ヤンデレ後輩に頼るしかない話
「どんな事?具体的に言ってよ。」
「…」
「ほら、言えって。」
「……。」
静流は何故か楽しそうに笑いながら柚木に詰め寄った。
柚木はと言うと、ぐっと唇を噛んで黙り込んでしまった。
「……ふっ、まぁ、いいよ。もうしないって。とりあえず、柚木くんの連絡先教えて。にこちゃん連れて行く時、連絡しないとでしょ。スマホだして?」
「………本当に?」
「スマホ。」
柚木はまた黙り込んで俯く。
余程迷っているのか、今度は長い沈黙だ。
流石の静流も笑顔の仮面を剥がし、眉間に皺を作った。
(なんだなんだ?)
訳が分からない。事態が飲み込めずに柚木を見つめていると、柚木と目があった。
柚木は困り顔のまま、二子川の頭を撫でる。
その手が優しくて気持ちよくて、二子川は目を細めた。そんな二子川を見て、柚木は再び困った様に笑った。
「……はい…。」
結局、圧に負けた柚木がポケットからスマホを取り出し、静流と連絡先を交換した。
「あの、しずくん、用は済んだようだし、」
「お礼に何か奢らせてよ。柚木くん。」
明らかに静流に帰って欲しそうな柚木を無視して、静流は何かを注文しだす。
「さ、食べて。」
(いいな〜。)
数分後、柚木の前には大きめな白いクリームたっぷりのパフェが置かれた。
二子川はそのパフェをみて涎を垂らす。甘いものなんて…犬なってから全然食べれていない。
(柚木、溢さないかなぁ…ん?)
呑気にそんな事を考え、ふと見上げた柚木は真っ青だった。
「し、しずくん…こう言うのは…もうしないって…」
「食べて。」
静流はにっこりと綺麗な笑顔で、しかし支配的に言った。
動かない柚木の手に無理矢理スプーンを握らせる。
「じゃないと、俺がにこちゃんを虐めたくなるかも。だからさ、早く。」
それが決定打だった。
柚木はぎこちない動きでクリームを掬った。
「…うっ、ぉえっ、う゛っ…っ」
「ふふっ」
そして何故かえづきながら、パフェを食べだす。
(なんで?パフェにそこまで?)
二子川は首を傾げた。
静流はそんな柚木を嬉しそうに笑って眺める。
「はぁー。てか、柚木くん食べるの遅いな〜。やっぱ、いつものかけないとダメ?」
「…っ!」
静流の声に柚木は弾かれたように顔を上げた。
「柚木くん大好きだもんね」
そこで言葉を切ると、静流が身を乗り出して柚木に近づいた。
秘密話をするように口元に手を添え、柚木に話す。
柚木の膝の上にいる二子川にも、その声は筒抜けだ。
「食ザー」
(…え、…えぇーー…)
「…ちっ、ちがっ…」
二子川は驚きで目を白黒させる。
柚木がガクガクと震え出すので、足元が安定せず揺れる。
「違うの?あぁそうか。大好きだからってし過ぎて、白い食べもの逆に苦手なんだっけ?」
「…っ」
「柚木くん大好きだったもんねー。パフェ以外に、白米とか、ケーキとか…あ、飲み物でも色々やったよね。どれが一番美味しかった?」
「…う゛っ」
「ん?なんて?全部?」
(最悪じゃん!静流、外道過ぎるだろ!)
静流は楽しそうに話すが、柚木は口元を押さえてブルブル震えている。
(…柚木、ごめんけど…お、俺の上にだけは吐くなよ!)
脂汗を滲ませ震える柚木を心配しつつも、二子川は柚木が色々な意味で心配だった。
柚木の膝の上でオロオロと忙しなく耳をパタつかせる。
「ふふ、大好きだから味わいたいってのも分かるけど、俺も時間ないし、あと5分で食べて。」
「!」
「早くしないと本当にまたかけっぞ。こら♡」
楽しそうな静流のその声に柚木がびくりと揺れ、急に勢いよく、詰め込む様にパフェを頬張りだす。
「ふっ…」
静流は至極楽しそうに微笑み、また椅子に深々と座った。そして頬杖をつき柚木をじっと見つめる。
口元は緩みっぱなしだ。
(そう言う事か…)
恐怖で戦慄き、半泣きの鬼気迫る顔で一心不乱に手を動かす柚木。
そんな柚木を、甘く愛おしげに目を細めて見つめる静流。
(静流は…柚木なんだ…)
功が二子川である様に。
(……)
そう考えたところで、はっとする。
(いつか俺も、ああなるのか?)
