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イメージチェンジは慎重に。の続編。
ーーーーーーーー
昼間の出来事が、まだ胸の奥に残っている。
家に帰って、ヒールを脱いで。
少し痛む踵なんて気にせず、そのままベッドに身体を預けても――あの人の声が、妙に耳に残って離れなかった。
『今夜、楽しみにしていてくださいね』
(……本当に、ああいう言い方はずるい。)
私は小さく息を吐き、ベッドの上で寝返りをうった。
手の中にあるスマホロトムの画面を操作し、流れてくるショート動画を何となく指で弾いては次へ、また次へとスワイプしていく。
内容なんてほとんど頭に入ってこなくて、ただぼんやりと時間だけが過ぎていった。
気付けば部屋が暗く、外はもうすっかり夜だった。
画面の光が暗い部屋の中で小さく揺れている。
私は一度だけ、自分の肩口へ視線を落とす。
昼間と同じ、そのままの姿。
(……別に。今さら着替える必要なんて。)
そう自分に言い聞かせたところで、突然インターホンが鳴り部屋に響く。
一瞬だけ指が止まり、それから私はスマホロトムをベッドの上に放り出し、ゆっくりと玄関へ向かった。
途中で部屋の明かりを点けてからドアを開ける。
そこに立っていたのは、仕事着の上から薄手のコートを羽織ったグリだった。
相変わらず穏やかな顔で、軽く目を細める。
「こんばんは、リリィ」
「……こんばんは、グリ」
挨拶を返すと、彼の視線が一度だけ私の全身をなぞった。
肩、脚、そしてまた肩へ。
ほんの一瞬のことなのに、それだけで落ち着かなくなる。
そしてグリは、静かな声で言った。
「昼間のままで迎えてくださるとは思いませんでした」
その言い方に、胸の奥が小さく跳ねる。
けれど私はすぐに肩を竦めた。
「別に。家なんだし、このままでいいでしょ」
わざと素っ気なく返す。
するとグリは少しだけ笑った。
「……なるほど」
それ以上は何も言わない。
だから私は、彼の目線を避けるようにくるりと背を向けた。
「上がって」
短く言うと、彼は背中越しに「お邪魔します」と穏やかに答えて中へ入った。
リビングへ戻ると私は自分のベッドを背もたれにするように、カーペットの上へ腰を下ろす。
グリはと言うと、ローテーブルを挟んだ向こう側。
コートを脱ぎ、きちんと畳んでソファに腰掛けた。
我が家に来るたびに見慣れた、いつもの落ち着いた所作。
まるで昼間のことなど何もなかったみたいに。
「今日は、昼のあと少し忙しかったんですよ」
グリがそう言う。
「へぇ」
他愛も無く、私は短く返事を返した。
「グリーズが妙に機嫌が良くて」
「ふふ、それは想像つくわね」
軽く笑うと、彼も肩を揺らした。
そんな風にして、何でもない会話が少し続く。
けれど。
私は途中から気付いていた。
グリの視線が、妙に静かなことに。
ローテーブル越し。
その目線が、胸元から露出した肩へと落ちている。
何度か。ゆっくりと。
意識していないふりをするのが、少し難しい。
その時、グリがふと口を開いた。
「昼間から思っていたんですが」
私は目を上げる。
グリは、変わらない穏やかな顔のまま言った。
「あれは……なかなか反則でしたよ」
一瞬、言葉に詰まる。
「……なによ、それ」
「そのままの意味です」
さらりと言われ、私は思わず視線を逸らした。
「うるさいわね」
軽く返す。
でも負けたくなくて、私はわざと小さく笑った。
「効いたって言う割には、昼間はずいぶんと余裕そうだったじゃない」
グリは少しだけ目を細める。
それから、穏やかな声で答えた。
「仕事中でしたから」
その一言で、空気がほんの少し変わった気がした。
