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一面真っ白な雲の上、あたし達は今その上にいた。言葉を失って立ちつくすあたしの耳に「空の海」というナミの声が滑り込んできた。雲の海、そうか、だから積帝雲の中は水になってて息できなかったんだ。あまりの綺麗さに、足が自然と船首の方へ進む。青くない海を初めて見た。飲み込めれない感じの海は初めて見た。
「すっげェな、ルイ!今俺たち雲の上にいるんだってよ!」
惚けて海を見つめていると、ルフィが興奮気味に話しかけてきた。うん、本当にその通り。すごい、この一言に尽きる。まだ言葉は発せず、ただ何度も頷いて返す。なんだろ、この海なら入ってもいいかも何て思う。
「ルイちゃん、それ以上前に出ちまうと落ちちまうぜ」
途端、くん、と前に行く身体が止められたかと思うとサンジの腕が腹に当たっていて。なんだ、今日は腹をよく触られんな。睨もうとそいつへ顔を向けるも、自分が結構前に出てたことにびっくり。知らないうちに手すりに手を掛けて、少し前のめりになっていた。これは危ない、腹触られてんのはムカつくけどそうしてくんなきゃ落ちてたしな。仕方ない仕方ない。
「第一のコ~ス!!キャプテン・ウソップ泳ぎまーす!!!」
「おう!!やれやれ!!」
「は、ずる!あたしも泳ぐ!」
サンジに止められている横でウソップが海に飛び込む準備をしていてルフィとチョッパーが盛り上げている。海は苦手だけどこの海は綺麗だしこれなら泳げる気がするからあたしも入ってみたいんだけど!!
勝手に盛り上がってるあいつらの元にサンジを振り切って駆け寄るけど次はナミに腕を掴まれ引き止められる。なんだよ次から次へと、さすがのあたしも不機嫌なるぞ。
「ダメよ、あんた自分の身体見たの?まったく無茶ばっかりして」
「そうだぞ、ルイは怪我が酷いし包帯も巻き直さねぇといけないから泳ぐのはダメだ!傷も開くかもしれねぇし!」
なんとウソップを盛り上げていたチョッパーでさえあたしを止めるとは。いや、船医が怪我酷いっつーなら本当だって信じるよ?でもちょこっと泳ぐくらい良くない?傷が開いたら開いたでまたチョッパーが治してくれるだろうし。
でも何とかチョッパーは説得できたところでナミは絶対に無理だろうな、って直感で感じる。押し切って泳いだ時にはとてつもない大きさの拳骨が降って来るに違いない。だからここは大人しく身を引くけどさ…でも浅瀬行ったら絶対入ってやるし。決めた。
「ルイちゃんはもちろんだが、お前らも無茶すんな。まだ得体の知れねェ海だ!!」
泳ぐ気満々のウソップにそう声を掛けるサンジ。でも知らない、あたしが泳ぐことを許可してくれない3人何て知らねぇ。ウソップだって早くいって来いよ、泳ぐことあたしに見せつけんな。しかもナミはまだ腕を掴んでいて監視されてるみたい。離したってどこにも行かねーよ、行ったらお前殴るじゃん。わかってっから!
