Prologue
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皆が寝てしまいあたし一人しか起きていない船は異様な静けさを放っていた。今日、予定通り明日にはジャヤに着くとナミに言われた。だから荷物をまとめるのと、制服を取り込むの、その他もろもろをしてたらいつの間にかとっぷり日が暮れていて船員たちもいなくなってた。寂しいとかそういうわけじゃねぇけど、いつも騒がしいこの船が静かなのに違和感があるだけ。
明日にはこの船を降りる。あたしは助けてくれた分の借りを返せるほど働けただろうか。なんでか、今日は一向に眠気が来ない。島に降りたらとりあえず金を稼げるところから探そう。追い出されたときに渡された100万は一緒にはこっちに持ってこれてなかったみてぇだし、ココであっちの金が使えるのかはわかんないし。
「はぁ……」
ダイニングに座り、何も置いてない机を見つめる。傷はチョッパーのうざったいほどの老婆心のおかげで痕も残らずきれいに治った。もうこんな怪我負うなって言われたけど、喧嘩やめない限り無理だし返事は濁しといた。
久しぶりに広くなった視界でダイニングを見渡す。意外と広いんだ、ココ。そんで目に留まったのは冷蔵庫。
『ルイ、サンジくんあんたの分までお菓子作ってくれてんだから食べときなさいよ』
『いいよ、ナミ食べれば?』
『出来るわけないでしょ馬鹿』
いつも甲板にイスとテーブルを組み立てて優雅に茶と菓子を嗜んでるナミとロビン。誘われてたけどそんなザ・女って感じのことしたことないし、したところでむず痒いだけだから断ってた。サンジもサンジで菓子を勧めてくるからそれも断り続けてたら、ナミにそう言われたんだっけな。
思い出して冷蔵庫へと足を向かわせ、重みのあるソレのドアを開けた。
そこは、段丸々一つ分を埋め尽くす菓子の山だった。
あたしが船に乗ってる期間、聞いてたくせに。こんなに作ってどうすんだよあいつは。少し呆れて、でも、あたしの為って意味を持った存在にじんわりなんかが広がってく感覚があった。一つの皿に手を伸ばして、テーブルへと場所を移す。食べた後は自分で片付けるし、フォーク使わせてもらおう。
目の前にある、チョコレートケーキっぽい菓子にフォークをゆっくり、埋め込ませていく。上に乗ってる生クリームも少し絡ませて。いただきます、っていつぶりに言っただろう。言わせたサンジの菓子はたいしたもんだ。
舌の上ですでにとろけてしまうソレを、慌てて噛む。ふわふわな弾力が咀嚼を邪魔するけど、それさえ心地よくなってくる。菓子にこんな気持ちにされたのは初めてだ。それくらいこれは、うまい。もう一口、次は欲張って一口目より多めに掬ったところで声は聞こえた。
「なぁんかうまそうなにおいすんだよなぁ…誰かいんのか?」
眠そうな声のまま、キッチンの扉が結構勢いよく開いた。声で分かってたけど正体はルフィ。トイレにでも起きたんだろうか、ぬかった。この無限胃袋をこんな時間に発動させてしまったらとんでもないことになる、が、時すでに遅し。
「ルイじゃねぇか、お前うまそうなもん食ってんなー!」
「声がでけぇ、静かにしろ」
わかってたけどな、こいつが扉開けた瞬間から真っ先に菓子の方見てたのくらい。こりゃ今からしらばっくれても火に油、すまんサンジ、仕方ないんだ。どう考えてもあの量はあたし一人じゃ食えないし……マジですまん。
「サンジがあたしに取っといてくれた菓子。まだめっちゃあるけど食う?」
「食う!!」
そう、ルフィに食ってもらうことにした。今まで手ぇ付けてこなかったし一晩で無くなったら怪しまれるかもしれないけど……そこは察してくれ、仕方なかったんだ。
即答した船長に菓子の場所を教えたら半分を手に持って向かいに腰を下ろした。こんな時間からあの量の半分はすげぇわ……
