騎士と武者(SDGF)

月を背に低く飛ぶ彼の腕を思わず捕まえた。

「おい…痛いぞ何をするんだ、馬鹿力だな」
「す、すまん!何だかゼロが月明かりに融けてしまう気がして…」
「何を言って…って痛いぞ、そろそろ離してくれないか」
「…あ、あぁ…すまん、しかしお主の手はこんなに細かっただろうか?」
「細腕だと馬鹿にしているのか?まあ教えてやろう。私は精霊なのだから…お前の様に食べたら肉がつく身体ではないのだ」
「そうなのか…いや、そうだったな!とんだ無礼をした」
「まったく、あと一つ言わせて貰うが、先程の様な口説き文句は女性に言うものだ…変な期待はさせないでくれ」
「あいや、決してそんなつもりで言ったんではないぞ!俺はただお主が…」
「…私が何だと言うんだ」
「比喩では無く本当に、融けてしまいそうで、美しい、と思ったら…自然と手がだな…細いは失言だったが、その、悪い意味でそのようには思っていないからな」

掴んでいた腕を振りほどかれる。
彼の瞳は怒りに潤んでいるように見える。

「爆熱丸。口説くならこの際はっきりしてくれないか!?期待ばかりさせて…お前にとって私はどうなんだ!何なんだ!言ってみろ!」
「落ち着けゼロ、さっきから口説くとか期待とか言われても意味が分からんぞ」
「なっ…じゃあ、さっきの融けそうとか美しいとか、どういうつもりで…」
「思ったまま言っただけだ。気を悪くさせたなら改めて謝ろう」
「…いや、悪い気はしない…どうにも私の思い過ごしだったようだ」
「ふむ、先程の質問には答えた方がいいか?」
「それは…聞くのが少し怖いな」
「怖いのか?」
「叶わない想いだなんて自覚したくないに決まっているだろ…」
「ゼロ…先程から勘違いが多いようだ」
「何だと?」
「その、な、先ずおなご扱いなんてしていないし、こんな他愛のないことで口説いていると思ってもらえるなんて嬉しい誤算というか」
「待て待て待て。」
「意外と脈がありそうで安心したぞ」
「…それは私の台詞だ」


*無自覚に口説いてる恐ろしい男
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