夢の続き
いつからだろうか、夢の中にあの人が出てくるようになったのは…
いつもいつも持久戦が苦手な俺に持久戦をさせてくる。
こっちは馬鹿みたいに汗をかいているというのに涼しそうな顔してこっちを見ている。
(化け物かよ…)
心の中で呟きながら何度もラケットを構える。
“下剋上”と保険をかけながら。
するとあの人は不敵に微笑む。
なんでも透けて見えるかのように―。
そして俺の目をまっすぐ見つめて呟く。
「日吉よ————————」
目が覚めるとシャツが汗で濡れていた。
気持ち悪い
いつもだ
いつもそこまで鮮明に思い出しておいて
最後になんて言われたのか思い出す前に覚めてしまう。
イライラしながら着替えた。
顔を洗うと徐々に頭まで血が通い始めた気がした。
やっといつもの冷静さを取り戻した。
いつまであの時の夢を見ているのだろう…。
軽く舌打ちをして部屋に戻った。
あの夢は何日も前に体験した試合だ。
今年は特別に中学生の参加も許されたU-17の合宿。
2日目にペアを組むように指示された。
ペアを組むということはダブルスをやるのだと思った。
立ち尽くしていた俺に跡部部長が声をかけてくれた。
正直嬉しかった。
おかしい人だとは思っていたが
それ以上に部長として尊敬していたし、
なにより俺がテニスを始めたきっかけの人だ。
そんな人とダブルスが出来ると思うと心が騒いだ。
ペアが出来上がり次の指示を待った。
「…ではシングルスの試合開始です。負けた方は脱落という事で。
そう……今組んだパートナーとそれぞれ戦ってね」
齋藤というコーチはそう言い放った。
ダブルスをやる気でいた中学生たちはざわめいた。
俺も多少は動揺したが
ダブルスをするからペアを組め
と言われたわけではないので納得がいった。
「大石、ダブルスじゃなかったね…」
「英二…しょうがないよ!どっちが勝っても恨みっこ無しだ!」
「……うん」
青学のダブルスだ
中学生の中でもシンクロが使えて強い。
うるさい方が落ち込んでいるのか。
みっともない
何をしに来ているのだろうか
氷帝のように相手が誰であろうと
揺るがない精神が足りてないんじゃないか?
あぁ…ダメだ氷帝にも居たな…お人好しのバカが
「宍戸さん…俺、まだ宍戸さんとダブルスしたいです…」
「長太郎、なんつー顔してんだ!ちょいダサだぜ!」
「宍戸さん…」
今にも泣きそうな顔をしながら鳳は宍戸さんの方を向いている。
(宍戸さんのちょいダサとかダサいからなんとかなんないのか?)
そう思いながら他の人の様子を見た。
「かばちゃん起こしてくれてありがとね!」
「うす…」
「でもでも!かばちゃんとシングルスで決着着けないと
いけないとか…悲C~!」
「でもでも!立海がいるってことは丸井くんのプレイが
また見れるわけじゃん!?
うわー!ワクワクしてきた!まじ嬉C〜!」
「おい侑士!勝つのは俺だからな!」
「どないしたんや…冗談は髪の毛だけにしとき」
「くそっくそっ侑士め!覚えよけよ!」
「おお、こわいこわい(笑)」
思ったより通常運転で安心した。
次々と試合は進み俺たちの番になった
軽くストレッチをしていると跡部部長と手塚さんが
すれ違いざまに何か言っているのが見えた
気になりはしたが自分のことに集中することにした。
なるべく余計なことは考えないようにした。
試合が進むと当然のようにタイブレークが続いた
どれだけ打っても返される。
しんどくて足を止めたくなった。
隣のコートでは海堂と手塚さんが試合をしていた。
かなり長引いているようだった。
後から聞いた話によると見てて悲しくなるような試合だったようだ
どこの学校も部長が何を考えているのか分からない。
ただ、実力はダントツだ。
相手コートに目を移すと跡部部長が静かにこちらを見ていた。
一瞬体が動かなくなった。
何かを訴えているような目、何か俺に伝えようとしている。
俺は思い出した。
いつか跡部部長が教えてくれた言葉を…
「日吉よ、自分のプレイスタイルを突き通すには何が要ると思う」
「は…?突然何を言い出すんですか」
「いいから答えろ」
「そうですね…俺は実力が一番必要だと思いますけど…」
「何故そう思った?」
「実力が無ければ勝てないからですよ。そういう跡部部長はどうなんですか?」
「俺様か?そうだな…俺様はやっぱり…」
あの時部長はなんて言ったっけ…
確か…
「日吉よ…」
名前を呼ばれ、気がつくと部長は空を飛んでいた
