君はそれでどうしようと思っているのか…オレは聞きたい。」
「…普通って何なんでしょうね。」
悠里に向き直り、言った朔の顔は、ひどく苦く笑っていた。
「オレも普通じゃないみたいだから、学校で嫌われっぱなしですけど…。鼎も普通っていうのじゃないみたいだから、オレ達二人で嫌われ者同士とか言われてる。色々考えたけど…やっぱり鼎はオレにとったら、大事な友達で、変な奴に狙われたりして心配だと思う。…でも鼎には、それが迷惑みたいで…。」
そこまで言い、朔は唇を結ぶ。少しの間の後、口を開いた。
「大事な友達を守りたいって思うのは、やっぱり、悪い事なんですか…?」
悠里はしばし、驚いたように朔を見た。
悠里の目の前にいる朔は笑んでいた。朔の瞳はかすかに潤んでいた。涙を溜めた瞳で、無理矢理に笑んでいた。
悠里は朔をただ黙って、見つめた。不意にふ、と笑んだ。
「普通の中での異端、か…。」
悠里が呟いた言葉に朔が疑問符を浮かべると、悠里は穏やかに笑んだ。
「君は悪い事などしていない。大丈夫だ。ベルカを助けてくれて、本当にありがとう。」
朔が思わず目を丸くして悠里を見る。悠里は朔に話した。
「こちらに来てくれ。ここのメンバー達に、ベルカの友達として紹介しよう。」
ボストークのカフェスペースで鼎とヴェテロク、チェルナは黙って座っていた。鼎は陰った表情で視線を落とし、ヴェテロクは眉間にしわを寄せ、チェルナは不安そうな顔をしてヴェテロクにくっついていた。
重い沈黙の中に、三人はずっといたが。
「直したぞ。」
声がかかり、三人が振り向くと、朔と悠里がいた。
「ユーリィさん…。」
ヴェテロクがため息のように呼んでいる間に、鼎が席から立ち上がり、朔のそばに寄った。
「このバカは! 何考えて、僕は…!」
潤んだ瞳で叫ぶ鼎に、朔は苦笑した。
「…うん。ごめんな。」
「僕は普通じゃないんだ、能力者なんだよ!? 気持ち悪いとか思わないの!? 何で、何で朔は…!」
鼎に向かい、朔は苦笑した。
「鼎には迷惑だと思うけど…実際迷惑だって言ってたもんな。それでも鼎はオレにとって、大事な友達なんだと思うから。」
鼎は目を丸くして朔を見た。僅かに唇を結ぶ。瞳が少しずつ潤んでいった。
ヴェテロクが何も言えずにいると、悠里が話し出した。
「彼はベルカの友達だ。ヴェテロク、チェルナ。お前達も仲良くしてくれ。」
「え…?」
ヴェテロクが戸惑っていると、悠里は今度は朔に言った。
「朔君だったか。良かったらこれからも、ベルカと一緒に遊びに来てくれ。」
「な!?」
ヴェテロクが思わず驚きの声を上げた。
「ユーリィさん!! 何でですか! こいつは普通の奴で…。」
「それ以前に、彼はベルカの友達だ。」
悠里の言葉を聞きながら、鼎は唖然とした顔をした。次には少し思うように視線を落とす。
やがて鼎は顔を上げ、悠里を見た。
「ありがとうございます。ユーリィさん。ほら、朔もお礼。」
「あ、うんっ。ありがとうございました。」
朔は慌てて一礼をし、そこでハッと気がついた。
「いま何時ですか!?」
「夜の七時だ。」
「ええ!? やばい、じっちゃんに怒られる!! 飯もまだ作ってないし!!」
慌てふためく朔を見て、ヴェテロクは目を点にし、鼎と悠里は笑った。
「だったらほら、帰るよ朔。」
「う、うん。じゃあ、ありがとうございましたっ!」
朔と鼎は足早に店を出て行った。
…二人が出て行った後、ヴェテロクが悠里に問うた。
「…友達なのは解りますけど、どうして…。」
「彼をここから閉め出すことは、ベルカから彼を奪うということになる。ベルカもここと、ここ以外の場所を完全に分けて考えられるほど器用じゃない。」
「でも、あいつは能力者じゃない。これから先ベルカは…。」
「ベルカが心配なんだな。」
悠里がふ、とヴェテロクに笑ってみせると、ヴェテロクは渋い顔をした。
