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グロテスク《秘密と首輪 プロローグ?》

綺麗な金魚を金魚鉢に入れた。
自分の箱庭の綺麗な金魚。
金魚鉢を揺らすと慌てふためき、俺の与える餌を必死に待つ。
ダメだとわかりつつも、俺はその金魚鉢を揺り動かしてしまう。
俺はこの金魚が好きなんだ。
だから金魚鉢を揺り動かしたくなる。
それが俺という人間だった。

最初にゆーと出会ったのは舞台練習だった。
正直、当初はあまり興味もなかった。
綺麗な顔のΩ。αの俺からしたら割とテンプレみたいな奴だ。
そもそも顔が綺麗な奴は周りにくさるほどいたし、Ωとも結構遊んでいた。
「…」
しかし仕事に打ち込む横顔に見入ってしまった。
見つける度に、見入ってしまう。
見つけるというか、いつも無意識に探してしまう。
「おー、大我、おは…?…あぁ、ゆーちゃん?」
「ゆーちゃん?」
遂に俺の視線に気づく奴もいた。
友達は俺の視線に気づくと、ニヤリと笑った。
「やっぱ、α様は気になる?ゆーちゃんΩだしね!」
「いや、別に…」
興味なしと目線を逸らしても、友達はしつこかった。
「やー、俺、前の現場もゆーちゃんと同じでさ。割と有名だったんだよ。Ωだし言いよる奴も多いのに、身持ち硬いし、そもそもあんまり人に媚びないしで。」
なるほどね。
俺が不自由なく遊んでいるのを知っているから、暗にそんな俺にも無理だと思って笑っていたのか。
友達は俺をがっかりさせたかったのだろう。
しかしなんて言うか、ちょっとその話を聞いて俺は気分が良かった。
誰にも汚されていない、綺麗な金魚を見つけた気分だ。
「そんなゆーちゃんを落としたのが、」
は?
「照明のたきさん!」
どういうことだ。
「たきさんって、βの?」
俺の頭に浮かぶたき。
格好には無頓着で、いつもよれたTシャツとジーンズ。気が弱く事なかれ主義で、いつもヘラヘラと笑ってるだけの男だった。
あんな奴と?
「そうそう!凄いよなー!βがΩと付き合えるんだ!この前酔ったたきさんに聞いたんだけどさ、ゆーちゃん、ヒートの最後の1日はたきさんのために抑制剤飲まずにやらしてくれるらしくて、それがまたすっごいらしい!いやー、たきさんはβの期待の星ってか…」
「…」
何故かはよくわからない。
イラつきが止められなかった。

