第十三話 新たな居場所
「…君達に聞いてみたいことがある。」
「聞いてみたいこと…ですか。」
嵐が悠里の言葉を反復すると、虎徹は睨みを効かせた。
「言っとくけど、嘘は通じないぜ。ベルカがいるからな。」
嵐は一瞬、鼎を見やる。視線を受けた鼎は張り詰めた顔をした。嵐は再び悠里に向き直る。
「…オレの能力は『反能力 』。その気になれば能力を封じられる。…でも今は、オレ達で答えられることなら答えますよ。」
嵐の言葉を聞き、鼎は思い出すように先程見えなくなった目に触れ、虎徹達は緊張した様子を見せた。
悠里は落ち着いた様子で頷いた。
「そうか。…嵐君、君の能力は反能力…。燐君、君の能力は?」
「……『炎の破壊者 』…。」
「ありがとう。オレの能力は『復元』だ。あらゆるものを元の形に戻す能力だ。…自己紹介はこの位にしよう。オレが聞いてみたいのは、アポロの彼らが何を考えて、こちらに敵対してくるのかだ。」
悠里が質問をする。嵐は悠里を真っ直ぐ見て答えた。
「メルクリウスがアンタらを敵視してる。アポロの奴らはメルクリウスに従ってる。だからアポロの奴らにとってアンタらは敵。そんな感じです。」
「メルクリウス…アポロの人達が時々言ってるね。…何者なの…?」
瑠璃が首を傾げると、嵐は説明した。
「メルクリウスは、実質アポロのリーダーをやってる能力者です。アポロの奴らはみんな基本的に、メルクリウスの指示に従って動いてる。」
「そのメルクリウス? がオレ達を攻撃したり、能力者達を引っ張り込んだりっていう指示を出してるのか。」
虎徹が考えながら話すと、嵐は訝しげな顔をした。
「引っ張り込んでる?」
「アポロの連中は、能力者達を手当たり次第に引っ張り込んでるだろ。オレ達が知り合った能力者がいつの間にかいなくなって、次に会った時にはアポロにいたなんてこともあったし。」
「引っ張り込んでるって、無理やり連れてってるみたいな言い方だな。」
嵐はますます訝しげに虎徹を見、虎徹は戸惑いながらも強気で問うた。
「違うってのか。」
「違う。メルクリウスは無理やり連れてくようなことはしない。」
嵐は虎徹の考えを真っ向から否定した。燐が小さな声で、懸命に話す。
「…メルクリウスは、燐と嵐を助けてくれた。アポロのみんなに、会わせてくれた。」
「オレ達をあの施設から引き取ってくれた時も言ってた。」
とある児童養護施設。
嵐は目の前にいる人物を見上げている。燐も嵐にしがみつきながら、人物を見上げていた。
その人物は真摯な、暖かい声で二人に言った。
「オレと来ないか? オレ達は能力者だけの集まりだ。皆お前達と同じく、辛い思いをした奴らだ。お前達を暖かく迎えてくれるはずだ。」
「だから、燐は行くって言った。」
燐の言葉に続けて、嵐は説明する。
「メルクリウスはちゃんと『来るか』って問う。それで相手の気持ちを尊重する。大体の連中が付いて来てるのは、そいつら自身での判断だ。メルクリウスがそうするのは、能力者達をあくまで守りたいからだ。」
「能力者達を守る…。」
「だからメルクリウスは、何があっても一度迎え入れた能力者を放り出すことはしない。そいつが戦力にならないとしても。」
皆が目を丸くする中、悠里は冷静に話に耳を傾けていた。嵐はさらに続ける。
「みんなメルクリウスには感謝してる。だから従ってる。オレも燐も、あの施設からオレ達を拾ってくれたことに感謝してる。」
「…能力者を守ろうとしてる…そんな人が何で、私達を攻撃して来るの…?」
瑠璃が戸惑いがちに問うと、嵐は顔をしかめた。
