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ウソップがオッサンを疑いにかかったあと、ちゃんと謝ったあいつは偉いと思う。まぁ鼻水たらしながら謝っててあの状態で引っ付かれるのは正直勘弁って思ったけどな。初めてオッサンが不憫に思えた。ウソップといいチョッパーといいルフィといい、うちの男どもはすぐ鼻水たらしやがる。
とりあえずウソップのオッサン疑い事件はひと段落し、あたし達は今、そのオッサンの家で飯を食っている。飯の時間がいつも騒がしいのは知ってたが、今日は猿たちも加わって更にうるせぇ。派手な笑い声が家の外まで響いて森にまで響いているんじゃないかと錯覚を起こす。慣れたと思っていた騒がしい夕食、まだまだ慣れたもんじゃねぇな。
騒がしさについていけないあたしはというと、サンジが作ったサンマのフルコースを少量皿に取ってロビンの隣に座っていた。もちろん飲料は水、生前だって酒は飲んだことねぇし。隣のロビンもちびちび何かを飲みながら変な本を読んでる。多分あたしが覗き込んでも絶対に理解できない本。見てると頭痛くなってくるわ。
騒がしい奴らを肴に飯を食っていると、
「あなたも向こうに行って食べたらどう?」
本を読んでいたはずのロビンが聞いてきた。言葉を発する代わりに首を振ってノーの意思を示しといた。さすがにあそこに混じれる気概はないわな。つか、さっきあんなことあったのに普通に話せんのかよお前、と心の中で呟いといた。
次いで、彼女の持つ本を理解できない前提で覗き込んだところで、あたしたちが見る本に影が落ちてきた。なんだ、なんか電気に変なの止まってんじゃないだろうな、
「”髑髏の右目に黄金を見た”」
「ぎゃあああ!!」
何事かと顔を上げたのが間違いだった。目の前にオッサンの顔がドアップで写ってた。あのオッサンの顔が。しんどい通り越して気持ちわりぃわ。おかげで叫んじまったじゃねぇかよ!
オッサンの顔面にビビり倒したあたしは後ろの壁に頭をぶつけ、ひとり悶えていたのは言うまでもない。ナミはあたしを可笑しい奴を見る目で見てくるし、サンジは心配してるように見せかけて近づいてくるしキモイ。しかしナミがあたしを見やったのは一瞬で、オッサンのある言葉に反応を示した。
「黄金!?」
「涙で滲んだその文がノーランドが書いた最期の文章……その日ノーランドは処刑された。このジャヤに来てもその言葉の意味は全く分からねェ」
滲んだ文章……あぁ、あたしが覗き込んだ時なんか読めない文字で書いてあったな。それが”髑髏の右目に黄金を見た”か…。髑髏、頭蓋骨の中に金銀財宝が詰まってたって感じ?なんかザ・海賊って感じだなそれ。じゃあそのお宝が詰まった頭蓋骨を見たっつーこと?
「頭蓋骨に財宝とかえぐくねぇ?でもそれだけじゃちっちぇ―よな。もしかして人間じゃない頭蓋骨に入ってたとか?」
「それはないと思うわ」
あたしの珍しい考察も虚しく、ロビンにばっさり、一刀両断されてしまいました。べぇっつに、そんなすぐ否定しなくてもよくね?あたしだって一生懸命考えたんですー、普段使わない頭絞ったんですー。
その後もロビンが読んでいた本の話題で付きっ切り、あたしは再度その様子を肴に飯を頬張っていたところ。
「おう、飲んでるか?」
……陸に住む珍しいマリモさんが登場。なんか嫌に上機嫌だしちょっと、というかかなりキモイ。今回ばかりはサンジに並んでキモイ。ニタニタ変な笑顔向けて近寄って来るしキモイ以外の何物でもなくね?キモ・オブ・ザ・キモ。マリモにカビ生やすぞ。
「何、なんで近寄ってくんの。後なんかキモイんですけど」
「あァ?酒もありゃあ、俺は機嫌いいんだよ。お前は飲まねぇのか?」
「いや、飲んだことねぇし別にいらねぇ。水飲んでるし」
このマリモ、何かと思えばただ飲酒進めてくるだけじゃんあたしが生きてた世界じゃこんな事したら一発で逮捕だぞテメェ。しかも今はやたら口数が多くなってて率直に言ってキモイ。普段喋んねー奴がこんなんなったら誰でもキモイっつーよな、うん、あたしだけじゃねぇはず。こんなの相手してくれんのサンジだけだって、飲んだ状態であたしに近づくんじゃねぇぞ。さすがにしつこいし気持ちわりぃし、相手にしたくなくて放っておいた。が、
「ガキかよ、酒の一つも飲めねぇなんて」
「………あ?」
