カロスの棚
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浮気と勘違いしちゃうお話。
ーーーーーーーー
あの日。
街角で見かけた光景が、瞳の裏に焼き付いて離れない。
人混みの向こう、完璧な身のこなしで歩くFさんの腕に、モデルのように美しい女性がしなやかに指を絡めていた姿。
洗練された二人の姿は、まるでお誂え向きの絵画のようで。
その2人の姿にーー胸の奥がチリチリと焼けるような痛みを覚えて、私は逃げるようにしてその場を去った。
それ以来、街でFさんの姿を見かけるたびに、彼に見付かったり、声を掛けられるよりも早く、どんな事をしても頑なに逃げ回る日々を送っていた。
「はぁ、…はぁ…、こ…ここまで来れば、大丈夫……かな…」
今日も今日とて逃走を終え、人けのない小道で荒い息を整える。
逃げ足の速さだけは取り柄だったのがせめてもの救いだと、私は逃げ切れた事へ安堵した。
本来なら、こんな事はせずに向き合って話し合うのが1番なのにーーそんな勇気がある筈もなくて、私はもう今日はホテルZに戻ろうと決意した。
その時。
「ゼッ!」
足元に、鋭い眼光を湛えた黒い影が滑り込んできた。
「きゃっ!? なっ…何、何、何、何!?」
目の前に不意に飛び出してきた黒い影に、私は思わず肩を跳ねさせた。心臓が驚いて脈打つのを抑えながら、そっと下を見るとそこには。
「ジ…ジガルデ?」
よく見れば、その黒い影は見覚えのある姿だった。
Fさんと時折行動を共にする、10%フォルムと呼ばれた姿のジガルデ。
そのジガルデが足元で顔を上げて私をジッと見つめると、何を考えているのか足元に潜り込むようにして、突然ひんやりとした冷たい体温を預けてすり寄ってきた。
「ど、どうしたの?急に擦り寄ってきて、甘えたいの…?」
いつものツンとした態度は何処へやら。
その普段とはあまりにも違う可愛い仕草に、私はしゃがみ込んで、その滑らかな黒い体を撫でた。
手のひらに伝わるひんやりとした感触が、走って火照った手に心地よく馴染んでいく。
「可愛いね、普段もこうして甘えてくれたら良いのに」
と、思わず口をつく。
そこで私は、誰かに相談に乗ってもらうような気持ちで更に口を開いた。
「……ねぇ、ジガルデ。聞いてくれる?」
撫でられる心地良さに浸りながら、ジガルデは小首を傾げ、「ゼ?」と電子音のような声を小さく漏らした。
耳がピクリと動き、こちらに向けられるのを見て、(本当に聞いてくれるのかな?)と思いつつ、私はそのまま彼を撫で続けながら、ぽつりと溢す。
「私ね、少し前に……Fさんが綺麗な女の人と寄り添って歩いているのを見て、それからずっと…彼を避けてるの」
言いたくない言葉を、自分に言い聞かせるように吐き出す。でも……誰かに聞いて欲しい気持ちには変わらなくて、私は言葉を続けた。
「分かってるよ、Fさんはそんな人じゃないって。でもね、その姿があまりにもお似合いだったし…雰囲気も、それっぽくて……」
口をつく言葉に、心の中でドロドロとした嫌な気持ちが渦巻いていく。それが“嫉妬”であるのは安易に分かって、そんな醜い感情を剥き出しにしていく自分が嫌になる。
「ねぇ、あれって浮気だと思う?」
問いかけた瞬間、胸が苦しくなってジガルデを撫でていた私の手が、ぴたりと止まる。
「……あんなに素敵な人なんだから、そうなってもおかしくないよね。だって……私、美人じゃないし、可愛くもないし」
自虐的な言葉が口をつくたびに、胸の奥がぎゅっと締め付けられて、目頭が熱くなってくる。
「浮気されても、文句は言えないよね……」
ポツリと零した瞬間、喉の奥が熱くなって、鼻の奥がツンとした。
(ああ、泣いちゃダメなのに…)
そう思ってもじわじわと広がる悲しい感情に押されて、今にも泣きだしてしまいそうになる。
そんな私を見て、ジガルデが慌てて慰めようとしているのか、顔をぐいぐいと擦り付けてきた。
「わっ! ちょ、ジガルデ……っ!」
容赦なくジガルデの顔が頬に当たり、私は少しよろけそうになる。その時。
「……私の連れが、ご迷惑をおかけしていますか?」
「っ!?」
目の前から突然響く。
甘さを持った、心地の良い低い声。
顔を上げると、そこにはいつの間に立ってたのかFさんの姿があった。
(嘘っ!もしかして聞かれてた…!?)
