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エビに船を掴まれて急速に滝を登った。周りの騒ぎ声なんてきこえないくらい海を掻き分ける音が鼓膜を震わせて。散る飛沫と風が驚きと興奮に火照った頬を冷やしていく。
やばい、やばい。これが異世界、これが冒険。だけどやっぱり飛沫と風の冷たさが現実だと突き付けて。
“神の国 スカイピア”という看板を超えた先、そこには、
「……綺麗、」
綺麗で幻想的な島があった。
空気が澄んで…というかさっきより少し薄く感じる。空の騎士が言ってたみたいにやっぱり上に行く度空気は薄くなってくのかも。
ぽとり、零した言葉は穏やかな波に攫われて行った。
「ルイ、あんたはきちんと包帯直してもらってから来なさいよー」
「あーい分かってるー」
あれから目的の島、スカイピアに着いたあたし達は目の前のリゾートにヨダレを垂らし堪能する事に。男バカ3人のルフィウソップチョッパーは我先にと上陸して既に楽しんでいる。
ったく、こっちは包帯びしょ濡れなのに船医さんは巻き直さず真っ先にリゾート行くんですねぇ、あたしが怪我したのが悪いんですけど。
「悪いなロビン、手間掛けて」
「ふふ、気にしてないわ。巻くのは慣れてる」
「慣れてるって…アンタでも怪我すんだな」
真っ先に上陸した船医と変わり、あたしはロビンに包帯を巻いてもらってる。医務室で、上裸で。慣れてると言うだけあって手際はいい方だと思う、全然医療系とか分かんないけど巻くのが早い。早いし、そんなにキツくなく動かしやすい締め具合。
「どんな無茶してたの?」
「…さぁ、もう覚えてないの」
「ふぅん」
変な奴。慣れてるって言ったくせに覚えてないって、じゃあ巻き方も忘れてるもんだろ。まぁあたしはその事を話すにはまだ信用が足りないって事なのかな、いいけど。
そんな多くない言葉を交わしているうちに包帯は巻き終わっていて。やっぱ覚えてないなんて嘘じゃん、内心揚げ足を取ってやる。短く礼を言えばロビンは読めない笑顔を向けてさっさと部屋から出ていった。
さて、あたしもリゾート堪能したいから着替えなきゃ。医務室のベッドにはナミが置いていった水着が一着。ここの女は何がダメって、全員が全員乳がでけぇ。だからこれはナミが簡単に作ってくれたやつで、あたしサイズに合ってるみたい。せっかく巻き直してくれた包帯だけど海に浸かるのは足だけだし許してくれるだろ、うん。
さっさと水着を着て、下は膝丈のジーパンを履く。これもナミの着なくなった服をアレンジしてくれたもの。ゲンコツはクソ痛てぇけどこういうとこ世話焼いてくれるから、本当良い奴だな。
「ルイちゃん」
ドアに手をかけていざリゾート、そう意気込んだ時あの金髪の声が。いつもの女に対するきめぇ声じゃないあたりこれは真剣な話なのかもしれない。ジャヤでの件、すげぇ怒ってるってチョッパー言ってたもんなぁ。ここ来るまでお咎めなしだったってことはそういう事だよなぁ。今ならひと段落ついてるし。
「…何」
「はは、ンな前みたいに怒鳴りはしねェさ。怯えないで大丈夫だぜ」
あたしが思ってるよりサンジはあたしの状態を把握してるようで気持ち悪い。少しの警戒さえ読み取られて自分に呆れ返った。
「多分なァ、ルイちゃんに無茶すんなってのは俺に料理を作るなって言ってるようなもんだよなァ」
「よくわかってんじゃん」
「だから頼ってくれよ」
ドア越しでもはっきり伝わる力強さ。これが怒られる子供の感情か、などと余裕ぶっこいてる振りをするあたり心の底では申し訳ないなって思ってんだろう。なんて返せばいいか…ううん、素直にごめんなさいって言えばいいだけなのに詰まって出てこない。