「食い終わったら歯ァ磨けよ」
「おうっ!」
元気よく返事した船長はいつもの飯時みたいに、豪快に食い始めた。……あー、この食い方も、あのうるさい食卓も、明日にはもう見れねぇのか。思いのほか馴染んでしまっていた思考に自分でも驚く。驚きすぎて、可笑しいくらい。
「……ふは、」
気づけば口から空気が漏れていた。口元が上がっていて、笑ってんだってわかる。あたし、いつの間にこんな離れがたくなってたんだろ。なんかもう、すっげぇ可笑しい。ここまで絆された自分が情けなさ過ぎて。
「…………」
「………?何?」
視線を感じると思ったら今まで菓子を口いっぱいに頬張っていたルフィが見てた。…口の中にかっつめてたものどこやったんだよ、よく噛め。
「初めて笑ったな」
そう言って口の周りをべたべたに汚したまま、二カっと笑った。今思い返せば確かに、そうだ。落ちてきて、どうせ自分には居場所がないからと思ってこの5日、にこりとも笑わなかったな。そう考えたらあたしクソ不愛想じゃん、恩知らず過ぎだろ。改めて表情筋を鍛えようか悩んでたら、目の前の男は爆弾を投下。
「そんでよォ、ルイ。お前俺の仲間にならねぇか?」
まず、何が’そんで’かわからない。急な話題ぶっこむのヤメロ。
「あたし、空島から来たんじゃねぇって、」
「知ってる」
「じゃあ何でンなこと言うんだよ、あんたらになんもメリットねぇだろーが。パス」
「嫌だ!お前は絶対仲間にする!!」
「しつこいっての、もう寝るから」
「ルイ~…!」
多分永遠に続きそうだし、ココはさっさと退散することにした。あ、皿とかフォーク、そのままにしてきた。…もしサンジが片付けてくれてたら礼言おう。
歯を磨きに行くために浴室へ向かう。……本当は、もう聞きたくなった。’仲間になれ’、なんて、なんであたしが必要みたいな言い方すんだよ。和気あいあい、嫌なんじゃなかったのか。こんな簡単に変わる心に自分でも腹が立つ。同時に、みっともないと、情けないと思う。
親にも捨てられた、この世界でもはみ出し者。
あたしがいていい場所は、ないんだ。
10.ぶれ始めた心
(あたしがいていい場所は、)
明日にはこの船を降りる。あたしは助けてくれた分の借りを返せるほど働けただろうか。なんでか、今日は一向に眠気が来ない。島に降りたらとりあえず金を稼げるところから探そう。追い出されたときに渡された100万は一緒にはこっちに持ってこれてなかったみてぇだし、ココであっちの金が使えるのかはわかんないし。
「はぁ……」
ダイニングに座り、何も置いてない机を見つめる。傷はチョッパーのうざったいほどの老婆心のおかげで痕も残らずきれいに治った。もうこんな怪我負うなって言われたけど、喧嘩やめない限り無理だし返事は濁しといた。
久しぶりに広くなった視界でダイニングを見渡す。意外と広いんだ、ココ。そんで目に留まったのは冷蔵庫。
『ルイ、サンジくんあんたの分までお菓子作ってくれてんだから食べときなさいよ』
『いいよ、ナミ食べれば?』
『出来るわけないでしょ馬鹿』
いつも甲板にイスとテーブルを組み立てて優雅に茶と菓子を嗜んでるナミとロビン。誘われてたけどそんなザ・女って感じのことしたことないし、したところでむず痒いだけだから断ってた。サンジもサンジで菓子を勧めてくるからそれも断り続けてたら、ナミにそう言われたんだっけな。
思い出して冷蔵庫へと足を向かわせ、重みのあるソレのドアを開けた。
そこは、段丸々一つ分を埋め尽くす菓子の山だった。
あたしが船に乗ってる期間、聞いてたくせに。こんなに作ってどうすんだよあいつは。少し呆れて、でも、あたしの為って意味を持った存在にじんわりなんかが広がってく感覚があった。一つの皿に手を伸ばして、テーブルへと場所を移す。食べた後は自分で片付けるし、フォーク使わせてもらおう。