羞恥心で顔がカッと熱くなり、私は立ち上がって今すぐこの場から逃げ出そうとしたが――。
「えっ!や、ちょっ!ジガルデ! 離して……っ!」
ぐんっとスカートが引っ張られる感覚を覚えて下を見ると、そこにはさっきまでの可愛い態度から一変して、ジガルデがスカートの裾をガッチリと噛んで離さなかった。
「ねぇ!ちょっと!離してってば…っ!!」
破られないよう注意しつつ私自身もスカートを掴み引っ張る。けれど、必死の引っ張り合いにも私の非力な力では勝てる訳もなくて……そうこうしてる内に、Fさんが静かな足取りで歩み寄ってきた。
「誤解ですよ、リリィ。あの方は道に迷われていた観光客で、私は案内をしていただけです」
あまりにも誠実なその瞳に見つめられ、私はスカートを引っ張る手を止める。
けれど、疑う気持ちが未だに残り、彼の目が見れなくて視線を逸らし、小さく声を漏らす。
「………本当に……そうなんですか?」
「えぇ、そうです」
きっぱりと断言され、私は自分の早とちりと自信のなさが引き起こした空回りに、途端に情けなさで胸がいっぱいになった。
「……ごめんなさい。私、子供っぽくて……。勝手に、誤解してしまって……」
シュンと肩を落として、私は申し訳なさに更に視線を落とす。
すると、ジガルデはようやくスカートの裾を離し、再び足に擦り寄ってきた。
「……ジガルデ。あまり彼女に甘えすぎるのは、感心しませんね」
Fさんの、少しだけ尖ったような、窘める声。
顔を上げると、Fさんは足元のジガルデを、ほんの僅かに嫉妬を含んだような眼差しで見つめていた。
「……Fさん? もしかして、ジガルデに嫉妬してるんですか?」
意外…と思わず目を見開いた。
そしてなんだかちょっぴり可笑しくなって、私は眉尻を下げてふふっと小さく笑ってしまった。
するとFさんは、私の手を取ると優しく握り締める。
「……相手がポケモンであろうと、私以外の者に貴方が絆されるのは、あまり面白いものではありません」
さらりと告げられた、独占欲の混ざった言葉。
その甘さに、胸の奥が熱く満たされていく。
「お詫びに、何か甘いものでもご馳走させてください」
Fさんはそう言うと、身をかがめて私の手を引き上げながら口元に寄せ、その手の甲に柔らかなキスを落とす。
「……っ、私を太らせる気なんですか?」
顔が熱くなるのを隠すように、ちょっとだけ睨んで見せると、Fさんは楽しげに微笑んだ。
「太った貴方も素敵ですよ」
「っもう! 冗談が過ぎますっ!」
顔を赤くして怒る私を、彼は優しく目を細める。
「ジガルデは、来る?」
そう言って、私は足元のジガルデに視線を向けると。
「ゼアッ!」
と。ジガルデは「自分は行かない」と宣言するかのように一声鳴くと、見送る隙も与えないまま、一瞬で走り去っていった。
「…我々も、行きましょうか。リリィ」
「ふふっ、そうですね」
Fさんのエスコートに導かれて、私たちはカフェのある通りへと歩き出した。
「ところで、いつから目の前に居たんですか?」
「それは……ジガルデが貴方のそばに来てからです」
「っ! それって、最初からってことですか!?」
「ええ、最初からです」
「~~っ! ……もう! 今日は散財させますからねっ!」
「どうぞ、心ゆくまで」
そう言って微笑む彼の腕に、今度は私から、そっと自分の腕を絡める。
あの日、誰かの腕が添えられていたその場所を、今は私の体温で上書きしたくて。
隣を歩く彼の確かな熱を感じながら。
私は込み上げる幸福感に、もう一度だけ強く彼の腕を抱きしめた。
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あの日。
街角で見かけた光景が、瞳の裏に焼き付いて離れない。
人混みの向こう、完璧な身のこなしで歩くFさんの腕に、モデルのように美しい女性がしなやかに指を絡めていた姿。
洗練された二人の姿は、まるでお誂え向きの絵画のようで。