支配されて、虐げられて、弄ばれる。
一方的で重たい愛からは逃げる術もなく、相手の歪んだ愛情に翻弄され続ける。
「…っ」
ゾッとした。
(違う…。俺は違う!俺は…絶対に…こんな奴らに………屈しない!)
「…ゎ、わん!」
「「!」」
ガシャンッ
———-
結局二子川がパフェを倒し、静流の暴挙は幕引きとなった。
「じゃ、柚木くんまたね。」
「…」
疲れ切った様子の柚木に静流が手を振った。
「柚木くんが相手してくれないと、俺、にこちゃんで憂さ晴らししちゃうかもだから、宜しくね。」
「…っ!う、うん…。分かったよ。」
返事なく去ろうとした柚木の肩に手を置き、耳元で静流がそう囁くと、柚木は慌てて頷いた。
(静流の頼みたい事って、こう言うことか。)
二子川はそんな二人のやり取りを、やるせない気持ちで見ていた。
柚木はきっとまた、会いたくもない静流に会うのだろう。
二子川の為に。
「にこちゃん、邪魔はされたけど、概ね良い働きだったよ。グッジョブ。」
「…」
「ふふ、可愛いでしょ?俺のゆずくん。」
(ゆずくんって……)
静流はうっとりとして話しだした。
きっと誰かに話したいのだろう。
「ゆずくん、本当は獣医なんだ。だけど俺に余程追っかけて欲しいのか、逃げ回るから中々同じ職場に留まれないみたいで、定職にも付かずに今はフリーターしてるんだ。」
(最悪じゃねーか…)
二子川は不快感で顔を歪め、静流から目を逸らした。
静流が胸糞悪すぎて、視界に入れたくもない。
「そんな戯れも楽しかったけど、もうそろそろ飽きてきたからね。功とも話していたんだ」
(功と?)
ここでその名前が出るのは想定外だった。
「そろそろ皆で、あの家で暮らしたいねって。」
(あの家…)
だだっ広くて、窓には鉄格子の付いたあの家。
その用途が今は分かった気がする。
胸糞悪い。
「4人でね。」
(柚木も可哀想に…。なんとか、逃してやる術は…)
「……?」
(ん?4人?静流と、柚木と、功と……と?)
数が合わない。
戸惑って静流を見上げると、静流は二子川を見ていたらしい、目が合う。
ニタリと笑った。
いつもの王子様スマイルとは程遠い、下衆で嫌な笑みだ。
「……ふふっ、」
(最後の、4人目は…ー)
「にこちゃーん!」
「あぁ、功にバレちゃった。そっか、にこ先輩は功からもう逃げられないんだった。にこちゃん連れじゃ、居場所も直ぐバレちゃうね。」
馬鹿にした静流の言い草を睨むが、直ぐにふわりとした浮遊感。
「功、ごめんごめん。」
功に抱き抱えられた。
「にこちゃ〜ん!もう!何処ったのかと心配したよ‼︎」
功がぐりぐりと、静流など目に入っていないように二子川に頬擦りした。
「わんっ!」
(だから!毛並み!乱すな!)
「え?にこちゃんも俺に会えて嬉しい?」
「わんわん!」
(ちげーよ!離れろ!)
「うんうん。分かったよ!早くお家に帰りたいんだね!」
「わん!」
(帰りたくねーよ!)