静かな沈黙が落ち。
そして。
「リリィ」
名前を呼ばれ、彼の方に視線を上げるとグリがいつの間にやら立ち上がっていた。
まるで私の名前を呼ぶことが合図みたいに、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
距離が少しずつ近付き、その気配に胸の奥が妙に騒ぐ。
……でも。
ここは、私の家。
ふとそう思った瞬間、頭の中で何かが切り替わった。
私は身体を少しだけ横へずらすと、ベッド脇のサイドテーブルに置いてある小さなリモコンへと手を伸ばした。
掴んだ瞬間。記憶にあるボタンの場所を指でカチ、と軽い音を立てて押す。
それと同時に部屋の照明がふっと落ちて、常夜灯の柔らかな明かりだけが残り、グリが足を止めた。
「……リリィ?」
足を止めたグリが、僅かに眉を動かす。
その反応が可笑しくて、私はふっと鼻で笑った。
「なにかしら?」
「…何故、照明を?」
「あら。夜なんだから、このくらいは普通でしょ?」
平然と言いながら、
私は手にしたリモコンをサイドテーブルに戻した。
それから、わざとゆっくりと髪を耳に掛ける。
そして背もたれにしていたベッドの上へ身体を乗せ座り直すと、脚を組んでそのまま小さく首を傾げた。
「ねぇ、グリ」
少しだけ、声に甘さを含ませる。
「まさか、これくらいで余裕がないの?」
挑発するように言うと、グリは黙った。
ほんの少し…喉が鳴る音が聞こえた気がした。
けれど薄暗い部屋ではまだ目が慣れず、その表情はほとんど読めないので、私は言葉を続けた。
「昼みたいに、好き勝手出来ると思って?」
そして、わざと勝ち誇る様に含み笑い。
「あんまり余裕そうな顔してると、こっちも意地悪したくなるわね」
と、クスクスと笑い更に挑発的に見返した。
それに対しグリは何も言わなかったけれど、やがて小さく息を吐く。
その時。
暗闇に慣れ始めた目がようやくグリの視線を捉えると、まっすぐ向けられたその目に、理由もなく背筋がぞくりと震えた。
「……後悔するなら、もう遅いですよ」
静かな声が、部屋に響く。
次の瞬間、彼は一歩で私との距離を詰めていた。
流れる様なその行動に、反応する頃にはすぐ目の前で肩を掴まれる。
そして。そのまま後ろへと倒されて体勢を崩した私は、長い髪の毛をシーツに散らばらせながらベッドに沈んだ。
「っ……」
ぎしっとスプリングが軋む音が鳴り、背中に受ける衝撃で思わず閉じた目を開くと、目の前にはグリの顔。
押し倒された拍子に跨るように覆いかぶさられたので、逃げ場なんてどこにもない。
そしてグリは、
私を見下ろしながら頬をそっと優しく撫でた。
「貴方がそうやって強がると」
頬を撫でていた指先が、そのまま私の唇をなぞる。
「余計に困るんですよ」
触れ方は優しいのに、視線だけが熱い。
逃がすつもりなんて、少しもないみたいに。
「火がつくので」
その言葉に、私は不覚にもーー心臓が、どくんと跳ねた。
「……じゃあ、つけた責任は取らなきゃね?」
そう言って、グリの手に私は自分の手を重ねる。
積み重ねてきた時間が、そのまま残っているみたいな分厚い手。私はこの手が何よりも好き。
直接、本人には言わないけど。
気持ちを込めて、その手を口元に寄せ掌に触れるだけの口付けを落とすと、グリは満足そうに微笑んだ。
「煽るのがお好きですね」
彼の瞳は熱を帯び、私を焼き尽くすように見つめていた。
でも。
そんな彼も愛おしくて、
私は自然と両腕を伸ばしグリを引き寄せる。
そのまま、抗うこともせずに身を預けた。
本当は、もう少し上手くやれると思っていたけど。
たぶん――
相手がグリである限り、そう簡単にはいかないわね。
