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秘密と首輪

※友野視点

後ろから規則正しい寝息が聞こえ、後頭部の髪を揺らす。
あの後、大我ははやりたい放題やるだけやると、俺を抱き抱えて寝てしまった。

「…」

俺はチラリと、横向きに寝ている自分の前、サイドボートにある大我のスマホを見る。
少し手を伸ばせば届く距離だ。

すー。すー。
大我はぐっすり寝ているようだ。

大我のスマホを見て、坂本の番号を暗記して、自分のスマホから坂本へかけて、坂本に桜助の録音を渡し、自分のスマホから坂本の番号を消す。
簡単だ。
俺はそっと大我のスマホに手を伸ばす。

「………何やってんだろ…」

そして手を止めた。
何故俺はこんな事をしているんだろう。
桜助にこだわり過ぎだ。
そうまでして桜助の足を引っ張って、どうなる?

「…」

大我は、好きじゃない。桜助も別に好きじゃない。と、思う。
ただ桜助と行ったら、何かを強要される事もなく自由に生きれる。
桜助は「遠く」に行くと言っていた。
何処だろう?
何処に行っても、きっと今みたいに緩く仕事はできない。生活のためとか言って必死に働くんだろうな。
思ったよりお金が貯まらなかったとか言っていたから、きっと桜助も働くんだろう。
何するんだろう?
はは、あの高級スーツを着た桜助が出来る事あるか?
Ωだから、お互い仕事があっても低賃金だろうな。
俺は何の仕事しようかな。
桜助は下っ端の仕事が出来ず、立ち上がりに時間かかりそうだ。
当面は俺が家事をして、家計も支えてやるか。まぁそれもいい。
俺は昔の経験を活かして、内装業とかするか?
そこそこ肉体労働。上京したての頃を思い出す。
がむしゃらにやるのは嫌いじゃない。

俺はいつの間にか、頬を緩めてこの先の事を考えていた。

「…っ」

その時、俺に回した大我の手がピクリと動いた気がした。
俺は慌てて意識を今に戻す。

「…」

すー、すー。

大丈夫、気のせいか。
大我は依然として熟睡している。

「都合いいよな…」

今まで桜助を陥れようとしてきた。
それを今更…。
急に熱が冷めるように。俺の中で何かが急速に萎んでいく。

「大我…」
すー、すー…
「…」

返事はない。
今更あれこれ考えるなんて馬鹿だ。
ずっと悪役でいた方が楽だ。

俺は大我が寝ているのを確認すると、大我のスマホに手を伸ばした。
大我のスマホは古い型で、指紋認証型だ。
俺は左手に大我のスマホを持ち、反対の手で大我の手を取った。

「…」

緊張で手が震えそうだ。
俺は静かに息を整えた。
そしてそっと大我の人差し指を、スマホに当てる。

あいた!

俺ははやる気持ちを抑えて大我のスマホのアドレス帳を開く。
あ、
か、
川口
河野


坂本!

電話番号は、080、98…

必死で番号を暗記しようとしている時だった。
スマホを持つ俺の手が、一回り大きな手で握り込まれる。

「いっ」
「何してんの?」
「っ!」

大我の低い声が、俺の後ろから響く。

「やっぱり。坂本だったか。」
「…ぁ、た、たい…が………ひっ」

弁解のために一度離れて振り返ろうとするが、凄い力で後ろから押さえ付ける。

「ふざけんなよ、お前。」

暗がりの中震える俺を、大我は冷たい目で見下ろしていた。
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