悠里は穏やかに話し出す。
「これはオレが勝手に思った事だが、彼の中には能力者とか、普通の人間とかを超えた考えがあるように思えるんだ。そんな普通の人間と能力者であるベルカが出会い、何の因果か友達付き合いをしている。二人の友達関係は何だかんだで成り立っている。オレはそれを壊すような真似はしたくないし、どうなるのか見てみたい。」
ヴェテロクが黙っていると、悠里は苦笑した。
「すぐに打ち解けろとは言わない。お互いゆっくり、人となりを知っていけばいい。」
朔と鼎は、夜道を歩いた。長いこと黙って歩いていた。
「…朔。」
不意に鼎が呼んだ。朔が疑問符を浮かべながら問う。
「え、何だ?」
「馬鹿野郎。」
「へ?」
唐突な罵声に朔が呆けた声を出すと、鼎は続けて口にした。
「…ありがとう。」
朔が疑問符を増やしていると、鼎が前を見た。
「ほらついたよ。」
気がつけばそこは朔の自宅、大きな門の前だった。
「あ、うん…。」
朔がぎこちなく頷くと、鼎がまた口を開いた。
「おやすみ。また明日。」
温かい声音に朔が驚いて見ると、鼎は本当に微かな笑みを浮かべていた。
鼎が歩き出す。朔はハッとしてその背中に向かい、声をかけた。
「じゃあ、また明日な!」
街中の、とある雑居ビルの一室。
少し薄暗いその場所で、緑色の髪と瞳の青年が、険しい顔をしてパソコンの画面を見ている。
「メル。」
声がかけられ、青年がパソコンから顔を上げる。声をかけてきた短い黒髪の青年が話した。
「あの二人、無事回収したぜ。怪我はしてるけど、命に別状はない。」
「…そうか。」
緑色の青年が、険しい顔を僅かに緩めた。黒髪の青年が苦笑いする。
「お前が戦力外通告とかするから…。」
「…オレは、仲間に出来るだけ傷ついて欲しくない。」
「そうか。」
緑色の青年が返した言葉に、黒髪の青年は静かに笑んだ。
緑色の青年がパソコンに視線を戻す。黒髪の青年が問う。
「また催促でもされてるか?」
緑色の青年は答えなかったが、瞳がまた険しくなっていた。彼は呟く。
「早く、助け出さなければ…。」
To be continued
「気がついたか。」
横から聞いたことのない声が聞こえ、朔は起き上がろうとした。
「てっ…!」
「無理に動かないほうがいい。怪我はオレが再構築して『直した』が、元通りになっていない部分もある。」
痛みに顔をしかめた朔に、聞いたことのない声は静かに響かせた。
朔は何とか体を起こし、声の方向に振り向く。そこには二〇代前後だろうか、黒髪のショートヘアに冷静な瞳を持った青年が、朔を見下ろしながら座っていた。
「あんたは…?」
「オレは
「店主…?」
「ここは『カフェ ボストーク』。オレの店だ。」
そこまで聞いた朔は、不意にハッとして声を上げた。
「! オレの友達が、変な奴に襲われて…鼎は!?」
悠里はわずか黙ってから、口を開いた。
「…『ベルカ』は無事だ。ベルカが君をここに運んだんだ。」
「…ベルカ…?」
聞き慣れない言葉に、朔がまた疑問符を浮かべた時。
「…何で普通の奴をここに連れてきた? …何とか言えよ、ベルカ。」
誰かを非難する男の声が、部屋のドアの向こうから聞こえてきた。
悠里はため息を一つ吐くと立ち上がり、ドアを開けた。
扉の向こうにはカフェスペースがあり、そこには鼎と、朔より少し年上と思われる男女が一人ずついた。
「! 『ユーリィ』さん!」
若い男は悠里を見るとハッとして呼んだ。悠里は落ち着いた様子で若い青年に話す。
「…『ヴェテロク』。ベルカを責めるな。」
「で、でも…!」
「ベルカは彼を助けたかったんだ。その意思を尊重してやれ。」
悠里にヴェテロクと呼ばれた、赤く染めた短髪の青年は口をつぐんだ。もう一人いる、ピンク色の髪と瞳の少女は、黙ってヴェテロクに体をぴったりとくっつけている。
朔はゆっくりと立ち上がり、扉の向こうに出た。