「…あのクソ野郎…ジェミニの我儘だ。」
「??」
「じぇみに? って?」
疑問符を浮かべた皆を前に、嵐は忌々しげに吐き出す。
「ジェミニはメルクリウスがアポロを立ち上げる時、力を貸した恩人らしい。そんで今はアポロの頂点として、メルクリウスに勝手言ってる。」
説明を聞く悠里は、落ち着いた様子で問うた。
「…勝手というのは?」
「メルクリウスがアンタらを敵視してるのは、クソ野郎のジェミニがメルクリウスに言ってるからだ。『ボストークは自分の大切な人を奪った悪い奴らだ』ってな。」
「…ジェミニは…いつもパソコンから、メルクリウスに催促してる。…ボストークの場所を探せ、持ってこい、早く会いたいんだ…って。」
吐き出すような嵐の説明と、ぽつぽつと話された燐の言葉に、皆はまた疑問符を浮かべた。
「持ってこい…何を…?」
「ていうか、オレ達がジェミニとかいう奴の大事な人を奪ったとか…訳解らない。…って、ユーリィさん?」
虎徹が見ると、悠里はスマートフォンを操作していた。
「ボストークチャットを開いている。」
「え?」
「その名前は、聞き覚えがある。」
虎徹、瑠璃、歩、鼎は皆それぞれスマートフォンを持ち、ボストークチャットにアクセスする。朔は鼎のスマートフォンを一緒に見た。
「ライカ『こんばんは、ユーリィ、みんな。どうしたの?』」
「ユーリィ『お前に聞きたいことがあるんだ』」
「ライカ『うん、何?』」
「ユーリィ『ジェミニという名前を、以前お前から聞いたと思った。その人物について教えて欲しい』」
「ライカ『!』」
「ライカさんが驚いてる…?」
瑠璃が呟くと、燐が反応した。
「『ライカ』って…。」
少し長い間の後、チャット画面にライカの発言が映し出された。
「ライカ『ジェミニは僕の弟だよ』」
一同は驚きを隠さなかった。
悠里はスマートフォンから文章をチャットに送った。
「ユーリィ『それ以外に、何か情報はないか?』」
また少し長い沈黙の後、ライカからの返答が来た。
「ライカ『ごめんね。言いたくない』」
「ユーリィ『悪かった。ありがとう、ライカ。また深夜に話しに行くから』」
そこまでで皆、一旦スマートフォンを置いた。
燐が小さな声で口を開いた。
「…ライカ…ジェミニの、大切な人の名前…。」
瑠璃と虎徹は疑問を口にする。
「ライカさんの弟が、ライカさんに会いたがってるってこと…? でもライカさんは何か、嫌がってるみたい…。」
「何かあるんですか? ユーリィさん。」
「…ライカの素性は、深く聞いたことがない。」
悠里が静かな声で返すと、歩が小首を傾げた。
「そうなんですか?」
「ライカが口を閉ざすし、それは好きでいることには関係がないからな。」
悠里の返事に皆がほう、とため息を吐く。悠里は改めて燐と嵐を見た。
「…話を整理しよう。アポロの指揮官的存在は、メルクリウスという能力者。アポロの彼らは皆、彼に従っている。メルクリウスがオレ達を敵視するのは、彼の上にいる存在、ジェミニの命令。ジェミニはライカの弟で、ライカに会いたがっている…。…これでいいか?」
「そうですね。」
嵐が頷くと皆は長いため息を吐き、肩の力を抜いた。
虎徹が感想を述べた。
「まとめたらシンプルになったな。」
「うん、オレにも解ります!」
歩が大きく頷く。瑠璃が考えながら話した。
「でもそれだと…どうしたらいいんだろう。メルクリウスさんが私達を敵だと思ってる限り、私達はアポロの人達に攻撃されるんだろうし…。」
「ていうか、今考えなきゃいけないのは…。」
虎徹は燐と嵐を見た。燐が表情を強張らせる。
