創作腐話

「どうやってべろちゅーするの?って聞かれちゃった」
「唐突だな」

隣り合わせに座ってティータイムと洒落こんでいた八酔が、思い出したように口を開いた。
酒の席でも中々出さないような話題を振ってくる友人がそれなりに居るのは知っているので深くはツッコまない。

「僕は仮面だし、君も覆面みたいな顔だもんねぇ」
「わいは舌出せるぞ」

ネイキッドは青い覆面のような顔から舌を覗かせた。
長い舌の先は二股に割れていて、割れ目に輝くピアスが唾液で艶めかしく光る。

「ま、どうやってって聞かれたからさ」
「答えたのか?」
「普通にしてるよって」
「…その普通が想像つかなかったから聞かれたんらろうな」
「それよ」
「だろうて」
「だからさ」

彼の口元のスリットに指を這わせる八酔。
ネイキッドは反射的に指を受け入れると、口内に遠慮無く指が侵入する。
抵抗がワンテンポ遅れたのかあっさり舌先を摘まれ、赤い舌がずるりと引き出された。

「なん、ら?」
「やだ?」
「…んん」

嫌ではない、と首を振るのを確認すると、無防備に晒された舌にギザギザした仮面の口が迫る。
薄く開いた口元を探るように舌を這わせると、ピアスと仮面が当たる無機質な音が立つ。

「んグ…ッ」
「ぁ…急に動くから」

尖った所に掠めたらしく、痛みに舌を引きそうになるが、ピアスを噛まれているのか叶わない。
浅く切れた痛みが舌を熱くする。

抱き寄せられ、自分より背の低い筈の八酔に抵抗出来ないまま引き倒される。

「ほら、ネイキッド」
「八…酔、」
「僕のべろ、わかる?」

熱くなった舌に、少し体温の低い薄い舌が絡む。
八酔の味がもっと奥まで欲しい、と夢中になって。舌が痛むのを構えない。
だらしなくも涎が止まらず、仮面の口元は唾液と少しの血液でてらてらと光る。

「んむ、ぷはっ」
「…八酔」
「ふふ…そんな美味しい?」
「ああ、…もっと欲しい」
「…甘いのと痛いののどっちがいい?」
「……痛い方で」

頼む、と言い終わる前に仮面の牙は厚い舌にくい込んだ。
鋭い痛みに肌は粟立ち、反射で顔が逃げる。
が、それを全く許さないかのように彼の両手が頭を掴む。
舌先から頭のてっぺんまで痺れるような痛みが走り、身動き出来ない状況に視界はチカチカと火花を散らす。
自分の血の味に混ざった彼の味が舌の根まで絡み付いて離れない。



「はぁ、……う、あ」
「あ、れ?やりすぎちゃった?」

どのくらいこうしていたのか分からないが、時間の経過すら曖昧になる程夢中になっていたのは分かる。
ぼんやり滲んだ視界が徐々に鮮明になると同時に気づくのは、飲み込みきれなかった血液と唾液が悲惨な程に服を汚している現実。

「…真っ赤っかだな」
「ネイキッドの血…もったいないなぁ」
「それよりも八酔の白い服がひどい有様だ」
「自分の心配して?」
「わいの台詞だな」
「…あ、血止まってないよ」
「ん、どこだ」
「ほら、この辺…ン」
「んむ」

舌先で出血している箇所をつつかれ、そのまま口付ける。
傷を癒すような甘噛みに先程とは違う快感が背筋を駆ける。
舐め取った血を飲み下したであろうタイミングで名残惜しそうに顔が離れる。

「ごちそうさま、っと」
「わいの方こそ」
「たくさん欲しがってくれたけど 足りた?」
「ああ、いくらだって欲しいが今は満足だな」
「ほんとう?僕のべろ、ネイキッドの喉奥までブチ犯してあげられるほど長くないから…」
「今のままで充分さ」
「欲しがりなのに謙虚でいい男すぎる」
「八酔もわいを満たしてくれるいい男だ」
「えー?褒めてもご褒美しか出ないよ?」
「そういう所が好ましいな」
「ふふ、これが僕たちの普通だなんて贅沢だよね」
「同感だ、噛み締めさせてもらおう」
「幸せも舌も噛んじゃうってね」


*たんと召し上がれ
(たんとタンが掛かってる)
(べろ食べろってか)
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