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【完結】取引先の上司がストーカーです

殿村の監禁事件から数日後、恐る恐る自宅を覗くともう殿村は居なかった。
漸くまた自宅に戻れた。
「…。」
部屋の隅で一人、自分のスマホを見つめる。
「なんだあの変質者。ここに来て連絡を絶ってくるとは…。」
自分は殿村が、ちょっと好きかも知れない。そう自覚した矢先、殿村からの連絡が来なくなった。
矢野とのことも確認したいのに…何で急に…。
今まではストーカーばりに連絡が来ていたのに。
「…ちっ」
こちらから電話すれば良いのだろうが、何と言えばいいのか。
ここ数日繰り返している、殿村の番号を押そうとするが、押せずに指を引っ込める。その繰り返し。
好き…かも知れません。宣言って、何様だよな…。
そもそも、殿村は整った顔立ちで、更に高収入で。言ってしまえば完璧な奴。自分の他に興味を持つ人間が出来て、そっちともう既に上手くいったのかも知れない。
その場合、ここでまで逃げ回った自分が、のこのこ上から目線の宣言をしてどうなるんだ?
「…いや、知るか!もう、逃げないぞ俺はっ。」
半ばやけくそで、碧は殿村の番号を押した。
トゥルルルルル…
どっどっどっ
心臓が飛び出そうだ。スマホを握る手がじっとりと汗ばんだ。
『碧くん?』
で、でた…。
「か、楓…。」
『…。』
「…。」
どうしよう。なんと言えば…。
楓の声は仕事中の様な抑揚の無さがあった。
やっぱり…。もう、自分への興味は尽きたのかも知れない…。
『…碧くん、この前は、本当にごめん。』
「あ、ああ…。」
『はは、でも、セックスは気持ち良さそうだったよ。』
「はぁ⁈」
ダメだ。やっぱり、こいつは…。
でも何となく、いつもの調子の殿村にホッとした。
そして碧が口を開きかけた時、殿村は畳み掛けるように続けた。
『はは、嘘嘘。ごめんね。本当、今のは悪い冗談だった。もうあんな事、碧くんに絶対にしないから。』
「え?」
『碧くんが前に言っていたみたいに、元の生活に戻りなよ。普通に、女の子と付き合いなよ。俺も、元の生活に戻る。お互いそうしよう。』
「…」
『碧くん、今までありがとう。最後は…本当にすまなかった。ごめんな。じゃぁ、切るね。最後に連絡くれてありがとう。おやすみ。』
プツン
プープー
「……。」
な…なんだそれ…。
碧は狐につままれたような心境で、スマホを握ったまま暫く放心していた。
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