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「幸村」
重々しく、名前を呼ばれて、幸村はジャージを脱ぐ手をとめた。となりに立つ真田を見上げる。
「どうした?」
「......すまん、なんでもない」
真田は、うつむいて、シャツのボタンに手をかける。
「珍しいな。キミが、なんでもないのに、俺を呼ぶなんて」
「どうかしていたな」
一番上まで、ボタンを止めた。正しく制服を着る姿は、性格まであらわしていた。
「そういう、ときも、あるさ」
止めた手を、ふたたび、動かす。ジャージから、制服に着替える。ロッカーのなかに入っていた制服は、すこし、冷たくなっていた。
大会が控えているから、すこし、落ち着きがないのだろう、と幸村はおもった。
「真田」
「なんだ?」
「俺は、お前より、強いから」
「は」
真田は、目を丸くして、幸村を見る。会話が支離滅裂だった。
幸村は楽しそうに笑いながら、きれいに締められたネクタイを思いっきり自分のほうへと引っ張る。おもいがけず、バランスを崩した真田は前のめりになる。倒れそうになった真田を抱きとめ、その耳元へ口を寄せる。
「お前が、一番、知っているだろう?」
そう、いって、真田の体を手放した。支えを失った真田は、あっけなく、床へ崩れ落ちる。
「なぁ、真田。俺の心配をしている暇があるなら、俺に勝てる努力しなよ」
次の大会は、幸村にとって、復帰後のはじめての大会になる。きっと、真田は、不安におもっているのだろう。態度はおかしいのは、それで、説明がつく。
「俺は勝つ。今までのように、これまでも、な」
「ああ、そうだな。すまなかった」
座りこんでうなだれていた真田は、ちいさく、いった。
幸村は、もう大丈夫だろうとおもい、真田へ、手を伸ばす。
「勝つぞ、真田」
「ああ」
幸村の手に、真田の手が重なる。

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