「こいつら、アポロの奴らなんだろ? ボストークの場所知ったのを、そのままでは帰したくないけど…どうします? ユーリィさん。」
虎徹が悠里に問うた時、ずっと黙って話を聞いていた朔が挙手をした。
「…えっと…いいですか?」
「どうした?」
「オレ、思ったんですけど…ユーリィさん。ボストークでこの二人を保護出来ませんか?」
朔の提案に、瑠璃と虎徹は思わず大声を上げた。
「ええ!?」
「何言って…!」
「この二人は、オレと鼎のことを認めてくれたことで、アポロを裏切ったことになったみたいなんです。だからアポロにはもう戻れない。でもこのまま放り出してしまうのも、違う気がするから…。」
朔は先程のことを思い出しながら、皆に懸命に訴えた。
「うーん…。」
「でもなあ…。」
朔の提案に渋る皆に向かい、鼎が口を開いた。
「…こう考えたらどうですか? ユーリィさんの監視下にこの二人を置く。そう考えれば安心できると思いますけど。」
鼎がキッパリと言い切ると、虎徹は呆れ顔をした。
「ベルカまで…。」
「でも、ユーリィさんに見ていてもらうって考えれば…。」
「ユーリィさんはどう思います?」
話を聞いていた悠里は冷静に口を開いた。
「…この二人の置かれている状況は解った。行くところがないなら、オレが保護することは一向に構わない。むしろそうしたいと思う。…嵐君と燐君、君達はどう思う?」
嵐と燐は一瞬顔を見合わせる。燐が嵐に頷いて見せると、嵐は悠里に向き直った。
「…オレ達は『嫌だと思ったら従わなくてもいい、好きなようにすればいい』とメルクリウスに言われています。オレ達はそれに従って、そこの二人のことを敵じゃないと思った。」
「アポロに戻れない、けど、燐は…二人と遊べて、楽しかったから…。だから、敵にしたく、なかった。」
燐が一生懸命言葉を紡ぐ。嵐は続けて話した。
「…それに、オレ達がアポロにいて指示に従うままじゃ、メルクリウスはジェミニに振り回されるばかりだ。オレは出来ることなら、メルクリウスからジェミニを引き離したい。その為には、一旦アポロから離れたい。でもアポロから離れたら、オレ達二人は行き場を失う。だからアンタ達に保護してもらえるなら、とてもありがたい話だと思います。」
嵐と燐の答えを聞いた悠里は、二人に言った。
「二階にある空き部屋を使うといい。」
「ユーリィさん!?」
虎徹が驚きの声を上げると、悠里は皆を見回した。
「この二人が行き場を失い、傷つくことにはしたくない。それはオレ達を傷つけたモノと同じことになる。ヴェテロク、チェルナ、プシンカ、ウゴリョーク。お前達はどう思う?」
「…ユーリィさんが決めたなら、オレは構わない。信じた訳じゃないけどな。」
「…私も、今はこうした方がいい気がする。」
「オレはよく解らないけど、居場所がないのは困ると思うから…。」
「…店主の好きにすればいいと思いますよ。」
虎徹、瑠璃、歩、恵の順で答えが返された。燐は恐る恐る周りを見回した。
「…燐は、ここにいていいの…?」
「ああ、これからよろしく。燐君、嵐君。」
悠里が穏やかに声をかける。嵐と燐は席から立ち上がり、悠里に頭を下げた。
「よろしくお願いします、北見さん。」
「…よろしく、お願いします。」
「ユーリィで構わない。君達は何と呼ばれていたんだ?」
「V。」
「…1B…。」
嵐と燐がアポロでのコードネームを言うと、悠里は頷いて返した。
「では、オレ達もそう呼ぶことにしよう。V、1B。」
「…はい。」
燐がゆっくりと頷くと、朔と鼎はホッとした表情を見せた。
