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オッサンが”サウスバード”を捕まえて来いと俺達を南の森へ追いやって数分。いや、俺の体感時間はきっと数時間以上経っているから数分どころじゃないだろうな。なんたってこの森はやばい、誰が何と言おうがやばい。俺はルフィと行動してたけど、いろんな虫が襲ってきたりサウスバード自身が俺たちの邪魔をするように蜂の巣を落としたり、とりあえずいろいろ大変だった。虫もそうだけど、何よりそんな虫にさえ喧嘩っ早いルフィを止めるのに一苦労だった…喧嘩っ早いと言えば、ルイもそうだよなぁ。初めて会った時もリンチされてたって言って血だらけだったし。しかもジャヤに着いてそうそうに殴られてくるし。…船医の俺は心臓がいくつあってもたりねーぞ…。
そんな事より、サウスバード!俺たち7人掛かりでも捕まえられるか危うかったけど、ロビンが腕を巻き付けて何とか捕まえることができた。そうこうして俺たちは戦利品であるサウスバードをオッサンのところに持ち帰っている途中。
「にしても、こんな奴捕まえるのに結構な時間食っちゃったわね」
「でもこれ捕まえたら、あとは海に行くだけなんだろ?楽しみだなぁ、空島!!」
捕まえたサウスバードは不服そうに「ジョ~…」と変な鳴き声を漏らしている。ごめんな、空島いけたらすぐに放してやるから待っててな。動物の声も聞こえる俺はなんだか複雑な気分だ…。でも、空島が楽しみなのも事実なわけで、アラバスタに続く大冒険にわくわくしていないと言えば嘘になる。後は空島に行くだけ、っていうと簡単に聞こえるけど、たどり着くまでに命を賭けなきゃなんねぇのが、そりゃもう怖い。ウソップと一緒に震え上がるくらいには怖い。怖いけど、ルイは初めての冒険なんだ。だから俺はルイにも冒険の楽しさを知って欲しい。
ルイと言えば、あいつゾロの酒を一気飲みして倒れてたけどちゃんと横になってるよな…?オッサンたち、ちゃんと監視しててくれてるよな…?あぁダメだ、考えれば考えるほど嫌な予感しかしなくなってきた。俺はそんな考えを振り払うようにぶんぶん首を横に振って、足を速めた。
でも、俺の嫌な予感は的中してしまった。
南の森に出発したときは半分削れてるけど、綺麗な家だった。だけど森から帰ってみると、オッサンの家は半壊していて、はりぼてだって綺麗に穴が開いている。おまけにオッサンとマシラ、ショウジョウは酷い怪我で今すぐにでも治療が必要な状態だ。俺たちの船、メリー号もマストがぽっきり折られていて、船の先端部分も壊されている。ここに着く前だってぼろぼろだったメリー号には相当の痛手だと、思う。そんな惨状に、俺は生唾を呑み込んだ。
「ほんとに…すまん…おれ達がついていながら情けねェ…!」
オッサンは血だらけにもかかわらず俺たちに謝罪の言葉を述べる。オッサンが謝ることじゃねぇのに、一体誰がこんなこと…、あれ。ルイは、どこだ。もしかしてまだ家の中で寝てんのかな、でも、家はほとんど壊れて…。俺の中で最悪な考えが浮かび上がった。いや、きっとまだどっかで寝てるんだ。だってあんなに沢山のアルコールを摂取して、すぐに動けるわけないだろ。だから、大丈夫、おちつけ。オッサンたちが安全な場所にルイを隠してくれてる。大丈夫だ、
「すまねぇ、すまねぇ小僧…嬢ちゃんが、連れていかれちまった…!!」
最悪な考えが、現実になった。オッサンは申し訳なさそうに、それでいて悔しそうに頭を抱えて話し始める。
「おれ達を庇って、嬢ちゃん一人で立ち向かって…助けてやりたかった、しかし身体が動かねぇんだ…!!リンチ状態だったってのに助けてやれなくて、本当にすまねぇ…!!」
「いいよ、オッサン。ルイのこと見ててくれてありがとな」
感情をあらわに唇を噛みしめるオッサンをよそに、ルフィはいやに冷静だった。冷静に麦わら帽子をかぶりなおして、立ち上がる。それに続くようにサンジとゾロが立ち上がった。3人ともこめかみに青筋を浮かべているから、相当頭に来ているんだと、思う。誰がやったか、なんて明確だった。太い木の幹に海賊のだと思われるマークがでかでかと書かれていたから。そのマークを目にするや否や、ルフィの雰囲気が変わった。全身から怒りが込み上げているに違いない。
「金塊も無くなってたわ…!」
「…ナミ、出発まであとどのくらいだ?」
「ええと…3時間くらいかしら、」
「そうか。…朝までには、戻る」
静かなルフィにナミも軽くすごんでしまった。極々静かに言い放つルフィには違和感しか抱けないのは俺も一緒だ。それだけ怒っているということ。安静にしてろって言ったのに、ルイのバカ野郎…!!きっとまだアルコールが抜けきってなかったんだ、なのにあいつは、ルイは、オッサンたちを守ろうとして…!!