無視を決め込むあたしにマリモはなんと、煽りを入れてきた。さっきもオッサンのやっすい挑発に乗ったあたしがこの挑発に乗らないわけがなくて。簡単に火が付いたあたしはゾロが持つ、酒が並々に継がれたジョッキを奪い取り、
「うっせぇよ、クソマリモ」
サンジがいつもこいつに吐き捨てる名前を吐き出し、
ジョッキの酒を一気に煽り、飲み下した。
喉を撫でるそれの感覚に慣れず、一瞬むせそうになったけど何とか堪えて、ジョッキの底が見えるまで飲み干した。
途端、喉と胸がカッ、と熱くなって。そこを中心に全身の隅々まで熱をっ持ったように火照り始めてめちゃくちゃしんどい。頭がぐわんぐわん揺れるし、目の前のマリモが歪んでいく。なんか焦ってる声が聞こえるけど急に耳が遠くなって何にも聞こえねぇ。
どうだ、飲んでやったぞ。これで満足かよ。口に出したつもりが出ていなかったらしくて無言でゾロにジョッキを押し付ける形になった。押し付けるために前方に移動させた体重が戻ってこなくて、そのまま派手な音を立てて床にダイブした。ほかの奴らのその音で気づいたのかあたしを取り囲むように覗き込む。
あー、床がひんやりしてめちゃくちゃ気持ちい。火照った体の熱を吸われていく感覚に瞳を細める。
「おいクソマリモ!お前ルイちゃんに何した!」
「あ?!なんもしてね……あー…」
「何バツ悪そうな顔してんだコラ!!」
「大変だ、ルイ、顔真っ赤だぞ?!」
あ”~うるせぇ、お前ら人の上でぎゃーぎゃー騒ぐんじゃねぇよ…こちとら頭いてぇんだよ…。そんな言葉さえ口に出せず、最後にチョッパーの声を聴いてあたしは意識を手放した。
ふわふわしてる、感じ。頭痛も消えて気分もそんな悪くない。身体が熱いのは収まってねぇけど、さっきよりは幾分かマシ…。って、
意識が浮上して瞼を上げる。暗闇にいたから急な光に瞳孔が怯える。見覚えのある天井、でもさっきみたいな騒がしさは何にもなくて。身体を起こしてぼうっ、とする頭でここはオッサンの家だと理解する。
「おっ、起きたか嬢ちゃん」
「…オッサンだけ?」
いやに静かだったのはうちのクルーがいなかったからか。家の中はオッサンとあの猿2匹だけ。あれ、なんであいつらいないの。船戻って寝てんのか?
「あぁ、あいつらは今”サウスバード”を南の森で探してる」
「さうすばーど?鳥?」
「ノックアップストリームを見つけるために必要な鳥なんだがな、探しに行かせるのを忘れちまっててよ」
おいオッサン。軽々しく言ってるけどそれ大変なことなんじゃねーの?だって海に出るのが明日の朝には出ねぇといけねぇだろ?オッサンお前これで空島いけなくなったらルフィにぶっ飛ばされるぞ。
「あたしも探しに行く」
「ダメだ、倒れたの忘れたのか?急にアルコールを摂取したからぶっ倒れたんだと、あのトナカイが言ってた。身体からアルコールが抜けるまでは安静にしてろ」
「もうずいぶん寝たし大丈夫だろ」
「あと一時間は安静にしてろ」
げ、オッサン抜ける時間数えてんのかよ。オッサンもちょっとキモさうつってきたんじゃねぇの?正確な時間測んなくたってもう頭痛消えてるし大丈夫だろーが。身体の熱だってさっきよりマシだしよ。
何とかこの猿たちを躱していこうと立ち上がった時、オッサンが険しい顔つきになった。
「………嬢ちゃん、家ん中から出てくんじゃねぇぞ」
「は?どういう、」
オッサンの今までと違うすごみに肌がぴりついた。オッサンは猿2匹、ショウジョウとマシラを連れて出ていこうとした。わけがわかんねえあたしはベッドから飛び起き、着いていこうとした。
「ダメだ嬢ちゃん、安静にしてな」
「心配すんじゃねェよ、すぐ片付けてくっから」
猿にはばかられてオッサンについていく事は許してくれなかった。なんだよ、片付けてくるって。オッサンの顔つきも気になるし、何がなんだかわかんねぇよ。理解できないまま三3人の背中を眺めていた。ぱたん、と、静かにドアが閉まって数分後。
「ハハッハハ!!おめェら用心棒か…」
聞いたことのある、声。鳥肌が立つねっとりとした声音。まだ腫れの引かない左頬がじん、と嫌な疼痛を訴えてくる。聞いたことのある声、聞いたことのある話し方。あたしの頬はこいつにやられたわけじゃねぇけど、こいつがいるってことはあのロン毛野郎がいるのも確定なわけで。なんでここに、ここはそう簡単にわかる場所なのか?あたし達でも船でぐるっと回ってきて、このオッサンは別に有名なわけじゃねぇし、なんであいつらはここに居んだ?
