ヤンデレ後輩に頼るしかない話
「功、そろそろにこちゃんに嫌われるぞ。」
(もう嫌いです。心底嫌いです。)
静流(しずる)は呆れ顔で朝食をとる功に話す。その横でお粥を食べる二子川は、静流の言葉に頷いた。
「えー?大丈夫だよ!もうにこちゃんは俺のだし。」
(…?)
「にこちゃんの首輪に連絡先載ってるし、」
(…まじか。やはり逃げる時は何とか首輪を外して…)
「にこちゃんにマイクロチップも入れてもらったし!」
(は?)
「どこまで逃げても、にこちゃんはもう俺からは逃げきれない。」
静流を見ていた功の目がすっと二子川に向き、にやりと笑った。
「最後は必ず、俺のところに帰ってくるしかない。」
口の端を上げ、含み笑いで功はキッパリと言い切った。
ショックでぽかんと開けた二子川の口からぽたりとお粥が垂れた。
どこか勝ち誇った様な功の口ぶりには腹が立つ。腹が立つが、現状では二子川を生かすも殺すも功次第だ。
それを痛感すると同時に、絶望感湧いてくる。
「そうなんだ。それは良いとしても、動物相手にやり過ぎたらダメだよ。怪我でもさせたら大事でしょう?」
(静流…!)
二子川はうるうると静流を見上げる。
静流は高校で功と同じ学年にいた奴だ。功と静流、王子様とモテはやされて二人とも人気があった。
確かに高校時代から仲は良かったが、一緒に住んでいるのは意外だった。高校時代から静流は人望もあり、功とは違って本当に良い人そうだった。差し詰め、まともな静流が問題児である功の世話をしているうちに腐れ縁でこうなったのだろう。
(何とか、静流と意思疎通を図れないだろうか…。)
考え込んでいると、視線を感じた。
顔を上げるとこちらを見つめる功と目が合う。
「…」
功がふっと笑いかけてくる。
笑顔だけはイケメンだな。
「にこちゃん、こっちおいで。」
「…」
二子川は鼻を鳴らして立ち上がると、功とは真反対に座る静流の側に座り直した。
「あ、にこちゃーん!!」
「ほらー、嫌われてる。」
「…わふっ」
せめてこれくらいいいだろ。
————-
「クソがっ!苦しいんだよ!」
「う゛〜ん…」
「あ、また戻っている!」
その日の夜、自分に抱きついて寝ている功の重さで潰されてもがいているとまた人間に戻っていた。
「……とりあえず…」
ペチッ
起こしたらまずいと思いながらも、日々の鬱憤を込めて功の頬を軽く叩く。そして落ちていたボトムスを手に急いで部屋を出た。
「…マイクロチップか…とりあえず、やっぱり協力者がいるよな。」
向かったのは、静流の部屋だ。
部屋に入ると、静かに寝息を立てる静流がいた。
「静流、静流…っ!」
「…?…二子川先輩?」
静流は二子川を見つけると目を見開き、起き上がった。
「え、その首輪…。二子川先輩の事故で功が遂に頭おかしくなって、変な妄想に走ったと思ってたのに…まさか、本当にこちゃんなのですか?」
「そのまさかだ。」
最近すっかり馴染んでしまい、外し忘れていた首輪を見て静流は状況を把握してくれたようだ。理解が早くて助かる。
「静流!助けてくれ!あのボケカス動物虐待変態馬鹿を止めてくれ!あと人間の俺の状況とか…!」
「分かりました。ちょっ、まずは落ち着いて下さい。」
静流はベッド脇の椅子に二子川を座らせ、上裸の体にブランケットをかけてくれた。
最近関わる人間は功ばかりで、変な事ばかりされていたからこの気遣いだけで涙が出そうだ。
「まず本当に、先輩は病院から出てきたとかじゃなくて、本当に犬になっているのですか?」
「あぁ、自分でも不思議だが、そうらしい。」
「そうですか…。まぁ、ですよね。先輩は功が嫌いですし。自分からこんな所来ませんよね。ところで、犬と人間の姿を行き来する規則性とかあるんですか?」
「いや。それが分からない。」
本当に、静流は物分かりが良くて助かる。周囲が勘違いしていた功と二子川の関係、それすらも的確に理解してくれていた。
「そうですか…。不思議ですね…。まぁ、功にこの事は黙っておいた方が良さそうですね。」
「…そうだな。」
静流は考えるように顎に手を当て、二子川をじっと見た。
「……何か、生活面でサポートして欲しい事とかあれば、いつでも話しにのりますよ?何かありますか?」
そしてにこりと、こちらを安心させる様に笑ってくれた。
「ある!ご飯を!人間のご飯にしてくれ!ドッグフードは食べれん!あと、時々はジャンクフード買ってきて食わせてくれないか⁈あとあと…その、俺のトイレ中に…功がガン見してくるのがクソ不快だ。しないようにキツく言って欲しい…。」
「ふふ、要求オンパレードですね。良いですよ。フォローします。」
「ありがとう!」
「その代わり、」
急に声色を低くした静流がずいっと身を乗り出してきた。
何処となくその笑顔に暗いものを感じ、二子川は身を引いた。
「俺の言う事も、聞いてくれるますか?」
「…は?ちょっと何だそれ?急にトーン違くないか?」
嫌な予感がして、二子川は眉を寄せた。
「ダメなの?」
「いや、だけど、なんかお前…」
二子川の反応が不満な様で、静流は急にそれまでの甘い笑顔を引っ込めて冷たい顔になる。
(何を要求されるんだよ!)