内心ナミに対して悪態をついていれば、バフン、と通常の海では考えられない飛び込み音と共にウソップが雲の海の中へ沈んでいった。はー羨まし、あたしも怪我さえしてなかったら一緒に飛び込めたのに。そんなことをぼんやり思いつつウソップが消えていった個所を見つめる。
が、一向に顔出さないウソップ。そんだけ海の中の居心地がいいんだろうな、つかこんなに息続くことが素直にすげぇよ。
「思うんだけど…………ここには……”海底”なんてあるのかしら」
ふと、ロビンが発した言葉に全員が固まった。確かに、よく考えるとノックアップストリームに乗ったまま直でこの海を通って来たわけだから、海底なんてないのかもしれない。
それからはもう早かった。ルフィが海の中に勢いよく手を伸ばして、伸ばした手にロビンが目玉を付けてウソップを見つけ、船まで無事引きあげた。けど、
「……なんかついてきてんだけど」
多分ウソップがルフィの腕についてきたんだと思うけど、どでかいタコとなんか変な魚。呆れて声を漏らしたけどタコはゾロが、変な魚はサンジが片付けてくれた。
ついでに言うと溺れていったウソップのズボンの中にもさっきよりは小さいけど変な魚が入っていたようで。今はもうサンジの手でソテーにされちゃってるけど。しかもルフィだけじゃなくてナミも頬張ってる。
別に腹が減ってるわけじゃないあたしは双眼鏡で空島を探すチョッパーの元へ近寄る。
「空島あった?」
「まだ見当たらないなぁ…」
「そ、無事たどり着けんのかね」
「大丈夫だと思うぞ?それよりルイ、さっきナミが言ってた通りお前無茶しすぎだ。運ばれてきた時びっくりしたんだからな!顔も身体も酷くて、サンジが顔だけは今すぐ治してやってくれってい言うから即効性の薬草混ぜて塗っておいたけど、」
あーあーあー、始まっちまった。怪我したとき恒例のお説教。チョッパーの説教は長いから右から左に聞き流してるけど、顔の腫れがなかったのはそういう事だったのか。自分でもわかるくらい腫れてたのが一瞬で自然治癒するはずないしな。
「サンジもいつも通り接してるけど一番怒ってるんだからな」
「まじか。でもまぁ、ありがとねチョッパー」
初めてここで目覚めた時とロン毛野郎に殴られたときと、今回のリンチ。3回も世話になってるしこれからも喧嘩っ早いあたしは世話になるかもしれねぇから礼はちゃんと言っておこう。サンジの事は後でどうにかするとして、今はチョッパーに感謝。
「次からは本当に気を付けないと俺も怒るぞ…お!船…」
「船あったの?なぁみんな、チョッパー船見つけたって!」
「ちょっと待ってくれルイ!なんか様子が…」
いまだ双眼鏡を覗き込んだままあたしに受け答えをするチョッパーの雰囲気が変わった。ぶつぶつなんか呟いてるけど「人?」とか「え、わ!」とか1人でころころ表情変えてる。一体何に百面相してんのか、双眼鏡で見ている方を見るけどあたしにはなんも見えない。チョッパーに何が見えてんのか全く持って検討が付かないわ。
なんとか肉眼で見ようと奮闘してるとだんだん点が豆粒大に、豆粒大が小指の第一関節くらいに近づいてくる。え、なんか近づいてきてない?だんだんでかくなっていてるよね、これ、
______ガンッ!!!_
「う”っ!!」
目の前に迫った奴は船の縁を簡単に飛び越えて、あたしの顎を蹴り上げた。
突然のことになにが起こったか頭が追い付いていない。蹴り上げられて頭が後ろに反り返り、皆の顔が見えた。背中に衝撃があったから、多分身体が浮いたんだと思う。顎を蹴られて平衡感覚が消えて、うまく起き上がれない。聞こえるのはあたしを呼ぶ声、怒声と殴られる音。あたしと同じように床に倒れ込むルフィ、ゾロ、サンジの3人。
ぷちん。あたしの中で何かが切れた。口元を拭って血をふき取り、ふらつく足取りで床と足裏を密着。いい蹴りを入れてくれた相手を探せばなんと、空中に浮いてた。地上にいない卑怯な手で戦闘を避けている相手に怒りが上書きされて。
「おいてめぇ逃げてんじゃねぇぞこら!!降りて来いぶん殴ってやっからよぉ!!」
「ぎゃあ!ルイがキレたぞ!!!!」
「あ”ぁ!?ぷかぷか浮いてんじゃねぇぞおい!!てめぇが来ねぇならこっちから行ってやんよ!!!!」
「待てルイ早まるな、この海には底がねぇんだぞ!飛び込んだら終わりだぞ!!」
「ふふ、本物のチンピラさんね」
ぷかぷかぷかぷか卑怯な手で浮かぶ奴めがけてジャンプしようと手すりに手を掛けもれなく足も掛ける。ぶち切れ状態のあたしをウソップが必死になって後ろから止め、ロビンはその後ろで笑ってる。
あいつはぜってぇ許さねぇ!先に手出しといて反撃されんのが怖いからって手が出せない空中に逃げやがって、人殴ったんなら殴られる覚悟してから殴れやクソ野郎が!!!