「1番必要なのは絶対的な自信だぜ」
「俺様の美技に酔いな」
聞こえるはずのない氷帝コールが確かに聞こえた。
「苦手な長期戦、克服できたようじゃねーの」
あぁ…
「お前の氷帝コールを見つけてみろ」
この人にはまだかなわないな…
そう思った。
思い出した
その後になんて言われたか
「日吉よ…お前のプレイスタイルなかなかいいじゃねーの!」
そうだ
認めてもらえたんだ…
なんで思い出せなかったんだろう
多分答えは分かっている
自分自身が自分のプレイスタイルに自信がなかったからだ
今は胸を張って自分のプレイスタイルだと言える
この合宿で少しずつ
でも確実に身についていたもの
“自信”だ
なんとなく光が見えた気がする
あの人に魅了され始めたテニス
ひたすらあの人の背中を追い続けてきた
あの人がいなかったらどうなっていただろう…
テニスをすることも、人との出会いもなかっただろう
でも今なら…
あの人がいなくても大丈夫
自分なりのテニスを見つけることができたから
テニスの楽しさを知れたから
部屋に戻るとルームメイトが騒いでいた
「切原!はよ起きろや!!」
「財前何してるんだ?」
「あ、日吉おはよ。切原のやつがまだ起きないんや」
「いつものことだろう?」
「しかもさっき柳さんが来てな、
数分後に真田さんが部屋に乗り込んで来るんやと」
「で?」
「起きてなかったら部屋で説教が始まるってよ」
「迷惑な…海堂はどうした?」
「真田さんと早朝ランニング」
「あー、切原置いて逃げよう」
「なんや悪い気するなぁ…」
「自業自得だ」
「だな。海堂を回収して飯行くか」
「あぁ。」
「ところで自分、なんかあったんか?」
「は?」
「にやにやしててきっしょいわ」
「なっ…まあ少しな…」
「なんや言うてみい」
「…夢」
「夢?」
「夢の続きを思い出したんだ」
「…なんやそれ、おもんないわぁ」
「別に面白いとは言ってないだろ」
「はいはい。あ、海堂」
「なんだ」
「飯行くぞ、飯」
「あ、あぁ…切原はどうした」
「あいつの事は気にしなくていい」
「せやで、気にせんと飯行こ」
「?」
数秒後真田さんの怒鳴り声と切原の絶叫が聞こえてきた
「海堂…あれを聞いても切原のところに行くか?」
「いや…飯食いに行く」
「それが賢明な判断や…」
こうして騒がしい朝を迎えながら合宿はまだ続く。
いつもいつも持久戦が苦手な俺に持久戦をさせてくる。
こっちは馬鹿みたいに汗をかいているというのに涼しそうな顔してこっちを見ている。
(化け物かよ…)
心の中で呟きながら何度もラケットを構える。
“下剋上”と保険をかけながら。
するとあの人は不敵に微笑む。
なんでも透けて見えるかのように―。
そして俺の目をまっすぐ見つめて呟く。
「日吉よ————————」
目が覚めるとシャツが汗で濡れていた。
気持ち悪い
いつもだ
いつもそこまで鮮明に思い出しておいて
最後になんて言われたのか思い出す前に覚めてしまう。
イライラしながら着替えた。
顔を洗うと徐々に頭まで血が通い始めた気がした。
やっといつもの冷静さを取り戻した。
いつまであの時の夢を見ているのだろう…。
軽く舌打ちをして部屋に戻った。
あの夢は何日も前に体験した試合だ。
今年は特別に中学生の参加も許されたU-17の合宿。
2日目にペアを組むように指示された。
ペアを組むということはダブルスをやるのだと思った。
立ち尽くしていた俺に跡部部長が声をかけてくれた。
正直嬉しかった。
おかしい人だとは思っていたが
それ以上に部長として尊敬していたし、
なにより俺がテニスを始めたきっかけの人だ。
そんな人とダブルスが出来ると思うと心が騒いだ。
ペアが出来上がり次の指示を待った。
「…ではシングルスの試合開始です。負けた方は脱落という事で。
そう……今組んだパートナーとそれぞれ戦ってね」
齋藤というコーチはそう言い放った。
ダブルスをやる気でいた中学生たちはざわめいた。
俺も多少は動揺したが
ダブルスをするからペアを組め
と言われたわけではないので納得がいった。
「大石、ダブルスじゃなかったね…」
「英二…しょうがないよ!どっちが勝っても恨みっこ無しだ!」
「……うん」
青学のダブルスだ
中学生の中でもシンクロが使えて強い。
うるさい方が落ち込んでいるのか。
みっともない
何をしに来ているのだろうか
氷帝のように相手が誰であろうと
揺るがない精神が足りてないんじゃないか?