朔は家に帰る道すがら、隣を歩いている鼎に礼を言った。
「鼎、ありがとう。」
「何が?」
鼎がつっけんどんに返すと、朔は小さく笑んだ。
「オレが…Vと1Bのこと提案した時に、助けてくれただろ? だから。」
「どうして?」
不意に鼎に問われ、朔は疑問符を浮かべた。
「何が?」
「どうして、あの二人を助けようと思ったの?」
鼎の問いに、朔は考えながら答えを話した。
「…遊園地で、1B楽しそうだっただろ。」
「楽しんでたね。」
「オレ達も1Bと遊んで楽しかった。」
「…まあね。」
「それが理由じゃ、変かな?」
朔が苦笑すると、鼎は小さくため息を吐いた。
「…そんなこったろうと思ったけどね。馬鹿野郎。」
「へ?」
「早く帰ろう。明日はVと1Bの引っ越し手伝うんだから。疲れたし、とっとと寝ないと。」
鼎はずんずんと歩き出す。朔は前を歩く鼎を見ながら「馬鹿野郎」と自分に言った鼎の穏やかな声を思い、笑んだ。
「…うん、早く帰ろう。」
アポロの事務所で、メルクリウスは報告を聞いていた。
「…1BとVが裏切った?」
「ボストークは敵じゃないって言って…。」
報告しているのは、先程燐と嵐を非難した少年だった。メルクリウスは苦しげに顔をしかめると、少年に言った。
「……そうか。…報告ありがとう。」
「はい…。」
少年が一礼して部屋を出て行くと、メルクリウスはパソコンの前にある椅子に座り、深く深くため息を吐いた。
隣にいたアトラスが口を開く。
「…視えた通りになった…ってことか?」
メルクリウスは問いには答えず、呼んだ。
「…アトラス。」
「ん?」
「…やはり…未来は決められていて、それは変えられないんだな…。」
酷く気落ちした声を発したメルクリウスに、アトラスはしばらく思うように黙ってから、静かな声で返した。
「…さあな。」
To be continued
「聞いてみたいこと…ですか。」
嵐が悠里の言葉を反復すると、虎徹は睨みを効かせた。
「言っとくけど、嘘は通じないぜ。ベルカがいるからな。」
嵐は一瞬、鼎を見やる。視線を受けた鼎は張り詰めた顔をした。嵐は再び悠里に向き直る。
「…オレの能力は『
嵐の言葉を聞き、鼎は思い出すように先程見えなくなった目に触れ、虎徹達は緊張した様子を見せた。
悠里は落ち着いた様子で頷いた。
「そうか。…嵐君、君の能力は反能力…。燐君、君の能力は?」
「……『
「ありがとう。オレの能力は『復元』だ。あらゆるものを元の形に戻す能力だ。…自己紹介はこの位にしよう。オレが聞いてみたいのは、アポロの彼らが何を考えて、こちらに敵対してくるのかだ。」
悠里が質問をする。嵐は悠里を真っ直ぐ見て答えた。
「メルクリウスがアンタらを敵視してる。アポロの奴らはメルクリウスに従ってる。だからアポロの奴らにとってアンタらは敵。そんな感じです。」
「メルクリウス…アポロの人達が時々言ってるね。…何者なの…?」
瑠璃が首を傾げると、嵐は説明した。
「メルクリウスは、実質アポロのリーダーをやってる能力者です。アポロの奴らはみんな基本的に、メルクリウスの指示に従って動いてる。」
「そのメルクリウス? がオレ達を攻撃したり、能力者達を引っ張り込んだりっていう指示を出してるのか。」
虎徹が考えながら話すと、嵐は訝しげな顔をした。
「引っ張り込んでる?」
「アポロの連中は、能力者達を手当たり次第に引っ張り込んでるだろ。オレ達が知り合った能力者がいつの間にかいなくなって、次に会った時にはアポロにいたなんてこともあったし。」