どう言って良いのか言いあぐねていると、二子川に構わずに静流は続けた。
「いいよ。それなら、二子川先輩の両手足縛って裸のまま功の部屋へ放り込んでやるよ。」
「はぁ⁈」
「功は、無理矢理嫌がるのを押さえ込んで、先輩が気絶するまで、獣みたいに激しく。が良いんですって。」
静流は綺麗な顔でにっと不気味に笑った。
「毎晩毎晩、相手する先輩は大変だろうけど、まぁ頑張って下さいよ。功は大喜びでしょうから。」
「そんな…イカれてる…」
二子川が漏らした呟きを静流は鼻で笑った。
「ぐちゃぐちゃに可愛がってもらえよ。俺は俺で、功に恩を売るのも悪くない。」
「…」
「それが嫌なら、今日から先輩は俺の犬だ。人間の姿でもな。」
「お前っ…っ!」
あまりの言い草だ。
立ち上がり殴りかかるつもりが、振り上げた手を掴まれて逆に身体を押さえ込まれた。
「でも大丈夫ですよ。いい子にしていれば、ご飯もちゃんとあげますし、色々補償しますよ。」
静流はまた優しい声色に戻ると、諭す様に続けた。
「何も、先輩に酷い事はしませんよ。簡単なお願いをするだけです。欲しいものを手に入れる為に、先輩の力が必要なんです。」
(結局、似たもの同士かよ!)
まともだと思った静流はとんだ野郎だった。功と同じだ。
怒りで頭の血管がブチ切れそう。
「なんなら先輩の事故についても、調査手伝いますよ?」
「はぁ?調査?」
「そうです。だって、ただの事故じゃないかもしれないらしいですよ…」
「…え、な、何だそれ…」
(俺は…誰かに、殺されかけたのか?)
怒りや戸惑いや恐怖、色々な感情で頭がこんがらがる。
「とにか……うっ、」
「?とにかう?何ですか?…あ、」
何かに気づいた静流が手を離した。
それを最後に、また意識が遠のいだ。
(もう嫌いです。心底嫌いです。)
静流(しずる)は呆れ顔で朝食をとる功に話す。その横でお粥を食べる二子川は、静流の言葉に頷いた。
「えー?大丈夫だよ!もうにこちゃんは俺のだし。」
(…?)
「にこちゃんの首輪に連絡先載ってるし、」
(…まじか。やはり逃げる時は何とか首輪を外して…)
「にこちゃんにマイクロチップも入れてもらったし!」
(は?)
「どこまで逃げても、にこちゃんはもう俺からは逃げきれない。」
静流を見ていた功の目がすっと二子川に向き、にやりと笑った。
「最後は必ず、俺のところに帰ってくるしかない。」
口の端を上げ、含み笑いで功はキッパリと言い切った。
ショックでぽかんと開けた二子川の口からぽたりとお粥が垂れた。
どこか勝ち誇った様な功の口ぶりには腹が立つ。腹が立つが、現状では二子川を生かすも殺すも功次第だ。
それを痛感すると同時に、絶望感湧いてくる。
「そうなんだ。それは良いとしても、動物相手にやり過ぎたらダメだよ。怪我でもさせたら大事でしょう?」
(静流…!)
