カロスの棚
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グリと一緒に帰るお話。
ーーーーーーーー
ミアレシティの夜。
日付が既に変わった深夜。
街灯に照らされた夜道を私は1人きりで歩いていた。
(ここ最近、ずっと残業続きね……)
心の中で不満をボヤいた。
クエーサー社に勤めて数年。もう何週間も上層部の無茶振りにより数字に追われる日々が続いている。
お陰でお昼は、サンドイッチ片手にキーボードと言う組み合わせが日常茶飯事。
少し前までならお昼は必ず、ヌーヴォカフェでお気に入りの珈琲を片手に有意義な時間を過ごしていたのに。
別に仕事だし、仕方の無い事だと割り切れる。
だけどーー。
「恋人と過ごす時間も無いとか、酷すぎよ…」
思わず口をついて出た。
やっとの事で交際にまで漕ぎ着けた人。
今思い返すと、その道のりは奇跡にも近い。
なのに、こうも会えないとは。
「今日も店仕舞いして帰ってるんでしょうね。」
淡い期待なんてしてないと、私はオトンヌアベニューから右回りに工事中のメディアプラザの外壁に沿ってベール大通りまで向かった。
そこは私の日々の通勤ルートでもあり、恋人の仕事場。
「居るわけ、ないわよね……」
ブルー大通りに差し掛かった所で、その先のベール大通りへと目線を移す。
すると何故か、通りに入る角から明かりが漏れていた。
(なんで?こんな時間に…?)
そんな訳ない。
でも、間違いなくそこは、彼が普段から居る職場の位置。
胸がざわつき私は思わず駆け足になった。
ヒールの音が石畳を強く鳴り響かせるが構わない。
カッカッと鳴らし、慌てて通りの角を曲がる。
そこには、やっぱり見覚えのある赤いマークの車と彼が。
「っ……グリ!」
名前を呼ぶと、彼は私に振り返った。
赤色と灰色が混在する髪をオールバックみたいにしたその髪の毛。白い眼鏡に閉じた糸目。ヌーヴォカフェの制服を身に纏ったーーー間違いない、私の恋人。
「貴方、帰ってると思ってたわ」
少し息を切らせながら彼を見る。
するとグリは普段から絶やさない接客スマイルは崩さないまま、私の元へと近付いてきた。
「遅いですよ、リリィ」
笑顔はそのまま。
だけど、声のトーンが明らかに低い。
「遅いですよって、連絡もせず待つ貴方が悪いわ」
せめてスマホロトムで連絡しなさいよ。と。強気で悪態をつくと、グリはやれやれと肩を落としながら首を振った。
「しましたよ。3時間程前に。」
「え!やだ、嘘!」
グリに言われて慌ててスマホロトムを起動させる。
履歴を見ると確かにあった。
【終業のお時間になりましたらご連絡下さい。】
と、業務めいた一言。
あ、この人ってば、そういう人だったわ。
「恋人ならもっと恋人らしい文を打てないのかしら…。」
頭を抱える。
彼はいつもそう。
恋人らしい言葉はくれない。
「それよりも珈琲がありますけど、いりますか?」
「私のために?」
「はい、もう冷えてしまいましたが。」
そう言って差し出されたテイクアウトコーヒー。
冷えていても良い。と、私はそのカップを受け取った。
「グリーズはどうしたの?」
「先に帰しました。と言うより…帰りました。」
「ふふっ、グリーズらしいわね。」
きっと彼女の事だわ、『付き合いきれねぇから帰る』とか言って気を遣ってくれたに違いない。
「送ります。暗い夜道はお嫌いでしょう?」
薄っすらと目を開けて、グリが私を見た。
見透かしたような、鋭い目付き。
たまにしか見せない、その表情が私の胸を高鳴らせる。
「そうね、じゃあお願いしようかしら。」