「俺を、俺たちを、頼ってくれ」
多分、酷く懇願する声音に誘われたんだ。俯きかけていた顔が自然と上がってドアを向く。
類は友を呼ぶ、まさにこれだ。船長があんなならクルーもこんなだ。
「…うん、悪かった」
静かな声で告げると、タバコを吹かす音と軽く笑う声が耳孔を刺激した。それを最後に医務室のドアを開ければ、前と同じくニンマリ笑みを浮かべた金髪が太陽に照らされて眩しくて。
「お手をどうぞ、マドモアゼル?」
「ふは、きめぇよ」
眩しさに目を細めれば自然と笑顔が咲いた。
あれから最後に乗っていたのはあたし達だけのようでビーチの方では何やら騒がしい声。2人でそそくさと船を降りて皆の元へ向かうが、なんかサンジが気持ち悪い。さっきっからずーっと鼻の下を伸ばして後ろを着いてくる。振り返って睨みを効かせれば、さらにだらしなく破顔する始末。
しかしそんな不快感も足首に感じる心地よい波に洗われていき、あたしも勝手に頬が緩んでしまう。この雲みたいな海は気持ちがいい。足裏に伝わる感触も砂浜のようなサラッとしたものではなくて、さっき乗ってたフカフカ雲と一緒。それも相まって更に心地いい。
「あら、よく似合ってるじゃない!」
ザブザブと波を掻き分け歩いていればナミの声が。「包帯は痛々しいけど」なんて付け加えられた後、水着の事かと思い出す。
ナミお手製のこの水着は、彼女の髪と同じ綺麗なオレンジの迷彩柄であたしが気に入るにも時間は掛からなかった。てか、測らないでもあたしのサイズわかるナミがすげぇし怖い。
「ルイちゃんの水着姿が見られるなんて、男としてもう思い残すことはない…」
「…キモ」
確かにここに来てから水着を着るなんて事は無かったから新鮮なのはあるかもしれねーけど、やっぱりキモイ。だからここ来るまでにやにやして見てたのか、おぇ。
とりあえず金髪は置いておいて、ビーチを見渡せば読んで字のごとく"リゾート"そのものだった。声を掛けてきたナミはふかふか雲で作られたであろう椅子に腰かけているし、他にも日差し避けになる屋根付きの休憩所だとか、それこそヤシの木に似た木も生えている。リゾート以外の何物でもない。
心地良い風が頬を、波が足をさっきから撫でてくれて目を細めた。なんか漫画でよくありそうな感じ、この流れだとどっからか音楽が聞こえてそれっぽくワンシーンに映ってそうな感じに…
________ポロロロロロン、ポロン__
ほら、言った通り音楽が聞こえてきて…って、嘘。さすがにこの年で幻聴とか聞こえないと思ってるけど今聞こえた柔らかい音色はなんだ。はっきりと、柔らかく優しい音が耳を刺激して、
「………へそ!」
音色の正体は天使で、女の子で、変な日本語を喋ってた。
岩の上でハープを奏でていた彼女はそうやら、ここ空島の住人らしき人で、背中に天使の羽が生えて触覚みたいな髪型をしていた。開口一番「へそ」などと意味の分からない日本語を喋っていたけど普通に話は通じるしやべぇ奴ではなさそうと判断。そんな彼女、コニスが丁寧に向いてくれたヤシの実みたいな果実の果汁を啜りながら話を聞いた。
話の途中でコニスの父親が合流して、詳しい話はこいつらの家で飯でも食いながらすることに決定。加えてコニス父が乗ってきたらしき海上バイクみたいなやつの説明もしてもらった。なんかダイアルっていうアンモナイトみたいな貝を使って動いてる仕組みらしいけど、あたしにはさっぱりで早々に話を放棄。にしてもこの果実美味くてもっと飲みたくなるな、後でルフィにもう一個採ってもらおう。