ルイとはまだ知り合って5日くらいだろうけど、あいつに異様なまでの仲間意識がある事は知ってる。なんであんなに仲間にこだわるのかは知らないけど、あいつのことだ。オッサンたちが殴られてるのに耐えられなかったんだろうと思う。
「ゾロとサンジは来るな、俺一人で行く」
さっきナミをすごめたルフィは走っていくのか念入りに屈伸してる。一緒に行く気だったゾロとサンジは不服そうに眉を寄せるも、冷静な船長の声をただ聞き入れて臨戦態勢を解いた。悔しい、俺も一緒に行ってルイを助けたい。けどもう出航の時間は刻一刻と近づいていて。ルフィ以外がついていったところで時間を食うのは目に見えてる。それにさして強くもない俺が行ったところで、ルフィの足手まといになっちまう。
「…ルフィ、ルイを見つけたらなるべく動かさないで連れて来てくれよ、」
「おう、任せろ」
屈伸を済ませたルフィに背後から声を掛ける。俺はついていけないけど、俺にできることをする。ルフィが金塊とルイを連れて戻って来るまでに、船を修繕して、医療環境も整えておかなきゃ。今俺にできることを、全力でする。
準備が整うと、俺たちクルーを順番に、無言で見つめていく船長。俺たちは揃って、同じ思いで船長の顔を見つめ返し頷く。
”ルイを、頼んだ”。
意識が朦朧とする。顔中が濡れている感じがする。べったりと、何かが垂れている。全身が痛い、指の先一つだって動かせない。幸い呼吸をはスムーズにできるから内臓はそれほど傷ついていない、と思いたい。寝そべっている場所はゾロからひったくった酒を飲んで倒れこんだ石造りの地面とよく似てるけど、違うとこは酒の匂いが充満していることと、頭を殴るように響いてくる汚い笑声。オッサンの家とは大違い過ぎて朦朧としている中でも、嫌でもわかる。
「あァ、あの時の大猿達にゃ笑ったよ!!あの図体で血まみれの顔に涙とハナ水たれ流して”おやっさあ~~~~ん”だ!!ハハハハ!!!」
だんだんと意識が覚醒していく中、聞いたことのある声。あー、この声は何回も聞いたことある、ロン毛の声だ。
そういえばあたし、オッサンたちがこいつらに傷つけられて、我慢できなくて飛び出して10人ほど殴り飛ばしたあと、お山の大将ベラミーが登場してきて、バネバネの実とかいう気持ち悪い動きしてきやがって、苦戦した。いくら拳を振っても空ぶってばかりでまったく当たらない。あたしの拳は当たらないのにそいつの拳は容赦なくあたしに叩き込まれて行って。鼻血出ようがゲロ吐こうがお構いなしに叩き込んでくるもんで、きつかった。しかもノしたと思ったロン毛が立ち上がってきて、頭を一発ガツン。その拍子に地面に転がって、その後は数十人に殴られ蹴られの暴行の始まり。なんか懐かしい気がしたよ、向こうで死ぬ前も同じ目に合ってたから。
あ、これ死ぬのかも。こんな短期間で2回死ぬとかレアじゃね?でも今回はそれだけじゃ終わらなかった。あたしの今の居場所が、あいつらの顔が思い浮かんだ。あたしに居場所をくれた奴ら。あたしに仲間をくれた奴ら。死にたくない、まだ、どこも行ってないんだ。あいつらと何にも、冒険できてないんだ。死にたくない、死にたくない。
そう、半分懇願しながら意識を手放して、今目覚めたと。生きててよかった、目覚めて安心したけど、顔中ぼこぼこに腫れ上がって今めちゃくちゃブスだと思う。
「しかし、この女も馬鹿だよな。サーキースをぶん殴るなんて」
「一瞬遅れをとっちまったがコバエ程度だったな!」
誰だかわからない声の後にロン毛の声。お前嘘つけ、あたしにみぞおち殴られた瞬間うめいてただろうが。
声に出そうとして、逆に嫌なものが込み上げてきた。耐えられなくて大人しく気管を逆流するものに身を委ねると簡単に血反吐が吐き出され、石造りの冷たい床を赤黒く染め上げていく。それを合図にベラミー御一行はあたしの意識が戻ったことに気が付いた。
「おいベラミー、起きたみてぇだぞ」
おいコラロン毛野郎、勝手に教えてんじゃねぇよ。お前あたしにぶっ飛ばされてただろうがよ。
