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18/8/23

手渡されたのは、見るからに安物のシルバーリングだった。
「気に入ったろ?」
得意げな顔をして、ヴァンはスコールの左手をとった。スコールが驚いて手を引っ込めるよりも先に、グローブをはずした。日に浴びていない白い手があらわれる。
「なぁ、スコール」
なぜだか、スコールは泣きそうになった。
「すきだ」
まるで、プロポーズをするように、ヴァンは薬指にリングをはめた。サイズはぴったりだった。
「ずっといっしょにいてほしい、なんていってもお前が困るだろうから。この指輪だけは、ずっと持っといてくれよ」
「......ずるいぞ、ヴァン」
「なんで?」
「俺は、あんたになにも与えてやれない」
「なにいってんだよ。俺、スコールにたくさんもらったぞ」
そう言って、ヴァンはスコールを抱きしめた。やさしく包み込むように、背中へ手をまわす。
「スコールの気持ち、ぜんぶ。俺だけにもらえた」
ふるえるスコールの耳元で、そっと、ささやいた。
「形にしなくても、俺はじゅうぶんだった」
これから訪れる別れに、スコールは堪えきれずに涙した。
「スコールはさ、忘れっぽいだろ?だから、お前の好きなものに俺の気持ちを込めたから」
「あんたも、忘れっぽいだろ」
「そっか?でも、スコールほどじゃないだろ」
「ふ、そうだな」
ふたりは顔を見合わせて、わらった。
ヴァンは、はじめのころまったくわらわなかったスコールを思い出していた。なにをやっても無愛想で、さびしいやつだとおもって、放っておけなかった。世話を焼いていくうちに、スコールへの想いが変わっていった。時間をかけて、ヴァンとスコールは手をとり合った。交わりもした。いまでは、破顔するようになった。スコールは、もう、大丈夫だと、ヴァンはおもう。
「......じゃあな、スコール」
スコールからはなれる。
「行かないでくれ」
涙声の言葉に、揺れる。けれど、ヴァンは静かに首を振る。
「スコール、ひとりで帰れるだろ?」
「ヴァン、行くな、俺のそばからはなれるな、」
「その指輪を見るたび、俺を思い出せばいいから」
ヴァンはそういって、白い光に包まれた。
スコールはひとり残された。涙が止まらなかった。消えたあとを見て、視線を指輪へ移す。自分の持っているシルバーリングとは大違いだった。しかし、つくりも甘いそれは、はじめからあったように指に馴染んでいた。
スコールは、指輪をはめたうえにグローブをはめる。自分の手を握って、元の世界へ意識を集中させた。
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