第十五話 綻び
夜。
朔は祖父が持っているパソコンの前にいた。ディスプレイに表示されているのはボストークチャットだ。
朔が見守るように画面に集中していると、新しい発言が映し出された。
「ゲスト『初めまして。Vと1Bです(Vが打ってます)』」
「ライカ『初めまして。V、1B。僕の名前はライカ。ユーリィから話は聞いてるよ。これからよろしくね』」
「ゲスト『よろしくお願いします』」
その日、約束されていた嵐と燐、ライカの顔合わせが実現すると、朔の口元から笑みがこぼれた。
「ライカ『これからも、出来たらみんなと仲良くしてくれると嬉しいな。僕も待ってるから』」
「ゲスト『1Bが「ライカさんは僕っ娘」ってストレルカに聞いたって言ってます(笑)』」
「ライカ『うん、人と話してると結構言われちゃうね(笑)』」
「ベルカ『1Bに何言ってんだよストレルカ』」
鼎の発言に、朔は未だたどたどしい指使いでメッセージを送った。
「ストレルカ『前にベルカ言ってたから…女の人だけど僕って言う…』」
「ライカ『ベルカ〜?』」
「ベルカ『すいません』」
一時間後。
嵐と燐が退室した後のチャットで朔、鼎、ライカは話をしていた。
「ライカ『Vと1B…いい子達なんだね』」
「ベルカ『あの二人、ガラケーしか持ってないみたいで。チャット出来ないことはないけどタイムラグがあるから、今はユーリィさんのパソコン借りて話す感じですね』」
ディスプレイに映る会話を見て朔は少し考えると、また文章を打つ。
「ストレルカ『楽しかった。いつかみんなで話し出来たらいいな』」
「ベルカ『確かに楽しかったね』」
「ライカ『そうだね。僕もみんなでお話できたらって思うよ』」
鼎、ライカの返事を読む朔は、やはり穏やかに笑んでいた。
「ベルカ『じゃあ、そろそろ寝ます』」
鼎の発言に、朔は夜も大分更けていることに気づき、キーボードを叩く。
「ストレルカ『オレもおやすみなさい』」
「ライカ『ストレルカ、少し残ってくれるかな』」
画面に映し出されたライカの発言を見、朔は不思議そうな表情になった。
「ストレルカ『どうしたんですか?』」
「ライカ『いいから』」
「ストレルカ『解りました。少し残ります』」
朔が疑問に思いながらも返事を返す。
「ベルカ『じゃあ、先に寝ます。おやすみなさい』」
「ベルカが退室しました」
鼎がチャットを退室した知らせを見てから、朔はライカに問うた。
「ストレルカ『何かあったんですか?』」
「ライカ『少しの間、パソコンの前で目をつぶっていて。おまじないをかけるから』」
「ストレルカ『おまじない?』」
「ライカ『うん。少し目をつぶって』」
「ストレルカ『はい』」
ライカに指示された通りに、朔はパソコンの前で目をつぶった。
まもなく朔の体内に一瞬、熱のような感覚が巡った。感覚は一瞬で朔の全身を駆けて行き、消えた。
疑問符を浮かべながら朔は目を開き、画面に再び向かった。
「ストレルカ『今、何だか不思議な感じがしました』」
「ライカ『おまじないをかけたから』」
今の熱がおまじないだったんだろうか。
朔が考えていると、ライカはまた言葉を送って来た。
「ライカ『これから先何かあった時に、このおまじないが君を守ってくれるかもしれない。…何もないことを、本当に祈るけど…』」
翌日の午後。
カフェボストークのドアを元気に開けたのは、歩だった。
「こんにちはー!」
「…こんにちは。」
笑顔の歩と、むすっとした表情の恵が入って来ると、先に来ていた他のメンバー達は挨拶をした。
「こんにちは、プシンカ、ウゴリョーク。」
歩はランドセルを背中から下ろし、ボックス席に座ると身体の力を抜いた。
「あー、テストしんどかったー!」
「テストかあ、懐かしいな。」
瑠璃が小さく笑う。歩はランドセルの中を漁った。
「でも八十点取りました!」
歩がA4サイズの紙を皆に見せる。算数のテストの紙には、赤いペンで八〇と書いてあった。
嵐と虎徹は、テスト用紙を見ながら感心した様子を見せた。
「へー、すごいな。」
「今の小学生、こんな難しいのやってんのか?」
「ウゴリョークはテストとか…あれ?」
瑠璃が辺りを見回すと、恵の姿は見えなくなっていた。悠里がコーヒー豆を挽きながら口を開く。
「奥の部屋を借りるそうだ。」