「引っ張り込んでるって、無理やり連れてってるみたいな言い方だな。」
嵐はますます訝しげに虎徹を見、虎徹は戸惑いながらも強気で問うた。
「違うってのか。」
「違う。メルクリウスは無理やり連れてくようなことはしない。」
嵐は虎徹の考えを真っ向から否定した。燐が小さな声で、懸命に話す。
「…メルクリウスは、燐と嵐を助けてくれた。アポロのみんなに、会わせてくれた。」
「オレ達をあの施設から引き取ってくれた時も言ってた。」
とある児童養護施設。
嵐は目の前にいる人物を見上げている。燐も嵐にしがみつきながら、人物を見上げていた。
その人物は真摯な、暖かい声で二人に言った。
「オレと来ないか? オレ達は能力者だけの集まりだ。皆お前達と同じく、辛い思いをした奴らだ。お前達を暖かく迎えてくれるはずだ。」
「だから、燐は行くって言った。」
燐の言葉に続けて、嵐は説明する。
「メルクリウスはちゃんと『来るか』って問う。それで相手の気持ちを尊重する。大体の連中が付いて来てるのは、そいつら自身での判断だ。メルクリウスがそうするのは、能力者達をあくまで守りたいからだ。」
「能力者達を守る…。」
「だからメルクリウスは、何があっても一度迎え入れた能力者を放り出すことはしない。そいつが戦力にならないとしても。」
皆が目を丸くする中、悠里は冷静に話に耳を傾けていた。嵐はさらに続ける。
「みんなメルクリウスには感謝してる。だから従ってる。オレも燐も、あの施設からオレ達を拾ってくれたことに感謝してる。」
「…能力者を守ろうとしてる…そんな人が何で、私達を攻撃して来るの…?」
瑠璃が戸惑いがちに問うと、嵐は顔をしかめた。
「…あのクソ野郎…ジェミニの我儘だ。」
「??」
「じぇみに? って?」
疑問符を浮かべた皆を前に、嵐は忌々しげに吐き出す。
「ジェミニはメルクリウスがアポロを立ち上げる時、力を貸した恩人らしい。そんで今はアポロの頂点として、メルクリウスに勝手言ってる。」
説明を聞く悠里は、落ち着いた様子で問うた。
「…勝手というのは?」
「メルクリウスがアンタらを敵視してるのは、クソ野郎のジェミニがメルクリウスに言ってるからだ。『ボストークは自分の大切な人を奪った悪い奴らだ』ってな。」
「…ジェミニは…いつもパソコンから、メルクリウスに催促してる。…ボストークの場所を探せ、持ってこい、早く会いたいんだ…って。」
吐き出すような嵐の説明と、ぽつぽつと話された燐の言葉に、皆はまた疑問符を浮かべた。
「持ってこい…何を…?」
「ていうか、オレ達がジェミニとかいう奴の大事な人を奪ったとか…訳解らない。…って、ユーリィさん?」
虎徹が見ると、悠里はスマートフォンを操作していた。
「ボストークチャットを開いている。」
「え?」
「その名前は、聞き覚えがある。」
虎徹、瑠璃、歩、鼎は皆それぞれスマートフォンを持ち、ボストークチャットにアクセスする。朔は鼎のスマートフォンを一緒に見た。
「ライカ『こんばんは、ユーリィ、みんな。どうしたの?』」
「ユーリィ『お前に聞きたいことがあるんだ』」
「ライカ『うん、何?』」
「ユーリィ『ジェミニという名前を、以前お前から聞いたと思った。その人物について教えて欲しい』」
「ライカ『!』」
「ライカさんが驚いてる…?」
瑠璃が呟くと、燐が反応した。
「『ライカ』って…。」
少し長い間の後、チャット画面にライカの発言が映し出された。
「ライカ『ジェミニは僕の弟だよ』」
一同は驚きを隠さなかった。
悠里はスマートフォンから文章をチャットに送った。