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昼間の出来事が、まだ胸の奥に残っている。
家に帰って、ヒールを脱いで。
少し痛む踵なんて気にせず、そのままベッドに身体を預けても――あの人の声が、妙に耳に残って離れなかった。
『今夜、楽しみにしていてくださいね』
(……本当に、ああいう言い方はずるい。)
私は小さく息を吐き、ベッドの上で寝返りをうった。
手の中にあるスマホロトムの画面を操作し、流れてくるショート動画を何となく指で弾いては次へ、また次へとスワイプしていく。
内容なんてほとんど頭に入ってこなくて、ただぼんやりと時間だけが過ぎていった。
気付けば部屋が暗く、外はもうすっかり夜だった。
画面の光が暗い部屋の中で小さく揺れている。
私は一度だけ、自分の肩口へ視線を落とす。
昼間と同じ、そのままの姿。
(……別に。今さら着替える必要なんて。)
そう自分に言い聞かせたところで、突然インターホンが鳴り部屋に響く。
一瞬だけ指が止まり、それから私はスマホロトムをベッドの上に放り出し、ゆっくりと玄関へ向かった。
途中で部屋の明かりを点けてからドアを開ける。
そこに立っていたのは、仕事着の上から薄手のコートを羽織ったグリだった。
相変わらず穏やかな顔で、軽く目を細める。
「こんばんは、リリィ」
「……こんばんは、グリ」
挨拶を返すと、彼の視線が一度だけ私の全身をなぞった。
肩、脚、そしてまた肩へ。
ほんの一瞬のことなのに、それだけで落ち着かなくなる。
そしてグリは、静かな声で言った。
「昼間のままで迎えてくださるとは思いませんでした」
その言い方に、胸の奥が小さく跳ねる。
けれど私はすぐに肩を竦めた。
「別に。家なんだし、このままでいいでしょ」
わざと素っ気なく返す。
するとグリは少しだけ笑った。
「……なるほど」
それ以上は何も言わない。
だから私は、彼の目線を避けるようにくるりと背を向けた。
「上がって」
短く言うと、彼は背中越しに「お邪魔します」と穏やかに答えて中へ入った。
リビングへ戻ると私は自分のベッドを背もたれにするように、カーペットの上へ腰を下ろす。
グリはと言うと、ローテーブルを挟んだ向こう側。
コートを脱ぎ、きちんと畳んでソファに腰掛けた。
我が家に来るたびに見慣れた、いつもの落ち着いた所作。
まるで昼間のことなど何もなかったみたいに。
「今日は、昼のあと少し忙しかったんですよ」
グリがそう言う。
「へぇ」
他愛も無く、私は短く返事を返した。
「グリーズが妙に機嫌が良くて」
「ふふ、それは想像つくわね」
軽く笑うと、彼も肩を揺らした。
そんな風にして、何でもない会話が少し続く。
けれど。
私は途中から気付いていた。
グリの視線が、妙に静かなことに。
ローテーブル越し。
その目線が、胸元から露出した肩へと落ちている。
何度か。ゆっくりと。
意識していないふりをするのが、少し難しい。
その時、グリがふと口を開いた。
「昼間から思っていたんですが」
私は目を上げる。
グリは、変わらない穏やかな顔のまま言った。
「あれは……なかなか反則でしたよ」
一瞬、言葉に詰まる。
「……なによ、それ」
「そのままの意味です」
さらりと言われ、私は思わず視線を逸らした。
「うるさいわね」
軽く返す。
でも負けたくなくて、私はわざと小さく笑った。
「効いたって言う割には、昼間はずいぶんと余裕そうだったじゃない」
グリは少しだけ目を細める。
それから、穏やかな声で答えた。
「仕事中でしたから」
その一言で、空気がほんの少し変わった気がした。
静かな沈黙が落ち。
そして。
「リリィ」
名前を呼ばれ、彼の方に視線を上げるとグリがいつの間にやら立ち上がっていた。