「…最近、いつもだね。」
瑠璃が若干心配そうに、奥の部屋に続くドアを見やる。虎徹は疑問符を浮かべながら歩に声をかけた。
「あいつ何かあったのか? プシンカ。」
「さあ…。」
歩も首を捻るばかりだった。
奥の部屋。
ドアの向こうで交わされる明るい話し声を聞きながら、恵は眉間にしわを寄せた。
「…くだらない。」
恵は一人、少し暗い部屋の中で本を読んでいた。
まもなく一冊読み終え、一息つく。何とはなしに視線を動かした恵は、疑問符を浮かべた。
恵は部屋の隅に、紙がたくさん入れてある小さな箱があるのに気づいた。箱に寄っていき、中を見る。紙は古い原稿用紙の束だった。
「…原稿…?」
恵は原稿用紙の束を一つ手に取った。文章が書かれているが、筆跡は悠里のものではないらしい。
文章は物語で、大体が凄惨な内容のもののようだった。
「…訳が解らない。」
恵は吐き出すように呟くと、原稿の束をまた箱に入れた。
ドアの向こうから楽しそうな笑い声が遠く聞こえ、恵は表情を歪ませる。
「…何でアユは、あんな奴らと…。」
夕焼けに染まる道を、歩と恵は並んで歩いている。歩がご機嫌で話している横で、恵はずっと仏頂面をして歩いていた。
「それでさ、その時ヴェテロクさんが…。」
歩がボストークにいる皆の話をする毎に、恵の表情は険しくなっていく。
「1Bさんも…。」
「…アユ。」
不意に恵が口を開いた。歩が笑顔で問う。
「何? メグ。」
「ボストークから抜けよう。」
恵が射抜くように歩を見、発した言葉に、歩は目を丸くした。
「え?」
「あんな場所から抜けて、二人だけで静かに暮らそう。僕達はそうするのが一番いいんだって、解るだろ?」
一歩前に出、迫る恵に、歩は戸惑った。
「何でそんなこと言うのさ、メグ。ボストークはいいところじゃん。」
「騙されてるんだよアユは!! あいつらはただの化け物…!」
叫んだ恵に、歩は真っ直ぐに返した。
「オレはボストークのみんなといられるのが楽しいから。必要とされてるのが楽しいから。だから抜けないよ。」
恵はぎり、と歯噛みした後、泣きそうな表情で言葉を絞り出した。
「…何で…!」
恵は不意に走り出した。
「あ、メグ!」
歩が止める間もなく、恵は見えなくなってしまった。
歩は首を傾げながら、呟いた。
「…変なの。」
アポロの事務所で、アトラスは問うた。
「メル。…あいつらは信じられるのか?」
問われたメルクリウスは、火のついたタバコを咥えながら、パソコンの画面から目を離さずに返した。
「…あの三人なら、街を回ってもらっている。」
「質問に答えろ。お前はジェミニが用意したあいつらを、信じられるのか?」
アトラスが苛立たしげにメルクリウスにぶつけると、メルクリウスはタバコの火を灰皿に押し付けて消し、顔を上げた。
「…他に、何を信じろと?」
メルクリウスの泣きそうに歪んだ顔を見、アトラスはそれ以上言葉を出せなくなった。
エンタープライズとディスカバリーは、街中で話をしていた。
「メルクリウスは甘いんだ。」
「そーそー。ただ闇雲に街回っても見つからないって。」
カラカラと笑うディスカバリーに、エンタープライズも顔を歪ませて笑って見せる。
「その点、ジェミニは鷹の目を持ってる。ネットっていう鷹の目をな。怖いもんだ。」
「おーい、デバっち〜。」
言いながらディスカバリーが後ろを見ると、エンデバーはスマートフォンを見、時々文章を打ちながらにこにこしていた。
「…ふふ。」
「エンデバーはお楽しみ中だな。」
エンタープライズが馬鹿にしたように笑う。
やがてスマートフォンから顔を上げ、二人を見たエンデバーは、不機嫌そうにむすっとした表情だった。小さな声で言葉を紡ぐ。
「……ジェミニが言ってる。この近くにいるって。これ、場所。」
エンデバーは二人にスマートフォンの画面を見せる。画面には地図が映し出されていた。
「…行くか。」
エンタープライズ、ディスカバリー、エンデバーは歩き出した。
幾らもしない内に、地図に示されていた小さな公園に辿り着く。公園の中を見て、ディスカバリーは鋭く口角を釣り上げた。
「いたいた、ターゲットだ。」
三人の視線の先にいたのは、恵だった。
恵は小さな公園にある噴水のそばに、一人で座っていた。時折辛そうに表情を歪ませている。