その2人の姿にーー胸の奥がチリチリと焼けるような痛みを覚えて、私は逃げるようにしてその場を去った。
それ以来、街でFさんの姿を見かけるたびに、彼に見付かったり、声を掛けられるよりも早く、どんな事をしても頑なに逃げ回る日々を送っていた。
「はぁ、…はぁ…、こ…ここまで来れば、大丈夫……かな…」
今日も今日とて逃走を終え、人けのない小道で荒い息を整える。
逃げ足の速さだけは取り柄だったのがせめてもの救いだと、私は逃げ切れた事へ安堵した。
本来なら、こんな事はせずに向き合って話し合うのが1番なのにーーそんな勇気がある筈もなくて、私はもう今日はホテルZに戻ろうと決意した。
その時。
「ゼッ!」
足元に、鋭い眼光を湛えた黒い影が滑り込んできた。
「きゃっ!? なっ…何、何、何、何!?」
目の前に不意に飛び出してきた黒い影に、私は思わず肩を跳ねさせた。心臓が驚いて脈打つのを抑えながら、そっと下を見るとそこには。
「ジ…ジガルデ?」
よく見れば、その黒い影は見覚えのある姿だった。
Fさんと時折行動を共にする、10%フォルムと呼ばれた姿のジガルデ。
そのジガルデが足元で顔を上げて私をジッと見つめると、何を考えているのか足元に潜り込むようにして、突然ひんやりとした冷たい体温を預けてすり寄ってきた。
「ど、どうしたの?急に擦り寄ってきて、甘えたいの…?」
いつものツンとした態度は何処へやら。
その普段とはあまりにも違う可愛い仕草に、私はしゃがみ込んで、その滑らかな黒い体を撫でた。
手のひらに伝わるひんやりとした感触が、走って火照った手に心地よく馴染んでいく。
「可愛いね、普段もこうして甘えてくれたら良いのに」
と、思わず口をつく。
そこで私は、誰かに相談に乗ってもらうような気持ちで更に口を開いた。
「……ねぇ、ジガルデ。聞いてくれる?」
撫でられる心地良さに浸りながら、ジガルデは小首を傾げ、「ゼ?」と電子音のような声を小さく漏らした。
耳がピクリと動き、こちらに向けられるのを見て、(本当に聞いてくれるのかな?)と思いつつ、私はそのまま彼を撫で続けながら、ぽつりと溢す。
「私ね、少し前に……Fさんが綺麗な女の人と寄り添って歩いているのを見て、それからずっと…彼を避けてるの」
言いたくない言葉を、自分に言い聞かせるように吐き出す。でも……誰かに聞いて欲しい気持ちには変わらなくて、私は言葉を続けた。
「分かってるよ、Fさんはそんな人じゃないって。でもね、その姿があまりにもお似合いだったし…雰囲気も、それっぽくて……」
口をつく言葉に、心の中でドロドロとした嫌な気持ちが渦巻いていく。それが“嫉妬”であるのは安易に分かって、そんな醜い感情を剥き出しにしていく自分が嫌になる。
「ねぇ、あれって浮気だと思う?」
問いかけた瞬間、胸が苦しくなってジガルデを撫でていた私の手が、ぴたりと止まる。
「……あんなに素敵な人なんだから、そうなってもおかしくないよね。だって……私、美人じゃないし、可愛くもないし」
自虐的な言葉が口をつくたびに、胸の奥がぎゅっと締め付けられて、目頭が熱くなってくる。
「浮気されても、文句は言えないよね……」
ポツリと零した瞬間、喉の奥が熱くなって、鼻の奥がツンとした。
(ああ、泣いちゃダメなのに…)
そう思ってもじわじわと広がる悲しい感情に押されて、今にも泣きだしてしまいそうになる。
そんな私を見て、ジガルデが慌てて慰めようとしているのか、顔をぐいぐいと擦り付けてきた。
「わっ! ちょ、ジガルデ……っ!」
容赦なくジガルデの顔が頬に当たり、私は少しよろけそうになる。その時。
「……私の連れが、ご迷惑をおかけしていますか?」
「っ!?」
目の前から突然響く。
甘さを持った、心地の良い低い声。
顔を上げると、そこにはいつの間に立ってたのかFさんの姿があった。
(嘘っ!もしかして聞かれてた…!?)