興奮冷めやらぬあたしを無視して、宙に浮く卑怯野郎はなんかでかいバズーカを肩に担いでる。
「排除する」
「排除されんのはてめぇだボケが!!!」
「ヒィイ!!頼むからこれ以上アイツを煽んねぇでくれよォ!」
何構えてんのか知らねぇけどそんなもん向けといてお前は高みの見物かよ何様だてめぇ!!
手すりにかけた足と手に力を込めた時、
「そこまでだァ!!!!」
空からか声がした。次はなんだ、また空飛んで戦う卑怯野郎か。苛立ちをそのままに声をした方を見ると、真っ白いひげを生やしたオッサンがめっちゃ色合いのキモイ鳥に乗って飛んできていた。
しかしそのオッサンはあたし達に手を出すんじゃなくて、宙に浮いていた卑怯野郎を持っていたでかい槍で一突き。と、思いきや卑怯野郎も持っていた盾で防ぐ。
その拍子に衝撃で空の海へ吹き飛ばされ沈む卑怯野郎。その光景にぶわ、と血が滾ったあたしはというと、
「いいぞオッサン!!やっちまえ!!!」
まるで賭け事をしているみたいにはしゃいでいた。イライラしていた気持ちが一瞬でスゥっと軽くなって一気に機嫌が戻り、満面の笑み。見たかこの野郎!そんな卑怯な手を使うから海に沈むんだよ!
暫くして、卑怯野郎をぶっ飛ばしてくれたオッサンはメリー号に上がっていた。卑怯野郎に吹っ飛ばされたあたしを除く3人は不甲斐なさそうな顔で甲板に座り込んでいる。あたしはというと、切れた口端をチョッパーに消毒してもらってる。包帯を替えるのは時間が掛かるから空島に着いてからにしようってさ。今回の怪我はあたしから突っ込んだわけじゃねぇからナミもサンジも怒ってない。
しかも卑怯野郎は海に沈んだまま上がってこねぇと思ったら、オッサンは去っただけだって言ってた。
「何なのよ一体……!!あいつは何物だったの!?それに何よあんた達だらしない!!!3人がかりでやられちゃうなんて!!」
「助けてくれてありがとう」
「ウム、よい。やむを得ん。これはサービスだ」
床に座り込む3人にナミは厳しいことを言ってっけど、確かにこの3人があんなひと蹴りでやられるなんておかしいとはあたしも思う。その横でチョッパーは丁寧にもオッサンに礼を言って話てっし。あたしも一応頭下げとこ、すっきりしたし。
「……きっと空気が薄いせいね…」
ロビンが静かに言った。その言葉にあたしを含む4人はなんか納得したような表情をする。いや、あたしは迎え撃ったわけじゃないけどブチ切れて叫びまくった後、妙に息が切れた。いつもならあの程度で切れるはずがないからおかしいとは思ってたんだけど、そういうことか。
「おぬしら青海人か?」
納得するあたしたちの顔を見てオッサンは問いかける。”青海人”という初めて聞くワードにクルー一行は「?」顔。前の世界ですら聞いたことない単語にあたしはもっと「?」顔。
聞けば”青海人”とは青い海から登ってきた奴らのこと。そしてここは”青海”から7000m上空の”白海”に位置すると。しかもあたしたちが目指してる空島はここより上、”青海”から一万mも上空の”白々海”にあるんだとか。だからここよりもっと空気の薄い場所が目的地ってことだ。