…カフェスペースには鼎と悠里、ヴェテロクと少女がいる。彼らは朔を見る。その視線を受けた瞬間、朔は足元がおぼつかなくなるような、居心地の悪さを感じた。
…この場所は、オレを歓迎していない。
鼎が口を開いた。
「朔、起きたの。だったら、帰るよ。」
「あ、あの! ここは…。」
「朔君だったか。…君はここの事は、忘れた方がいい。」
悠里の声は落ち着いて、だが突き放すように響いた。
「え、えっと…。」
「帰るよ、早く。」
鼎が朔の手を引く。
「あ、えっと…あ、ありがとうございました!」
朔は慌てて一礼する。鼎は黙って朔を引っ張り、カフェを出た。
朔と鼎は星空の下、重い沈黙を引きずって歩いていた。
「な、なあ…。」
かなり長いこと逡巡していた朔が口を開いた。
「…『ベルカ』って、鼎のあだ名か?」
「そうだよ。」
鼎がつっけんどんに返す。朔は少し押し黙ってから、また問う。
「…あの人達、友達なのか?」
「そうだよ。」
鼎はまた突き放すように返した。
朔は視線を落とし、またしばらく黙った。かなり考えている様子で黙ってから、思い切った様子で問うた。
「…あの時…。鼎の目、青く光ってたな。それでお前、何かが解った感じになって…。」
鼎はかなり長い時間、何も答えなかった。朔も黙って鼎の隣を歩いていた。
朔の家が近づいてきた辺りで、鼎は話し出した。
「あの青い目は、僕の能力。あらゆるモノの『真実』が見える。…あの時は、襲ってきたあいつが何を考えているのかを見てた。…『
最後の辺りで掠れていた鼎の声を聞き、朔が口を開こうとした時。
「ほら、着いたよ朔。」
朔の自宅にある大きな門が、すぐ目の前にあった。
「あ…。そうだ、鼎、ありがとう。お前がオレを運んで…。」
「じゃあ、さよなら。」
朔が言うのを遮って返された鼎の言葉は、冷たく響いた。何も言えなくなった朔に背を向け、鼎は走って行った。
鼎は走った。走って、息が苦しくなるまで走った。
朔の自宅からだいぶ離れた場所で、鼎は立ち止まった。ぜえぜえと呼吸をする。呼吸が落ち着いてきた時、鼎の目から雫が零れ落ちた。
「うあ…あっ…あ、あっ…。」
小さな嗚咽を上げ、鼎は溢れ出る涙を拭うこともせず、泣いていた。
翌日、朔は一人で通学路を歩いていた。高校に近くなった辺りで、前方に見慣れた青い髪が見えた。
「! 鼎!」
朔がその後ろ姿に向かって呼ぶと、鼎は一瞬振り向いた後、逃げるように学校に向かって走って行った。
自身を拒絶する行動に朔はひゅ、と息を飲んだ。
「…鼎?」
時間は過ぎて放課後。
朔は帰る支度をして立ち上がり、鼎の席に寄り、再び声をかけた。
「鼎。」
鼎はがたんと音を立てて席を立ち、朔の横をすり抜けて教室を出て行った。
呆然とその後ろ姿を見送る朔を見て、同級生達は後ろから嘲笑った。
「はは、何だあ?」
「コンビ解消ってか?」
一人で帰宅した朔は、自宅の道場で祖父と向き合い、稽古をしていた。朔は息を切らせ、何とか立っている。祖父は呼吸一つ乱していない。
朔の様子を見た祖父は、呆れたように声をかけた。
「どうした朔。今日は一段とへっぽこだな。」
黙って苦しげに呼吸をする朔に、祖父は小さく息をつくと、話した。
「…お前は本当に、真っ直ぐに育ってしまったな。」
朔がゆっくりと顔を上げる。祖父は穏やかな声で続けた。
「今の時代、曲がっていた方が楽に生きられるかもしれないが、お前は本当に真っ直ぐに育ってしまった。」
朔はよく解っていない表情をして、祖父の話を聞いた。
「まあ、そう育ててしまったのはわしだからな。わしから言えることはあまりないが…。」
祖父は朔のそばに寄り、頭をポンと撫でた。
朔が目を丸くしていると、祖父はにっと口角を吊り上げた。
「朔。大切だと思うものは、どこまで行っても、何があっても大切にしろ。わしが言えるのは、それ位だ。」