あぁ…ダメだ氷帝にも居たな…お人好しのバカが
「宍戸さん…俺、まだ宍戸さんとダブルスしたいです…」
「長太郎、なんつー顔してんだ!ちょいダサだぜ!」
「宍戸さん…」
今にも泣きそうな顔をしながら鳳は宍戸さんの方を向いている。
(宍戸さんのちょいダサとかダサいからなんとかなんないのか?)
そう思いながら他の人の様子を見た。
「かばちゃん起こしてくれてありがとね!」
「うす…」
「でもでも!かばちゃんとシングルスで決着着けないと
いけないとか…悲C~!」
「でもでも!立海がいるってことは丸井くんのプレイが
また見れるわけじゃん!?
うわー!ワクワクしてきた!まじ嬉C〜!」
「おい侑士!勝つのは俺だからな!」
「どないしたんや…冗談は髪の毛だけにしとき」
「くそっくそっ侑士め!覚えよけよ!」
「おお、こわいこわい(笑)」
思ったより通常運転で安心した。
次々と試合は進み俺たちの番になった
軽くストレッチをしていると跡部部長と手塚さんが
すれ違いざまに何か言っているのが見えた
気になりはしたが自分のことに集中することにした。
なるべく余計なことは考えないようにした。
試合が進むと当然のようにタイブレークが続いた
どれだけ打っても返される。
しんどくて足を止めたくなった。
隣のコートでは海堂と手塚さんが試合をしていた。
かなり長引いているようだった。
後から聞いた話によると見てて悲しくなるような試合だったようだ
どこの学校も部長が何を考えているのか分からない。
ただ、実力はダントツだ。
相手コートに目を移すと跡部部長が静かにこちらを見ていた。
一瞬体が動かなくなった。
何かを訴えているような目、何か俺に伝えようとしている。
俺は思い出した。
いつか跡部部長が教えてくれた言葉を…
「日吉よ、自分のプレイスタイルを突き通すには何が要ると思う」
「は…?突然何を言い出すんですか」
「いいから答えろ」
「そうですね…俺は実力が一番必要だと思いますけど…」
「何故そう思った?」
「実力が無ければ勝てないからですよ。そういう跡部部長はどうなんですか?」
「俺様か?そうだな…俺様はやっぱり…」
あの時部長はなんて言ったっけ…
確か…
「日吉よ…」
名前を呼ばれ、気がつくと部長は空を飛んでいた
「1番必要なのは絶対的な自信だぜ」
「俺様の美技に酔いな」
聞こえるはずのない氷帝コールが確かに聞こえた。
「苦手な長期戦、克服できたようじゃねーの」
あぁ…
「お前の氷帝コールを見つけてみろ」
この人にはまだかなわないな…
そう思った。
思い出した
その後になんて言われたか
「日吉よ…お前のプレイスタイルなかなかいいじゃねーの!」
そうだ
認めてもらえたんだ…
なんで思い出せなかったんだろう
多分答えは分かっている
自分自身が自分のプレイスタイルに自信がなかったからだ
今は胸を張って自分のプレイスタイルだと言える
この合宿で少しずつ
でも確実に身についていたもの
“自信”だ
なんとなく光が見えた気がする
あの人に魅了され始めたテニス
ひたすらあの人の背中を追い続けてきた
あの人がいなかったらどうなっていただろう…
テニスをすることも、人との出会いもなかっただろう
でも今なら…
あの人がいなくても大丈夫
自分なりのテニスを見つけることができたから
テニスの楽しさを知れたから
部屋に戻るとルームメイトが騒いでいた
「切原!はよ起きろや!!」
「財前何してるんだ?」
「あ、日吉おはよ。切原のやつがまだ起きないんや」
「いつものことだろう?」
「しかもさっき柳さんが来てな、
数分後に真田さんが部屋に乗り込んで来るんやと」
「で?」
「起きてなかったら部屋で説教が始まるってよ」
「迷惑な…海堂はどうした?」
「真田さんと早朝ランニング」
「あー、切原置いて逃げよう」
「なんや悪い気するなぁ…」
「自業自得だ」
「だな。海堂を回収して飯行くか」
「あぁ。」
「ところで自分、なんかあったんか?」
「は?」
「にやにやしててきっしょいわ」
「なっ…まあ少しな…」
「なんや言うてみい」
「…夢」
「夢?」
「夢の続きを思い出したんだ」
「…なんやそれ、おもんないわぁ」
「別に面白いとは言ってないだろ」
「はいはい。あ、海堂」
「なんだ」
「飯行くぞ、飯」
「あ、あぁ…切原はどうした」
「あいつの事は気にしなくていい」
「せやで、気にせんと飯行こ」
「?」
数秒後真田さんの怒鳴り声と切原の絶叫が聞こえてきた
「海堂…あれを聞いても切原のところに行くか?」
「いや…飯食いに行く」
「それが賢明な判断や…」
こうして騒がしい朝を迎えながら合宿はまだ続く。
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