「ユーリィ『それ以外に、何か情報はないか?』」
また少し長い沈黙の後、ライカからの返答が来た。
「ライカ『ごめんね。言いたくない』」
「ユーリィ『悪かった。ありがとう、ライカ。また深夜に話しに行くから』」
そこまでで皆、一旦スマートフォンを置いた。
燐が小さな声で口を開いた。
「…ライカ…ジェミニの、大切な人の名前…。」
瑠璃と虎徹は疑問を口にする。
「ライカさんの弟が、ライカさんに会いたがってるってこと…? でもライカさんは何か、嫌がってるみたい…。」
「何かあるんですか? ユーリィさん。」
「…ライカの素性は、深く聞いたことがない。」
悠里が静かな声で返すと、歩が小首を傾げた。
「そうなんですか?」
「ライカが口を閉ざすし、それは好きでいることには関係がないからな。」
悠里の返事に皆がほう、とため息を吐く。悠里は改めて燐と嵐を見た。
「…話を整理しよう。アポロの指揮官的存在は、メルクリウスという能力者。アポロの彼らは皆、彼に従っている。メルクリウスがオレ達を敵視するのは、彼の上にいる存在、ジェミニの命令。ジェミニはライカの弟で、ライカに会いたがっている…。…これでいいか?」
「そうですね。」
嵐が頷くと皆は長いため息を吐き、肩の力を抜いた。
虎徹が感想を述べた。
「まとめたらシンプルになったな。」
「うん、オレにも解ります!」
歩が大きく頷く。瑠璃が考えながら話した。
「でもそれだと…どうしたらいいんだろう。メルクリウスさんが私達を敵だと思ってる限り、私達はアポロの人達に攻撃されるんだろうし…。」
「ていうか、今考えなきゃいけないのは…。」
虎徹は燐と嵐を見た。燐が表情を強張らせる。
「こいつら、アポロの奴らなんだろ? ボストークの場所知ったのを、そのままでは帰したくないけど…どうします? ユーリィさん。」
虎徹が悠里に問うた時、ずっと黙って話を聞いていた朔が挙手をした。
「…えっと…いいですか?」
「どうした?」
「オレ、思ったんですけど…ユーリィさん。ボストークでこの二人を保護出来ませんか?」
朔の提案に、瑠璃と虎徹は思わず大声を上げた。
「ええ!?」
「何言って…!」
「この二人は、オレと鼎のことを認めてくれたことで、アポロを裏切ったことになったみたいなんです。だからアポロにはもう戻れない。でもこのまま放り出してしまうのも、違う気がするから…。」
朔は先程のことを思い出しながら、皆に懸命に訴えた。
「うーん…。」
「でもなあ…。」
朔の提案に渋る皆に向かい、鼎が口を開いた。
「…こう考えたらどうですか? ユーリィさんの監視下にこの二人を置く。そう考えれば安心できると思いますけど。」
鼎がキッパリと言い切ると、虎徹は呆れ顔をした。
「ベルカまで…。」
「でも、ユーリィさんに見ていてもらうって考えれば…。」
「ユーリィさんはどう思います?」
話を聞いていた悠里は冷静に口を開いた。
「…この二人の置かれている状況は解った。行くところがないなら、オレが保護することは一向に構わない。むしろそうしたいと思う。…嵐君と燐君、君達はどう思う?」
嵐と燐は一瞬顔を見合わせる。燐が嵐に頷いて見せると、嵐は悠里に向き直った。
「…オレ達は『嫌だと思ったら従わなくてもいい、好きなようにすればいい』とメルクリウスに言われています。オレ達はそれに従って、そこの二人のことを敵じゃないと思った。」
「アポロに戻れない、けど、燐は…二人と遊べて、楽しかったから…。だから、敵にしたく、なかった。」
燐が一生懸命言葉を紡ぐ。嵐は続けて話した。