悟られないよう平然とした素振りを見せれば、グリは「では」とキッチンカーを素早く消灯し施錠する。
その手際の良さは感心する程で、あっという間に最後の施錠を終わらせると、鍵をポケットに仕舞った。
「行きましょう」
その言葉を合図に私達は歩き出す。
手を繋ぐなんて、事はしない。
ただ肩を並べて歩くのみ。
「ごめんなさいね、待たせてしまって。」
「構いませんよ、おれが勝手に待っていただけなので。」
「でも、貴方に悪いことをしたわ。」
謝罪と共に冷え切った珈琲を一口飲む。
苦味が口に一気に広がる。
それは私達のように甘くはない。
「…次から、夜遅く1人で帰る時は連絡を下さい。」
「どうして?」
「どうしてって、それは…」
「貴方が心配だからですよ、リリィ。」
心配ーー。
その一言に、私は足を止めて彼に振り向いた。
同時に彼も歩みを止める。
「心配してくれるのね。」
「当たり前でしょう、おれ達は恋人同士なんですから。」
グリはそう言いながらこっちを見てはくれない。
だけど、それが嫌でもなくて私は含み笑う。
「グリから恋人って言葉が聞けて嬉しいわ。」
「…………、おれを何だとお思いで?」
「ぷっ、だって、貴方から好きとか愛してるとか、付き合ってから一度も聞かないもの。」
寧ろ私しか言ってない気がするわ。と笑いながら付け加えると、グリは黙った。
「別に良いわよ、私が言えば済む話だもの。」
夜風に長い髪を遊ばせながら、私は夜空を見上げる。
星空に満月が煌々と光り、それはとても美しかった。
「……月が。」
グリが、隣で何かを言いかける。
私はそれにつられて、見上げた夜空から彼に目線を移した。その横顔は私に少し向けられてはいるが、目線が糸目なので判断がつかない。そして次の言葉がやってきた。
「月が、綺麗ですね。」
一切、月を見ていないのに。
その表情はどこか熱を帯びていた。
(案外、ロマンチストな所もあるのね…。)
彼の意外な一面を見れた気がした。
(でも、その台詞は私も知っていてよ?グリ。)
嬉しさと、愛おしさが一気に胸に込み上げる。
そして私は、貴方にこう返す。
「月はずっと綺麗でしたよ?」
“その言葉の意味は、貴方も知っているでしょう?”
そんな意味深な笑みを浮かべると、彼は一瞬、言葉を失った。琥珀色の瞳が私を見つめて、次にはふっと彼も微笑む。
「そうでしたね。」
嬉しそうなグリの声。
2人で微笑み合い、自然と互いの指を絡ませ手を繋いだ。
そしてもう一度、2人揃って歩き出す。
「ねぇ、グリ。」
「なんでしょう、リリィ。」
「私、明日休みなの。」
「それは良かったですね。」
「えぇ。」
「………ねぇ、だから…」
「今晩、家に泊まっていかない?」
「…………よろしいので?」
「えぇ勿論、よろしくてよ?」
「その意味、分かって言っていますか?」
「分かってるから、言っているのよ。」
そう言って見上げると、彼の喉が静かに鳴った。
絡めた指に、僅かに力が入り熱を持つ。
「そうですか。では、遠慮なくお邪魔しますね。」
「良いわ、そのかわり朝ご飯はよろしくね。」
「大丈夫です、貴方にキッチンは立たせません。」
「あら?それってどう言う意味かしら?」
「それは貴方が1番良くご存知では?」
その言葉と同時に引き寄せられる。
触れた唇は一瞬なのに、絡めた指よりも熱かった。
「……ずるい人。」
琥珀色の瞳が、私を離さない。
「そんなおれに惚れた貴方が悪い。」
月明かりに2つの影を落とし。
私達は帰路に着く。
絡めた指を解くことなく。
月は、ずっと綺麗だった。
「月が綺麗ですね」
訳︰貴方が好きです。
「月はずっと綺麗でしたよ」
訳︰私もずっと前から貴方が好きでした
