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dream




苦笑した、彼を見たとき、中身が、ほんの薄っすらと、透けたように、見えた。
なにかが、引っかかっている、そんな、気がした。
缶ビールをテーブルに置いた。その音だけが、静かなリビングを制した。
彼はいつも、どこか遠くを見ている。カメラ越しに、憂いた瞳越しに。
わたしの視点からでは、一生見られることのない景色を、ただ、彼は見ているのだと、おもう。
目が合っても、合った気はしないのは、彼がアイドルだから、ではない。違う世界を見ているからだった。
そうおもえば、なにもかも合点がいく。
彼がなにを抱えているのか、わたしにはさっぱりだ。浅い関係では、ひけらかしてはくれないだろう。
多分、わたしではない別のだれかが、彼を救うのだろう。わたしでは、彼を救うことなど出来はしないのだから。
「する?」冗談めかしていう。
「しない」真面目に断られる。
眼鏡の奥を、見たことがない。それを見られるのは、彼が心の底から愛するひとだけなんだ。
わたしは、缶ビールを取る。ほとんど減っていなかった。傾けて、飲む。飲み慣れた味なのに、苦く感じた。ビールを苦く感じるほど、子供ではないのに。
飲み干してから、笑う。
「キスは」
「駄目」
わたしたちの関係に、なんの意味があるのだろう。
「偶像崇拝はもうやめろ」
「なんで」
「俺は神や救世主なんかじゃない」
彼のファンがきいたら、ショックで寝込んでしまうだろう。
「そう、じゃない」
「は?」怪訝な顔をされる。
「アイドルっていうのは、そういうことでしょ?ファンを喜ばせ、慈しむ、」
「なに勝手に幻想抱いてんだよ」
「幻想よ!アイドルなんか、表面上を撫でるだけでしょ」
「ひっでえな」
「ひどいのはどっち?中に入らせてくれないのは、そっちじゃない!いつも怖がって逃げてるくせに!」
細い目が、大きく開かれる。
「自分で気付かなかった?あんたはアイドルという役職を盾にして、自分を守ってるだけなのよ。
今だって、自分の本性を悟られたくなくて、隠したくって、逃げて、なにもなかった顔をする」
「そんな」
「そんなことない?どの口がいうの」
わたしは、一気に飲み干したビールに酔っていた。
「あなたが幻想だから、わたしは一生踏み込めないのよ」
そう、いってやると、彼は黙ってしまった。
口を閉ざしている彼を見て、自分が酷い人間におもえた。まったく、酷い人間だ。
「さみしいよ」
そういったけれど、返事はかえってこなかった。
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