海上バイクの正式名称は”ウェイバー”という聞きなれないもので、とりあえず新しいもの好きなルフィが最初に挑戦したけど海に落ちてK.O。「ルイも乗ってみろよ、すんげぇ難しいから!」とあたしも道連れにされそうだったからキツめに断っといた。こいつの運転を見た限りだと運転難しそうだし海に落ちるのもごめんだ。
「おーい!!サイコー♡」
が、しかし。我らが航海士様は早速乗りこなしているようで、ブイブイ言わせて海上を走っている。
「なんで乗れるんだ!?あんなのに!!!」
「確かにコツが要るわね、これは。デリケートであんたにはムリよ、ルフィ!!」
うんうん、やっぱりガサツで大雑把なルフィには難しかったって事だよな。通りでウェイバーの操作ができなかったんだよ、うんうん。
「ついでにルイもね!!」
「おい!あたしは落ちるの嫌だから乗んないだけ!!」
「だっはっは!!ルイもか!一緒だな!」
「だから!落ちるのが嫌だから!一緒にしてんじゃねぇ!」
なんなんだ、あたしが大雑把って言いたいのか。確かに細かいことは気にするな精神だけどこのルフィと一緒にされるのは心外すぎる。少なからずコイツよりはデリケートな自信はあるわ。なんだデリケートな自信って、意味わかんないこと言わせんな。
ナミによりあたしとルフィのデリケート加減が一緒だと決定づけられた後、ナミはもう少しウェイバーを楽しんでいく様子で。その間にあたし達大雑把組はコニスの家に向かうことになった。途中、長い階段を登りながらここ空島の雲についての説明をしていた。なんか、”カイローセキ”に含まれる成分によって、シャバシャバな雲とフカフカな雲に分けられるらしい。なんだその”カイローセキ”って。この世界にはわかんねぇ事ばっかで真面目に聞いてしまうと頭がパンクする。から、右から左に聞き流しておこう。
がしかし、”カイローセキ”のワードだけ聞き取れていたあたしはウソップに聞くことにした。
「な、”カイローセキ”って何?」
「なんだお前、海楼石も知らねぇのか。海楼石っつーのは海が固形化したもので、海と同じエネルギーを発してんだ。ここまで言えば分るよな。つまり?」
「ルフィがあたしより弱くなる」
「そうだ!」
”悪魔の実”を食った能力者は確か、カナヅチになって海を泳げなくなる。てことは、海楼石を身に付ければ海に入った時と同じ感じになるっつーことか。じゃあルフィやロビン、チョッパーと喧嘩したときはそれをあいつらに付ければあたしも負けないってことだな。覚えておこう。
「おいルイ、俺はカイローセキ付けたってお前には負けねーぞ!」
「はん、どうだか。やってみないと分かんねぇし?」
フカフカ雲を歩いていたルフィが話を聞きつけてあたしを覗き込む。そんなあいつに挑戦的な笑みを返せば諦めることなくギャーギャーと喚いている。キリがないのでこの辺で無視。別方向から「強気なルイちゃんも素敵だ…!」とキモい声が聞こえるがそれも無視。
「こっちです、家は!どうぞ」
そんなこんなでコニス宅に到着。あたしがいた世界でいうとこの豪邸、なんてったって見晴らしがいい。ナミが乗ってるウェイバーまで見れるってどんだけいいとこ住んでんだよ。そんな豪邸に邪魔するわけだけども。
「ウソップのアホ―!!!」
「イヤ何で俺だよ」
「ウソップのバカヤロー!」
「イヤ何で俺だよ!?」
コニス宅に到着したあたし達は、空島名物ダイアルで遊んでいた。あのアンモナイトみたいなの。ルフィの持っているソレにルフィとあたしが交互に声を発してから、てっぺんの殻頂を押すとさっきの声が再生された。
『ウソップのアホー!!!
イヤ何で俺だよ
ウソップのバカヤロー!