「…君。どうしたの?」
不意に声をかけられ、恵が顔を上げると、緑色の長髪を持つ少女が見下ろしていた。
恵が訝しげに見ると、少女は柔和な小さい声で話しかけてきた。
「何か、しんどそうだよ。」
恵が黙って少女から目をそらすと、少女は恵のそばに腰を下ろした。恵がつっけんどんに問う。
「…何ですか。」
「独りでいる君が心配だから。もうすぐ暗くなっちゃうし。」
少女の発言に、恵は黙った。少女は少し考えてから問うた。
「誰か、お家の人を待ってるの? 兄弟とか…。」
「兄弟なんて、知りません。」
「だったら、なおさら心配だよ。」
少女の言葉に、恵はまた顔を上げる。少女は真っ直ぐに恵を見下ろしている。
「よかったら、私を信じて話してくれないかな。」
少女の言葉に、恵はしばらくの間逡巡するように黙っていたが、やがて意を決して口を開いた。
「…僕の双子の兄が、化け物達に騙されているんです。」
少女は恵の話を聞く姿勢を作った。その様子にわずかホッとした表情を見せ、恵は話を続けた。
「あいつらは僕の兄を助けたからって、兄の仲間面して…兄もころっと騙されて…。僕の方が、アユのためにたくさん頑張ってきたのに、あいつらはそれを全部台無しにしたんです。このままじゃアユ…僕の兄は、あいつらにひどい目に遭わされることは解りきってる…それなのに…。」
「…そうだったんだ。…つらいんだね。」
少女の声は、恵に優しく届いた。少女はまた考えるように黙ってから、恵に切り出した。
「…よかったら、私の上の人に会ってみない?」
「え?」
恵が目を丸くすると、少女は言った。
「解決するのに、力を貸してくれるかもしれない。」
少女が言った直後、横から人が現れる。ディスカバリーとエンタープライズだった。どこか威圧的に笑んでいる二人に、恵は思わず顔を強張らせる。
少女…エンデバーは立ち上がり、恵を見下ろした。
「行こう? 君のお兄さんを助けるために。」
恵は少しの間、迷うように黙っていたが、やがて立ち上がった。
「……はい。」
三人が歩き出すと、恵は付いて行った。
To be continued
朔は祖父が持っているパソコンの前にいた。ディスプレイに表示されているのはボストークチャットだ。
朔が見守るように画面に集中していると、新しい発言が映し出された。
「ゲスト『初めまして。Vと1Bです(Vが打ってます)』」
「ライカ『初めまして。V、1B。僕の名前はライカ。ユーリィから話は聞いてるよ。これからよろしくね』」
「ゲスト『よろしくお願いします』」
その日、約束されていた嵐と燐、ライカの顔合わせが実現すると、朔の口元から笑みがこぼれた。
「ライカ『これからも、出来たらみんなと仲良くしてくれると嬉しいな。僕も待ってるから』」
「ゲスト『1Bが「ライカさんは僕っ娘」ってストレルカに聞いたって言ってます(笑)』」
「ライカ『うん、人と話してると結構言われちゃうね(笑)』」
「ベルカ『1Bに何言ってんだよストレルカ』」
鼎の発言に、朔は未だたどたどしい指使いでメッセージを送った。
「ストレルカ『前にベルカ言ってたから…女の人だけど僕って言う…』」
「ライカ『ベルカ〜?』」
「ベルカ『すいません』」
一時間後。
嵐と燐が退室した後のチャットで朔、鼎、ライカは話をしていた。
「ライカ『Vと1B…いい子達なんだね』」
「ベルカ『あの二人、ガラケーしか持ってないみたいで。チャット出来ないことはないけどタイムラグがあるから、今はユーリィさんのパソコン借りて話す感じですね』」
ディスプレイに映る会話を見て朔は少し考えると、また文章を打つ。
「ストレルカ『楽しかった。いつかみんなで話し出来たらいいな』」
「ベルカ『確かに楽しかったね』」
「ライカ『そうだね。僕もみんなでお話できたらって思うよ』」
鼎、ライカの返事を読む朔は、やはり穏やかに笑んでいた。
「ベルカ『じゃあ、そろそろ寝ます』」
鼎の発言に、朔は夜も大分更けていることに気づき、キーボードを叩く。
「ストレルカ『オレもおやすみなさい』」
「ライカ『ストレルカ、少し残ってくれるかな』」
画面に映し出されたライカの発言を見、朔は不思議そうな表情になった。
「ストレルカ『どうしたんですか?』」
