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秘密と首輪

※友野視点

「…ふっ」

怠い。身体の節々がキシキシと軋む。
それなのに、何かがサワサワと顔に当たる。
払いたい。けど…

「…大我…、おはよう。」
「おはよう、ゆー。」

やっぱり大我だ。
大我が俺の顔にキスを落としていた。
前にも何度かあった。これをうっかり払うと、また大我の怒りをかう。

「今、…っ、」 

起きると言うはずが、仰向けからくるりと横向きに倒された。
今度は後ろから抱きつかれ、項にキスされる。

「ん、んんっ、大我、ちょ」
「何?今度からはちゃんと心を入れ替えるんだろ。」

大我は含み笑いで揶揄してくる。
俺はその言葉に身を強張らせた。
ヒート中に粗相して、仕置きされるのは辛い。
何度も何度も、泣いて大我に縋った記憶が蘇る。

「…いや…その…トイレに行きたかったけど…けど、その…が、…我慢出来るから…我慢します…」

大我は俺の言葉を聞いて、至極楽しそうに声をあげて笑った。
自分でも言ってて嫌になるほど、意味不明な発言だ。笑われて更に羞恥心が増す。俺が顔を赤くすると、絡まる大我の手が解かれた。

「はは、行ってこいよ。」
「…」

トイレを済ませて手洗い場の鏡を見ると、こんな状況なのに案外顔色のいい自分がいた。
あんだけやれば、スッキリはするか。
死んだように寝たしな。
ただ身体中に噛み跡等、性的な印な目立つ。結局見ていられなくてすぐに目を逸らした。
シャワーを浴びたいけど…戻りが遅いと怒られる。
ため息をつき俯くと、まだ手首に巻かれたままの手枷が目に入り再びため息が漏れた。
…?、この手枷…。

「大我、これ、あの、高級スーツメーカーの?」
「あ?どれ?」

未だベッドの中で、スマホを弄る大我に声をかける。

「…これ。」
「あぁ。うん。もらった。」
「貰った?」

それは桜助が付けられていた手枷だ。

「坂本とかいう社長に。俺にアンバサダーして欲しいってオーファーあって。スーツと、それと、他にも色々。サンプルだって、何個かもらった。」
「社長直々に?」
「ああ。あそこ割と社長ワンマンの色強いし、よく現場に出てくるらしいから。…なんでゆーがそんなこと気にする?」
「…ぁ、いや…」

しつこく聞きすぎた。
大我は懐疑的に目を細めて俺を睨む。

「た、大我!大我なら、あそこのスーツ似合いそうだな。」

俺は慌てて大我に近づいてフォローし
た。

「ちょっと高いけど、その分デザインもかなり良しさ、良く雑誌で見るから知ってる。大我に絶対似合うよ。」

俺が媚びると、大我は満足気に目を細めた。
そして考える素振りをみせた。

「…見たい?」
「え?」
「アンバサダーになったら、あそこのスーツ着て、でかい広告出すらしい。」
「…そうなんだ…。うん。見たい。」

最悪だな。
ただでさえ、街中に大我の看板は多い。
それが更に増える。写真でも大我が目に入ると、監視されているようで気分が悪くなると言うのに。
なんて事は口が裂けても言えないので、俺は満面の笑みで「見たい」と再度口に出して言う。こんな戯言も、嘘笑顔も、全部慣れっこだ。
大我の口角がピクリと上がる。
そして大我は案外分かりやすいんだよな。

「じゃ、丁度今メール来てたし、やるって返事しようかな。」
「事務所通さず、直にメールしてるの?」
「あぁ。α同士仲良くしようって。ま、接待も兼ねてんだろ。正式な契約は後追いでやらせるから問題ない。」
「…」

ゲスはゲス同士、気が合いそうだな。
俺は上機嫌な大我を微妙な気持ちで見つめた。

「そうだ。」

寝転んでいた大我は何かを思いついたように体を起こし、俺を引き寄せた。
その顔は満面の笑み過ぎて、逆に怖い。

「今度あそこでスーツ買ってきてやるよ。いや寧ろ、一緒に買いに行くか。最近忙しかったし、スーツ買ったらそれなりの店で一緒に外食だな。」
「え?で、でも、誰かに見られたら…」

大我の立場もあるし、俺たちの関係は秘密になっていた。
このマンションはセキュリティがしっかりしているから誰かにバレる事はない。しかしそれなりの店で二人きり。しかもαとΩなんて、分かりやす過ぎるだろ。

「良いじゃん?俺も売れてきたから、別に相手がいても大丈夫な頃だろ。今なら、事務所での地位も確立出来てきている。」

大我は俺の顎を掴み、軽くキスを落とした。
勝手に甘いモードに入ってる。

「それに見られたら見られたで、正式に結婚しても良いし。名実ともに、お前は俺の嫁になるんだ。」

そして指先で俺の顎を擽る。
大我は悪戯っぽく歯を見せて笑うが、対する俺は顔を青くした。

「…」

そんな俺に大我は直ぐに気づいたようで、不満気に眉間にシワをよせた。

「あ゛?不満か?」
「っ!ぅ、ううん!うれっ、…っ、嬉しすぎたから…」

俺は顔を引き攣らせながらも、必死に笑顔を作った。

———
「最悪だ。何が嫁だ…。」

あんな奴と結婚なんてしたくない。
ていうか、もう決まったようなあの言い草は何だ。
あまりの事態に感情が制御出来ず、ヒート明けで怠いのに俺は理由をつけて店に出ていた。

「…はぁ」

全部大我に奪われた。

「くそ…なんなんだ…くそ…」

いや、この調子ではこの先もずっと。
ガリガリと爪を噛んでいると、コンコンっと軽い音が響いた。

「…あ、」
「今、大丈夫だったかな?」
「はい…」

坂本だった。
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