————
「くそっ、雨か…」
稽古後の帰り道、急に雨に降られて俺は舌打ちした。
走るか?どこか近くの店まで行って時間を潰すか。
そうこうしていると、ふわりとミントの様な心地よい香りがした。
「…あ、」
「あ…えーと…大我さん…?」
ゆーだった。
その後、俺はなんやかんや理由をつけ、雨宿りがてらにとゆーを食事に誘った。
ゆーには迷惑そうにされたが、何でもいいから少しでも長く一緒にいたかった。
「凄く良い雰囲気のお店ですね。」
「そうですね。料理も美味しいですし、大事な人とか、好きな人とか…連れてくるのにおすすめですよ。」
「へ〜、覚えとこう。」
「…」
ゆーはそう言って右手薬指の指輪を撫でる。
たきと来るつもりだ。
直感的にそう思った。
なんか、嫌だ。
「よくスタッフとも飲むんですか?」
「そうですね。飲みますよ。皆が仲良い方が、良い作品を作れると思いません?」
「へー…。」
やっぱり。
内心、そんなわけないだろと思う。
しかし先程から一転、ゆーの緊張が解ける気配がした。
ゆーは仕事にいつも一生懸命だから、仕事の為と強調するとガードが緩んだようだ。
「何飲みます?」
「んー…」
俺の質問に、ゆーはメニューに視線を落として考え込む。
ゆーは何を飲むのだろう?
酒は強いのか?
酔ったらどうなる?
明日は何するんだろう?
そもそも休みはどう過ごしているんだろう?
知りたい事が山のように浮かび、俺はそわそわと注文するゆーの横顔を見た。
それからはゆーと沢山話す事ができた。
ゆーは母子家庭で母親を残して上京してきたとか、人混みは意外に好きだとか、映画はホラーが好きだとか。
実は俺より年上だったりとか。
こんなに人と居るのが楽しいと思ったのは久々だ。
「へー、一人旅行とかするんだ。」
「結構してるよ。」
いつの間にか夜も更け、その頃には随分距離も縮まった。それに伴い、自然と口調も砕ける。
「でも勝手にだけど…少し心配だよ。Ωで、こんなに魅力的なのに、危ない目に遭わない?いや別に…その、変に軽視してるわけじゃないよ。」
「はは。大丈夫だよ!それでも、俺は色々な所に行ってみたいんだ。」
「ふーん…なら」
今度俺とも一緒にどこか行こうか?
そう言いかけた時だ。
「だから、たきさんには色々付き合ってもらってて。」
「…っ、そう。」
口元がひくひと歪む。
夢から引きずり下ろされる。
忘れていたのに。
「たきさん何処にでも着いてきてくれるんだよ。」
「へー」
「それでこの前はー」
一応笑顔で聞くけど、一応。
演技得意だし?
あーあ、ゆーの頭の中から、すっぽりとたきの事を消し去りたい。
代わりにずっと俺のことを考えていれば良いのに。
ゆーを閉じ込めて、独り占めしたい。
ゆーの全てを暴いて、手に入れて、鍵を掛けて閉まっておきたい。ゆーはずっと、俺の事ばかりを考え続ける。
そうやって、全部俺のものにしたい。
「たきさんと仲良いんだね。」
「うん。」
だけどそんな事、許されるわけがない。
俺はゆーとたきの事を知っているが、知らないふりで話を聞き続けた。
勿論、笑顔のままで。

———-
「ゆー、おはよ。」
「おはよ。あれ、大我さん、寝癖付いてますよ。きっちりした役なのに…。直してもらわないと。」
あの日以来、ゆーとは良い「友達」だ。
流石に噂通りゆーはカードが固くて、二人っきりで何処かには行けていない。
でも前よりは全然マシな方。
だと思う。
「え、まじ?ゆー、直してよー」
「いやいや、ちゃんとヘアセット担当さんに言わないと、呼んでくるよ。」
こんな風に俺がゆーの手を引いて甘えた声をだしても、完璧スルーされるけど。
おかしいなぁ…。
普通はこれくらいで大体落とせるのに…。
「はは、何だよあれ。」
「え?なに?」
友達が呆れたように笑って俺に話しかける。
ゆーへの態度だという事は分かるけど、とりあえずとぼけて返した。
「ゆーちゃん狙ってんの?」
「だったら何だよ。」
「!へー!本気か!はは、まぁ、頑張れよー。お前がフラれるとこ、初めて見れるから楽しみ。」
「…」
決まったような口振りにムッとする。
しかし、友達の言う通りだった。どれだけ押しても、ゆーは一向に俺にはなびかなかった。