イヤ何で俺だよ!?』
「うわ!!ウソップが貝にバカにされた!!!」
「違うだろお前とルイの声じゃねェか!!」
あたしからしたら何ら珍しいことじゃないけど、こいつらからしたらすごく珍しいみたいで、あのゾロでさえ感嘆の声を上げていた。しいて珍しいと言えば、スマホじゃなくてアンモナイトってとこだけだわ。
トーンダイアル
これは”音貝”ていって、音を録音・再生する習性があるんだと。ほかにもいろんなダイアルがあって、蓄えた風を排出するダイアル、光を蓄えて照明になるダイアル、いろいろ。空島はダイアルで生活を補ってるみたい。
フルーツ
「さァ出来たぞ!!!”空島特産果物添えスカイシーフード満腹コース”だ!」
「んまほ~~~~~~~~!!!」
年甲斐もなく”音貝”で遊んでいたところに、サンジのメシが登場。無駄に長い料理名だけど、ベラミーと喧嘩する前に食った夕食が最後だったからかいい匂いが鼻腔を擽ると、どうしようもなく腹が減った。そして鳴った。それはもう、でかい音で。
”ぐぎゅるる、ぐぅう”
全員が全員、あたしを見る。しかし恥ずかしいなんて気も起きないくらいには腹が減ってるわけで、お構いなしに目の前の料理にがっついた。空島の食い物はどんなんかと思ってたけど、うまい。ううん、素材ももちろんうまいけど、料理人の腕がいいんだ。じゃないとこんなにがっついたりしない。
「あ、ルイずりィぞ!油断させたな!」
「あんたが勝手によそ見したんだろーが、バカ船長!」
不覚にもあたしとルフィが取った料理が同じだったらしく、「俺の」「あたしの」と取り合い、このままでは引きちぎれんばかりに伸びたところで、開け放たれているバルコニーから潮風が頬を撫で、目を向ける。あたしが手を離したおかげでルフィは軽く吹っ飛んでいったけどお構いなし。
「おい!!ナミさんはどこ行ったんだ!?」
サンジのその声に誘われたのか、潮風に誘われたのかはわからないが、バルコニーに向かい金髪の隣に立つ。確かに、ココに入るまで見えていたナミとウェイバーの姿が見えなくなってた。コニス宅はかなり高地に建っているからそうそう見えなくなるってことはないと思うんだけど。
「ち…父上…大丈夫でしょうか…!?」
「ええコニスさん、私も少し悪い予感が…」
あたしにも、なんだか悪い予感がする。こんな感覚に陥るのは初めてで、胸がざわざわして落ち着かない感覚。さっき潮風が吹いた時からそんな感情が頭をいっぱいにしていた。
コニスとコニス父、パガヤのその発言にあたし達は自然と視線を集められて。
「この”スカイピア”には、何があっても絶対に足を踏み入れてはならない場所があるんです。その土地はこの島と隣接しているので”ウェイバー”だと、すぐに行けてしまう場所で…」
「足を踏み入れちゃならないって、何だそれ?」
ルフィの問いに、コニスが息を呑むのが分かった。その音さえも聞こえてしまいそうな程、今この場所は静寂に包まれている。さざ波さえ、聞こえてきそうだ。
「………聖域です。神の住む土地…”アッパーヤード”」
30.神様とは
(前の世界には、いなかったもの)
やばい、やばい。これが異世界、これが冒険。だけどやっぱり飛沫と風の冷たさが現実だと突き付けて。
“神の国 スカイピア”という看板を超えた先、そこには、
「……綺麗、」
綺麗で幻想的な島があった。
空気が澄んで…というかさっきより少し薄く感じる。空の騎士が言ってたみたいにやっぱり上に行く度空気は薄くなってくのかも。
ぽとり、零した言葉は穏やかな波に攫われて行った。
「ルイ、あんたはきちんと包帯直してもらってから来なさいよー」
「あーい分かってるー」
あれから目的の島、スカイピアに着いたあたし達は目の前のリゾートにヨダレを垂らし堪能する事に。男バカ3人のルフィウソップチョッパーは我先にと上陸して既に楽しんでいる。
ったく、こっちは包帯びしょ濡れなのに船医さんは巻き直さず真っ先にリゾート行くんですねぇ、あたしが怪我したのが悪いんですけど。
「悪いなロビン、手間掛けて」
「ふふ、気にしてないわ。巻くのは慣れてる」
「慣れてるって…アンタでも怪我すんだな」
真っ先に上陸した船医と変わり、あたしはロビンに包帯を巻いてもらってる。医務室で、上裸で。慣れてると言うだけあって手際はいい方だと思う、全然医療系とか分かんないけど巻くのが早い。早いし、そんなにキツくなく動かしやすい締め具合。
「どんな無茶してたの?」
「…さぁ、もう覚えてないの」
「ふぅん」