「あはははは、分かった分かった!早く帰ろうね。俺たちの家に。」
「わ゛ん!!わん!」
(俺の家じゃねーよ!離せっ‼︎)
平行線を辿る二人の気持ち。
それが手にとる様に分かると、静流は一人と一匹の後ろ姿を見て笑った。
「…」
「ほら、言えって。」
「……。」
静流は何故か楽しそうに笑いながら柚木に詰め寄った。
柚木はと言うと、ぐっと唇を噛んで黙り込んでしまった。
「……ふっ、まぁ、いいよ。もうしないって。とりあえず、柚木くんの連絡先教えて。にこちゃん連れて行く時、連絡しないとでしょ。スマホだして?」
「………本当に?」
「スマホ。」
柚木はまた黙り込んで俯く。
余程迷っているのか、今度は長い沈黙だ。
流石の静流も笑顔の仮面を剥がし、眉間に皺を作った。
(なんだなんだ?)
訳が分からない。事態が飲み込めずに柚木を見つめていると、柚木と目があった。
柚木は困り顔のまま、二子川の頭を撫でる。
その手が優しくて気持ちよくて、二子川は目を細めた。そんな二子川を見て、柚木は再び困った様に笑った。
「……はい…。」
結局、圧に負けた柚木がポケットからスマホを取り出し、静流と連絡先を交換した。
「あの、しずくん、用は済んだようだし、」
「お礼に何か奢らせてよ。柚木くん。」
明らかに静流に帰って欲しそうな柚木を無視して、静流は何かを注文しだす。
「さ、食べて。」
(いいな〜。)
数分後、柚木の前には大きめな白いクリームたっぷりのパフェが置かれた。
二子川はそのパフェをみて涎を垂らす。甘いものなんて…犬なってから全然食べれていない。
(柚木、溢さないかなぁ…ん?)
呑気にそんな事を考え、ふと見上げた柚木は真っ青だった。
「し、しずくん…こう言うのは…もうしないって…」
「食べて。」
静流はにっこりと綺麗な笑顔で、しかし支配的に言った。
動かない柚木の手に無理矢理スプーンを握らせる。
「じゃないと、俺がにこちゃんを虐めたくなるかも。だからさ、早く。」
それが決定打だった。
柚木はぎこちない動きでクリームを掬った。
「…うっ、ぉえっ、う゛っ…っ」
「ふふっ」
そして何故かえづきながら、パフェを食べだす。
(なんで?パフェにそこまで?)
二子川は首を傾げた。
静流はそんな柚木を嬉しそうに笑って眺める。
「はぁー。てか、柚木くん食べるの遅いな〜。やっぱ、いつものかけないとダメ?」
「…っ!」
静流の声に柚木は弾かれたように顔を上げた。
「柚木くん大好きだもんね」
そこで言葉を切ると、静流が身を乗り出して柚木に近づいた。
秘密話をするように口元に手を添え、柚木に話す。
柚木の膝の上にいる二子川にも、その声は筒抜けだ。
「食ザー」
(…え、…えぇーー…)
「…ちっ、ちがっ…」
二子川は驚きで目を白黒させる。
柚木がガクガクと震え出すので、足元が安定せず揺れる。
「違うの?あぁそうか。大好きだからってし過ぎて、白い食べもの逆に苦手なんだっけ?」
「…っ」
「柚木くん大好きだったもんねー。パフェ以外に、白米とか、ケーキとか…あ、飲み物でも色々やったよね。どれが一番美味しかった?」
「…う゛っ」
「ん?なんて?全部?」
(最悪じゃん!静流、外道過ぎるだろ!)
静流は楽しそうに話すが、柚木は口元を押さえてブルブル震えている。
(…柚木、ごめんけど…お、俺の上にだけは吐くなよ!)
脂汗を滲ませ震える柚木を心配しつつも、二子川は柚木が色々な意味で心配だった。
柚木の膝の上でオロオロと忙しなく耳をパタつかせる。
「ふふ、大好きだから味わいたいってのも分かるけど、俺も時間ないし、あと5分で食べて。」
「!」
「早くしないと本当にまたかけっぞ。こら♡」
楽しそうな静流のその声に柚木がびくりと揺れ、急に勢いよく、詰め込む様にパフェを頬張りだす。
「ふっ…」
静流は至極楽しそうに微笑み、また椅子に深々と座った。そして頬杖をつき柚木をじっと見つめる。
口元は緩みっぱなしだ。
(そう言う事か…)
恐怖で戦慄き、半泣きの鬼気迫る顔で一心不乱に手を動かす柚木。
そんな柚木を、甘く愛おしげに目を細めて見つめる静流。
(静流は…柚木なんだ…)
功が二子川である様に。
(……)
そう考えたところで、はっとする。
(いつか俺も、ああなるのか?)