そんなこんなで数週間、近づいたようで相変わらず遠い関係が続いた。
「はー…」
流石の俺も焦る。
外階段の踊り場、煙草を吸いながらため息をついた。
こんな事初めてだ。
αな上に何でも器用にこなしてきたし、見かけにも自信がある。
俺はαの中でも更に一目置かれる存在だった。
生まれ持ったものだけに満足せず、身なりも気にかけていし。
しかしゆーは、相変わらず俺ではなくたきさんに熱い視線を送っていた。
「…くそっ」
ゆーを意識してからは、他の奴とやってもスッキリしない。
そればかりか、余計ゆーへの想いが募る。
「…ちっ、違うって!」
「?…ゆー?」
そうやって悶々としていると、ゆーの声がした。
なにか揉めているような声だ。
俺は声がした場所を探す。
「ゆーと…たき…?」
二人は丁度俺のいる踊り場の下、外階段の陰にいた。
ほぼ声しか聞こえないが、話の内容は丸聞こえだ。
「だって、ゆー、大我さんと最近すごく親密そうだよ…やっぱり、αがいいんだろ?」
なんだ。痴話喧嘩か?
そうか。最近俺とゆーが仲良くなったから、たきがいちゃもんつけているのか。
普段は他人に興味もないが、ゆーの事となると話が違ってくる。
「ゆーもΩなんだから、きっとそれが自然だし…」
「そんな…」
…。まー、落ち込むゆーには悪いが、たきにしてはまともな事を言っている。
俺は思わず、口の端を上げ笑った。
たきがゆーから手を引いてくれれば、事はもっとすんなりいく。
「そんな事…言わないでよ…」
ゆーにしては珍しく弱気な声だった。
可哀想に。この口論が済んだららゆーを抱きしめに行こう。
俺は一人、この後の展開をあれこれ想像した。
「分かった。」
ゆーが何か決断した様な声で言う。
「もう、大我さんとあんな風に話さない。」
「…え」
一瞬俺の中で時が止まった。
なんだよ、それ。
「でもそんな…無理だろ。仕事もあるし…。」
「ううん。仕事の話だけにする。だって俺には、たきさんだけなんだ。」
何を言ってるんだ…。
頭がガンガンする。
ゆーの言葉一つ一つが胸に刺さり、視界がぐらつく。
ゆー、何の話をしているんだ?
「大我さんの事なんて、何とも思ってない。」
ゆーは尚も続けた。
「たきさんだけ居れば、他はいいんだよ。」
そういうと、ゆーはたきに抱きついた。
「たきさん、ずっと一緒にいて。」
「…」
俺は、何を見ている…?
それからはまだ稽古途中にもかかわらず、俺はフラフラと家に帰った。

ゆー、なんで…。
何で俺じゃないんだ。
なんであんな奴が良いんだよ。
あんな奴…。
俺が少しゆーと親しく話した位でぴーぴー喚いて。
あんな奴、ゆーに相応しくない。
ゆーには、俺が居るんだよ。
俺が相応しい…。
「そうだよ。俺が相応しい。」
俺は一人、真っ暗な部屋で呟いた。
「俺が…。分からせてやる。分からないなら、分からせてあげないとな。ゆー…。」
何処か狂っていて、そもそも間違っている。
そうは思ったが、それしか無いから仕方ない。
だって俺の金魚は、俺の金魚鉢の中に入れないと。
ね?

———
「ゆー、おはよう。」
「おはようございます。」
「今夜さ、皆で食事行くんだけど…」
「俺は良いです。」
「…」
ゆーは段々と俺を避ける様になり、遂には目も合わさなくなった。
正直悲しいし、嫌だ。
でも今のところは許そう。
仕置きは後でたっぷりする。今は時を待つんだ。

そうやってまた数週間が過ぎた。
「あれ、今日、ゆーは?」
「ははは、あんなに冷たくされてんのに、まだ気にかけてんの?大我にしては珍しいな!」
「はは、別に。」
余裕な俺の反応が意外だったのか、友達は小首を傾げた。
今は好きに言ってればいい。
「ゆーちゃん、ヒートに入ったから今日から一週間休みだよ。あの子、抑制剤が中々合わないみたいでさ、大体2ヶ月に一回位はこうだよ。」
「…そうか。」
やっとか。