変な奴。慣れてるって言ったくせに覚えてないって、じゃあ巻き方も忘れてるもんだろ。まぁあたしはその事を話すにはまだ信用が足りないって事なのかな、いいけど。
そんな多くない言葉を交わしているうちに包帯は巻き終わっていて。やっぱ覚えてないなんて嘘じゃん、内心揚げ足を取ってやる。短く礼を言えばロビンは読めない笑顔を向けてさっさと部屋から出ていった。
さて、あたしもリゾート堪能したいから着替えなきゃ。医務室のベッドにはナミが置いていった水着が一着。ここの女は何がダメって、全員が全員乳がでけぇ。だからこれはナミが簡単に作ってくれたやつで、あたしサイズに合ってるみたい。せっかく巻き直してくれた包帯だけど海に浸かるのは足だけだし許してくれるだろ、うん。
さっさと水着を着て、下は膝丈のジーパンを履く。これもナミの着なくなった服をアレンジしてくれたもの。ゲンコツはクソ痛てぇけどこういうとこ世話焼いてくれるから、本当良い奴だな。
「ルイちゃん」
ドアに手をかけていざリゾート、そう意気込んだ時あの金髪の声が。いつもの女に対するきめぇ声じゃないあたりこれは真剣な話なのかもしれない。ジャヤでの件、すげぇ怒ってるってチョッパー言ってたもんなぁ。ここ来るまでお咎めなしだったってことはそういう事だよなぁ。今ならひと段落ついてるし。
「…何」
「はは、ンな前みたいに怒鳴りはしねェさ。怯えないで大丈夫だぜ」
あたしが思ってるよりサンジはあたしの状態を把握してるようで気持ち悪い。少しの警戒さえ読み取られて自分に呆れ返った。
「多分なァ、ルイちゃんに無茶すんなってのは俺に料理を作るなって言ってるようなもんだよなァ」
「よくわかってんじゃん」
「だから頼ってくれよ」
ドア越しでもはっきり伝わる力強さ。これが怒られる子供の感情か、などと余裕ぶっこいてる振りをするあたり心の底では申し訳ないなって思ってんだろう。なんて返せばいいか…ううん、素直にごめんなさいって言えばいいだけなのに詰まって出てこない。
「俺を、俺たちを、頼ってくれ」
多分、酷く懇願する声音に誘われたんだ。俯きかけていた顔が自然と上がってドアを向く。
類は友を呼ぶ、まさにこれだ。船長があんなならクルーもこんなだ。
「…うん、悪かった」
静かな声で告げると、タバコを吹かす音と軽く笑う声が耳孔を刺激した。それを最後に医務室のドアを開ければ、前と同じくニンマリ笑みを浮かべた金髪が太陽に照らされて眩しくて。
「お手をどうぞ、マドモアゼル?」
「ふは、きめぇよ」
眩しさに目を細めれば自然と笑顔が咲いた。
あれから最後に乗っていたのはあたし達だけのようでビーチの方では何やら騒がしい声。2人でそそくさと船を降りて皆の元へ向かうが、なんかサンジが気持ち悪い。さっきっからずーっと鼻の下を伸ばして後ろを着いてくる。振り返って睨みを効かせれば、さらにだらしなく破顔する始末。
しかしそんな不快感も足首に感じる心地よい波に洗われていき、あたしも勝手に頬が緩んでしまう。この雲みたいな海は気持ちがいい。足裏に伝わる感触も砂浜のようなサラッとしたものではなくて、さっき乗ってたフカフカ雲と一緒。それも相まって更に心地いい。
「あら、よく似合ってるじゃない!」
ザブザブと波を掻き分け歩いていればナミの声が。「包帯は痛々しいけど」なんて付け加えられた後、水着の事かと思い出す。
ナミお手製のこの水着は、彼女の髪と同じ綺麗なオレンジの迷彩柄であたしが気に入るにも時間は掛からなかった。てか、測らないでもあたしのサイズわかるナミがすげぇし怖い。
「ルイちゃんの水着姿が見られるなんて、男としてもう思い残すことはない…」
「…キモ」
確かにここに来てから水着を着るなんて事は無かったから新鮮なのはあるかもしれねーけど、やっぱりキモイ。だからここ来るまでにやにやして見てたのか、おぇ。
とりあえず金髪は置いておいて、ビーチを見渡せば読んで字のごとく"リゾート"そのものだった。声を掛けてきたナミはふかふか雲で作られたであろう椅子に腰かけているし、他にも日差し避けになる屋根付きの休憩所だとか、それこそヤシの木に似た木も生えている。リゾート以外の何物でもない。
心地良い風が頬を、波が足をさっきから撫でてくれて目を細めた。なんか漫画でよくありそうな感じ、この流れだとどっからか音楽が聞こえてそれっぽくワンシーンに映ってそうな感じに…
________ポロロロロロン、ポロン__
ほら、言った通り音楽が聞こえてきて…って、嘘。さすがにこの年で幻聴とか聞こえないと思ってるけど今聞こえた柔らかい音色はなんだ。はっきりと、柔らかく優しい音が耳を刺激して、