「ライカ『いいから』」
「ストレルカ『解りました。少し残ります』」
朔が疑問に思いながらも返事を返す。
「ベルカ『じゃあ、先に寝ます。おやすみなさい』」
「ベルカが退室しました」
鼎がチャットを退室した知らせを見てから、朔はライカに問うた。
「ストレルカ『何かあったんですか?』」
「ライカ『少しの間、パソコンの前で目をつぶっていて。おまじないをかけるから』」
「ストレルカ『おまじない?』」
「ライカ『うん。少し目をつぶって』」
「ストレルカ『はい』」
ライカに指示された通りに、朔はパソコンの前で目をつぶった。
まもなく朔の体内に一瞬、熱のような感覚が巡った。感覚は一瞬で朔の全身を駆けて行き、消えた。
疑問符を浮かべながら朔は目を開き、画面に再び向かった。
「ストレルカ『今、何だか不思議な感じがしました』」
「ライカ『おまじないをかけたから』」
今の熱がおまじないだったんだろうか。
朔が考えていると、ライカはまた言葉を送って来た。
「ライカ『これから先何かあった時に、このおまじないが君を守ってくれるかもしれない。…何もないことを、本当に祈るけど…』」
翌日の午後。
カフェボストークのドアを元気に開けたのは、歩だった。
「こんにちはー!」
「…こんにちは。」
笑顔の歩と、むすっとした表情の恵が入って来ると、先に来ていた他のメンバー達は挨拶をした。
「こんにちは、プシンカ、ウゴリョーク。」
歩はランドセルを背中から下ろし、ボックス席に座ると身体の力を抜いた。
「あー、テストしんどかったー!」
「テストかあ、懐かしいな。」
瑠璃が小さく笑う。歩はランドセルの中を漁った。
「でも八十点取りました!」
歩がA4サイズの紙を皆に見せる。算数のテストの紙には、赤いペンで八〇と書いてあった。
嵐と虎徹は、テスト用紙を見ながら感心した様子を見せた。
「へー、すごいな。」
「今の小学生、こんな難しいのやってんのか?」
「ウゴリョークはテストとか…あれ?」
瑠璃が辺りを見回すと、恵の姿は見えなくなっていた。悠里がコーヒー豆を挽きながら口を開く。
「奥の部屋を借りるそうだ。」
「…最近、いつもだね。」
瑠璃が若干心配そうに、奥の部屋に続くドアを見やる。虎徹は疑問符を浮かべながら歩に声をかけた。
「あいつ何かあったのか? プシンカ。」
「さあ…。」
歩も首を捻るばかりだった。
奥の部屋。
ドアの向こうで交わされる明るい話し声を聞きながら、恵は眉間にしわを寄せた。
「…くだらない。」
恵は一人、少し暗い部屋の中で本を読んでいた。
まもなく一冊読み終え、一息つく。何とはなしに視線を動かした恵は、疑問符を浮かべた。
恵は部屋の隅に、紙がたくさん入れてある小さな箱があるのに気づいた。箱に寄っていき、中を見る。紙は古い原稿用紙の束だった。
「…原稿…?」
恵は原稿用紙の束を一つ手に取った。文章が書かれているが、筆跡は悠里のものではないらしい。
文章は物語で、大体が凄惨な内容のもののようだった。
「…訳が解らない。」
恵は吐き出すように呟くと、原稿の束をまた箱に入れた。
ドアの向こうから楽しそうな笑い声が遠く聞こえ、恵は表情を歪ませる。
「…何でアユは、あんな奴らと…。」
夕焼けに染まる道を、歩と恵は並んで歩いている。歩がご機嫌で話している横で、恵はずっと仏頂面をして歩いていた。
「それでさ、その時ヴェテロクさんが…。」
歩がボストークにいる皆の話をする毎に、恵の表情は険しくなっていく。
「1Bさんも…。」
「…アユ。」
不意に恵が口を開いた。歩が笑顔で問う。
「何? メグ。」
「ボストークから抜けよう。」
恵が射抜くように歩を見、発した言葉に、歩は目を丸くした。
「え?」
「あんな場所から抜けて、二人だけで静かに暮らそう。僕達はそうするのが一番いいんだって、解るだろ?」
一歩前に出、迫る恵に、歩は戸惑った。
「何でそんなこと言うのさ、メグ。ボストークはいいところじゃん。」
「騙されてるんだよアユは!! あいつらはただの化け物…!」
叫んだ恵に、歩は真っ直ぐに返した。
「オレはボストークのみんなといられるのが楽しいから。必要とされてるのが楽しいから。だから抜けないよ。」
恵はぎり、と歯噛みした後、泣きそうな表情で言葉を絞り出した。