そしてオッサンの正体。オッサンの正体は”空の騎士”でガン・フォールとかいう傭兵らしい。乗っていた鳥はピエール。んで、このオッサンを呼ぶための笛を鳴らすのに1回500万エクストル掛かるんだけど、1回だけ無料で呼んでもいいことになって呼ぶ専用のホイッスルを貰った。
「何かしら…滝のようにも見えるけど」
オッサンに肝心なことは聞けず、結局何をすればよいか分からないまま振り出しに戻ったあたし達。けどまたもや我らが天才ロビンの助言によって振り出しに戻って萎えていたあたしは前の方を見る。
ロビンが言った通り、滝みたいなのがでかい雲に挟まれて流れてる。滝のほかに目につくものもなく、そこへ向かうことに。
「………その前にでっかい雲…」
「どうする?」
滝を挟んでいた雲は一つではなく、滝の前にもこんもりとでかい雲が。なんか、見た目は海の雲と違ってフカフカそうなんだけどな、これこそ本当に乗れる雲なんじゃねぇの?海に入れなかった分、この雲には絶対乗ってみたい。
あたしが真っ先に雲へ乗ろうとするとルフィの腕が横から伸びてきて雲をパンチ。
でもそのパンチは弾き返された。硬い感じじゃなくてパフンと柔らかい感じで。やっぱり、これは沈まない雲なんだ。そうとなれば、
「飛び込むしかねぇだろ!」
「あ、ちょっとルイ!!」
「先に行くなんてズリィぞルイ!」
手すりに立って、思いっきり飛び込む。投げ出された身体はうまく雲に着地、雲は拒否することはなくモフンと包み込んだ。あたしに続いてルフィとウソップ、チョッパーが飛び乗って来る。
「あんた達!またルイが無茶しないように見張っててよね!」
「おーう任せとけ!」
ナミの過保護は気にしないっと。それより今は目の前の雲に集中!すんげー柔らかくてふわふわしてて、これが布団だったら一生出たくないわ。
なんて呑気に考えてる暇はなくて、あたし達雲の上に乗ってる組はこの乗れる雲を進んで船の通れるルートを探すことに。この雲は船で通れねぇからなぁ。
踏むたびにフカフカと沈む感触に、あたしの心も跳ね上がった。
28.初めての感触
(踏むたびに、わくわくが募ってく)
「すっげェな、ルイ!今俺たち雲の上にいるんだってよ!」
惚けて海を見つめていると、ルフィが興奮気味に話しかけてきた。うん、本当にその通り。すごい、この一言に尽きる。まだ言葉は発せず、ただ何度も頷いて返す。なんだろ、この海なら入ってもいいかも何て思う。
「ルイちゃん、それ以上前に出ちまうと落ちちまうぜ」
途端、くん、と前に行く身体が止められたかと思うとサンジの腕が腹に当たっていて。なんだ、今日は腹をよく触られんな。睨もうとそいつへ顔を向けるも、自分が結構前に出てたことにびっくり。知らないうちに手すりに手を掛けて、少し前のめりになっていた。これは危ない、腹触られてんのはムカつくけどそうしてくんなきゃ落ちてたしな。仕方ない仕方ない。
「第一のコ~ス!!キャプテン・ウソップ泳ぎまーす!!!」
「おう!!やれやれ!!」
「は、ずる!あたしも泳ぐ!」
サンジに止められている横でウソップが海に飛び込む準備をしていてルフィとチョッパーが盛り上げている。海は苦手だけどこの海は綺麗だしこれなら泳げる気がするからあたしも入ってみたいんだけど!!
