監獄兎
「ボリス、」
「…あんだよ」
「手、荒れてるよ?」
「は?…ああ、仕方ないだろ。ちゃんと洗わないと、火薬臭くて駄目だから」
「クリーム塗ればいいのに」
「…薬用しか使わねぇぞ?しかも無臭のヤツな」
「我が儘言わないでくださいよ。」
同僚で年下の先輩。
兼、俺の好きなヒト。
同性だとか、そんな事は問題じゃない。
俺がボリスに惚れたのには、ちゃんと理由があるからだ。
敢えてそれを述べるなら、彼が真面目で一途だという事。
与えられた仕事に一生懸命取り組み、それをしている間は周りに構わないで行動する。
それで視野が狭くなる事が多いらしく、返り討ちにされるのがお決まりのパターンだ。
「じゃあ、センパイ」
「…名前で呼べ」
「ボリス、俺が使ってるハンドクリーム貸してあげる」
「…無臭で薬用か?」
「蜂蜜の香りだけど…嫌?」
「嫌じゃ…無いけど」
「…けど?」
「本当に効くか?俺、肌に合わないのは嫌だから」
「…使ってみない事には、何とも言えないね」
「だよなぁ。」
「それとも、俺が舐めてあげましょーか?」
「はぁ!?」
「ほら、よく言うじゃないすか。唾付けときゃ治るって」
「今更言うか?」
「ま、ジョークだから気にしないでください」
「…舐めろよ。」
「え」
「舐められるんなら、舐めてみろよ」
挑発するように言われて、彼の心境が読めないまま話を進められた。
「さぁ、どうする?」
「…手に口付けをするって、どういう意味か分る?」
「手?たしか、懇願とかだったか」
「それは掌。手は尊敬を意味するんだ」
「尊敬ェ?お前が?」
「…どちらかと言ったら、懇願したいとこだけどね」
「何をだ?」
「……。」
俺が貴方に告白した時、
了承してくれないならそれでいいから、何事も無かったようにいつも通りに接してほしい、という懇願。
そんな事を口に出せるはずもなく、しばし沈黙が続くが、それを破るようにボリスが呟いた。
「…コプチェフ」
「は…、え?」
「なんだ?懇願って名前で呼ばれたいとかじゃないのか?」
「…それも、ありますけど」
このヒトは…、鈍感なのか敏感なのか分かんないよ…。とひとり苦笑した。
「んだよ、言いたい事あるなら言えばいいだろよ。俺とお前の仲だろ?」
「ボリス…」
「こんだけ言いやすくしてやってんだ。告白くらい早くしてくれよ?」
「え」
「あ、」
「今…なんて?」
「ったく、計画が台無しになっちまった…。まぁいいか。よく聞けよコプチェフ」
俺は他兎よりも耳が利くんだ。だから大抵の奴等は声で感情が分かる。
付き合い長いコプチェフの事なら尚更分かる。
だから俺は、お前が俺と話す時にいらん緊張をしてるのが分かった。
…すぐ気付いたよ。それが恋心だってな。
俺はそうやって想われた事なんて無いからな、正直嬉しかったんだ。
それから直ぐにお前に惚れたよ。まさか同性に惚れるなんて思わなかったがな。
で、自分からするんじゃ面白くないから、コプチェフに告ってもらおうとしたが、お前は以外と奥手だったと。
せっかく誘ってやってんだ。兎だったらノッてこいよ?