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ミアレシティの夜。
日付が既に変わった深夜。
街灯に照らされた夜道を私は1人きりで歩いていた。
(ここ最近、ずっと残業続きね……)
心の中で不満をボヤいた。
クエーサー社に勤めて数年。もう何週間も上層部の無茶振りにより数字に追われる日々が続いている。
お陰でお昼は、サンドイッチ片手にキーボードと言う組み合わせが日常茶飯事。
少し前までならお昼は必ず、ヌーヴォカフェでお気に入りの珈琲を片手に有意義な時間を過ごしていたのに。
別に仕事だし、仕方の無い事だと割り切れる。
だけどーー。
「恋人と過ごす時間も無いとか、酷すぎよ…」
思わず口をついて出た。
やっとの事で交際にまで漕ぎ着けた人。
今思い返すと、その道のりは奇跡にも近い。
なのに、こうも会えないとは。
「今日も店仕舞いして帰ってるんでしょうね。」
淡い期待なんてしてないと、私はオトンヌアベニューから右回りに工事中のメディアプラザの外壁に沿ってベール大通りまで向かった。
そこは私の日々の通勤ルートでもあり、恋人の仕事場。
「居るわけ、ないわよね……」
ブルー大通りに差し掛かった所で、その先のベール大通りへと目線を移す。
すると何故か、通りに入る角から明かりが漏れていた。
(なんで?こんな時間に…?)
そんな訳ない。
でも、間違いなくそこは、彼が普段から居る職場の位置。
胸がざわつき私は思わず駆け足になった。
ヒールの音が石畳を強く鳴り響かせるが構わない。
カッカッと鳴らし、慌てて通りの角を曲がる。
そこには、やっぱり見覚えのある赤いマークの車と彼が。
「っ……グリ!」
名前を呼ぶと、彼は私に振り返った。
赤色と灰色が混在する髪をオールバックみたいにしたその髪の毛。白い眼鏡に閉じた糸目。ヌーヴォカフェの制服を身に纏ったーーー間違いない、私の恋人。
「貴方、帰ってると思ってたわ」
少し息を切らせながら彼を見る。
するとグリは普段から絶やさない接客スマイルは崩さないまま、私の元へと近付いてきた。
「遅いですよ、リリィ」
笑顔はそのまま。
だけど、声のトーンが明らかに低い。
「遅いですよって、連絡もせず待つ貴方が悪いわ」
せめてスマホロトムで連絡しなさいよ。と。強気で悪態をつくと、グリはやれやれと肩を落としながら首を振った。
「しましたよ。3時間程前に。」
「え!やだ、嘘!」
グリに言われて慌ててスマホロトムを起動させる。
履歴を見ると確かにあった。
【終業のお時間になりましたらご連絡下さい。】
と、業務めいた一言。
あ、この人ってば、そういう人だったわ。
「恋人ならもっと恋人らしい文を打てないのかしら…。」
頭を抱える。
彼はいつもそう。
恋人らしい言葉はくれない。
「それよりも珈琲がありますけど、いりますか?」
「私のために?」
「はい、もう冷えてしまいましたが。」
そう言って差し出されたテイクアウトコーヒー。
冷えていても良い。と、私はそのカップを受け取った。
「グリーズはどうしたの?」
「先に帰しました。と言うより…帰りました。」
「ふふっ、グリーズらしいわね。」
きっと彼女の事だわ、『付き合いきれねぇから帰る』とか言って気を遣ってくれたに違いない。
「送ります。暗い夜道はお嫌いでしょう?」
薄っすらと目を開けて、グリが私を見た。
見透かしたような、鋭い目付き。
たまにしか見せない、その表情が私の胸を高鳴らせる。
「そうね、じゃあお願いしようかしら。」
悟られないよう平然とした素振りを見せれば、グリは「では」とキッチンカーを素早く消灯し施錠する。