かけられた言葉に朔が戸惑っていると、祖父は優しい眼差しを向けた。
「鼎君も、今きっと苦しいはずだ。今は伝わらなくとも、お前は自分の思いを変えずにいてやるといい。」
朔の表情からわずかに力が抜けた。朔は小さく頷いた。
「…うん。ありがとう、じっちゃん。」
夕方。
朔は中身の入ったエコバッグを下げて、街中を歩いていた。
「最近、葉物高いよなあ…。」
毎日祖父と交代で食事を作る朔は、そんなことを呟きながら街を歩いていた。
不意に、朔の耳に風に乗って声が聞こえてきた。朔はハッとして一瞬動きを止め、その声を確認する。聞き覚えのある声だった。
朔は声の方向に向かい、急いで走り出した。
一つ路地を入った所にある人気のない広場で、鼎は倒れていた。鼎の前には男が一人立っている。昨日に朔、鼎と相対した、高速移動の能力を持った男は顔を歪ませて笑う。
「何だ、今日はあの普通の奴は一緒じゃないのか。せっかく仕返ししてやろうと思ったのに。」
「…あいつは…もう、関係ない…。」
体が痛む中で鼎が声を絞り出すと、男は嘲笑した。
「もう…? そうか、お前見捨てられたってとこか。そうだよな、所詮能力者じゃない、普通の奴だしな。」
鼎が唇を噛む。男は構わずに嘲笑したまま、鼎に向き直った。
「まあいい、オレはお前らボストークに仕返ししなきゃならないんだ。そうすれば、メルクリウスも…。」
男が足を軽く上げ、一歩を踏み出そうとする。
鼎がぎゅっと目をつぶった時。
「うああ!!」
男の声に鼎が驚いて顔を上げると、男がひっくり返って倒れていた。
更には、男が鼎に迫る直前に体当たりを喰らわせた朔が、目の前にいた。
「…さく…?」
「鼎、大丈夫か!?」
当たり前のように朔が声をかける。鼎は体を起こし、朔を睨みつけた。
「何で…何で!」
鼎は朔に向かい、叫んだ。
「お前は、こっちから離れてやったのに、何で!!」
朔は少し考えるように黙ると、鼎に向かい苦笑した。
「どうやって考えても、鼎はオレにとって大事だから。」
鼎が目を見開く。言葉も出せず、大きな目で朔を見ている。
朔は後ろを振り返る。ひっくり返った男が顔を歪ませ、体を起こそうとしていた。
「ここはオレが何とかするから、鼎は逃げろ。」
「馬鹿、何言ってんだ! こいつは能力者、普通のお前が…!」
「いいから、!?」
突然、朔の体を何かの力がホールドした。
鼎がバッと後ろを振り返ると。
「メルクリウスに言われて、お前を連れ戻しにきたけど…仕方ないなあ。オレも手伝ってやるよ。」
後ろから、別の男が笑いながら歩いてきていた。倒れていた男が苦虫を噛んだような顔をしながら、立ち上がる。
「ぐっ…動けない…!」
朔は強い力に四肢を抑えられ、立った姿勢から全く動けなかった。
鼎が別の男に向かって叫ぶ。
「止めろ! 朔は本当に無関係で…。」
「うるさいなあ。」
もう一人の男が指先を鼎に向けると、鼎の体も固まったように動かせなくなった。
「く…!」
「さて、お膳立てしてやったよ。あとは好きなだけ痛めつければいいさ。」
「この野郎…でも、正直助かった。」
二人の男は会話を交わすと、ギラリと光る目で朔と鼎を見た。動けない二人が思わず戦慄する。
「まずは、普通の奴からだな!」
先程倒された男が、朔の顔を思い切り殴る。ついで腹を蹴る。
「がっ、ぐうっ!」
抵抗できない朔は苦痛に顔を歪ませる。男は容赦無く朔に殴る蹴るの暴行を加えた。
動けない鼎は瞳を、呼吸を震わせ、痛めつけられる朔を見た。鼎の口から震える声が出た。
「や、やめ…やめろ…。」
男は好き放題に朔を殴り、蹴る。暴行を受け続け、朔はぐったりとしている。
鼎は渾身の力を込めて叫んだ。
「止めろおおおおお!!」
「いた! ベルカだ!!」
遠くから声が聞こえた。
走ってきたのは、カフェボストークでヴェテロクと呼ばれていた青年と、彼についていた少女だった。