「他人が苦労の末手に入れた宝ってのはまた…格別の味がするもんだ……人がおれを何て呼ぶか教えてやろうか。”ハイエナ”だハハッハハ!!!」
特徴的な笑い声に身体が強張った。その言葉の最後を合図にお互いが飛びかかったのが分かった。土を蹴る音、次いで聞こえたのは、バキッ、と何かを殴る音と、オッサンのうめき声。2人のオッサンを呼ぶ声が聞こえる。そしてまた、土を蹴る音。でもすぐ聞こえるのは3人のうめき声と、痛々しい殴打音だけで。一向にベラミーが苦戦している声が聞こえない。どうなってんだよオッサン、なぁ、
永遠に続くのではないかと思わせる3人のうめきと殴打音。堪らず窓から軽く顔を覗かせて外の様子を伺う。
目を、疑った。
オッサンたちはもうすでにボロボロで、それでもべラミー達大勢に立ち向かっていて。傷だらけで、血も至る所から滴って。悲しみより、怒りがあたしの腹の中を煮立った。怒りに任せてドアを蹴破り、オッサンの言いつけを破った。ごめんな、オッサン。後で叱らねぇでくれよ。
「嬢ちゃん!出てくるなっ!!」
「あ?おめェサーキースにぶっ飛ばされてた女じゃねぇかよ。おいサーキース!お前に抱かれてェってよ!ハハッハハ!!!」
「おいおい、まだ殴ったとこの腫れが引いてねぇじゃねぇか。ごめんなぁ、次は優しくしてやっからよ」
ベラミーがあたしに気づき、ロン毛野郎が昼間と何ら変わりないきったない笑みを張り付けて近づいてくる。それもお構いなしにこちらからも向かっていく。汚い笑声を進んで、オッサンの前に立つ。横にはマシラが転がっていて、背中にざっくりと傷が開いていて。海を見やるとショウジョウが浮かんでいて、体中傷だらけだった。腹の中の煮立ちが、より一層沸騰していく。唇を噛みしめて、目の前のロン毛を睨む。ロン毛の手にはナイフが2本、そこそこ刃が大きい。マシラはこれにやられたのか。
「ハッ、威勢のいい女は嫌いじゃ、っがふ……?!」
まずは、一発。ロン毛の無防備などてっぱらに怒りで力任せに固く握りしめた拳を一発叩き込んだ。不意なみぞおちへの衝撃によろめくが、すぐさま臨戦態勢に戻れるのは腐っても海賊だからだろう。でも、
「おせぇよ、クズが」
あたしはそれより早く、反応して背中に回る。昼間にオッサンに叩き込んだくらいの強さで思い切りうざったい衣服に纏われている背中へ蹴りを入れた。軽くよろめくだけで済む。こういう時は対格差が非常に恨めしく思う。
蹴りをお見舞いした後はくるりと反転し背中を向け、ロン毛の髪を引っ掴む。
「っら”あ”あ”あ”あ”!!!」
対格差がなんだ。オッサンの傷を思い出せ。マシラの、ショウジョウの傷を思い出せ。許せない、許すな、こいつらを許すな。歯を食いしばって、髪を掴んだ腕を回して背負い投げの形でロン毛を吹っ飛ばす。派手な音を立てて地面に顔面から叩きつけられたロン毛は潰れた声を漏らす。土誇りを払うよう、衣服に手を滑らした。
「ぜってぇ許さねぇ」
拳を握りなおしてベラミーもとい、ゴミに向き直る。ぐつぐつと、腹の煮立ちが耳を埋め尽くした。
24.長い長い夜
(頼むから、早く帰ってきてくれよ)
とりあえずウソップのオッサン疑い事件はひと段落し、あたし達は今、そのオッサンの家で飯を食っている。飯の時間がいつも騒がしいのは知ってたが、今日は猿たちも加わって更にうるせぇ。派手な笑い声が家の外まで響いて森にまで響いているんじゃないかと錯覚を起こす。慣れたと思っていた騒がしい夕食、まだまだ慣れたもんじゃねぇな。
騒がしさについていけないあたしはというと、サンジが作ったサンマのフルコースを少量皿に取ってロビンの隣に座っていた。もちろん飲料は水、生前だって酒は飲んだことねぇし。隣のロビンもちびちび何かを飲みながら変な本を読んでる。多分あたしが覗き込んでも絶対に理解できない本。見てると頭痛くなってくるわ。