支配されて、虐げられて、弄ばれる。
一方的で重たい愛からは逃げる術もなく、相手の歪んだ愛情に翻弄され続ける。
「…っ」
ゾッとした。
(違う…。俺は違う!俺は…絶対に…こんな奴らに………屈しない!)
「…ゎ、わん!」
「「!」」
ガシャンッ
———-
結局二子川がパフェを倒し、静流の暴挙は幕引きとなった。
「じゃ、柚木くんまたね。」
「…」
疲れ切った様子の柚木に静流が手を振った。
「柚木くんが相手してくれないと、俺、にこちゃんで憂さ晴らししちゃうかもだから、宜しくね。」
「…っ!う、うん…。分かったよ。」
返事なく去ろうとした柚木の肩に手を置き、耳元で静流がそう囁くと、柚木は慌てて頷いた。
(静流の頼みたい事って、こう言うことか。)
二子川はそんな二人のやり取りを、やるせない気持ちで見ていた。
柚木はきっとまた、会いたくもない静流に会うのだろう。
二子川の為に。
「にこちゃん、邪魔はされたけど、概ね良い働きだったよ。グッジョブ。」
「…」
「ふふ、可愛いでしょ?俺のゆずくん。」
(ゆずくんって……)
静流はうっとりとして話しだした。
きっと誰かに話したいのだろう。
「ゆずくん、本当は獣医なんだ。だけど俺に余程追っかけて欲しいのか、逃げ回るから中々同じ職場に留まれないみたいで、定職にも付かずに今はフリーターしてるんだ。」
(最悪じゃねーか…)
二子川は不快感で顔を歪め、静流から目を逸らした。
静流が胸糞悪すぎて、視界に入れたくもない。
「そんな戯れも楽しかったけど、もうそろそろ飽きてきたからね。功とも話していたんだ」
(功と?)
ここでその名前が出るのは想定外だった。
「そろそろ皆で、あの家で暮らしたいねって。」
(あの家…)
だだっ広くて、窓には鉄格子の付いたあの家。
その用途が今は分かった気がする。
胸糞悪い。
「4人でね。」
(柚木も可哀想に…。なんとか、逃してやる術は…)
「……?」
(ん?4人?静流と、柚木と、功と……と?)
数が合わない。
戸惑って静流を見上げると、静流は二子川を見ていたらしい、目が合う。
ニタリと笑った。
いつもの王子様スマイルとは程遠い、下衆で嫌な笑みだ。
「……ふふっ、」
(最後の、4人目は…ー)
「にこちゃーん!」
「あぁ、功にバレちゃった。そっか、にこ先輩は功からもう逃げられないんだった。にこちゃん連れじゃ、居場所も直ぐバレちゃうね。」
馬鹿にした静流の言い草を睨むが、直ぐにふわりとした浮遊感。
「功、ごめんごめん。」
功に抱き抱えられた。
「にこちゃ〜ん!もう!何処ったのかと心配したよ‼︎」
功がぐりぐりと、静流など目に入っていないように二子川に頬擦りした。
「わんっ!」
(だから!毛並み!乱すな!)
「え?にこちゃんも俺に会えて嬉しい?」
「わんわん!」
(ちげーよ!離れろ!)
「うんうん。分かったよ!早くお家に帰りたいんだね!」
「わん!」
(帰りたくねーよ!)
「あはははは、分かった分かった!早く帰ろうね。俺たちの家に。」
「わ゛ん!!わん!」
(俺の家じゃねーよ!離せっ‼︎)
平行線を辿る二人の気持ち。
それが手にとる様に分かると、静流は一人と一匹の後ろ姿を見て笑った。