「なっ!?」
「援軍か!?」
男二人は驚きの声を上げた。
ヴェテロクは鼎と朔のそばに走り寄り、守るように両腕を広げた。少女に叫ぶ。
「チェルナ、ぶちかませ!!」
「うん。」
チェルナと呼ばれ、少女が頷く。集中するように呼吸した次の瞬間、チェルナの周囲の電柱や地面、ドラム缶が轟音を立てて爆散した。
「うわあああ!?」
突然のことに二人の男たちはなす術もなく、崩れた地面に飲み込まれた。
ヴェテロク、朔、鼎の周囲は何事もなかった。
「ずらかるぞ、ベルカ。」
「ま、待って!」
鼎の慌てた声にヴェテロクが訝しげに見ると、ボロボロにされ、気絶している朔を鼎が抱えていた。
「…またそいつか?」
ヴェテロクが苛立たしげにため息を吐く。鼎は強い意志を持った目で見上げる。ヴェテロクは負けたと言うように頷いた。
「…解った。そいつもユーリィさんのところに連れて行く。」
ヴェテロクは朔の体を担ぎ上げた。
朔が目を覚ますと、昨夜見た天井が見え、見覚えのある人物が見下ろしていた。
「…あ…。えっと…。」
「君はどうして、こうボロボロになって来るのか…。」
悠里は朔を見下ろして、ため息交じりの声をかけた。
「…鼎は、無事ですか?」
朔が小さな声で問うと、悠里は頷いた。
「無事だ。…でも、君は…。」
「…良かった。」
朔は呟くように言い、身体を起こした。
「また、怪我治してくれたんですよね。ありがとうございます。オレ、帰ります。」
悠里に一礼すると、朔は立ち上がり、歩き出そうとする。その様を見た悠里は、朔の背中に声をかけた。
「…ベルカやここに出入りしている人間は、君達で言う『普通』とは違う。君もここ二日の出来事でそれが解っただろう。君はそれでどうしようと思っているのか…オレは聞きたい。」
「…普通って何なんでしょうね。」
悠里に向き直り、言った朔の顔は、ひどく苦く笑っていた。
「オレも普通じゃないみたいだから、学校で嫌われっぱなしですけど…。鼎も普通っていうのじゃないみたいだから、オレ達二人で嫌われ者同士とか言われてる。色々考えたけど…やっぱり鼎はオレにとったら、大事な友達で、変な奴に狙われたりして心配だと思う。…でも鼎には、それが迷惑みたいで…。」
そこまで言い、朔は唇を結ぶ。少しの間の後、口を開いた。
「大事な友達を守りたいって思うのは、やっぱり、悪い事なんですか…?」
悠里はしばし、驚いたように朔を見た。
悠里の目の前にいる朔は笑んでいた。朔の瞳はかすかに潤んでいた。涙を溜めた瞳で、無理矢理に笑んでいた。
悠里は朔をただ黙って、見つめた。不意にふ、と笑んだ。
「普通の中での異端、か…。」
悠里が呟いた言葉に朔が疑問符を浮かべると、悠里は穏やかに笑んだ。
「君は悪い事などしていない。大丈夫だ。ベルカを助けてくれて、本当にありがとう。」
朔が思わず目を丸くして悠里を見る。悠里は朔に話した。
「こちらに来てくれ。ここのメンバー達に、ベルカの友達として紹介しよう。」
ボストークのカフェスペースで鼎とヴェテロク、チェルナは黙って座っていた。鼎は陰った表情で視線を落とし、ヴェテロクは眉間にしわを寄せ、チェルナは不安そうな顔をしてヴェテロクにくっついていた。
重い沈黙の中に、三人はずっといたが。
「直したぞ。」
声がかかり、三人が振り向くと、朔と悠里がいた。
「ユーリィさん…。」
ヴェテロクがため息のように呼んでいる間に、鼎が席から立ち上がり、朔のそばに寄った。
「このバカは! 何考えて、僕は…!」
潤んだ瞳で叫ぶ鼎に、朔は苦笑した。
「…うん。ごめんな。」
「僕は普通じゃないんだ、能力者なんだよ!? 気持ち悪いとか思わないの!? 何で、何で朔は…!」
鼎に向かい、朔は苦笑した。
「鼎には迷惑だと思うけど…実際迷惑だって言ってたもんな。それでも鼎はオレにとって、大事な友達なんだと思うから。」