騒がしい奴らを肴に飯を食っていると、
「あなたも向こうに行って食べたらどう?」
本を読んでいたはずのロビンが聞いてきた。言葉を発する代わりに首を振ってノーの意思を示しといた。さすがにあそこに混じれる気概はないわな。つか、さっきあんなことあったのに普通に話せんのかよお前、と心の中で呟いといた。
次いで、彼女の持つ本を理解できない前提で覗き込んだところで、あたしたちが見る本に影が落ちてきた。なんだ、なんか電気に変なの止まってんじゃないだろうな、
「”髑髏の右目に黄金を見た”」
「ぎゃあああ!!」
何事かと顔を上げたのが間違いだった。目の前にオッサンの顔がドアップで写ってた。あのオッサンの顔が。しんどい通り越して気持ちわりぃわ。おかげで叫んじまったじゃねぇかよ!
オッサンの顔面にビビり倒したあたしは後ろの壁に頭をぶつけ、ひとり悶えていたのは言うまでもない。ナミはあたしを可笑しい奴を見る目で見てくるし、サンジは心配してるように見せかけて近づいてくるしキモイ。しかしナミがあたしを見やったのは一瞬で、オッサンのある言葉に反応を示した。
「黄金!?」
「涙で滲んだその文がノーランドが書いた最期の文章……その日ノーランドは処刑された。このジャヤに来てもその言葉の意味は全く分からねェ」
滲んだ文章……あぁ、あたしが覗き込んだ時なんか読めない文字で書いてあったな。それが”髑髏の右目に黄金を見た”か…。髑髏、頭蓋骨の中に金銀財宝が詰まってたって感じ?なんかザ・海賊って感じだなそれ。じゃあそのお宝が詰まった頭蓋骨を見たっつーこと?
「頭蓋骨に財宝とかえぐくねぇ?でもそれだけじゃちっちぇ―よな。もしかして人間じゃない頭蓋骨に入ってたとか?」
「それはないと思うわ」
あたしの珍しい考察も虚しく、ロビンにばっさり、一刀両断されてしまいました。べぇっつに、そんなすぐ否定しなくてもよくね?あたしだって一生懸命考えたんですー、普段使わない頭絞ったんですー。
その後もロビンが読んでいた本の話題で付きっ切り、あたしは再度その様子を肴に飯を頬張っていたところ。
「おう、飲んでるか?」
……陸に住む珍しいマリモさんが登場。なんか嫌に上機嫌だしちょっと、というかかなりキモイ。今回ばかりはサンジに並んでキモイ。ニタニタ変な笑顔向けて近寄って来るしキモイ以外の何物でもなくね?キモ・オブ・ザ・キモ。マリモにカビ生やすぞ。
「何、なんで近寄ってくんの。後なんかキモイんですけど」
「あァ?酒もありゃあ、俺は機嫌いいんだよ。お前は飲まねぇのか?」
「いや、飲んだことねぇし別にいらねぇ。水飲んでるし」
このマリモ、何かと思えばただ飲酒進めてくるだけじゃんあたしが生きてた世界じゃこんな事したら一発で逮捕だぞテメェ。しかも今はやたら口数が多くなってて率直に言ってキモイ。普段喋んねー奴がこんなんなったら誰でもキモイっつーよな、うん、あたしだけじゃねぇはず。こんなの相手してくれんのサンジだけだって、飲んだ状態であたしに近づくんじゃねぇぞ。さすがにしつこいし気持ちわりぃし、相手にしたくなくて放っておいた。が、
「ガキかよ、酒の一つも飲めねぇなんて」
「………あ?」
無視を決め込むあたしにマリモはなんと、煽りを入れてきた。さっきもオッサンのやっすい挑発に乗ったあたしがこの挑発に乗らないわけがなくて。簡単に火が付いたあたしはゾロが持つ、酒が並々に継がれたジョッキを奪い取り、
「うっせぇよ、クソマリモ」
サンジがいつもこいつに吐き捨てる名前を吐き出し、
ジョッキの酒を一気に煽り、飲み下した。
喉を撫でるそれの感覚に慣れず、一瞬むせそうになったけど何とか堪えて、ジョッキの底が見えるまで飲み干した。