動かしたくてもピクリとも動かない身体にイラつく。そんなにやわな身体じゃなかったはずなんだけど。前の世界より飯もうまくて、まともに食って、ちょっとは不摂生が治った気がしてたんだけどな、気がしてただけか。
「よう、起きたか。お前がいいのは威勢だけだったみてェだな。おめェには後でじっくり、俺の海賊団の焼印を付けてやっからそれまでおねんねしてな。俺は今虫の居所がいいんだ」
「そうだぜ、俺の女になるんだ。嬉しいだろ?」
ロン毛の言葉に反応してあたしの方を振り返るベラミー。動けないのを他所に言葉を続けた後におなじみの特徴的な笑い声をあげる。意味が、分からなかった。焼印ってなんだよ。刺青みたいなもんか?こいつらの焼印…そんなもん、入れられて堪るかよ。誰がお前らの海賊団に、誰がロン毛の女なんかになるかってんだよ。
早く身体を起こして、オッサンの家に帰らねぇと。もうあいつら戻ってきてっかな。早く、戻らねぇと。空島にいけなくなっちまう。
言い聞かせて、動かない身体にを鞭を打って起き上がろうとした。けど、全然言うことを聞かない。しかも最悪なことに、視界が黒で塗りつぶされていく。いやだ、気絶したくない。帰りたい。早く、あいつらの顔が見たい。嫌だ、嫌だ。こいつらの仲間になんてなりたくない。嫌だ、嫌だ、嫌だ。たすけて、るふぃ、
「べラミィ~~~~~~~~!!!どこだァアア~~~~~~~~!!!」
聞きなれた、声がした。消えかけていた意識が引っ張り戻される。求めていた声。求めていた人。不意に目の奥が熱を帯びて、震えた。まだ乾いてない血の上をしょっぱい雫が伝っていく。来てくれた、ルフィが来てくれた。けど、感傷に浸る暇もなくベラミーはあたしの髪を引っ掴んで引きずっていく。石造りの床はその様子を冷めた温度で見つめていて。
うめくことしか出来ず一通り引きずられると止まる振動。辺りが仄暗いのは、月が雲に隠されず煌々と輝いているから。でもその輝きを阻む影が一つ。軋む頸椎を無理に動かし見上げれば、
「ルイとオッサンの金塊、返せよ」
麦わら帽子が風に揺らいでいた。
25.それはまるで、
(ヒーローみたいだった)
そんな事より、サウスバード!俺たち7人掛かりでも捕まえられるか危うかったけど、ロビンが腕を巻き付けて何とか捕まえることができた。そうこうして俺たちは戦利品であるサウスバードをオッサンのところに持ち帰っている途中。
「にしても、こんな奴捕まえるのに結構な時間食っちゃったわね」
「でもこれ捕まえたら、あとは海に行くだけなんだろ?楽しみだなぁ、空島!!」
捕まえたサウスバードは不服そうに「ジョ~…」と変な鳴き声を漏らしている。ごめんな、空島いけたらすぐに放してやるから待っててな。動物の声も聞こえる俺はなんだか複雑な気分だ…。でも、空島が楽しみなのも事実なわけで、アラバスタに続く大冒険にわくわくしていないと言えば嘘になる。後は空島に行くだけ、っていうと簡単に聞こえるけど、たどり着くまでに命を賭けなきゃなんねぇのが、そりゃもう怖い。ウソップと一緒に震え上がるくらいには怖い。怖いけど、ルイは初めての冒険なんだ。だから俺はルイにも冒険の楽しさを知って欲しい。
ルイと言えば、あいつゾロの酒を一気飲みして倒れてたけどちゃんと横になってるよな…?オッサンたち、ちゃんと監視しててくれてるよな…?あぁダメだ、考えれば考えるほど嫌な予感しかしなくなってきた。俺はそんな考えを振り払うようにぶんぶん首を横に振って、足を速めた。
でも、俺の嫌な予感は的中してしまった。
南の森に出発したときは半分削れてるけど、綺麗な家だった。だけど森から帰ってみると、オッサンの家は半壊していて、はりぼてだって綺麗に穴が開いている。おまけにオッサンとマシラ、ショウジョウは酷い怪我で今すぐにでも治療が必要な状態だ。俺たちの船、メリー号もマストがぽっきり折られていて、船の先端部分も壊されている。ここに着く前だってぼろぼろだったメリー号には相当の痛手だと、思う。そんな惨状に、俺は生唾を呑み込んだ。
「ほんとに…すまん…おれ達がついていながら情けねェ…!」