その手際の良さは感心する程で、あっという間に最後の施錠を終わらせると、鍵をポケットに仕舞った。
「行きましょう」
その言葉を合図に私達は歩き出す。
手を繋ぐなんて、事はしない。
ただ肩を並べて歩くのみ。
「ごめんなさいね、待たせてしまって。」
「構いませんよ、おれが勝手に待っていただけなので。」
「でも、貴方に悪いことをしたわ。」
謝罪と共に冷え切った珈琲を一口飲む。
苦味が口に一気に広がる。
それは私達のように甘くはない。
「…次から、夜遅く1人で帰る時は連絡を下さい。」
「どうして?」
「どうしてって、それは…」
「貴方が心配だからですよ、リリィ。」
心配ーー。
その一言に、私は足を止めて彼に振り向いた。
同時に彼も歩みを止める。
「心配してくれるのね。」
「当たり前でしょう、おれ達は恋人同士なんですから。」
グリはそう言いながらこっちを見てはくれない。
だけど、それが嫌でもなくて私は含み笑う。
「グリから恋人って言葉が聞けて嬉しいわ。」
「…………、おれを何だとお思いで?」
「ぷっ、だって、貴方から好きとか愛してるとか、付き合ってから一度も聞かないもの。」
寧ろ私しか言ってない気がするわ。と笑いながら付け加えると、グリは黙った。
「別に良いわよ、私が言えば済む話だもの。」
夜風に長い髪を遊ばせながら、私は夜空を見上げる。
星空に満月が煌々と光り、それはとても美しかった。
「……月が。」
グリが、隣で何かを言いかける。
私はそれにつられて、見上げた夜空から彼に目線を移した。その横顔は私に少し向けられてはいるが、目線が糸目なので判断がつかない。そして次の言葉がやってきた。
「月が、綺麗ですね。」
一切、月を見ていないのに。
その表情はどこか熱を帯びていた。
(案外、ロマンチストな所もあるのね…。)
彼の意外な一面を見れた気がした。
(でも、その台詞は私も知っていてよ?グリ。)
嬉しさと、愛おしさが一気に胸に込み上げる。
そして私は、貴方にこう返す。
「月はずっと綺麗でしたよ?」
“その言葉の意味は、貴方も知っているでしょう?”
そんな意味深な笑みを浮かべると、彼は一瞬、言葉を失った。琥珀色の瞳が私を見つめて、次にはふっと彼も微笑む。
「そうでしたね。」
嬉しそうなグリの声。
2人で微笑み合い、自然と互いの指を絡ませ手を繋いだ。
そしてもう一度、2人揃って歩き出す。
「ねぇ、グリ。」
「なんでしょう、リリィ。」
「私、明日休みなの。」
「それは良かったですね。」
「えぇ。」
「………ねぇ、だから…」
「今晩、家に泊まっていかない?」
「…………よろしいので?」
「えぇ勿論、よろしくてよ?」
「その意味、分かって言っていますか?」
「分かってるから、言っているのよ。」
そう言って見上げると、彼の喉が静かに鳴った。
絡めた指に、僅かに力が入り熱を持つ。
「そうですか。では、遠慮なくお邪魔しますね。」
「良いわ、そのかわり朝ご飯はよろしくね。」
「大丈夫です、貴方にキッチンは立たせません。」
「あら?それってどう言う意味かしら?」
「それは貴方が1番良くご存知では?」
その言葉と同時に引き寄せられる。
触れた唇は一瞬なのに、絡めた指よりも熱かった。
「……ずるい人。」
琥珀色の瞳が、私を離さない。
「そんなおれに惚れた貴方が悪い。」
月明かりに2つの影を落とし。
私達は帰路に着く。
絡めた指を解くことなく。
月は、ずっと綺麗だった。
「月が綺麗ですね」
訳︰貴方が好きです。
「月はずっと綺麗でしたよ」
訳︰私もずっと前から貴方が好きでした
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