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秘密と首輪

※友野視点

あの目はまずい。

俺はアイデアが浮かんで直ぐに坂本のところへ行った。
坂本は桜助の動線を辿ると直ぐに捕まえる事が出来た。相当なストーカー野郎だ。
そこで桜助にヒートがもう直ぐ来る事、自分が桜助の抑制剤を隠して桜助がヒートになる状態で坂本に会わせる事を話した。
そして当日桜助に会い、抑制剤をこっそりと盗み坂本の元へ向かわせた。
その後は店に戻ったが、暫くして店に大樹が来た。
桜助の戻りが遅いので、居場所を知らないのかと聞かれた。
迷ったが、俺は桜助が坂本に会いにホテルへ向かった事を伝えた。
大樹も所詮αだ。はっきりと聞いたことはないが、桜助の枕営業もこいつの指示だろう。
そのくせこんな所にノコノコ探しに来るなんて、一丁前にΩへの所有欲はあるらしい。
つまり…
1.坂本に無理矢理番にされる
2.嫉妬した大樹に監禁される
3.大樹に愛想尽かされて捨てられる
桜助に待つ未来はそのどれかだ。
どれもまずまずだろ?

そのはずだったんだ。
「え、だ、大樹くん?」
坂本と桜助がいる部屋が開かない事を悟ると、大樹は直ぐに隣の部屋をとった。
そして部屋に入ると迷わず窓に向かって歩き、開け放った。
そしてあろう事が、高層階から椅子を片手に身を乗り出したのだ。
Ωの為に…αが危険を犯す?
俺にはそれだけでも衝撃的だった。
しかし大樹は桜助しか見ていなかった。
桜助も、大樹に心を許しているのが分かる。
極め付けは、大樹が桜助を見つめる目だった。
俺はその目を知っていた。
かつて大我に無理矢理項を噛まれる前、両想いだったあの人に向けられていた。
「っ…!」
考えると項がチリチリと痛む。
じくじくとしたその痛みは、やがて体中に広がる。
ブーブー
「!」
その時、帰路に着くデッドラインにセットしたアラームが鳴った。
帰らないと…。大我の怒りを買ってしまう。
大我を怒らせないように、大我を怒らせないように、大我を怒らせないように、大我を怒らせないように…。
頭の中で反芻する。
きつい時はロボットになりたくなる。
ロボットみたいに、それだけ考えれば良いんだ。

どうやって帰ったか意識はないが、俺は家に着くといつも通りまず風呂に向かった。
「…」
なんだこの気持ち。
服を脱ごうとして手が止まる。
何故か今日は服を脱ぎたくない。最近はやっと感覚が麻痺してきたのに。
チカチカと、頭の中に昔の記憶がフラッシュバックしてくる。
優しい視線。
気遣うような口づけ。
暖かい手。
「っ」
こんなの…。
「くそっ、っ!」
俺は何かを引きちぎる様に、乱暴に服を脱いだ。
「っ」
目頭が熱い。
このままだと何かが溢れそうで、急いでシャワーのノズルを回した。
大我を怒らせないように、大我を怒らせないように、大我を怒らせないように、大我を怒らせないように。
考えるのはそれだけだ。
もう余計な事は、考えたくない。
お湯が暖かい。
「ふっ…!」
…いや違う。全身熱い。熱くて疼く。
「最悪だ」
桜助のヒートに誘発されたんだ!
ヒートに入った。
目眩がして思考は鈍るのに、体の感覚だけはやけに鋭い。
「ハァッハァッハァッ……っ」
しかもいつもよりも酷い。
誘発されて発症したからか?
体に当たるシャワーの感覚すら刺激で立っているのが辛い。
シャワーを止めた瞬間、掻き消されていたその香りがきた。
「…っ来るな……嫌だ…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ」
俺はブツブツ呟きながら、頭を抱えて蹲る。
俺に安心と絶望を同時に与える香り。
大我だ。
「ゆー、おいっ!ゆー‼︎どこにいる⁈ふざけんなよっ!逃さねーぞ!いるならさっさと出てこい!ゆーっ!」
大我が玄関から、俺の名前を呼ぶ大我の声がする。
いつもの『お出迎え』がないから、俺が逃げとでも思って激昂している。
怒鳴り散らして、ドタバタと家中のドアを開けて探し回っている。
出ないと…。頭を下げて。
大我を怒らせないように、大我を怒らせないように…。
「ゆー!」
しかし視界がぐらつき、動けない。
そうこうしていると、ドアが壊れそうな勢いで開き、鬼の形相をした大我が現れた。
「大我…」
「…ゆー、」
大我は俺を見て直ぐに状況を把握したみたいだ。
苛立った顔から一転、浴室内で蹲る俺を見て口の端を上げた。
「っ」
その笑顔、本当に嫌いだ。
反吐が出る。
「はっ、そうか…ヒートか。ゆーが見当たらないと、びっくりするだろ。」
「んっ…」
大我は急に機嫌が良くなると、浴室に入ってきた。
服が濡れるのも構わず俺に手を伸ばす。
その手に向かって顔を上げた時、ふと考えてしまった。
桜助は今頃、暖かい布団の中か…。
この調子じゃ俺も直ぐに布団の中だな。
ただ桜助がスヤスヤと寝ているのに対し、俺は最低な番と変態プレイか。
「…っ、嫌だっ。」
「…」
あ。
いつも気をつけているのに、考えていたら反射的に大我の手をはらってしまった。
自分自身に驚いて固まる。
まずい。こんな…ヒートだって言うのに、大我の機嫌を損ねたら。
「た、大我……っ!」
パァンッ
俺が弁解する間もなく、乾いた音が浴室内に響いた。
一瞬脳が状況を処理できなかったが、頬が焼けつくように熱くなり叩かれた事に気づいた。
ほうけたまま大我を見た俺は、その顔を見て息を呑む。
大我は般若のような顔で、怒り心頭という様子だった。
「…ぁ、…ご、ごめ…なさっ!」
大我は俺の弁明に聞く耳持たずで、無言のまま強引に俺の身体を持ち上げる。
そしてそのまま半ば引きずるようにして、俺は部屋に引き入れられた。
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