鼎は目を丸くして朔を見た。僅かに唇を結ぶ。瞳が少しずつ潤んでいった。
ヴェテロクが何も言えずにいると、悠里が話し出した。
「彼はベルカの友達だ。ヴェテロク、チェルナ。お前達も仲良くしてくれ。」
「え…?」
ヴェテロクが戸惑っていると、悠里は今度は朔に言った。
「朔君だったか。良かったらこれからも、ベルカと一緒に遊びに来てくれ。」
「な!?」
ヴェテロクが思わず驚きの声を上げた。
「ユーリィさん!! 何でですか! こいつは普通の奴で…。」
「それ以前に、彼はベルカの友達だ。」
悠里の言葉を聞きながら、鼎は唖然とした顔をした。次には少し思うように視線を落とす。
やがて鼎は顔を上げ、悠里を見た。
「ありがとうございます。ユーリィさん。ほら、朔もお礼。」
「あ、うんっ。ありがとうございました。」
朔は慌てて一礼をし、そこでハッと気がついた。
「いま何時ですか!?」
「夜の七時だ。」
「ええ!? やばい、じっちゃんに怒られる!! 飯もまだ作ってないし!!」
慌てふためく朔を見て、ヴェテロクは目を点にし、鼎と悠里は笑った。
「だったらほら、帰るよ朔。」
「う、うん。じゃあ、ありがとうございましたっ!」
朔と鼎は足早に店を出て行った。
…二人が出て行った後、ヴェテロクが悠里に問うた。
「…友達なのは解りますけど、どうして…。」
「彼をここから閉め出すことは、ベルカから彼を奪うということになる。ベルカもここと、ここ以外の場所を完全に分けて考えられるほど器用じゃない。」
「でも、あいつは能力者じゃない。これから先ベルカは…。」
「ベルカが心配なんだな。」
悠里がふ、とヴェテロクに笑ってみせると、ヴェテロクは渋い顔をした。
悠里は穏やかに話し出す。
「これはオレが勝手に思った事だが、彼の中には能力者とか、普通の人間とかを超えた考えがあるように思えるんだ。そんな普通の人間と能力者であるベルカが出会い、何の因果か友達付き合いをしている。二人の友達関係は何だかんだで成り立っている。オレはそれを壊すような真似はしたくないし、どうなるのか見てみたい。」
ヴェテロクが黙っていると、悠里は苦笑した。
「すぐに打ち解けろとは言わない。お互いゆっくり、人となりを知っていけばいい。」
朔と鼎は、夜道を歩いた。長いこと黙って歩いていた。
「…朔。」
不意に鼎が呼んだ。朔が疑問符を浮かべながら問う。
「え、何だ?」
「馬鹿野郎。」
「へ?」
唐突な罵声に朔が呆けた声を出すと、鼎は続けて口にした。
「…ありがとう。」
朔が疑問符を増やしていると、鼎が前を見た。
「ほらついたよ。」
気がつけばそこは朔の自宅、大きな門の前だった。
「あ、うん…。」
朔がぎこちなく頷くと、鼎がまた口を開いた。
「おやすみ。また明日。」
温かい声音に朔が驚いて見ると、鼎は本当に微かな笑みを浮かべていた。
鼎が歩き出す。朔はハッとしてその背中に向かい、声をかけた。
「じゃあ、また明日な!」
街中の、とある雑居ビルの一室。
少し薄暗いその場所で、緑色の髪と瞳の青年が、険しい顔をしてパソコンの画面を見ている。
「メル。」
声がかけられ、青年がパソコンから顔を上げる。声をかけてきた短い黒髪の青年が話した。
「あの二人、無事回収したぜ。怪我はしてるけど、命に別状はない。」
「…そうか。」
緑色の青年が、険しい顔を僅かに緩めた。黒髪の青年が苦笑いする。
「お前が戦力外通告とかするから…。」
「…オレは、仲間に出来るだけ傷ついて欲しくない。」
「そうか。」
緑色の青年が返した言葉に、黒髪の青年は静かに笑んだ。
緑色の青年がパソコンに視線を戻す。黒髪の青年が問う。
「また催促でもされてるか?」
緑色の青年は答えなかったが、瞳がまた険しくなっていた。彼は呟く。
「早く、助け出さなければ…。」
To be continued