それから6日後、俺は稽古が終わるとたきの元に直行した。
「たきさん。」
「大我さん…」
たきは俺を見て戸惑い、目線を彷徨わせた。
ま、会いたくない相手だろうな。
「もう帰るんですか?」
「あぁ…はい。そうです…。」
たきはチラチラと腕時計を見ていた。
思った通り、今日は早く帰る予定らしい。
今日は、ゆーのヒート最終日だしな。
「ちょっと、あっちで話せます?」
「…え、…で、でも…」
「少しですから。」
「……分かった」
露骨に迷惑顔しやがって。
俺は強引にたきの手を引き、歩き出した。

————-
カンカン…
「こんな所に住んでいたのか。」
古い錆びた階段に、俺の足音が響く。
そして俺の手には、鍵が握られていた。たきから《もらった》鍵だ。
「こんな所じゃなくて、もっといい所に住まわせてやるからな…」
三階の部屋に向かうのに、階段のみなんて。
そんな事を考えていると、あの香りがした。
ミントの様な、甘いが甘すぎず、芳しい。
チカチカと切れかかった古い蛍光灯の光りの中で、俺はニヤリと笑った。
香りが道案内をしているようだ。部屋番号を確かめなくても分かる。
ガチャ…
「…」
鍵を開けて部屋に入ると、その香りに眩暈がした。
Ωのフェロモン臭は甘ったるいものが多いが、ゆーのは清香って感じ。
そんな所も俺の好みだ。柄にもなく酷く欲情する。
「たきさん……?」
既にヒート真っ只中。
そう言う顔のゆーが、短パンにTシャツ姿でフラフラと現れた。
そうだよな。
ヒートの最後の一日は、恋人の為にとっているんだよな。
その最後の一日が、今日だ。
「え?なんで…大我さん…?え、たきさんは…?」
ゆーは俺を見ると、熱に浮かされた顔から一転目を皿にする。
「ゆー」
一瞬ぽかんとしていたが、俺の含みのある笑いを見てゆーは直ぐに顔を青くした。
直ぐに状況を悟ったようだ。
「…っ、こ、来ないでっ…ぁっ、」
ゆーは逃げようとするが、がくりと腰が砕けたらしい。
驚きと恐怖と…それを超えるαのホルモンへの要求で、軽くパニックを起こしているのだろう。
きっとこの性格だし、αのフェロモンにあてられるのも初めての経験なのだろう。
こちらには尻を向けて、四つん這いで逃げようとするが手足の震えで上手く動けないようだ。
その震え、本能では俺を欲しがっているが故だろ?
そうも思うと尚一層愛おしく感じる。
「ふっ、なに?誘ってんの?」
俺はゆっくりとゆーに近づき、四つん這いのその背に覆い被さった。
そして上から両手を押さえ、動きを封じた。
「あんなに俺のこと無視してたくせに」
「ふっ…っ!」
後ろから震える頬に頬擦りし、ゆーの香りを堪能する。そして咎める様に囁いた。
ゆーが弱々しく小声で「やめて」と言うが、寧ろ逆効果だ。俺はその声だけで出そう。
それぐらい興奮していた。
「やめて…やめて下さい…」
「なんで?ゆーもこんなに期待してるのに?」
「っ!」
下着の中に手を入れると、ゆーのものもガチガチに興奮していた。
意識しやすい様にそれをゆっくりして撫でると、ゆーは大袈裟にぶるぶると震える。
想像以上の反応に、思わずクツクツと笑ってしまう。
「…た、大我さん…ほんとっ、やめて、」
