創作腐話

「起きてたの?」

夜食でも食うかと冷蔵庫を漁っている最中に、人気の無いはずの暗い廊下から話しかけられて思わず後退る。
暗闇の中でも光る頭の輪に、照らされた金髪がキラキラ反射して眩しい。

つかつかと部屋に入ってくるなり不機嫌そうな目でこちらを睨む。

「そんなに驚かなくても良いだろ」
「いや驚くわ。…ハルサメこそ起きてたのか」
「あー、偶々ね」
「…もしかして起こしたか?」
「偶々だって言ってんだろ」
「怒るなよ、可愛い顔が勿体ないぞ」
「うるせえー」

素っ気なく横を通り過ぎ、冷蔵庫を開けて中を一瞥すると不満そうに閉じる。
さっき覗いたばかりだから解る。

「…悪いな、手頃なモンは切らしてたわ」
「僕は飲み物だけで良いってのに」
「腹減って苛立ってんじゃねーの?」
「クソ悪魔と一緒にしないで」
「まあまあ、ラーメン作ってやるから落ち着けよ」
「…こんな時間にそんな食えないよ」
「知らないのか?シェアして食えばカロリーも半分こだ」
「っ、そこまで言うなら…食っていってやってもいいけど」
「そう来なくちゃな」

塩か醤油かと袋を眺めていると、棚から丼を取り出しながら塩と呟く声がしたのでそっちの袋を開ける。

「具なしだと味気ねえか?」
「どんだけ腹減ってんだよ…」
「せっかく作るなら美味いの食いたいだろ」
「…わかるけどさぁ」
「ほれ、ハムとカニカマならどっちが好きかよ」
「……ハムかな」
「卵は半熟のがいいか?」
「増やすなよ具を」

やれやれ、と肩を竦めつつも 黄身は固めにしてと言ってくる辺りがまさに俺の好みである。

茹でている麺に卵を割り入れて黄身が固まるまで煮る。
丁寧にふたつ並べられた丼に目分量で半分ずつラーメンを分ける。
仕上げにハムを雑に並べると理想の夜食ってかんじのルックスになってニヤける。

「ほらよ完成っと、いただきまーす」
「…手慣れてんね」
「んあ?」
「作ったり分けたりがさ」
「そおか?…まあ伸びる前に食えよ」
「ん、いただきます」
「口に合うと良いがな」
「…不味く作りようも無いだろ」
「素直に美味いって言えねえのか」
「不味くなるから話しかけんな」
「つれねえヤツ」

ここまで塩対応されてもどうってことないのは慣れなのか惚れた弱みなのか。

黙って食ってしまえば半分サイズのラーメンなんてすぐに食べ終わってしまう。

「なあ、ハルサメ」
「何?食器くらいちゃんと片付けるけど?」
「…まだ帰したくねえんだが」
「……はあ?」
「いや、なんというか」
「記憶ぶっ壊れてんの?僕は泊まりに来てるんだから同じ寝室に帰るんだぞ」
「そうなんだがそうじゃない」
「はっきりしないなぁ」
「極端に言うと寝るのが惜しいんだよ。せっかくお前がいるのに寝てしまうのが勿体ない」
「うわキザったらしい」
「そうは言ったってお前も好きな癖に」
「っ、うるさ… 」

逃げようとする腰を抱き耳元で囁く。

「なぁ、してもいいだろ?」
「…耳元やめろ…っ」
「こんな日の為にでっかいマシュマロとチョコ買ってあるぞ?」
「う、ぐ…」
「温かいスモアが嫌ならバケツプリンがいいか?アイスもリットルで買ってあるぞ」
「やだ…やめっ」
「そういえば一番好きなのはあれだったな。フレンチドッグ」
「やーめーろ!太らせようとすんなよ僕を!」
「ふはは!嫌がる顔も良いな」
「本当やだ…」
「素直じゃないな」
「どんな思考してんだてめー」
「口が悪いぞ」
「こんなんクソ悪魔にだけだわ」
「特別待遇ってわけか」
「マジでどんな思考してんだ?」

惚れた弱みだよ、と笑ってみせると空いた丼で頭をカチ割られた。
言うても深夜の菓子食い放題したくないか?
夜更かしに菓子とか韻が踏めそうだなと続けると諦めたように傷を治してくれた。


「今回は仕方ないからクソ悪魔の我儘に付き合ってやる…が、次は僕が好きにさせてもらうからな」
「そうだな、そうしてくれ」

次があるってだけで何だかんだこいつも甘いんだよな。


*夜更菓子-ヨフカシ
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