オッサンは血だらけにもかかわらず俺たちに謝罪の言葉を述べる。オッサンが謝ることじゃねぇのに、一体誰がこんなこと…、あれ。ルイは、どこだ。もしかしてまだ家の中で寝てんのかな、でも、家はほとんど壊れて…。俺の中で最悪な考えが浮かび上がった。いや、きっとまだどっかで寝てるんだ。だってあんなに沢山のアルコールを摂取して、すぐに動けるわけないだろ。だから、大丈夫、おちつけ。オッサンたちが安全な場所にルイを隠してくれてる。大丈夫だ、
「すまねぇ、すまねぇ小僧…嬢ちゃんが、連れていかれちまった…!!」
最悪な考えが、現実になった。オッサンは申し訳なさそうに、それでいて悔しそうに頭を抱えて話し始める。
「おれ達を庇って、嬢ちゃん一人で立ち向かって…助けてやりたかった、しかし身体が動かねぇんだ…!!リンチ状態だったってのに助けてやれなくて、本当にすまねぇ…!!」
「いいよ、オッサン。ルイのこと見ててくれてありがとな」
感情をあらわに唇を噛みしめるオッサンをよそに、ルフィはいやに冷静だった。冷静に麦わら帽子をかぶりなおして、立ち上がる。それに続くようにサンジとゾロが立ち上がった。3人ともこめかみに青筋を浮かべているから、相当頭に来ているんだと、思う。誰がやったか、なんて明確だった。太い木の幹に海賊のだと思われるマークがでかでかと書かれていたから。そのマークを目にするや否や、ルフィの雰囲気が変わった。全身から怒りが込み上げているに違いない。
「金塊も無くなってたわ…!」
「…ナミ、出発まであとどのくらいだ?」
「ええと…3時間くらいかしら、」
「そうか。…朝までには、戻る」
静かなルフィにナミも軽くすごんでしまった。極々静かに言い放つルフィには違和感しか抱けないのは俺も一緒だ。それだけ怒っているということ。安静にしてろって言ったのに、ルイのバカ野郎…!!きっとまだアルコールが抜けきってなかったんだ、なのにあいつは、ルイは、オッサンたちを守ろうとして…!!
ルイとはまだ知り合って5日くらいだろうけど、あいつに異様なまでの仲間意識がある事は知ってる。なんであんなに仲間にこだわるのかは知らないけど、あいつのことだ。オッサンたちが殴られてるのに耐えられなかったんだろうと思う。
「ゾロとサンジは来るな、俺一人で行く」
さっきナミをすごめたルフィは走っていくのか念入りに屈伸してる。一緒に行く気だったゾロとサンジは不服そうに眉を寄せるも、冷静な船長の声をただ聞き入れて臨戦態勢を解いた。悔しい、俺も一緒に行ってルイを助けたい。けどもう出航の時間は刻一刻と近づいていて。ルフィ以外がついていったところで時間を食うのは目に見えてる。それにさして強くもない俺が行ったところで、ルフィの足手まといになっちまう。
「…ルフィ、ルイを見つけたらなるべく動かさないで連れて来てくれよ、」
「おう、任せろ」
屈伸を済ませたルフィに背後から声を掛ける。俺はついていけないけど、俺にできることをする。ルフィが金塊とルイを連れて戻って来るまでに、船を修繕して、医療環境も整えておかなきゃ。今俺にできることを、全力でする。
準備が整うと、俺たちクルーを順番に、無言で見つめていく船長。俺たちは揃って、同じ思いで船長の顔を見つめ返し頷く。
”ルイを、頼んだ”。
意識が朦朧とする。顔中が濡れている感じがする。べったりと、何かが垂れている。全身が痛い、指の先一つだって動かせない。幸い呼吸をはスムーズにできるから内臓はそれほど傷ついていない、と思いたい。寝そべっている場所はゾロからひったくった酒を飲んで倒れこんだ石造りの地面とよく似てるけど、違うとこは酒の匂いが充満していることと、頭を殴るように響いてくる汚い笑声。オッサンの家とは大違い過ぎて朦朧としている中でも、嫌でもわかる。
「あァ、あの時の大猿達にゃ笑ったよ!!あの図体で血まみれの顔に涙とハナ水たれ流して”おやっさあ~~~~ん”だ!!ハハハハ!!!」
だんだんと意識が覚醒していく中、聞いたことのある声。あー、この声は何回も聞いたことある、ロン毛の声だ。