「………へそ!」
音色の正体は天使で、女の子で、変な日本語を喋ってた。
岩の上でハープを奏でていた彼女はそうやら、ここ空島の住人らしき人で、背中に天使の羽が生えて触覚みたいな髪型をしていた。開口一番「へそ」などと意味の分からない日本語を喋っていたけど普通に話は通じるしやべぇ奴ではなさそうと判断。そんな彼女、コニスが丁寧に向いてくれたヤシの実みたいな果実の果汁を啜りながら話を聞いた。
話の途中でコニスの父親が合流して、詳しい話はこいつらの家で飯でも食いながらすることに決定。加えてコニス父が乗ってきたらしき海上バイクみたいなやつの説明もしてもらった。なんかダイアルっていうアンモナイトみたいな貝を使って動いてる仕組みらしいけど、あたしにはさっぱりで早々に話を放棄。にしてもこの果実美味くてもっと飲みたくなるな、後でルフィにもう一個採ってもらおう。
海上バイクの正式名称は”ウェイバー”という聞きなれないもので、とりあえず新しいもの好きなルフィが最初に挑戦したけど海に落ちてK.O。「ルイも乗ってみろよ、すんげぇ難しいから!」とあたしも道連れにされそうだったからキツめに断っといた。こいつの運転を見た限りだと運転難しそうだし海に落ちるのもごめんだ。
「おーい!!サイコー♡」
が、しかし。我らが航海士様は早速乗りこなしているようで、ブイブイ言わせて海上を走っている。
「なんで乗れるんだ!?あんなのに!!!」
「確かにコツが要るわね、これは。デリケートであんたにはムリよ、ルフィ!!」
うんうん、やっぱりガサツで大雑把なルフィには難しかったって事だよな。通りでウェイバーの操作ができなかったんだよ、うんうん。
「ついでにルイもね!!」
「おい!あたしは落ちるの嫌だから乗んないだけ!!」
「だっはっは!!ルイもか!一緒だな!」
「だから!落ちるのが嫌だから!一緒にしてんじゃねぇ!」
なんなんだ、あたしが大雑把って言いたいのか。確かに細かいことは気にするな精神だけどこのルフィと一緒にされるのは心外すぎる。少なからずコイツよりはデリケートな自信はあるわ。なんだデリケートな自信って、意味わかんないこと言わせんな。
ナミによりあたしとルフィのデリケート加減が一緒だと決定づけられた後、ナミはもう少しウェイバーを楽しんでいく様子で。その間にあたし達大雑把組はコニスの家に向かうことになった。途中、長い階段を登りながらここ空島の雲についての説明をしていた。なんか、”カイローセキ”に含まれる成分によって、シャバシャバな雲とフカフカな雲に分けられるらしい。なんだその”カイローセキ”って。この世界にはわかんねぇ事ばっかで真面目に聞いてしまうと頭がパンクする。から、右から左に聞き流しておこう。
がしかし、”カイローセキ”のワードだけ聞き取れていたあたしはウソップに聞くことにした。
「な、”カイローセキ”って何?」
「なんだお前、海楼石も知らねぇのか。海楼石っつーのは海が固形化したもので、海と同じエネルギーを発してんだ。ここまで言えば分るよな。つまり?」
「ルフィがあたしより弱くなる」
「そうだ!」
”悪魔の実”を食った能力者は確か、カナヅチになって海を泳げなくなる。てことは、海楼石を身に付ければ海に入った時と同じ感じになるっつーことか。じゃあルフィやロビン、チョッパーと喧嘩したときはそれをあいつらに付ければあたしも負けないってことだな。覚えておこう。
「おいルイ、俺はカイローセキ付けたってお前には負けねーぞ!」
「はん、どうだか。やってみないと分かんねぇし?」
フカフカ雲を歩いていたルフィが話を聞きつけてあたしを覗き込む。そんなあいつに挑戦的な笑みを返せば諦めることなくギャーギャーと喚いている。キリがないのでこの辺で無視。別方向から「強気なルイちゃんも素敵だ…!」とキモい声が聞こえるがそれも無視。
「こっちです、家は!どうぞ」
そんなこんなでコニス宅に到着。あたしがいた世界でいうとこの豪邸、なんてったって見晴らしがいい。ナミが乗ってるウェイバーまで見れるってどんだけいいとこ住んでんだよ。そんな豪邸に邪魔するわけだけども。
「ウソップのアホ―!!!」
「イヤ何で俺だよ」
「ウソップのバカヤロー!」
「イヤ何で俺だよ!?」
コニス宅に到着したあたし達は、空島名物ダイアルで遊んでいた。あのアンモナイトみたいなの。ルフィの持っているソレにルフィとあたしが交互に声を発してから、てっぺんの殻頂を押すとさっきの声が再生された。
『ウソップのアホー!!!
