ヤンデレ後輩に頼るしかない話
それが、高校時代の話。
男の後輩相手に半ば売春の様な事をしていたなんて黒歴史、思い出したくもない。
「ほら〜ニコちゃん。ご飯食べなよ。遠慮しなくていいよ〜!」
(それなのに…)
ニコニコとこちらへ犬の餌を差し出す一生を、犬になった二子川は苦々しく睨んだ。
因みに別にそういういかがわしい遊びじゃない。
不思議な事に、二子川は本当に犬になってしまったのだ。芝犬。の雑種。耳が垂れている。
そして不幸な事に、功に拾われた。どうやら犬の自分が怪我をして倒れているところを、功が拾って獣医に見せ飼う事にしたらしい。
高校卒業以来、十数年会っていなかった功は立派な男前に育っていた。
堀が深い顔立ちに、クリッとした二重。髪の色は高校の時と違い黒い。真面目に何処かで働いているようだ。
「まだ食べれないかな?んー…ちょっと待ってね。お粥作ってあげる!」
それから暫くして、功は鰹節をかけたお粥を出してれた。
ドッグフードは流石に無理だがお粥ならいける。
「…。」
「…。」
「…どうしたの?」
「…。」
ベタつく視線を感じお粥から顔を上げると、案の定功がじっとこちらを見ていた。
嫌な感じがする。
そもそも功は、瀕死の犬が目の前にいたとしても可哀想なんて思わない人種だ。子供っぽい言動の裏では達観し、人を駒の様に扱う。
(何故、助けた?…まさか)
犬の姿の二子川はじっと自分のお粥を見つめた。これには毒が入っているかもしれない。
「大丈夫だよ。ちゃんと天然だしで作ったお粥だよ。犬の身体にも害はないよ。」
「…。」
ちょっとずれてるけど、無害らしい。ホッとしてまたお粥を食べ始めた。
功の意図は全く読めないが、空腹には逆らえず、二子川は気づけばお粥を完食していた。
やたらとこちらをニマニマと見つめる功には、最後まで不信感が拭えなかった。
———-
「…い。……ぐす…。」
その日の夜、リビングの一角に作られた自分のスペースで寝ていると、グスグスと誰かが泣く音がして目が覚めた。
最初は空耳だと思ったが確かに聞こえる。
「…」
無視して寝ようと思うのに、一度気になると中々寝れない。
二子川はその音に誘われる様に、ふらふらとリビングを出た。
功の現在の住まいはマンションにしては想像以上に広く、廊下もそこそこ長い。その廊下の突き当たりの部屋のドアが少し開いており、光が漏れ出ていた。泣き声もそこからする。
「…ぐすっ、にこ先輩……ずずっ、」
「…」
部屋に入って目に入った光景に我が目を疑う。部屋の入り口に背を向けて座った功が、パソコンの画面をみて泣いていた。パソコン画面は、犬の高さでは見えない。
「…あ、にこちゃん…」
「くぅぅぅん…」
とりあえず、鼻を鳴らす。
すると功が鼻を啜りながらこちらに手を伸ばしてきた。
何故か昔からこいつに手を伸ばされると、反射的に体が逃げを打つ。
それに今は特別嫌な予感がした。
(でも、見たい…)
功は二子川を膝の上に乗せた。
「…!」
そしてパソコン画面をみて驚愕した。
「ほら、俺の大切な人。」
画面には病院と思しき部屋で寝る二子川が映し出されていた。目を瞑った二子川はチューブで繋がれており、顔や体にはガーゼや包帯が巻かれていた。重症の意識不明患者という有様だ。
「事故に遭って…意識が戻らないんだ。俺の恋人。」
(恋人ではない。しかしこれは…)
二子川も何も考えられず、ただただ呆然と画面を覗き込んだ。
(そう言えば犬になる前…俺は何をしていたっけ…?思い出せない…。)
「…にこちゃん…。」
功が膝に乗せた犬の二子川の頭に、自分の顔を埋めた。
「この人とは、付き合って半年ちょっとで離れ離れになっちゃったんだけど、ずっと前から好きだったんだ。にこ先輩は、あった瞬間から他の人とは違った。」
「…。」
功がパソコン画面の中の二子川を撫でる。
「二つ上の先輩なんだけど、ちょっとお金に困ってるみたいだから、何かしてあげたいと思って、一番稼げる親の会社で働いたりさ…」
「…。」
「親とは、先輩と同じ高校に行きたくて進路で揉めてからはほぼ勘当状態だったんだけど、なんとか頭下げて…」
「…。」
「面倒なことや辛いこともあったけど
、先輩の笑顔が、見れるだけで幸せだった。」
(…ちょっ、ちょちょちょ!聞いてない!聞いてないよそんな事!俺の為にわざわざそんな事してたの?俺めっちゃダメな先輩じゃん!)