勝手に盛り上がってるあいつらの元にサンジを振り切って駆け寄るけど次はナミに腕を掴まれ引き止められる。なんだよ次から次へと、さすがのあたしも不機嫌なるぞ。
「ダメよ、あんた自分の身体見たの?まったく無茶ばっかりして」
「そうだぞ、ルイは怪我が酷いし包帯も巻き直さねぇといけないから泳ぐのはダメだ!傷も開くかもしれねぇし!」
なんとウソップを盛り上げていたチョッパーでさえあたしを止めるとは。いや、船医が怪我酷いっつーなら本当だって信じるよ?でもちょこっと泳ぐくらい良くない?傷が開いたら開いたでまたチョッパーが治してくれるだろうし。
でも何とかチョッパーは説得できたところでナミは絶対に無理だろうな、って直感で感じる。押し切って泳いだ時にはとてつもない大きさの拳骨が降って来るに違いない。だからここは大人しく身を引くけどさ…でも浅瀬行ったら絶対入ってやるし。決めた。
「ルイちゃんはもちろんだが、お前らも無茶すんな。まだ得体の知れねェ海だ!!」
泳ぐ気満々のウソップにそう声を掛けるサンジ。でも知らない、あたしが泳ぐことを許可してくれない3人何て知らねぇ。ウソップだって早くいって来いよ、泳ぐことあたしに見せつけんな。しかもナミはまだ腕を掴んでいて監視されてるみたい。離したってどこにも行かねーよ、行ったらお前殴るじゃん。わかってっから!
内心ナミに対して悪態をついていれば、バフン、と通常の海では考えられない飛び込み音と共にウソップが雲の海の中へ沈んでいった。はー羨まし、あたしも怪我さえしてなかったら一緒に飛び込めたのに。そんなことをぼんやり思いつつウソップが消えていった個所を見つめる。
が、一向に顔出さないウソップ。そんだけ海の中の居心地がいいんだろうな、つかこんなに息続くことが素直にすげぇよ。
「思うんだけど…………ここには……”海底”なんてあるのかしら」
ふと、ロビンが発した言葉に全員が固まった。確かに、よく考えるとノックアップストリームに乗ったまま直でこの海を通って来たわけだから、海底なんてないのかもしれない。
それからはもう早かった。ルフィが海の中に勢いよく手を伸ばして、伸ばした手にロビンが目玉を付けてウソップを見つけ、船まで無事引きあげた。けど、
「……なんかついてきてんだけど」
多分ウソップがルフィの腕についてきたんだと思うけど、どでかいタコとなんか変な魚。呆れて声を漏らしたけどタコはゾロが、変な魚はサンジが片付けてくれた。
ついでに言うと溺れていったウソップのズボンの中にもさっきよりは小さいけど変な魚が入っていたようで。今はもうサンジの手でソテーにされちゃってるけど。しかもルフィだけじゃなくてナミも頬張ってる。
別に腹が減ってるわけじゃないあたしは双眼鏡で空島を探すチョッパーの元へ近寄る。
「空島あった?」
「まだ見当たらないなぁ…」
「そ、無事たどり着けんのかね」
「大丈夫だと思うぞ?それよりルイ、さっきナミが言ってた通りお前無茶しすぎだ。運ばれてきた時びっくりしたんだからな!顔も身体も酷くて、サンジが顔だけは今すぐ治してやってくれってい言うから即効性の薬草混ぜて塗っておいたけど、」
あーあーあー、始まっちまった。怪我したとき恒例のお説教。チョッパーの説教は長いから右から左に聞き流してるけど、顔の腫れがなかったのはそういう事だったのか。自分でもわかるくらい腫れてたのが一瞬で自然治癒するはずないしな。
「サンジもいつも通り接してるけど一番怒ってるんだからな」
「まじか。でもまぁ、ありがとねチョッパー」