「…それに、オレ達がアポロにいて指示に従うままじゃ、メルクリウスはジェミニに振り回されるばかりだ。オレは出来ることなら、メルクリウスからジェミニを引き離したい。その為には、一旦アポロから離れたい。でもアポロから離れたら、オレ達二人は行き場を失う。だからアンタ達に保護してもらえるなら、とてもありがたい話だと思います。」
嵐と燐の答えを聞いた悠里は、二人に言った。
「二階にある空き部屋を使うといい。」
「ユーリィさん!?」
虎徹が驚きの声を上げると、悠里は皆を見回した。
「この二人が行き場を失い、傷つくことにはしたくない。それはオレ達を傷つけたモノと同じことになる。ヴェテロク、チェルナ、プシンカ、ウゴリョーク。お前達はどう思う?」
「…ユーリィさんが決めたなら、オレは構わない。信じた訳じゃないけどな。」
「…私も、今はこうした方がいい気がする。」
「オレはよく解らないけど、居場所がないのは困ると思うから…。」
「…店主の好きにすればいいと思いますよ。」
虎徹、瑠璃、歩、恵の順で答えが返された。燐は恐る恐る周りを見回した。
「…燐は、ここにいていいの…?」
「ああ、これからよろしく。燐君、嵐君。」
悠里が穏やかに声をかける。嵐と燐は席から立ち上がり、悠里に頭を下げた。
「よろしくお願いします、北見さん。」
「…よろしく、お願いします。」
「ユーリィで構わない。君達は何と呼ばれていたんだ?」
「V。」
「…1B…。」
嵐と燐がアポロでのコードネームを言うと、悠里は頷いて返した。
「では、オレ達もそう呼ぶことにしよう。V、1B。」
「…はい。」
燐がゆっくりと頷くと、朔と鼎はホッとした表情を見せた。
朔は家に帰る道すがら、隣を歩いている鼎に礼を言った。
「鼎、ありがとう。」
「何が?」
鼎がつっけんどんに返すと、朔は小さく笑んだ。
「オレが…Vと1Bのこと提案した時に、助けてくれただろ? だから。」
「どうして?」
不意に鼎に問われ、朔は疑問符を浮かべた。
「何が?」
「どうして、あの二人を助けようと思ったの?」
鼎の問いに、朔は考えながら答えを話した。
「…遊園地で、1B楽しそうだっただろ。」
「楽しんでたね。」
「オレ達も1Bと遊んで楽しかった。」
「…まあね。」
「それが理由じゃ、変かな?」
朔が苦笑すると、鼎は小さくため息を吐いた。
「…そんなこったろうと思ったけどね。馬鹿野郎。」
「へ?」
「早く帰ろう。明日はVと1Bの引っ越し手伝うんだから。疲れたし、とっとと寝ないと。」
鼎はずんずんと歩き出す。朔は前を歩く鼎を見ながら「馬鹿野郎」と自分に言った鼎の穏やかな声を思い、笑んだ。
「…うん、早く帰ろう。」
アポロの事務所で、メルクリウスは報告を聞いていた。
「…1BとVが裏切った?」
「ボストークは敵じゃないって言って…。」
報告しているのは、先程燐と嵐を非難した少年だった。メルクリウスは苦しげに顔をしかめると、少年に言った。
「……そうか。…報告ありがとう。」
「はい…。」
少年が一礼して部屋を出て行くと、メルクリウスはパソコンの前にある椅子に座り、深く深くため息を吐いた。
隣にいたアトラスが口を開く。
「…視えた通りになった…ってことか?」
メルクリウスは問いには答えず、呼んだ。
「…アトラス。」
「ん?」
「…やはり…未来は決められていて、それは変えられないんだな…。」
酷く気落ちした声を発したメルクリウスに、アトラスはしばらく思うように黙ってから、静かな声で返した。
「…さあな。」
To be continued