イヤ何で俺だよ
ウソップのバカヤロー!
イヤ何で俺だよ!?』
「うわ!!ウソップが貝にバカにされた!!!」
「違うだろお前とルイの声じゃねェか!!」
あたしからしたら何ら珍しいことじゃないけど、こいつらからしたらすごく珍しいみたいで、あのゾロでさえ感嘆の声を上げていた。しいて珍しいと言えば、スマホじゃなくてアンモナイトってとこだけだわ。
トーンダイアル
これは”音貝”ていって、音を録音・再生する習性があるんだと。ほかにもいろんなダイアルがあって、蓄えた風を排出するダイアル、光を蓄えて照明になるダイアル、いろいろ。空島はダイアルで生活を補ってるみたい。
フルーツ
「さァ出来たぞ!!!”空島特産果物添えスカイシーフード満腹コース”だ!」
「んまほ~~~~~~~~!!!」
年甲斐もなく”音貝”で遊んでいたところに、サンジのメシが登場。無駄に長い料理名だけど、ベラミーと喧嘩する前に食った夕食が最後だったからかいい匂いが鼻腔を擽ると、どうしようもなく腹が減った。そして鳴った。それはもう、でかい音で。
”ぐぎゅるる、ぐぅう”
全員が全員、あたしを見る。しかし恥ずかしいなんて気も起きないくらいには腹が減ってるわけで、お構いなしに目の前の料理にがっついた。空島の食い物はどんなんかと思ってたけど、うまい。ううん、素材ももちろんうまいけど、料理人の腕がいいんだ。じゃないとこんなにがっついたりしない。
「あ、ルイずりィぞ!油断させたな!」
「あんたが勝手によそ見したんだろーが、バカ船長!」
不覚にもあたしとルフィが取った料理が同じだったらしく、「俺の」「あたしの」と取り合い、このままでは引きちぎれんばかりに伸びたところで、開け放たれているバルコニーから潮風が頬を撫で、目を向ける。あたしが手を離したおかげでルフィは軽く吹っ飛んでいったけどお構いなし。
「おい!!ナミさんはどこ行ったんだ!?」
サンジのその声に誘われたのか、潮風に誘われたのかはわからないが、バルコニーに向かい金髪の隣に立つ。確かに、ココに入るまで見えていたナミとウェイバーの姿が見えなくなってた。コニス宅はかなり高地に建っているからそうそう見えなくなるってことはないと思うんだけど。
「ち…父上…大丈夫でしょうか…!?」
「ええコニスさん、私も少し悪い予感が…」
あたしにも、なんだか悪い予感がする。こんな感覚に陥るのは初めてで、胸がざわざわして落ち着かない感覚。さっき潮風が吹いた時からそんな感情が頭をいっぱいにしていた。
コニスとコニス父、パガヤのその発言にあたし達は自然と視線を集められて。
「この”スカイピア”には、何があっても絶対に足を踏み入れてはならない場所があるんです。その土地はこの島と隣接しているので”ウェイバー”だと、すぐに行けてしまう場所で…」
「足を踏み入れちゃならないって、何だそれ?」
ルフィの問いに、コニスが息を呑むのが分かった。その音さえも聞こえてしまいそうな程、今この場所は静寂に包まれている。さざ波さえ、聞こえてきそうだ。
「………聖域です。神の住む土地…”アッパーヤード”」
30.神様とは
(前の世界には、いなかったもの)
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