初めてここで目覚めた時とロン毛野郎に殴られたときと、今回のリンチ。3回も世話になってるしこれからも喧嘩っ早いあたしは世話になるかもしれねぇから礼はちゃんと言っておこう。サンジの事は後でどうにかするとして、今はチョッパーに感謝。
「次からは本当に気を付けないと俺も怒るぞ…お!船…」
「船あったの?なぁみんな、チョッパー船見つけたって!」
「ちょっと待ってくれルイ!なんか様子が…」
いまだ双眼鏡を覗き込んだままあたしに受け答えをするチョッパーの雰囲気が変わった。ぶつぶつなんか呟いてるけど「人?」とか「え、わ!」とか1人でころころ表情変えてる。一体何に百面相してんのか、双眼鏡で見ている方を見るけどあたしにはなんも見えない。チョッパーに何が見えてんのか全く持って検討が付かないわ。
なんとか肉眼で見ようと奮闘してるとだんだん点が豆粒大に、豆粒大が小指の第一関節くらいに近づいてくる。え、なんか近づいてきてない?だんだんでかくなっていてるよね、これ、
______ガンッ!!!_
「う”っ!!」
目の前に迫った奴は船の縁を簡単に飛び越えて、あたしの顎を蹴り上げた。
突然のことになにが起こったか頭が追い付いていない。蹴り上げられて頭が後ろに反り返り、皆の顔が見えた。背中に衝撃があったから、多分身体が浮いたんだと思う。顎を蹴られて平衡感覚が消えて、うまく起き上がれない。聞こえるのはあたしを呼ぶ声、怒声と殴られる音。あたしと同じように床に倒れ込むルフィ、ゾロ、サンジの3人。
ぷちん。あたしの中で何かが切れた。口元を拭って血をふき取り、ふらつく足取りで床と足裏を密着。いい蹴りを入れてくれた相手を探せばなんと、空中に浮いてた。地上にいない卑怯な手で戦闘を避けている相手に怒りが上書きされて。
「おいてめぇ逃げてんじゃねぇぞこら!!降りて来いぶん殴ってやっからよぉ!!」
「ぎゃあ!ルイがキレたぞ!!!!」
「あ”ぁ!?ぷかぷか浮いてんじゃねぇぞおい!!てめぇが来ねぇならこっちから行ってやんよ!!!!」
「待てルイ早まるな、この海には底がねぇんだぞ!飛び込んだら終わりだぞ!!」
「ふふ、本物のチンピラさんね」
ぷかぷかぷかぷか卑怯な手で浮かぶ奴めがけてジャンプしようと手すりに手を掛けもれなく足も掛ける。ぶち切れ状態のあたしをウソップが必死になって後ろから止め、ロビンはその後ろで笑ってる。
あいつはぜってぇ許さねぇ!先に手出しといて反撃されんのが怖いからって手が出せない空中に逃げやがって、人殴ったんなら殴られる覚悟してから殴れやクソ野郎が!!!
興奮冷めやらぬあたしを無視して、宙に浮く卑怯野郎はなんかでかいバズーカを肩に担いでる。
「排除する」
「排除されんのはてめぇだボケが!!!」
「ヒィイ!!頼むからこれ以上アイツを煽んねぇでくれよォ!」
何構えてんのか知らねぇけどそんなもん向けといてお前は高みの見物かよ何様だてめぇ!!
手すりにかけた足と手に力を込めた時、
「そこまでだァ!!!!」
空からか声がした。次はなんだ、また空飛んで戦う卑怯野郎か。苛立ちをそのままに声をした方を見ると、真っ白いひげを生やしたオッサンがめっちゃ色合いのキモイ鳥に乗って飛んできていた。
しかしそのオッサンはあたし達に手を出すんじゃなくて、宙に浮いていた卑怯野郎を持っていたでかい槍で一突き。と、思いきや卑怯野郎も持っていた盾で防ぐ。
その拍子に衝撃で空の海へ吹き飛ばされ沈む卑怯野郎。その光景にぶわ、と血が滾ったあたしはというと、
「いいぞオッサン!!やっちまえ!!!」
まるで賭け事をしているみたいにはしゃいでいた。イライラしていた気持ちが一瞬でスゥっと軽くなって一気に機嫌が戻り、満面の笑み。見たかこの野郎!そんな卑怯な手を使うから海に沈むんだよ!