途端、喉と胸がカッ、と熱くなって。そこを中心に全身の隅々まで熱をっ持ったように火照り始めてめちゃくちゃしんどい。頭がぐわんぐわん揺れるし、目の前のマリモが歪んでいく。なんか焦ってる声が聞こえるけど急に耳が遠くなって何にも聞こえねぇ。
どうだ、飲んでやったぞ。これで満足かよ。口に出したつもりが出ていなかったらしくて無言でゾロにジョッキを押し付ける形になった。押し付けるために前方に移動させた体重が戻ってこなくて、そのまま派手な音を立てて床にダイブした。ほかの奴らのその音で気づいたのかあたしを取り囲むように覗き込む。
あー、床がひんやりしてめちゃくちゃ気持ちい。火照った体の熱を吸われていく感覚に瞳を細める。
「おいクソマリモ!お前ルイちゃんに何した!」
「あ?!なんもしてね……あー…」
「何バツ悪そうな顔してんだコラ!!」
「大変だ、ルイ、顔真っ赤だぞ?!」
あ”~うるせぇ、お前ら人の上でぎゃーぎゃー騒ぐんじゃねぇよ…こちとら頭いてぇんだよ…。そんな言葉さえ口に出せず、最後にチョッパーの声を聴いてあたしは意識を手放した。
ふわふわしてる、感じ。頭痛も消えて気分もそんな悪くない。身体が熱いのは収まってねぇけど、さっきよりは幾分かマシ…。って、
意識が浮上して瞼を上げる。暗闇にいたから急な光に瞳孔が怯える。見覚えのある天井、でもさっきみたいな騒がしさは何にもなくて。身体を起こしてぼうっ、とする頭でここはオッサンの家だと理解する。
「おっ、起きたか嬢ちゃん」
「…オッサンだけ?」
いやに静かだったのはうちのクルーがいなかったからか。家の中はオッサンとあの猿2匹だけ。あれ、なんであいつらいないの。船戻って寝てんのか?
「あぁ、あいつらは今”サウスバード”を南の森で探してる」
「さうすばーど?鳥?」
「ノックアップストリームを見つけるために必要な鳥なんだがな、探しに行かせるのを忘れちまっててよ」
おいオッサン。軽々しく言ってるけどそれ大変なことなんじゃねーの?だって海に出るのが明日の朝には出ねぇといけねぇだろ?オッサンお前これで空島いけなくなったらルフィにぶっ飛ばされるぞ。
「あたしも探しに行く」
「ダメだ、倒れたの忘れたのか?急にアルコールを摂取したからぶっ倒れたんだと、あのトナカイが言ってた。身体からアルコールが抜けるまでは安静にしてろ」
「もうずいぶん寝たし大丈夫だろ」
「あと一時間は安静にしてろ」
げ、オッサン抜ける時間数えてんのかよ。オッサンもちょっとキモさうつってきたんじゃねぇの?正確な時間測んなくたってもう頭痛消えてるし大丈夫だろーが。身体の熱だってさっきよりマシだしよ。
何とかこの猿たちを躱していこうと立ち上がった時、オッサンが険しい顔つきになった。
「………嬢ちゃん、家ん中から出てくんじゃねぇぞ」
「は?どういう、」
オッサンの今までと違うすごみに肌がぴりついた。オッサンは猿2匹、ショウジョウとマシラを連れて出ていこうとした。わけがわかんねえあたしはベッドから飛び起き、着いていこうとした。
「ダメだ嬢ちゃん、安静にしてな」
「心配すんじゃねェよ、すぐ片付けてくっから」
猿にはばかられてオッサンについていく事は許してくれなかった。なんだよ、片付けてくるって。オッサンの顔つきも気になるし、何がなんだかわかんねぇよ。理解できないまま三3人の背中を眺めていた。ぱたん、と、静かにドアが閉まって数分後。
「ハハッハハ!!おめェら用心棒か…」
聞いたことのある、声。鳥肌が立つねっとりとした声音。まだ腫れの引かない左頬がじん、と嫌な疼痛を訴えてくる。聞いたことのある声、聞いたことのある話し方。あたしの頬はこいつにやられたわけじゃねぇけど、こいつがいるってことはあのロン毛野郎がいるのも確定なわけで。なんでここに、ここはそう簡単にわかる場所なのか?あたし達でも船でぐるっと回ってきて、このオッサンは別に有名なわけじゃねぇし、なんであいつらはここに居んだ?
