創作小話

「明るい所って苦手だな」

普段は飄々とした彼、長月が呟いた。
独り言かとも思ったが、丁度退屈していた青い覆面…のような素顔の彼は応える。

「明るい所…ああ、夜目の方が利くからか」
「そういうのもあるけど」
「というか吸血鬼だしな、そりゃ昼は苦手だろうな」
「言うて夜は眠いけどな」
「分かるぞ」

朝も夜もだいたい眠いよな、とネイキッドは笑う。
吸血鬼のくせに、とか揶揄うことをしない彼の性格はかなり好ましいものである。

「おっとすまん、話題がズレたな」
「…なんて言ってたっけ」
「明るい所が苦手だとか」
「そうだった。でもこれあんま面白くない話…かも」

少し話しづらそうに菫色の紙を弄る。
どんな話であれ聞いてくれるのは知っているが、つまらない思いはしてほしくない、と言葉が喉に詰まる。

「せっかくだ、わいにで良ければ聞かせてくれよ、碌」
「…ネイキッドが良いなら」
「良いに決まってるさ」
「んじゃ、えー…明るいってさ、昼だけじゃないじゃん」
「うんうん?」
「んー、語彙力が足りん、説明むず」
「ああ、たしかに夜も明るいよな、街灯りで」
「物理的な明るさというか、な」

明るい、明るみ、とか口篭るのでひとつ考察を述べる。

「…もしかして、人目があるとかいう意味か」
「!、そうそれ。」
「…が、苦手なのか?」
「ちょっとな」
「それは所謂、人前とか舞台とかそういう?」
「それよりももっと手近な感じ」
「ふむ」
「そうだ、そう。人混みが苦手なんだ」

やっと解釈通りの言葉を紡げて安堵する。
言いたいことが喉を滑って口から溢れる

「吸血鬼ってさ…ちょっと偏見の目向けられがちなんやなって」
「偏見」
「なんなんだろうな、吸血鬼のイメージて魅了とか色欲とかだと中途半端だし いっつも腹ペコで快楽殺人するとか思われんのかな」
「言ってることは分からんでもない」
「『俺(私)のことも襲ってくるに違いない』みたいな目で見られるのが、嫌なんだよな」
「勘違いも甚だしいな」
「…自意識過剰かな、わい」
「そうじゃない」
「じゃない?」
「そのへんの通行人が碌の眼鏡にかなうと思っているのが高慢だ。見境無くても選ぶわけが無いだろ」
「そっちかぁ」
「そっちだろそりゃ。急に辛辣になると思われてるのか?」
「…ネイキッドに限ってそりゃ無いな」
「お褒めに預かり光栄だ」

表情こそ見えない彼の 笑っている気配を感じて、つられて顔が緩む。
なんとなく暗い話題になりかけたのを上手く逸らしてくれたのはありがたいが、話の流れる向きまでは変わらなかったりする。

「吸血鬼にだって相手選ぶ権利くらいあるよなあ」
「種族は関係無いと思うがな、吸血鬼だってという言い方はどうなんだ」
「ええ?」
「必要以上に謙ることはないぞ、碌」
「自己肯定感がやや低いのがバレたな」
「まあ偏見に遭うとどうしてもなぁ」
「…なんか話聞くのやけに上手くね?」
「お、随分褒めるな?」
「だってさあ…」
「上手いと思われてるならそれはあれだ、友情愛情のなせる技だと思ってくれ」
「…。恥ずかしい奴め」
「ふはは、照れるなぁ」
「褒めてないがな」

真顔で否定したつもりだったが、照れが勝つので口元は緩み目が細まってしまう。
見抜かれないようにふいっと横を向いた。

「で、どうなんだ?明るい所はそんなに苦手か?」

いつの間にか顔を覗き込まれて、他意なんて無いまっすぐな目線を感じる。

「…まだ苦手かもな。だから1人で過ごすのは遠慮したいところだ」
「いつでも呼んでくれよ、碌と過ごすのも有意義だからな」
「本当恥ずかしい奴だなマジで」
「そんなに褒められると調子狂うな」
「褒めてねーっての、な!」

照れ隠しに彼の尻を叩くと、今日イチ嬉しそうなリアクションをしてくれて
こっちまでいい気分になったのは内緒である。


*色眼鏡

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