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無自覚アブノーマル

(俺は…、黒崎が好きなのか?)
会議中、本田は話している黒崎を横目で見た。
今日も髪はぴっしりと綺麗に整い、高そうな洒落たスーツを着ている。
女性がキャアキャア言うのも分かる。
(…でも、名前呼ばれただけで赤面したり、子供っぽいところもあって…)
考えているとこっちまで頬が赤くなる。
本田は小さく息を吐き、手元のパソコンに目を落とした。

————-
「あれ?会議時間来てるのに、誰もいない?」
「本田」
「っ!」
突然後ろから抱きつかれギクリと身体が強張る。
身体が強ばるのは、抱きつかれたということもあるがよれよりも
「あー本田の匂い、久々…」
相手が深谷だからだ。
「深谷…」
名前を呼ばれると、深谷は本田の肩に埋めていた顔を上げニッと笑った。
「会議は…」
今日は全体会議だと聞いてきた。
しかしこの部屋には、会議時間になったというのに深谷と自分二人だけだ。
「あはは!順当に騙されてるな!実は場所変更になったんだよ。本田以外の人はもうそっちに行っている。本田は逃げ回るからー、こうやって呼び出したってわけ!」
「は、はぁ⁈ふざるなよ!それより、会議の場所何処だよ⁈」
本田は肩を払って振り返り、深谷を押し返した。
「ふっ、ふふっ、良く吠えるな?」
「…っ」
しかし深谷は余裕綽々と笑う。
一歩深谷が近づき、一歩本田が下がる。
「どうしたの?」
そうやていつの間にか本田の背に壁が当たった。
「俺に会うのが怖かった?」
深谷はニッと笑った。
その笑顔の奥に静かな怒りを感じてぞっとした。
身体が覚えている。怒った深谷は怖い。
「それは、本田にやましい事があるから?」
「っ!」
徐に深谷が、本田の顔の横の壁に手をついた。距離が縮まり頬を撫でられた。叩かれる前の犬の様に、本田の体がびくりと跳ねた。
「ふっ、本田、今度は黒崎と仲良くしてんの?」
「っ!」
僅かに目を見開いてしまった。
「…」
そんな本田の反応を見て、深谷は目を不満そうに細めた。
「ふんっ、やっぱりか…あの野郎…」
ぼやく。
かまかけられた。
そしてまんまと引っかかった。
「酷いな本田…。俺の代わりに黒崎使うなんて。」
「か、変わりに使うなんて」
「変わりだろ。しかも、なに?付き合ってはないんだろ?愛もないのにやってんの?よりによって上司と…それって凄く異常。普通じゃない。」
「…それは」
それは俺が言い出したからで…。
しかし深谷の口調は断定的で冷たかった。
怯んで口籠ってしまう。
そうだ。曖昧で忘れかけていた。黒崎と俺の間に愛はない。
「俺とは…愛のある行為だったでしょ?だって俺さ、本田の事がすっげーーっ、好きだもん。」
深谷は一転して優しい声で、ふにふにと本田の唇を指で押した。
深谷とは愛ある?あれ?深谷とやる方が、普通?
深谷の声は特殊な音波なのか何なのか、そのやけに甘い声は聞いていると頭がおかしくなりそうだった。
「愛してる。」
そういうと、深谷は目を細めてにこりと笑った。
キラキラというエフェクトがかかっていそうな、眩しい笑顔だ。
「本田が嫌がるから、あんなキツめになったけど、本田がちゃんと受け入れてくれたら、もっともっと、ちゃんと優しくしたよ?」
会社の会議室だってのに、深谷はまるでベットで恋人に囁いているような口ぶりだ。
「俺が、受け入れれば…?」
「そう。」
俺が悪かったのか?
俺が深谷を拒否したから。だからこんな、おかしな事になっている。
深谷はそう言いたいのか?
段々と分からなくなってくる。
黒崎との行為は普通じゃない。
だけど深谷とは愛があって、俺が受け入れればもっとちゃんと…。
普通?
「大体さ、本田は普通にやたら拘るけど、それこそ逃げじゃない?」
「え?逃げ?」
「そう。だって、本田の本当の趣向はああだろ?他の奴らに混じれたら楽だから、自分の気持ちに嘘ついて逃げているんだよ。」
「…」
俺は…小さい時みたいに一人で冷たいご飯を食べたくない。
ただそれだけ。
「逃げないで受け入れれようよ?俺はどんな本田も受け入れるよ?一度勇気を出して受け入れれば、楽しくていい事ばかりだよ。俺が全部与えてやる。」
「深谷が?」
「うん。だって、」
深谷は軽く触れるだけのキスをしてきた。
「俺は本田を愛してるから。黒崎みたいな半端な紛い物とは違う。本田の為ならなんでもしてあげれるよ。」
深谷と、暖かいご飯食べる?
きっとそうしてくれる。今の深谷の目は愛に溢れている。
「本田は今まで自分を偽って、よく頑張ったよ。お疲れ様。」
深谷は優しくそう言うと、ぎゅっと本田を抱きしめた。
「…」
何も言えずに、身体の力が抜ける。
それを見た深谷がふっと笑った気がした。
これは、普通。いや、普通とか何とか考えるのがそもそも違くて。
じゃぁ、俺はどうすれば…。
「本田、俺のところに戻ー」
「本田、深谷!ここにいるんだろ。早い出てこい。会議始まっているぞ。」
「…!」
当然会議室のドアがノックされる。
黒崎の声だ。
深谷がドアに鍵をかけたから、入れないのか。
「…す、すみません。」
本田はパッと深谷の腕の中から飛び出す。
何か言われるかと思ったが、何も言われなかった。
「直ぐに行きます。」
深谷はあっさりと本田を解放した。
本田は深谷を振り返る事なく、ドアを開け外に出た。
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