「…は、はあ……」
「なんか質問は?」
「無し、です」
余りにも意外過ぎる現実を飲み込めなくて、むしろ頭が空っぽになっていく気がした。
「おい、」
「え、あ、はい?」
「俺に言う事あるだろ?言っとくが、俺はお前を待ってやるほど優しくねぇぞ。」
「ボリス、………好き」
「…上出来だ」
「……っ」
なんか、思ってた展開と全然違う…。センパイってこんなにかっこよかったっけ…。
「ほら、掌。キスして懇願しろよ」
「…キスは、唇が先」
「はんっ、お前らしい」
『フレンチキスを交わして』
(さぁ、運転手なら俺の事乗り回してみな)
(俺の心は見事に狙撃されたってわけだ。)
終
「…あんだよ」
「手、荒れてるよ?」
「は?…ああ、仕方ないだろ。ちゃんと洗わないと、火薬臭くて駄目だから」
「クリーム塗ればいいのに」
「…薬用しか使わねぇぞ?しかも無臭のヤツな」
「我が儘言わないでくださいよ。」
同僚で年下の先輩。
兼、俺の好きなヒト。
同性だとか、そんな事は問題じゃない。
俺がボリスに惚れたのには、ちゃんと理由があるからだ。
敢えてそれを述べるなら、彼が真面目で一途だという事。
与えられた仕事に一生懸命取り組み、それをしている間は周りに構わないで行動する。
それで視野が狭くなる事が多いらしく、返り討ちにされるのがお決まりのパターンだ。
「じゃあ、センパイ」
「…名前で呼べ」
「ボリス、俺が使ってるハンドクリーム貸してあげる」
「…無臭で薬用か?」
「蜂蜜の香りだけど…嫌?」
「嫌じゃ…無いけど」
「…けど?」
「本当に効くか?俺、肌に合わないのは嫌だから」
「…使ってみない事には、何とも言えないね」
「だよなぁ。」
「それとも、俺が舐めてあげましょーか?」
「はぁ!?」
「ほら、よく言うじゃないすか。唾付けときゃ治るって」
「今更言うか?」
「ま、ジョークだから気にしないでください」
「…舐めろよ。」
「え」
「舐められるんなら、舐めてみろよ」
挑発するように言われて、彼の心境が読めないまま話を進められた。
「さぁ、どうする?」
「…手に口付けをするって、どういう意味か分る?」
「手?たしか、懇願とかだったか」
「それは掌。手は尊敬を意味するんだ」
「尊敬ェ?お前が?」
「…どちらかと言ったら、懇願したいとこだけどね」
「何をだ?」
「……。」
俺が貴方に告白した時、
了承してくれないならそれでいいから、何事も無かったようにいつも通りに接してほしい、という懇願。
そんな事を口に出せるはずもなく、しばし沈黙が続くが、それを破るようにボリスが呟いた。
「…コプチェフ」
「は…、え?」
「なんだ?懇願って名前で呼ばれたいとかじゃないのか?」
「…それも、ありますけど」
このヒトは…、鈍感なのか敏感なのか分かんないよ…。とひとり苦笑した。
「んだよ、言いたい事あるなら言えばいいだろよ。俺とお前の仲だろ?」
「ボリス…」
「こんだけ言いやすくしてやってんだ。告白くらい早くしてくれよ?」
「え」
「あ、」
「今…なんて?」
「ったく、計画が台無しになっちまった…。まぁいいか。よく聞けよコプチェフ」
俺は他兎よりも耳が利くんだ。だから大抵の奴等は声で感情が分かる。
付き合い長いコプチェフの事なら尚更分かる。
だから俺は、お前が俺と話す時にいらん緊張をしてるのが分かった。
…すぐ気付いたよ。それが恋心だってな。
俺はそうやって想われた事なんて無いからな、正直嬉しかったんだ。
それから直ぐにお前に惚れたよ。まさか同性に惚れるなんて思わなかったがな。
で、自分からするんじゃ面白くないから、コプチェフに告ってもらおうとしたが、お前は以外と奥手だったと。
せっかく誘ってやってんだ。兎だったらノッてこいよ?
「…は、はあ……」
「なんか質問は?」
「無し、です」
余りにも意外過ぎる現実を飲み込めなくて、むしろ頭が空っぽになっていく気がした。
「おい、」
「え、あ、はい?」
「俺に言う事あるだろ?言っとくが、俺はお前を待ってやるほど優しくねぇぞ。」
「ボリス、………好き」
「…上出来だ」
「……っ」
なんか、思ってた展開と全然違う…。センパイってこんなにかっこよかったっけ…。
「ほら、掌。キスして懇願しろよ」
「…キスは、唇が先」
「はんっ、お前らしい」
『フレンチキスを交わして』
(さぁ、運転手なら俺の事乗り回してみな)
(俺の心は見事に狙撃されたってわけだ。)
終