「…じゃあ、たきと別れろ。」
「何言って…っ!」
口答えしそうなので、ぐりぐりとゆーの先端を弄る。
「だってゆーは俺と付き合うんだから。」
「ぅ゛っ、…ぁっ、…っ、なっ…〜っ!」
ゆーはガクガクと身体を震わせ、ぎゅっと丸まった。
あ、いきそ?
でもダメ。
俺はぱっと手を離した。
「…ぁっ」
「ふっ、なに残念そうな声出してんの?」
「…っ」
ゆーの耳がカァッと赤くなる。
可愛くて笑みが溢れる。
その可愛い耳を噛んで舐めて、言葉を流し込む。
「別れろ。」
「…」
「だからさ、俺と付き合ってんのに、たきとも付き合ってるって変だろ。」
この期に及んでまだ迷っているようなので、今度は強めに諭した。
「変だろ?」
それからもう一押し。
「わ、かり、ました…。」
するとゆーは項垂れ、ようやくこくりと頷いた。
「うん。」
とりあえずの目的は達成か。
俺はニンマリと笑う。
…しかし、本当に…ゆーは何から何まで俺の好みだ。
俺の好みというか、ここまで来ると俺のために作られた存在って感じ。
巷で言う運命の番ってやつ?それは、俺にとってのゆーだろ?
やべ。考えれば考える程、興奮が治らない。
寧ろどんどん劣情は増すばかりだ。
「えっ、…ぁっ!なにして…っ、‼︎」
ゆーの後ろに指を入れ解かしてやっていると、ゆーは焦った声で尋ねてくる。
「は?何って何だよ。いきなり入れたら痛いだろ?こんな、ドロドロでもさ?」
「ふっ、…ぁっ、やっやめっ…っ!」
「今度からは、解かすのも自分でやれよ?俺の前で、足開いて、見せながら準備するんだぞ?」
「ぅ゛…っ!あっやだっ、〜っ、ぅっ!」
「ゆーの中きゅうきゅうくるな。早く入れて欲しいんだ?」
「やだっ!違う…っ!それは、それだけは…本当に、…あっ、たきさん、助け…っ‼︎」
「いや、俺たち付き合ってんだから。今この状況で他の奴の名前呼ぶとかどういうこと?」
「〜〜っ!」
流石にそれは腹が立つだろ。
強引に腰を引き、俺は無理矢理ゆーの中にねじ込んだ。
「ぅぁ゛ああっ!」
「っ、はーっ!やっば。きもち…っ、はぁ、ゆーの中、最っ高っ!」
熱くてぎゅうぎゅうで。
馬鹿みたいだけど、本当に腰が溶けそう。
「俺たち、相性抜群じゃん。」
あー。いっそうこのまま、どろどろになって、混ざり合えたら良いのに。
「やだっ、…ぁ゛っ、だめ、動かないで…っやぁっ!〜っ」
もう堪える事も出来ずに腰を動かすと、ゆーはより一層ジタバタと暴れた。
しかしその声には甘い響きも混じる。
可愛いやつ。
ゆーの香りも強くなる。
あぁ、気持ち良い。気持ち良い。
ただ肉体的に気持ちいいだけじゃない、心も満たされる。
自分の下で泣きじゃくるゆーは、少し可哀想だとは思う。
でもそれよりも何よりも、ゆーが自分のものになった実感と、最愛の人と繋がる喜びが勝る。
こんなに満たされた気持ち、生まれて初めて感じた。
幸せだ…。
「あぁ、ゆーっ…はっ、愛してる…愛してる、ゆー…っ」
「うぅ…っ、〜っ、やだ…やだ…っぅ、あっっ…!〜〜っ!」
俺は目をぎらつかせ、ゆーの項に目線を落とした。
ペロリと舌舐めずりをする。
「ゆー、愛してる…誰よりも、愛してる…。」
「うゔ…ぁ゛」

