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秘密と首輪

※友野視点

「ちょ、ちょっと待って、最初の逃げるって…何?何を考えてるの?」
「…最近ダメなんだ。もう大樹の言いなりでやるのも嫌だ。子供なんて…嫌だ。」
「…」

…桜助…。

舐めてんのか。
大樹如きに何やかんやされて悩むな。
本当に甘っちょろい奴だ。
大方、子供が欲しいとか大樹に言われて悩んでいるんだろ。
でも正直、だから何?って感じ。
普通に愛されて、普通のセックス中に言われたくらいだろ。
お前のメンタル豆腐かよ。
Ω男子の妊娠確率なんて低いんだから、無視しときゃ良いだろそんなん。
俺なんて、割と最初の方に性奴隷宣言させられてるぞ。
しかもヒート中に無理矢理おねだりさせられて、動画に残されてる。
あれは大我のお気に入り動画だからな。
定期的に見返している姿をよく見る。
あぁ…思い出すと気分が悪くなる。

しかし桜助は深刻な顔だった。
てか、なんで…?

「俺も一緒に?」
「うん…。あははは、勝手になんだけど、友野は、俺の兄に似てて…ほっとけないんだ。」

桜助はそう言って照れたように笑っていた。
なるほど。だから不思議と懐かれていたのか。

「兄も一人で抱え込んで、よく悩む人だったんだ。兄は救えなかったから、俺、友野は絶対助けたいな。」
「……」
「友野がいいなら良いけど、良くないなら、絶対に見捨てない。必ず助ける。」

その後は桜助(椿?)に流されるまま、逃げる手筈を打ち合わせした。
決行は3日後の23時。

「……」

ピピピピ…

ぼんやり閉店作業をしていると、またあのアラームが鳴った。
帰らないと。
大我を怒らせないように。大我を怒らせないように。大我を…

「……」

俺は店の鍵を閉めて手を止める。

ずっと一人だと思っていた。

『絶対助ける。絶対一人にしないし、見捨てたくない。』

「そんなの、無理だろ…。」

一緒に逃げて、助けるって?
あいつは、語学も堪能だから海外に行くつもりか?
そこまですれば、流石のαも追ってこれない?
俺も…ヒート期を一人で過ごせれば…。
しかし俺には抑制剤があまり効かない。
肉体的に効果はあるが、精神的な不安が解消出来ない。
無理に決まっている。
冷静にそう思った。
しかし桜助の「助ける」には妙な安心感もあった。

「………いやいや、何を考えているんだ…。そんなの、ダメだ。大我に知れたら…」

考えるだけでゾッとする。
俺は直ぐに雑念を振り払う様にかぶりを振る。

「しかし三日後って、それまでにこの録音を坂本に渡さないと……」

あれ?ていうか、どうやって知らせる?
こんなに直ぐに桜助が尻尾を出すとは思っておらず、坂本とは一週間後にこの店で会う約束をしている。
一週間後、もう桜助は居ない。

——-
遅いな…。
大我はいつも同じ時間に帰宅するし、帰宅できない時は必ず連絡がある。
今日はなんの連絡もなかったはずなのに、いつもの時間になっても大我は帰ってこなかった。

はー…、こんな格好で待たせるなら、さっさと帰って来いよ。
こちとら全裸だぞ。

俺はため息をつく。
そうこうしていると、ふわりと甘い香りが漂ってきた。

「お帰りなさい。」
「…。」

…?
なんだ。
いつもなら偉そうな「んっ」という短い返事があるのに、何もない。
俺は不審に思い顔を上げるが、顔を上げた先にもう大我はいなかった。

「?」

俺は首を傾げて大我の背中を見る。
なんだろう。違和感を感じる。
大我は鞄を放り出し、着ていたジャケットを脱いで捨てる。
それを俺はいつもと同様、慌てて拾って回る。