そういえばあたし、オッサンたちがこいつらに傷つけられて、我慢できなくて飛び出して10人ほど殴り飛ばしたあと、お山の大将ベラミーが登場してきて、バネバネの実とかいう気持ち悪い動きしてきやがって、苦戦した。いくら拳を振っても空ぶってばかりでまったく当たらない。あたしの拳は当たらないのにそいつの拳は容赦なくあたしに叩き込まれて行って。鼻血出ようがゲロ吐こうがお構いなしに叩き込んでくるもんで、きつかった。しかもノしたと思ったロン毛が立ち上がってきて、頭を一発ガツン。その拍子に地面に転がって、その後は数十人に殴られ蹴られの暴行の始まり。なんか懐かしい気がしたよ、向こうで死ぬ前も同じ目に合ってたから。
あ、これ死ぬのかも。こんな短期間で2回死ぬとかレアじゃね?でも今回はそれだけじゃ終わらなかった。あたしの今の居場所が、あいつらの顔が思い浮かんだ。あたしに居場所をくれた奴ら。あたしに仲間をくれた奴ら。死にたくない、まだ、どこも行ってないんだ。あいつらと何にも、冒険できてないんだ。死にたくない、死にたくない。
そう、半分懇願しながら意識を手放して、今目覚めたと。生きててよかった、目覚めて安心したけど、顔中ぼこぼこに腫れ上がって今めちゃくちゃブスだと思う。
「しかし、この女も馬鹿だよな。サーキースをぶん殴るなんて」
「一瞬遅れをとっちまったがコバエ程度だったな!」
誰だかわからない声の後にロン毛の声。お前嘘つけ、あたしにみぞおち殴られた瞬間うめいてただろうが。
声に出そうとして、逆に嫌なものが込み上げてきた。耐えられなくて大人しく気管を逆流するものに身を委ねると簡単に血反吐が吐き出され、石造りの冷たい床を赤黒く染め上げていく。それを合図にベラミー御一行はあたしの意識が戻ったことに気が付いた。
「おいベラミー、起きたみてぇだぞ」
おいコラロン毛野郎、勝手に教えてんじゃねぇよ。お前あたしにぶっ飛ばされてただろうがよ。
動かしたくてもピクリとも動かない身体にイラつく。そんなにやわな身体じゃなかったはずなんだけど。前の世界より飯もうまくて、まともに食って、ちょっとは不摂生が治った気がしてたんだけどな、気がしてただけか。
「よう、起きたか。お前がいいのは威勢だけだったみてェだな。おめェには後でじっくり、俺の海賊団の焼印を付けてやっからそれまでおねんねしてな。俺は今虫の居所がいいんだ」
「そうだぜ、俺の女になるんだ。嬉しいだろ?」
ロン毛の言葉に反応してあたしの方を振り返るベラミー。動けないのを他所に言葉を続けた後におなじみの特徴的な笑い声をあげる。意味が、分からなかった。焼印ってなんだよ。刺青みたいなもんか?こいつらの焼印…そんなもん、入れられて堪るかよ。誰がお前らの海賊団に、誰がロン毛の女なんかになるかってんだよ。
早く身体を起こして、オッサンの家に帰らねぇと。もうあいつら戻ってきてっかな。早く、戻らねぇと。空島にいけなくなっちまう。
言い聞かせて、動かない身体にを鞭を打って起き上がろうとした。けど、全然言うことを聞かない。しかも最悪なことに、視界が黒で塗りつぶされていく。いやだ、気絶したくない。帰りたい。早く、あいつらの顔が見たい。嫌だ、嫌だ。こいつらの仲間になんてなりたくない。嫌だ、嫌だ、嫌だ。たすけて、るふぃ、
「べラミィ~~~~~~~~!!!どこだァアア~~~~~~~~!!!」
聞きなれた、声がした。消えかけていた意識が引っ張り戻される。求めていた声。求めていた人。不意に目の奥が熱を帯びて、震えた。まだ乾いてない血の上をしょっぱい雫が伝っていく。来てくれた、ルフィが来てくれた。けど、感傷に浸る暇もなくベラミーはあたしの髪を引っ掴んで引きずっていく。石造りの床はその様子を冷めた温度で見つめていて。
うめくことしか出来ず一通り引きずられると止まる振動。辺りが仄暗いのは、月が雲に隠されず煌々と輝いているから。でもその輝きを阻む影が一つ。軋む頸椎を無理に動かし見上げれば、
「ルイとオッサンの金塊、返せよ」
麦わら帽子が風に揺らいでいた。
25.それはまるで、
(ヒーローみたいだった)