「他人が苦労の末手に入れた宝ってのはまた…格別の味がするもんだ……人がおれを何て呼ぶか教えてやろうか。”ハイエナ”だハハッハハ!!!」
特徴的な笑い声に身体が強張った。その言葉の最後を合図にお互いが飛びかかったのが分かった。土を蹴る音、次いで聞こえたのは、バキッ、と何かを殴る音と、オッサンのうめき声。2人のオッサンを呼ぶ声が聞こえる。そしてまた、土を蹴る音。でもすぐ聞こえるのは3人のうめき声と、痛々しい殴打音だけで。一向にベラミーが苦戦している声が聞こえない。どうなってんだよオッサン、なぁ、
永遠に続くのではないかと思わせる3人のうめきと殴打音。堪らず窓から軽く顔を覗かせて外の様子を伺う。
目を、疑った。
オッサンたちはもうすでにボロボロで、それでもべラミー達大勢に立ち向かっていて。傷だらけで、血も至る所から滴って。悲しみより、怒りがあたしの腹の中を煮立った。怒りに任せてドアを蹴破り、オッサンの言いつけを破った。ごめんな、オッサン。後で叱らねぇでくれよ。
「嬢ちゃん!出てくるなっ!!」
「あ?おめェサーキースにぶっ飛ばされてた女じゃねぇかよ。おいサーキース!お前に抱かれてェってよ!ハハッハハ!!!」
「おいおい、まだ殴ったとこの腫れが引いてねぇじゃねぇか。ごめんなぁ、次は優しくしてやっからよ」
ベラミーがあたしに気づき、ロン毛野郎が昼間と何ら変わりないきったない笑みを張り付けて近づいてくる。それもお構いなしにこちらからも向かっていく。汚い笑声を進んで、オッサンの前に立つ。横にはマシラが転がっていて、背中にざっくりと傷が開いていて。海を見やるとショウジョウが浮かんでいて、体中傷だらけだった。腹の中の煮立ちが、より一層沸騰していく。唇を噛みしめて、目の前のロン毛を睨む。ロン毛の手にはナイフが2本、そこそこ刃が大きい。マシラはこれにやられたのか。
「ハッ、威勢のいい女は嫌いじゃ、っがふ……?!」
まずは、一発。ロン毛の無防備などてっぱらに怒りで力任せに固く握りしめた拳を一発叩き込んだ。不意なみぞおちへの衝撃によろめくが、すぐさま臨戦態勢に戻れるのは腐っても海賊だからだろう。でも、
「おせぇよ、クズが」
あたしはそれより早く、反応して背中に回る。昼間にオッサンに叩き込んだくらいの強さで思い切りうざったい衣服に纏われている背中へ蹴りを入れた。軽くよろめくだけで済む。こういう時は対格差が非常に恨めしく思う。
蹴りをお見舞いした後はくるりと反転し背中を向け、ロン毛の髪を引っ掴む。
「っら”あ”あ”あ”あ”!!!」
対格差がなんだ。オッサンの傷を思い出せ。マシラの、ショウジョウの傷を思い出せ。許せない、許すな、こいつらを許すな。歯を食いしばって、髪を掴んだ腕を回して背負い投げの形でロン毛を吹っ飛ばす。派手な音を立てて地面に顔面から叩きつけられたロン毛は潰れた声を漏らす。土誇りを払うよう、衣服に手を滑らした。
「ぜってぇ許さねぇ」
拳を握りなおしてベラミーもとい、ゴミに向き直る。ぐつぐつと、腹の煮立ちが耳を埋め尽くした。
24.長い長い夜
(頼むから、早く帰ってきてくれよ)