けどなんか…いつもより行動が荒い。
あと早足?
妙に感じながらも、何も言えずに大我のジャケットをハンガーにかけて急いでダイニング入る。

「…」

ダイニングでは、大我が既に俺のスマホを弄っていた。
遂に無許可かよ。
俺は内心毒づき、大我の向いに座った。
毎度、一応俺から手渡ししていたのに。

「…」

しかも今日はやけに長い。
はぁー、ご飯冷めてるよ、これ。
冷めてるとか言って、大我の機嫌が更に悪くなったらどうしよう。

「…ぁ、大我、もしかしてスマホの充電切れたの?切れたなら充電器「切れてねーけど?」
「っ、そ、そうなんだ。」

え?何?
態度悪っ。
余りにも長い間人のスマホを見ているから、もしかしてと気遣ったのに。大我はこちらに一瞥もくれずに、俺の言葉を跳ね除けた。
これは、八つ当たりとかされてる?

「はー」
ガタンッ
「っ!」

び、びっくりしたー…。
見るだけ見ると、大我はため息をつき乱暴に俺のスマホを置く。
大きな音が鳴り、俺はびくりと肩を揺らす。

「…」
「…」

カチャ…
漸く食べ始めたらしい。
ちらりと見た大我は箸でサラダを食べている。
それを確認すると、俺も料理を食べ始めた。

はぁー。
なんなんだよ。
…それより、桜助は今も逃げる準備をしているのか?
桜助と逃げたらどうなるんだろう。
大樹は見逃してくれそうだけど。
それよりも問題は坂本じゃないか?
…うん?かなりの問題じゃないか?
大樹から逃げると、今ある大我の加護もなくなる。
坂本にそこを狙われたら…。
大丈夫だろうか。
やはり、俺がすべきことは、坂本に桜助の話をするのではなく、桜助に…

「……」
「……」
「っ、な、なに?」

ふと気がつけば、大我がこちらを見ていた。
無表情な座った目でじっと見ていた。

「……別に。」

そして、急に貼り付けた笑顔をつくる。
目が全然笑っていないから、ただただ不気味。
本当に何?
ちょっと怖い。
何故かこっちまで挙動不審になる。
チラチラと大我を気にしながら、俺はスープを飲む。

まぁ、桜助と一緒に俺も逃げれたら、こんなのもなくなる。
……なくなる。
大我には、会えない。というか、会わなくて良くなるんだ。

「…仕事」
「え?」

するとポツリと大我が話し始めた。

「仕事楽しい?」
「…うん…?」

仕事というか、仕事を理由に毎日大我以外の人間とかかわれる。
俺にとってはある種の生命線だ。
でもだから、今更なんなんだ。

「大我、どうしたの?何かあった?」
「どうかあったように見える?」
「…」


うん、とも、いいや、とも答えられず、俺は曖昧な顔になる。
だって今迄こんな顔した大我を見た事ない。
だから、今の大我の意図が見えない。
しかし大我は尚もこちらを見つめる。

「ゆー」
「なに?」
「ソファ行こっか。」
「…うん。」

大我は料理をほぼ残している。
しかしソファに手を引かれたら、行くしかない。
俺はおずおずといった調子でソファに座る大我に近づいた。

「大我、さっきからどうしたんだ?」
「…」

無言のまま、大我は俺の手を引きキスをしてきた。

「?」

キスをしながらやんわり倒され、大我が俺の後ろをやんわり弄ぶ。
やるのか。
ご飯半端なままだし、面倒だな…。

こりゅっ

「…っ」

しかし前立腺を潰されて、身体がびくりと跳ねた。
大我のキスは柄にもなく優しくて、身体が絆されて簡単に発情し始める。

「はぁっ…」

頭がホワホワと淀み、思考が拡散する。

「ゆー…」
「大我…」

大我の笑顔は穏やかで手つきも優しくて、俺は思わず目を細めた。
まるで本物の恋人同士みたいな茶番だ。

「俺から逃げれると思うなよ。」
「……ぇ、…っ!」

そこから一転、すっと大我の目が鋭くなったと思ったら急に挿入される。

「んぁっっ!ぅっ〜っ」
「はは、早いな」

なんだやはりいつも通りだ。
大我は俺の同意もなくキスをして、ひたすらにキツイ快楽を送り込んでくる。
そんな扱いにも善がる俺を、大我は鼻で笑った。
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