目の前にある、チョコレートケーキっぽい菓子にフォークをゆっくり、埋め込ませていく。上に乗ってる生クリームも少し絡ませて。いただきます、っていつぶりに言っただろう。言わせたサンジの菓子はたいしたもんだ。
舌の上ですでにとろけてしまうソレを、慌てて噛む。ふわふわな弾力が咀嚼を邪魔するけど、それさえ心地よくなってくる。菓子にこんな気持ちにされたのは初めてだ。それくらいこれは、うまい。もう一口、次は欲張って一口目より多めに掬ったところで声は聞こえた。
「なぁんかうまそうなにおいすんだよなぁ…誰かいんのか?」
眠そうな声のまま、キッチンの扉が結構勢いよく開いた。声で分かってたけど正体はルフィ。トイレにでも起きたんだろうか、ぬかった。この無限胃袋をこんな時間に発動させてしまったらとんでもないことになる、が、時すでに遅し。
「ルイじゃねぇか、お前うまそうなもん食ってんなー!」
「声がでけぇ、静かにしろ」
わかってたけどな、こいつが扉開けた瞬間から真っ先に菓子の方見てたのくらい。こりゃ今からしらばっくれても火に油、すまんサンジ、仕方ないんだ。どう考えてもあの量はあたし一人じゃ食えないし……マジですまん。
「サンジがあたしに取っといてくれた菓子。まだめっちゃあるけど食う?」
「食う!!」
そう、ルフィに食ってもらうことにした。今まで手ぇ付けてこなかったし一晩で無くなったら怪しまれるかもしれないけど……そこは察してくれ、仕方なかったんだ。
即答した船長に菓子の場所を教えたら半分を手に持って向かいに腰を下ろした。こんな時間からあの量の半分はすげぇわ……
「食い終わったら歯ァ磨けよ」
「おうっ!」
元気よく返事した船長はいつもの飯時みたいに、豪快に食い始めた。……あー、この食い方も、あのうるさい食卓も、明日にはもう見れねぇのか。思いのほか馴染んでしまっていた思考に自分でも驚く。驚きすぎて、可笑しいくらい。
「……ふは、」
気づけば口から空気が漏れていた。口元が上がっていて、笑ってんだってわかる。あたし、いつの間にこんな離れがたくなってたんだろ。なんかもう、すっげぇ可笑しい。ここまで絆された自分が情けなさ過ぎて。
「…………」
「………?何?」
視線を感じると思ったら今まで菓子を口いっぱいに頬張っていたルフィが見てた。…口の中にかっつめてたものどこやったんだよ、よく噛め。
「初めて笑ったな」
そう言って口の周りをべたべたに汚したまま、二カっと笑った。今思い返せば確かに、そうだ。落ちてきて、どうせ自分には居場所がないからと思ってこの5日、にこりとも笑わなかったな。そう考えたらあたしクソ不愛想じゃん、恩知らず過ぎだろ。改めて表情筋を鍛えようか悩んでたら、目の前の男は爆弾を投下。
「そんでよォ、ルイ。お前俺の仲間にならねぇか?」
まず、何が’そんで’かわからない。急な話題ぶっこむのヤメロ。
「あたし、空島から来たんじゃねぇって、」
「知ってる」
「じゃあ何でンなこと言うんだよ、あんたらになんもメリットねぇだろーが。パス」
「嫌だ!お前は絶対仲間にする!!」
「しつこいっての、もう寝るから」
「ルイ~…!」
多分永遠に続きそうだし、ココはさっさと退散することにした。あ、皿とかフォーク、そのままにしてきた。…もしサンジが片付けてくれてたら礼言おう。
歯を磨きに行くために浴室へ向かう。……本当は、もう聞きたくなった。’仲間になれ’、なんて、なんであたしが必要みたいな言い方すんだよ。和気あいあい、嫌なんじゃなかったのか。こんな簡単に変わる心に自分でも腹が立つ。同時に、みっともないと、情けないと思う。
親にも捨てられた、この世界でもはみ出し者。
あたしがいていい場所は、ないんだ。
10.ぶれ始めた心
(あたしがいていい場所は、)