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無自覚アブノーマル

※黒崎視点

どうでもいいが、最近本田の元気がない。
いつも疲れている。
(風邪か?どうしたんだ?)
黒崎は仕事中、こっそりと本田を盗み見た。顔は心なしか赤く、ぼんやりとしている。
「……」
からまわっていても、仕事に対するやる気だけは異常にあったのに。
最近では仕事もおざなりだ。
(どうしたんだ…。)
黒崎はため息をつく。
自分もおかしい。
(…はぁ…今迄、自分は自分でコントロール出来たのに…)
本田が気になって仕方がない。
結局仕事が手につかず、午前を浪費してしまった。
そんな気分を変えるため、昼休みには人気のあまり無い研究棟で過ごすことにした。
このフロアの会議室は空いていることが多く、一人になるにはうってつけだった。
「ふー」
誰もいない会議室の椅子に座り、コツンとスマホを叩く。
そういえば、本田は自分があの時の映像を持っていると騒いでいた。
勿論すぐに消しているが…。残しておいても良かったな…。
「……はー、俺も大概だな…」
そんなこんなでダラダラとしていると、あっという間に午後の就業開始時間が迫る。
「トイレで顔でも洗って帰るか…」
悶々とした気持ちにここまで引きずられるのは始めてだ。
何故か分からない。
何故こんなにも本田の事が気になるのか。
カチャ…
「…」
暗いと思ったトイレ内には電気が付いていた。一番奥の個室を見ると、戸が閉まっている。やはり誰かいるらしい。
(人がいたか。)
ならば出ていこう。そう思った時だった。
「ぅぁっ…んっ、やめっ」
「…」
声が聞こえた。
しかも知った声だ。
(…本田)
足が動かず聞き耳を立ててしまう。
「なっ…うっ…もっ、無理だって…っ!」
「なんで?ギリギリで我慢するの好きじゃん?」
「んん…っ‼︎」
「ほら、だらしない顔ー!」
「そんな…っ!次、会議あ…っ!」
くちゅりとキスをする音と本田の喘ぎ声。
「はっ、ほらキス、ちゃんと出来たら、今夜あたり外してやっていいけど?」
「!…っふっ、」
(深谷…)
本田の相手は深谷の様だ。
あまり仲のいいイメージのない組み合わせだが。
「んっ、…ふっふふ、がっつくなよ、本田。」
「ふぅ、ふぅっ…っ」
本田の苦しそうな息遣いと、深谷の笑い声。
(しかし俺は…変態ホイホイか!俺の部下には変態しかいない…)
胸糞悪い。
(というか、合意の上なのか?)
本田がどのつくMといえど、本気で嫌がっていそうな声だ。
性癖が強いので読むのは難しいが、そもそも本田と深谷は仲が悪かった。
そんな二人が?
カチャリ
「あ」
「…っ」
思案していると、個室のドアが開いた。
最初に深谷が黒崎を見つけて声を上げる。
本田はその後ろで声にならない悲鳴をあげ、縮こまる。
人に見られたくないようだ。それもそうか。
「黒崎さんー、お疲れっす!」
深谷はやけにスッキリした様子だ。
差し詰め、自分はスッキリして本田には我慢させているのか。
いい趣味だ。
「こんな所で、珍しいですね!」
「開発チームに相談を受けてな。じゃ、俺は先に」
「はは、ちょっと。そんなに足早に帰らなくて良いですよ。」
人に気づかれたくなさそうな本田に気を遣い、さっさと帰ろうとするのに深谷は話を続ける。
「見て下さいよ!」
「ひっ、」
深谷が本田の手を引く。
「可愛いでしょ。俺の。発情中の本田!」
「…」
深谷は満面の笑顔で、本田の体をこちらに見せびらかす様に押し出した。
本田の顔は明らかに引き攣って青くなっている。
(………いや…発情中って……。こいつも知能指数の低い変態だな…)
無表情だが、黒崎は心の中で深谷の発言に不快感を感じていた。
「……そうか。じゃ」
「待て待てって!」
(……タメ口…)
「なんだ?」
コイツに上司を敬う気持ちがない事は初めから知っていたが、ここまであからさまなのは初めてだ。
それにしつこい。何が言いたい。
「だから!黒崎さん、」
深谷はぐいっと本田を引き寄せた。
「今後、本田に手を出したらダメですよ?」
そしてこちらを見て挑戦的に笑う。
「……それは、合意の上の行為か?」
「はは、そうですよ?本田は超ドマゾで可愛いんです!今日で寸止め我慢、2週間ちょいかな?」
「ね?」と深谷が本田の耳に口を寄せる。
それだけで本田は熱い息を吐き、ぎゅっと目を瞑り震える。
相当辛そうだ。
「毎晩毎晩、いく寸前で止めて、時々さっきみたいに日中も我慢させてるんです!すると、キスしてもご褒美貰おうと必死ですし、フェラも必死で、ちょー可愛くなりました!」
聞いてもないのに深谷は饒舌に、やけに目をキラキラとさせて捲し立てる。
正直、気持ち悪い。お前が1番気持ち悪いぞ、深谷。仕事だけしてろよ。
「勿論ご褒美ってのは…」
深谷はチュっと本田の頬にキスを落とした。
本田が小さく「あ」と漏らす。
そんな本田の体を、深谷は撫でた。
「…」
「……ふ、ぁっ、」
深谷の手に合わせて、本田がふるふると震える。
「本田のしゃせー、堰き止めてる玩具を外して、思いっっきり後に入れてやって、激しく、本田が訳分からなくまで後を虐めて、」
深谷の手が本田の尻を触る。
流石にと本田が抵抗するが、深谷はそれを諌めて続けた。
「本田はせーしが、うっっすく、水みたいになるまて、思いっっきり好きに出せるやーつ。」
「ふっ…ぁっ、う…〜っ」
かくりと本田が前屈みになる。
顔は真っ赤で息が荒い。
「ね?♡」
「…いっっ!」
おそらく貞操帯あたりをつけられているのだろう。
深谷が意地悪でふっと息を本田の耳にふく。
すると本田は「痛い」と涙目で震え、深谷の腕に縋る。
「………」
(俺は、何を見せられているのだ…。…羨ましい。)
いや、そうじゃない。
「まー、仕事だけしてくれれば何でもいい。業務に支障が出ない程度にしておけよ。」
「ふふ、はーい。本田にはよく言い聞かせときまーす!」
「…」
(なんか〜、すっごく、腹立つな…。)
しかし自分にはどうする事も出来ない。
本田と自分は何かできる関係性ではない。
本田がどんな顔をしていたのか、意図的に見ずに黒崎はその場を後にした。
そんな職場に似つかわしくない会話が交わされた後、本田と深谷は遅れて自分たちのフロアに戻ってきた。
本田は相変わらず辛そうに目を瞬かせたり、ソワソワと落ち着きがない。
(結局、業務に支障をきたしてるだろが、馬鹿!)
怒りで語彙力が死ぬ。仕事も手に付かず、生産性も最低だ。
他人なんてどうでも良い。
そのはずだったのに、不思議とこれは怒りで震えた。
(これは、何かフォローしなければ。)
あくまで、仕事のためだ。
決算期も近いというのに、こんな事ではいけない。
黒崎は本田の住所をこっそり調べた。
深谷に聞いてもらちがあかない。
本田に直接確認するつもりだった。
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