創作小話

「スイーツバイキング?」

普段あまり熱心に会話しない吸血鬼の…たしか、菊月とか言ったかと思うが。突然話し掛けられて疑問符を連打してしまう。

「…に、オレを誘ってるのか?」
「うん…だめかな」
「ダメとかじゃなくて話が見えないんだ」
「えと、おひとりだと気まずくて」
「分かる」
「…がっつりフードファイトの気分で」
「ふんふん」
「だからナナミヤと行こうかなって」
「うん?」

言ってることは全部分かるのに最後だけよう分からん。
例えば、血縁でない兄弟や狼男の彼、人付き合いの良いオレの同型なんかが居るわけで、それを除外して誘われるのがシンプルに疑問なのである。
(断じて誘われるのが嫌というわけではない)

「連れ歩くにオレを選んでくれて光栄だが、決め手とか聞いても良いか?」
「ん、ナナミヤってたくさん、ぼくと同じくらい食べてくれるかなって」
「確かに甘い物ならかなり食べるよ」
「…これ内緒なんだけどね、デートだと可愛子ぶっちゃって…たくさん食べれなくて」
「あぁ、なるほど」
「あと…ナナミヤは下心なさそうだから良いなって」
「そこまで色々考えてからのセレクトだったんだな、教えてくれてありがとう」
「…こんな語っちゃったけど、ほんとに迷惑じゃない?」
「迷惑なものか、むしろ嬉しいくらいだ」
「よかったぁ…」

安堵したように微笑む顔に不覚にもときめく。
彼は魅了のスキルでも使えるんだろうか?と思いつつ表情が緩まないように背筋を伸ばす。

「で、日程は?」
「あ…」
「どうした」
「このあと…すぐ行く気になってた。予定平気?」
「予定は大丈夫だ、だがもう少し腹を減らしてから行きたいかもな」
「…ナナミヤも、本気なタイプ?」
「フードファイト的な意味でか?競う気はないんだが…せっかく食べ放題なら、とな」
「ぼくと…おんなじ、かも」
「気が合うじゃないか」
「ん…へへ」

へら、と笑みをこぼす菊月に何度目かのときめきを覚える。
桃色のくせ毛がゆらゆらと揺れるのを見ると、気のせいか甘い香りがする。

「…菊月を見ていると、苺のモンブランとか食べたくなるな」
「それ、ナナミヤが言う?」
「うん?」
「きみは宇治金時の香りがするから…ぼくは抹茶スイーツ食べたくて仕方ないとこ」
「んな、…はは、同じだな発想が」
「…でね、それすごくちょうど良くて」
「丁度良いとは?」
「今やってるスイーツのフェア、春色な苺と抹茶の特集で」
「!」

何度目かの顔を見合わせるタイミングだが、今回は二人の目の色が変わっているのを互いに察する。

「…ぼく、すごく食欲増してきちゃった」
「彩りを想像するだけで もう堪らないな…」
「ふたりなら全種類いけるかな」
「きっと制覇できるさ」
「やっぱりナナミヤ心強いね」
「菊月もな」
「ぼくも?」
「本気、見せてくれるんだろ?」
「ん、まかせて」
「成し遂げたら兄弟に自慢しよう」
「すっごく羨ましがるかも」
「存分に羨ましがってもらおうじゃないか」
「んへへ…楽しみ、だね」

足取りも軽く目的地へ向かう。
この後のスイーツバイキング屋が、めちゃくちゃ忙しい思いをするだろうかと薄っすら心配になるが、そんな心配も砂糖の香りに溶ける。
好きな物の前では自分勝手になってしまうのがヒトなのだ、とオチをつけることにした。

(機械人と吸血鬼だけど、な)

補足として述べておくと、たまたま知人がキッチンのヘルプに入っている店だったらしく
オレ達の卓には特別にホールケーキが集うという誕生日でも中々見ないような景色に狂喜乱舞するところだった。


* 身に甘る

END
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