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18/8/23

周囲の調査を終えて、拠点へ帰ると、か弱い獅子が怪我をしていた。カインは息が止まりそうに、なった。しばらくその場に立ち尽くしてしまった。
苦痛に顔を歪めているスコールに仲間が群がっている。傷口を抑えているバッツと回復魔法をかけているティナ以外のメンバーは心配そうに見つめている。セシルは他の傷の有無を訊き、ジタンは痛みの具合を訪ねている。
普段人を頼りにしようとしないスコールが、いまは甘んじて受けている。ひとりではどうにもならない状況だったに違いない。
先ほど見つけた次元の狭間のことを忘れ、輪になっているそこへ近づいた。
気配に気付いたライトニングが、カインを見る。
「なにがあった」
訊かずにいられなかった。戦闘に長けているスコールが、あんな深い傷を作るとは。よほど強敵だったのだろう。
「イミテーションが突然大量に押し寄せたらしい」
スコールの成す輪からすこしはみ出たライトニングは、落ち着いた声でいった。
仲間の大怪我でも冷静な彼女は、スコールを心配しながらも、辺りの警戒を怠らなかった。
「ひとりで?」
「いや、ジタンとバッツも一緒だった。予兆はなかったらしい。いきなり現れて襲いかかられた、といっている」
「なぜ、スコールだけが?」
カインの率直な疑問に、ライトニングはあからさまな大きいため息を吐いた。
「数が多すぎてキリがないから、スコールが囮になって、二人を逃したそうだ」
スコールならやりかねない。三人で勝機を見込めなければ、すぐさま自分だけを切り捨てる姿を容易に想像できる。戦う者でありながら、やさしすぎる。
「複数人連れて、スコールの元へ向かったときには、スコールが大怪我をして倒れてただけだった。ひとりで無数のイミテーションを倒したようだった」
言葉もでなかった。数えきれないほどの敵に囲まれていただろう。どうやって打開したのか。いくらスコールが強いといっても、一斉に斬りかかられたら、成すすべがないはずだ。あの細い体躯に一体どれだけの力を秘めているのか。スコールのことは、まだまだ未知だと、カインは不謹慎ながらにおもった。
「それで、北の方角にはなにかあったか?お前も襲われたりしなかったか?」
「ああ、すこし先に狭間を見つけた。数日は開いているだろう。辺りに敵の気配はなかった」
「そうか。その狭間については、この騒ぎが落ち着いてからだな」
ライトニングは、ざわざわとしている仲間たちに目を向ける。その瞳は、心配げなものだった。落ち着きはらってはいるが、彼女も動揺しているのだろう。
手当が終わったようで、バッツに担がれたスコールは無抵抗でテントへ運ばれていった。その様子をみんなが不安げに見つめていた。
「ティナの回復魔法はよく効く。数日すれば、治るだろう」
その言葉に、ライトニングは頷く。しかし、本当は自分に言い聞かせるためのものだった。
傷ついたスコール姿を見てから、心臓がうるさく騒いでいる。
ただ、スコール、と心のなかで呼びかける。何度も、呼びかけた。

誰もしゃべらない、暗い雰囲気のまま、夕食を終えた。仲間たちが気を張っているのを悟ったウォーリア・オブ・ライトが、いつもよりはやく就寝をとるように指示した。それには、みんなも同意した。見張りは、カイン自ら志願した。眠れるわけがなかった。
数個設置されたテントに、各々はいって行く。いつもは、夜遅くまでしゃべり声がきこえるが、今日は静かだった。カインは、ゆらゆら揺れる火を見つめた。いやでも、傷だらけのスコールが思い浮かんだ。心が痛んで、仕方ない。あたりをもう一度見回って、スコールが運ばれたテントへ足を運ぶ。
足音を立てぬように、そっと、テントの入り口をあける。中央にスコールが横たわっている。その両側に、バッツとジタンが眠っていた。看病疲れか、いびきをかいている。二人を起こさぬように、スコールへ近づき、顔を覗き込む。綺麗な顔は、細かい傷だらけだった。体のほうを見る。出血が止まった傷には、化膿しないように丁寧に包帯を巻かれている。腕にも包帯が広がっていて、痛ましかった。
スコール、と、今度は、口に出して名前を呼ぶ。愛しいものの名前を呼ぶように、熱が込められていた。
しゃがんで、そっと、スコールの髪を撫でた。カインはゆっくりと立ち上がり、スコールからはなれる。テントを出かけたとき、後ろから布が擦れる音がした。同時に、くぐもった声がした。カインは反射的に後ろを振り返る。
スコールが半分体を起こしていた。カインは兜の下の目を大きくさせた。
「だれだ、?」
「スコール」
「......カイン、か?」
いてもたってもいられなく、再びスコールのそばに寄る。目線を合わせるようにしゃがんだ。
「ああ、俺だ。安心しろ。痛むか?」
「すこし」
いくら回復魔法をかけたといえど、全回復するわけではない。休息が必要だ。深い傷ならば、なおさらだった。
「傷はティナの魔法で塞いだ。すまないが、痛みはどうにもできない」
「わかってる」
まだ痛むのか、スコールは目を細める。
「痛みはまだ続くだろう。我慢できるか?」
カインは、冗談まじりに、そういった。
「こども扱いするな」
すねた口ぶりは相変わらずで、おもわず笑みがこぼれてしまう。笑ってしまうと、スコールはますます、すねてしまうのだが、こらえきれず、カインは、ふふ、と息をはいた。
「すまない」
笑いながらの謝罪は、スコールにはとどかず、むす、とほほをふくらませる子供のように、すねた表情をふかくする。
傷は癒えてはいないが、元気そうだった。カインは、心底安心して、スコールの頭をなでる。
「あんた、いつもと違う」
「そうか?」
「ああ」
「さぁ、もう、目を閉じろ。はやく治るようにな」
「ああ」
やわらかな雰囲気にのまれた、スコールは目を閉じた。それを見届けてから、カインはそっと、スコールへくちづけをした。

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