二子川はうるうると静流を見上げる。
静流は高校で功と同じ学年にいた奴だ。功と静流、王子様とモテはやされて二人とも人気があった。
確かに高校時代から仲は良かったが、一緒に住んでいるのは意外だった。高校時代から静流は人望もあり、功とは違って本当に良い人そうだった。差し詰め、まともな静流が問題児である功の世話をしているうちに腐れ縁でこうなったのだろう。
(何とか、静流と意思疎通を図れないだろうか…。)
考え込んでいると、視線を感じた。
顔を上げるとこちらを見つめる功と目が合う。
「…」
功がふっと笑いかけてくる。
笑顔だけはイケメンだな。
「にこちゃん、こっちおいで。」
「…」
二子川は鼻を鳴らして立ち上がると、功とは真反対に座る静流の側に座り直した。
「あ、にこちゃーん!!」
「ほらー、嫌われてる。」
「…わふっ」
せめてこれくらいいいだろ。
————-
「クソがっ!苦しいんだよ!」
「う゛〜ん…」
「あ、また戻っている!」
その日の夜、自分に抱きついて寝ている功の重さで潰されてもがいているとまた人間に戻っていた。
「……とりあえず…」
ペチッ
起こしたらまずいと思いながらも、日々の鬱憤を込めて功の頬を軽く叩く。そして落ちていたボトムスを手に急いで部屋を出た。
「…マイクロチップか…とりあえず、やっぱり協力者がいるよな。」
向かったのは、静流の部屋だ。
部屋に入ると、静かに寝息を立てる静流がいた。
「静流、静流…っ!」
「…?…二子川先輩?」
静流は二子川を見つけると目を見開き、起き上がった。
「え、その首輪…。二子川先輩の事故で功が遂に頭おかしくなって、変な妄想に走ったと思ってたのに…まさか、本当にこちゃんなのですか?」
「そのまさかだ。」
最近すっかり馴染んでしまい、外し忘れていた首輪を見て静流は状況を把握してくれたようだ。理解が早くて助かる。
「静流!助けてくれ!あのボケカス動物虐待変態馬鹿を止めてくれ!あと人間の俺の状況とか…!」
「分かりました。ちょっ、まずは落ち着いて下さい。」
静流はベッド脇の椅子に二子川を座らせ、上裸の体にブランケットをかけてくれた。
最近関わる人間は功ばかりで、変な事ばかりされていたからこの気遣いだけで涙が出そうだ。
「まず本当に、先輩は病院から出てきたとかじゃなくて、本当に犬になっているのですか?」
「あぁ、自分でも不思議だが、そうらしい。」
「そうですか…。まぁ、ですよね。先輩は功が嫌いですし。自分からこんな所来ませんよね。ところで、犬と人間の姿を行き来する規則性とかあるんですか?」
「いや。それが分からない。」
本当に、静流は物分かりが良くて助かる。周囲が勘違いしていた功と二子川の関係、それすらも的確に理解してくれていた。
「そうですか…。不思議ですね…。まぁ、功にこの事は黙っておいた方が良さそうですね。」
「…そうだな。」
静流は考えるように顎に手を当て、二子川をじっと見た。
「……何か、生活面でサポートして欲しい事とかあれば、いつでも話しにのりますよ?何かありますか?」
そしてにこりと、こちらを安心させる様に笑ってくれた。
「ある!ご飯を!人間のご飯にしてくれ!ドッグフードは食べれん!あと、時々はジャンクフード買ってきて食わせてくれないか⁈あとあと…その、俺のトイレ中に…功がガン見してくるのがクソ不快だ。しないようにキツく言って欲しい…。」
「ふふ、要求オンパレードですね。良いですよ。フォローします。」
「ありがとう!」
「その代わり、」
急に声色を低くした静流がずいっと身を乗り出してきた。
何処となくその笑顔に暗いものを感じ、二子川は身を引いた。
「俺の言う事も、聞いてくれるますか?」
「…は?ちょっと何だそれ?急にトーン違くないか?」
嫌な予感がして、二子川は眉を寄せた。
「ダメなの?」
「いや、だけど、なんかお前…」
二子川の反応が不満な様で、静流は急にそれまでの甘い笑顔を引っ込めて冷たい顔になる。
(何を要求されるんだよ!)
どう言って良いのか言いあぐねていると、二子川に構わずに静流は続けた。
「いいよ。それなら、二子川先輩の両手足縛って裸のまま功の部屋へ放り込んでやるよ。」
「はぁ⁈」
「功は、無理矢理嫌がるのを押さえ込んで、先輩が気絶するまで、獣みたいに激しく。が良いんですって。」
静流は綺麗な顔でにっと不気味に笑った。
「毎晩毎晩、相手する先輩は大変だろうけど、まぁ頑張って下さいよ。功は大喜びでしょうから。」
「そんな…イカれてる…」
二子川が漏らした呟きを静流は鼻で笑った。
「ぐちゃぐちゃに可愛がってもらえよ。俺は俺で、功に恩を売るのも悪くない。」
「…」
「それが嫌なら、今日から先輩は俺の犬だ。人間の姿でもな。」
「お前っ…っ!」
あまりの言い草だ。
立ち上がり殴りかかるつもりが、振り上げた手を掴まれて逆に身体を押さえ込まれた。
「でも大丈夫ですよ。いい子にしていれば、ご飯もちゃんとあげますし、色々補償しますよ。」
静流はまた優しい声色に戻ると、諭す様に続けた。
「何も、先輩に酷い事はしませんよ。簡単なお願いをするだけです。欲しいものを手に入れる為に、先輩の力が必要なんです。」
(結局、似たもの同士かよ!)
まともだと思った静流はとんだ野郎だった。功と同じだ。
怒りで頭の血管がブチ切れそう。
「なんなら先輩の事故についても、調査手伝いますよ?」
「はぁ?調査?」
「そうです。だって、ただの事故じゃないかもしれないらしいですよ…」
「…え、な、何だそれ…」
(俺は…誰かに、殺されかけたのか?)
怒りや戸惑いや恐怖、色々な感情で頭がこんがらがる。
「とにか……うっ、」
「?とにかう?何ですか?…あ、」
何かに気づいた静流が手を離した。
それを最後に、また意識が遠のいだ。