さぁ、ゆー。本当の意味で、一つになろうか?

————-
「うっ、ごめなさいっ、ごめんなさっ、…っぁ゛っ〜〜っ!もっ、終わりにしてっ終わりにしっぅ゛っっ」
「はっ、なら、あんな事もうするなよ。」  
ゆーは俺の家に引っ越してきた。
高級マンションの高層階だ。
ゆーの母親も、高い施設に移させた。その事で、この前お礼の手紙をもらった。
たきがいるからゆーには仕事を辞めてもらったが、働きたそうだったので店も出してやった。
それなのに、ゆーは俺に隠れてたきと連絡をとっていた。
今日はそのお仕置き。
仰向けのゆーの両手をベットヘッドに繋ぎ、目が虚になるまでやってやった。
ゆーは快楽に弱いから、直ぐに根を上げた。
しかし怒りと焦りが治らない。
なんで。
こんなにしてるのに、裏切る事するんだよ。
俺の番なのに、毎晩毎晩俺と繋がっているのに、何故たきなんか思い出すんだ。
もはやゆーの身体は力なくシーツの上を揺れるだけで、心の虚しさが埋められない。
「ごめんなさいっ、も、しないっ…っ〜っしないっっ!」
「…ふっ、本当に?」
「ゔんっ、ゔん!」
ゆーは俺の声に必死でコクコクと頷く。
その姿があまりに可愛くて、俺は怒りも忘れてついふっと笑ってしまった。
「じゃ、最後に《復習》、100回。ちゃんと出来たら許す。」
「えっ、…そんな…もぅむ…ぁ゛っ!やっ、やる!やりまずっっ!」
咎めるようにゆーの乳首を刺激する。
「やらせてください、だろ?」
「ひっ!」
すっかりここも性感帯に仕上げたから、ゆーは再びどぷりと達して悲鳴をあげる。
「やらっ、やらせてっ、くださいっっ!〜っ、ち、乳首やめてっ!」
「んっ」
ゆーがぽろぽろ泣きながら縋る。
その姿だけでこっちは極めそうだ。
しかし俺は勤めて平常心のふりで、ゆーを促した。
「はやく。」
「んっ、…ぁっ、やっ、んっ」
俺はゆーの手枷を取ると、ごろりと仰向けになった。
ゆーが俺にまたがる。
健気な姿が愛おしい。そんな事を考えながら、遊び心でゆーの乳首を弄る。ぎゅっとくり出し、乳頭をカリカリするとゆーが再びぶるりと震えた。
「ぅ゛っ」
「っ!」
その後、がくりと倒れ込むように俺のものを入れた。
多分軽く中イキしたようだ。
「ほらっ、」
「んぁっ、わ、わかっ〜っ」
けどこっちはまだいってない。
急かすようにゆーをゆする。
ゆーはよろよろと身体を動かした。
「ぅっ、お、俺は、大我が、好き…。ぁ゛いっ、愛してます…っ〜っ!」
一言一言。
言うたびに腰を振る。
それが戯言でも、俺のものでゆーが自慰しているようで、視覚的にかなりくる。
「ぁ゛〜〜っ!」
「こら、止めるなって」
「うぅ…はぁっ、はぁっ…」
ゆーの香りがより一層濃ゆくなる。
どうしようもなく、感じているのだろう。
俺も。凄く気持ち良い。
「すき……大我…すきぃ…っうっうぅ…」
「…」
いつか、この戯言が本当になるかのか。
ゆーは多分Ωの本能が強い。だから番から離れられないだろうし、一人でヒート期間を耐えるなんてもっての外だろう。
俺からは、もう一生逃げられない。
しかし今のゆーの目は虚で、何も見ていない。
それに気づくと、熱に浮かされた心がすっと冷えた。
「俺はっ、大我の゛っ〜っ、もの、です…っ!」
急にいてもたってもいられなくなり、俺はゆーの頬に手を伸ばした。
虚だったゆーの目の焦点があい、俺を見つめる。
「…キス」
「んっ」
おずおずと、ゆーの唇が触れる。
「ちゃんとしろ。」
「ふっ」
ただ唇を合わせるだけの遊びみたいなキスをしたので注意した。
すると焦ったように口を開き、ゆーは舌を差し込んできた。
あー、甘い。
甘いのに、幸せなのに、なんか変だ。
きっと無くすまで分からないふりをする。
さっきは目が合ったのに、ゆーはもう目を閉じており目が合わなかった。
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