羞恥心で顔がカッと熱くなり、私は立ち上がって今すぐこの場から逃げ出そうとしたが――。
「えっ!や、ちょっ!ジガルデ! 離して……っ!」
ぐんっとスカートが引っ張られる感覚を覚えて下を見ると、そこにはさっきまでの可愛い態度から一変して、ジガルデがスカートの裾をガッチリと噛んで離さなかった。
「ねぇ!ちょっと!離してってば…っ!!」
破られないよう注意しつつ私自身もスカートを掴み引っ張る。けれど、必死の引っ張り合いにも私の非力な力では勝てる訳もなくて……そうこうしてる内に、Fさんが静かな足取りで歩み寄ってきた。
「誤解ですよ、リリィ。あの方は道に迷われていた観光客で、私は案内をしていただけです」
あまりにも誠実なその瞳に見つめられ、私はスカートを引っ張る手を止める。
けれど、疑う気持ちが未だに残り、彼の目が見れなくて視線を逸らし、小さく声を漏らす。
「………本当に……そうなんですか?」
「えぇ、そうです」
きっぱりと断言され、私は自分の早とちりと自信のなさが引き起こした空回りに、途端に情けなさで胸がいっぱいになった。
「……ごめんなさい。私、子供っぽくて……。勝手に、誤解してしまって……」
シュンと肩を落として、私は申し訳なさに更に視線を落とす。
すると、ジガルデはようやくスカートの裾を離し、再び足に擦り寄ってきた。
「……ジガルデ。あまり彼女に甘えすぎるのは、感心しませんね」
Fさんの、少しだけ尖ったような、窘める声。
顔を上げると、Fさんは足元のジガルデを、ほんの僅かに嫉妬を含んだような眼差しで見つめていた。
「……Fさん? もしかして、ジガルデに嫉妬してるんですか?」
意外…と思わず目を見開いた。
そしてなんだかちょっぴり可笑しくなって、私は眉尻を下げてふふっと小さく笑ってしまった。
するとFさんは、私の手を取ると優しく握り締める。
「……相手がポケモンであろうと、私以外の者に貴方が絆されるのは、あまり面白いものではありません」
さらりと告げられた、独占欲の混ざった言葉。
その甘さに、胸の奥が熱く満たされていく。
「お詫びに、何か甘いものでもご馳走させてください」
Fさんはそう言うと、身をかがめて私の手を引き上げながら口元に寄せ、その手の甲に柔らかなキスを落とす。
「……っ、私を太らせる気なんですか?」
顔が熱くなるのを隠すように、ちょっとだけ睨んで見せると、Fさんは楽しげに微笑んだ。
「太った貴方も素敵ですよ」
「っもう! 冗談が過ぎますっ!」
顔を赤くして怒る私を、彼は優しく目を細める。
「ジガルデは、来る?」
そう言って、私は足元のジガルデに視線を向けると。
「ゼアッ!」
と。ジガルデは「自分は行かない」と宣言するかのように一声鳴くと、見送る隙も与えないまま、一瞬で走り去っていった。
「…我々も、行きましょうか。リリィ」
「ふふっ、そうですね」
Fさんのエスコートに導かれて、私たちはカフェのある通りへと歩き出した。
「ところで、いつから目の前に居たんですか?」
「それは……ジガルデが貴方のそばに来てからです」
「っ! それって、最初からってことですか!?」
「ええ、最初からです」
「~~っ! ……もう! 今日は散財させますからねっ!」
「どうぞ、心ゆくまで」
そう言って微笑む彼の腕に、今度は私から、そっと自分の腕を絡める。
あの日、誰かの腕が添えられていたその場所を、今は私の体温で上書きしたくて。
隣を歩く彼の確かな熱を感じながら。
私は込み上げる幸福感に、もう一度だけ強く彼の腕を抱きしめた。
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