暫くして、卑怯野郎をぶっ飛ばしてくれたオッサンはメリー号に上がっていた。卑怯野郎に吹っ飛ばされたあたしを除く3人は不甲斐なさそうな顔で甲板に座り込んでいる。あたしはというと、切れた口端をチョッパーに消毒してもらってる。包帯を替えるのは時間が掛かるから空島に着いてからにしようってさ。今回の怪我はあたしから突っ込んだわけじゃねぇからナミもサンジも怒ってない。
しかも卑怯野郎は海に沈んだまま上がってこねぇと思ったら、オッサンは去っただけだって言ってた。
「何なのよ一体……!!あいつは何物だったの!?それに何よあんた達だらしない!!!3人がかりでやられちゃうなんて!!」
「助けてくれてありがとう」
「ウム、よい。やむを得ん。これはサービスだ」
床に座り込む3人にナミは厳しいことを言ってっけど、確かにこの3人があんなひと蹴りでやられるなんておかしいとはあたしも思う。その横でチョッパーは丁寧にもオッサンに礼を言って話てっし。あたしも一応頭下げとこ、すっきりしたし。
「……きっと空気が薄いせいね…」
ロビンが静かに言った。その言葉にあたしを含む4人はなんか納得したような表情をする。いや、あたしは迎え撃ったわけじゃないけどブチ切れて叫びまくった後、妙に息が切れた。いつもならあの程度で切れるはずがないからおかしいとは思ってたんだけど、そういうことか。
「おぬしら青海人か?」
納得するあたしたちの顔を見てオッサンは問いかける。”青海人”という初めて聞くワードにクルー一行は「?」顔。前の世界ですら聞いたことない単語にあたしはもっと「?」顔。
聞けば”青海人”とは青い海から登ってきた奴らのこと。そしてここは”青海”から7000m上空の”白海”に位置すると。しかもあたしたちが目指してる空島はここより上、”青海”から一万mも上空の”白々海”にあるんだとか。だからここよりもっと空気の薄い場所が目的地ってことだ。
そしてオッサンの正体。オッサンの正体は”空の騎士”でガン・フォールとかいう傭兵らしい。乗っていた鳥はピエール。んで、このオッサンを呼ぶための笛を鳴らすのに1回500万エクストル掛かるんだけど、1回だけ無料で呼んでもいいことになって呼ぶ専用のホイッスルを貰った。
「何かしら…滝のようにも見えるけど」
オッサンに肝心なことは聞けず、結局何をすればよいか分からないまま振り出しに戻ったあたし達。けどまたもや我らが天才ロビンの助言によって振り出しに戻って萎えていたあたしは前の方を見る。
ロビンが言った通り、滝みたいなのがでかい雲に挟まれて流れてる。滝のほかに目につくものもなく、そこへ向かうことに。
「………その前にでっかい雲…」
「どうする?」
滝を挟んでいた雲は一つではなく、滝の前にもこんもりとでかい雲が。なんか、見た目は海の雲と違ってフカフカそうなんだけどな、これこそ本当に乗れる雲なんじゃねぇの?海に入れなかった分、この雲には絶対乗ってみたい。
あたしが真っ先に雲へ乗ろうとするとルフィの腕が横から伸びてきて雲をパンチ。
でもそのパンチは弾き返された。硬い感じじゃなくてパフンと柔らかい感じで。やっぱり、これは沈まない雲なんだ。そうとなれば、
「飛び込むしかねぇだろ!」
「あ、ちょっとルイ!!」
「先に行くなんてズリィぞルイ!」
手すりに立って、思いっきり飛び込む。投げ出された身体はうまく雲に着地、雲は拒否することはなくモフンと包み込んだ。あたしに続いてルフィとウソップ、チョッパーが飛び乗って来る。
「あんた達!またルイが無茶しないように見張っててよね!」
「おーう任せとけ!」
ナミの過保護は気にしないっと。それより今は目の前の雲に集中!すんげー柔らかくてふわふわしてて、これが布団だったら一生出たくないわ。
なんて呑気に考えてる暇はなくて、あたし達雲の上に乗ってる組はこの乗れる雲を進んで船の通れるルートを探すことに。この雲は船で通れねぇからなぁ。
踏むたびにフカフカと沈む感触に、あたしの心も跳ね上がった。
28.初めての感触
(踏むたびに、わくわくが募ってく)