携帯獣

「ノボリ、ノボリ」
「…なんですか、クダリ」

バトルサブウェイの車内で揺られて居ると、話しかけてくるのは隣の男。

鏡合わせの様にそっくりの顔。
色違いでお揃いの服装。

一つだけ違うのは口元。
彼の口は何時も口角が上がっている、言わば笑顔の様ななりだが(しかし目は笑ってない)、私の口は常にへの字に曲がっている(断じて怒っているわけではない)。

「ノボリ、ねぇ、」
「なんですか。返事はしていますでしょう?」
「目、見てくれないの、ダメ」
「…はぁ」

とても可愛らしい、私の相棒。もとい恋人。
名前はクダリ。私の対で、クダリ。

「…なんの用です」
「あ、えっとね…」

目を合わせてやれば、至極嬉しそうな顔をするのだから。つい甘やかしてしまうのは、惚れた弱味なんだろうか。

「…ちゅー、してほしいな」
「仕事中は駄目です」
「どーせ誰も見てないよ!」
「…しかし。」
「ノボリ、してくれない…。なら、僕、していい?」
「…家に帰るまでは駄目です。以前も言いましたでしょう」
「やだっ、今したい」
「我が儘を言わないでください。場所を弁えてくださいまし」
「…意地悪」
「何も意地悪は言っていません。」
「ケチ!陰険!ムッツリの癖に外面良いなんて、…僕つまんない」
「………クダリ」
「?」

名前を呼んで、彼が俯いた顔を上げた瞬間、本当に一瞬だけ唇を重ねた。

微かにリップ音を立てて唇を離すと、顔を真っ赤にして目を見開いたクダリと目が合い、何故だか愛しいという気持ちが爆発しそうになった(確実に惚れた弱味だろうが)。

「…満足ですか?」
「……舌!」
「はい?」
「舌、入れてくれなきゃ…満足できない!」
「…歯止めが効かなくなっても知りませんよ?」
「大丈夫、僕、我慢できる」
「…クダリじゃなくて、私の方がです。」
「……え」

椅子のスプリングの軋む音と共に、男のくせに細い(人の事は言えないが)身体を押し倒した。

強引に口付けてやれば、待ってましたと言わんばかりに舌を絡めてくる。

歯列をなぞったり、上顎を舐めてやれば、相手の身体が快楽に震えるのが分かる。

唇を離すと、互いを繋ぐ様に唾液が糸を引いて伸びる。

顔色を伺ってやれば、恍惚とした表情を浮かべてこちらを見るものだから、不覚にも勃ちそうになって。

「…最後まではできませんよ?」
「いいよ、キスで満足した」
「……。」
「でも、ノボリ満足してない?」
「あ、いえ、大丈夫です」
「どーせ勃っちゃったでしょ、一人のは、虚しいよ?」
「放って置けば納まります」
「我慢よくない。僕、口でシてあげる!」

にこやかな表情で言われて、抗議の台詞は飲み込んだ。

こう言われると、男の性として揺るがないわけがない。

申し訳ないと思うが、可愛い君が悪いという事で、と、完全に勃ってしまった自身をクダリの口元に差し出した。


『間も無く発車します。』

(ナニが、ですよ。)



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