「…何で…!」
恵は不意に走り出した。
「あ、メグ!」
歩が止める間もなく、恵は見えなくなってしまった。
歩は首を傾げながら、呟いた。
「…変なの。」
アポロの事務所で、アトラスは問うた。
「メル。…あいつらは信じられるのか?」
問われたメルクリウスは、火のついたタバコを咥えながら、パソコンの画面から目を離さずに返した。
「…あの三人なら、街を回ってもらっている。」
「質問に答えろ。お前はジェミニが用意したあいつらを、信じられるのか?」
アトラスが苛立たしげにメルクリウスにぶつけると、メルクリウスはタバコの火を灰皿に押し付けて消し、顔を上げた。
「…他に、何を信じろと?」
メルクリウスの泣きそうに歪んだ顔を見、アトラスはそれ以上言葉を出せなくなった。
エンタープライズとディスカバリーは、街中で話をしていた。
「メルクリウスは甘いんだ。」
「そーそー。ただ闇雲に街回っても見つからないって。」
カラカラと笑うディスカバリーに、エンタープライズも顔を歪ませて笑って見せる。
「その点、ジェミニは鷹の目を持ってる。ネットっていう鷹の目をな。怖いもんだ。」
「おーい、デバっち〜。」
言いながらディスカバリーが後ろを見ると、エンデバーはスマートフォンを見、時々文章を打ちながらにこにこしていた。
「…ふふ。」
「エンデバーはお楽しみ中だな。」
エンタープライズが馬鹿にしたように笑う。
やがてスマートフォンから顔を上げ、二人を見たエンデバーは、不機嫌そうにむすっとした表情だった。小さな声で言葉を紡ぐ。
「……ジェミニが言ってる。この近くにいるって。これ、場所。」
エンデバーは二人にスマートフォンの画面を見せる。画面には地図が映し出されていた。
「…行くか。」
エンタープライズ、ディスカバリー、エンデバーは歩き出した。
幾らもしない内に、地図に示されていた小さな公園に辿り着く。公園の中を見て、ディスカバリーは鋭く口角を釣り上げた。
「いたいた、ターゲットだ。」
三人の視線の先にいたのは、恵だった。
恵は小さな公園にある噴水のそばに、一人で座っていた。時折辛そうに表情を歪ませている。
「…君。どうしたの?」
不意に声をかけられ、恵が顔を上げると、緑色の長髪を持つ少女が見下ろしていた。
恵が訝しげに見ると、少女は柔和な小さい声で話しかけてきた。
「何か、しんどそうだよ。」
恵が黙って少女から目をそらすと、少女は恵のそばに腰を下ろした。恵がつっけんどんに問う。
「…何ですか。」
「独りでいる君が心配だから。もうすぐ暗くなっちゃうし。」
少女の発言に、恵は黙った。少女は少し考えてから問うた。
「誰か、お家の人を待ってるの? 兄弟とか…。」
「兄弟なんて、知りません。」
「だったら、なおさら心配だよ。」
少女の言葉に、恵はまた顔を上げる。少女は真っ直ぐに恵を見下ろしている。
「よかったら、私を信じて話してくれないかな。」
少女の言葉に、恵はしばらくの間逡巡するように黙っていたが、やがて意を決して口を開いた。
「…僕の双子の兄が、化け物達に騙されているんです。」
少女は恵の話を聞く姿勢を作った。その様子にわずかホッとした表情を見せ、恵は話を続けた。
「あいつらは僕の兄を助けたからって、兄の仲間面して…兄もころっと騙されて…。僕の方が、アユのためにたくさん頑張ってきたのに、あいつらはそれを全部台無しにしたんです。このままじゃアユ…僕の兄は、あいつらにひどい目に遭わされることは解りきってる…それなのに…。」
「…そうだったんだ。…つらいんだね。」
少女の声は、恵に優しく届いた。少女はまた考えるように黙ってから、恵に切り出した。
「…よかったら、私の上の人に会ってみない?」
「え?」
恵が目を丸くすると、少女は言った。
「解決するのに、力を貸してくれるかもしれない。」
少女が言った直後、横から人が現れる。ディスカバリーとエンタープライズだった。どこか威圧的に笑んでいる二人に、恵は思わず顔を強張らせる。
少女…エンデバーは立ち上がり、恵を見下ろした。
「行こう? 君のお兄さんを助けるために。」
恵は少しの間、迷うように黙っていたが、やがて立ち上がった。
「……はい。」
三人が歩き出すと、恵は付いて行った。
To be continued