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無自覚アブノーマル

ピンポーン
「?…黒崎さん…」
インターフォンがなり出てみると、相変わらずの渋い顔の黒崎がいた。
「どうしましたか?」
「…」
黒崎は答えずに、眉間に皺を寄せたままこちらを見下ろす。
「…あ」
(上司がきて玄関で話っていうのも失礼か…)
「どうぞ、あが…」
(で、でも…)
そこで本田は固まる。
黒崎を直ぐに家に上げられない理由があった。
「じゃ、あがらせてもらう。」
「え、ちょ」
しかし黒崎は本田の話を聞かずに強引に部屋の中に入った。
「黒崎さんっ!」
「…本田」
そして、リビングで足を止めた。
見られたからだ。
「これは、深谷がやったのか?」
「…」
本田の部屋の中にはカメラが数台設置されているからだ。
「お前、深谷と好きでこんな関係なのか?」
黒崎は本田に詰め寄る。
本田は黙り込んで、下を向いた。
「お前、最近仕事にも集中していないぞ。」
(そんな事、言われても。元はと言えば、お前のせいだろ!)
黒崎が自分に最初にあんな事をしたせいで、深谷に脅されているのだ。
「…深谷、黒崎さんと俺の動画か何か持っているみたいです。」
「動画?」
黒崎の眉間に皺がより、目を細める。
相変わらず怖い顔だ。
思わず目を逸らしてしまう。
「そんなものはない。」
「え?」
「はっ、そうか。話は読めた。」
黒崎は自分の中で何か解決したらしい。
ツカツカとカメラに近寄る。
「おい深谷。どうせ見てんだろ?お前の嘘はバレたぞ。金輪際、本田にこんなことはするな。」
「………黒崎さん、そのカメラはリアタイ配信じゃないやつです…」
「…」
本田の指摘に黒崎はムッと口を閉じる。
(ていうか…)
「嘘って…どういう事ですか?」
「動画なんてこの世に存在していないからだよ。」
「…え。でも、エレベーターでとか…」
本田は目を丸くして聞き返す。
「あれは嘘だ。お前を大人しくする為に、俺がそう思わせただけだ…。で、袋あるか?」
「…」
黒崎はカメラを強引に取りはずしながら、本田に尋ねる。
(…なら、なんで……)
安心感と微かな怒りが湧く。
「でもまさか、こんなふうに深谷に利用されているとは…。お前と俺のやり取りを見てカマをかけてきたってところか。……すまなかったな…。」
黒崎はつらつらと謝罪の念述べる。
余りにもあっさりとしていた。
「……そのせいで…そのせいで俺がどれだけ…」
「だから、すまなかっ……」
カメラをあらかた取り外したところで、黒崎は本田を振り返る。
そして目が合うと黙った。
本田が涙目だったからだ。
いい歳して人前で泣くなんて避けたいが、止められなかった。
「本田…本当に、悪かった…」
「……せ、…くださ、い…」
「…え?」
「責任取ってくださいよ!」
「…」
思わず怒鳴ってしまった。
だってこちらに怒る権利はあるはずだ。
黒崎にあんな事をされてから、自分の体はおかしい。
こんな、理想的な人生設計からそれ過ぎている。
黒崎は、本田を射抜くように見返すが、何も言ってはくれない。
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