まるで私の名前を呼ぶことが合図みたいに、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。
距離が少しずつ近付き、その気配に胸の奥が妙に騒ぐ。
……でも。
ここは、私の家。
ふとそう思った瞬間、頭の中で何かが切り替わった。
私は身体を少しだけ横へずらすと、ベッド脇のサイドテーブルに置いてある小さなリモコンへと手を伸ばした。
掴んだ瞬間。記憶にあるボタンの場所を指でカチ、と軽い音を立てて押す。
それと同時に部屋の照明がふっと落ちて、常夜灯の柔らかな明かりだけが残り、グリが足を止めた。
「……リリィ?」
足を止めたグリが、僅かに眉を動かす。
その反応が可笑しくて、私はふっと鼻で笑った。
「なにかしら?」
「…何故、照明を?」
「あら。夜なんだから、このくらいは普通でしょ?」
平然と言いながら、
私は手にしたリモコンをサイドテーブルに戻した。
それから、わざとゆっくりと髪を耳に掛ける。
そして背もたれにしていたベッドの上へ身体を乗せ座り直すと、脚を組んでそのまま小さく首を傾げた。
「ねぇ、グリ」
少しだけ、声に甘さを含ませる。
「まさか、これくらいで余裕がないの?」
挑発するように言うと、グリは黙った。
ほんの少し…喉が鳴る音が聞こえた気がした。
けれど薄暗い部屋ではまだ目が慣れず、その表情はほとんど読めないので、私は言葉を続けた。
「昼みたいに、好き勝手出来ると思って?」
そして、わざと勝ち誇る様に含み笑い。
「あんまり余裕そうな顔してると、こっちも意地悪したくなるわね」
と、クスクスと笑い更に挑発的に見返した。
それに対しグリは何も言わなかったけれど、やがて小さく息を吐く。
その時。
暗闇に慣れ始めた目がようやくグリの視線を捉えると、まっすぐ向けられたその目に、理由もなく背筋がぞくりと震えた。
「……後悔するなら、もう遅いですよ」
静かな声が、部屋に響く。
次の瞬間、彼は一歩で私との距離を詰めていた。
流れる様なその行動に、反応する頃にはすぐ目の前で肩を掴まれる。
そして。そのまま後ろへと倒されて体勢を崩した私は、長い髪の毛をシーツに散らばらせながらベッドに沈んだ。
「っ……」
ぎしっとスプリングが軋む音が鳴り、背中に受ける衝撃で思わず閉じた目を開くと、目の前にはグリの顔。
押し倒された拍子に跨るように覆いかぶさられたので、逃げ場なんてどこにもない。
そしてグリは、
私を見下ろしながら頬をそっと優しく撫でた。
「貴方がそうやって強がると」
頬を撫でていた指先が、そのまま私の唇をなぞる。
「余計に困るんですよ」
触れ方は優しいのに、視線だけが熱い。
逃がすつもりなんて、少しもないみたいに。
「火がつくので」
その言葉に、私は不覚にもーー心臓が、どくんと跳ねた。
「……じゃあ、つけた責任は取らなきゃね?」
そう言って、グリの手に私は自分の手を重ねる。
積み重ねてきた時間が、そのまま残っているみたいな分厚い手。私はこの手が何よりも好き。
直接、本人には言わないけど。
気持ちを込めて、その手を口元に寄せ掌に触れるだけの口付けを落とすと、グリは満足そうに微笑んだ。
「煽るのがお好きですね」
彼の瞳は熱を帯び、私を焼き尽くすように見つめていた。
でも。
そんな彼も愛おしくて、
私は自然と両腕を伸ばしグリを引き寄せる。
そのまま、抗うこともせずに身を預けた。
本当は、もう少し上手くやれると思っていたけど。
たぶん――
相手がグリである限り、そう簡単にはいかないわね。
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