てっきり、親にたんまりお小遣いを貰っていると思っていた二子川にとって、功の告白は意外だった。
「先輩…笑って…先輩……」
そしてまた功は、画面の中の二子川を見てぽろぽろと涙を流した。
「俺は…どんな事でも、先輩の笑顔が見れればやって行けたのに…大学で先輩と別れて辛かった時も、就職直後に辛かった時も、仕事が辛い時も…」
(…ん?)
「先輩はジュース好きで、よく買ってあげたんだ。りんごのパックジュース。美味しそうに、ほっぺたをふくらまして飲んでた。」
功がくりくりと犬二子川の垂れた耳を触る。
(こんな時に悪いけど…手つきも気持ち悪いんだよなこいつ…)
押し倒されてされま交尾発言は、軽くトラウマだった。
二子川は身を揺すって功の手から逃げた。しかしまた直ぐに捕まり、耳を触られる。
「ふふっ、飲み終わった先輩のジュースのパックは捨てるふりして、毎回俺が回収してたんだ。間接キス…興奮したなぁ…。」
(は?)
男の後輩相手に半ば売春の様な事をしていたなんて黒歴史、思い出したくもない。
「ほら〜ニコちゃん。ご飯食べなよ。遠慮しなくていいよ〜!」
(それなのに…)
ニコニコとこちらへ犬の餌を差し出す一生を、犬になった二子川は苦々しく睨んだ。
因みに別にそういういかがわしい遊びじゃない。
不思議な事に、二子川は本当に犬になってしまったのだ。芝犬。の雑種。耳が垂れている。
そして不幸な事に、功に拾われた。どうやら犬の自分が怪我をして倒れているところを、功が拾って獣医に見せ飼う事にしたらしい。
高校卒業以来、十数年会っていなかった功は立派な男前に育っていた。
堀が深い顔立ちに、クリッとした二重。髪の色は高校の時と違い黒い。真面目に何処かで働いているようだ。
「まだ食べれないかな?んー…ちょっと待ってね。お粥作ってあげる!」
それから暫くして、功は鰹節をかけたお粥を出してれた。
ドッグフードは流石に無理だがお粥ならいける。
「…。」
「…。」
「…どうしたの?」
「…。」
ベタつく視線を感じお粥から顔を上げると、案の定功がじっとこちらを見ていた。
嫌な感じがする。
そもそも功は、瀕死の犬が目の前にいたとしても可哀想なんて思わない人種だ。子供っぽい言動の裏では達観し、人を駒の様に扱う。
(何故、助けた?…まさか)
犬の姿の二子川はじっと自分のお粥を見つめた。これには毒が入っているかもしれない。
「大丈夫だよ。ちゃんと天然だしで作ったお粥だよ。犬の身体にも害はないよ。」
「…。」
ちょっとずれてるけど、無害らしい。ホッとしてまたお粥を食べ始めた。
功の意図は全く読めないが、空腹には逆らえず、二子川は気づけばお粥を完食していた。
やたらとこちらをニマニマと見つめる功には、最後まで不信感が拭えなかった。
———-
「…い。……ぐす…。」
その日の夜、リビングの一角に作られた自分のスペースで寝ていると、グスグスと誰かが泣く音がして目が覚めた。
最初は空耳だと思ったが確かに聞こえる。
「…」
無視して寝ようと思うのに、一度気になると中々寝れない。
二子川はその音に誘われる様に、ふらふらとリビングを出た。
功の現在の住まいはマンションにしては想像以上に広く、廊下もそこそこ長い。その廊下の突き当たりの部屋のドアが少し開いており、光が漏れ出ていた。泣き声もそこからする。
「…ぐすっ、にこ先輩……ずずっ、」
「…」
部屋に入って目に入った光景に我が目を疑う。部屋の入り口に背を向けて座った功が、パソコンの画面をみて泣いていた。パソコン画面は、犬の高さでは見えない。
「…あ、にこちゃん…」
「くぅぅぅん…」
とりあえず、鼻を鳴らす。
すると功が鼻を啜りながらこちらに手を伸ばしてきた。
何故か昔からこいつに手を伸ばされると、反射的に体が逃げを打つ。
それに今は特別嫌な予感がした。
(でも、見たい…)
功は二子川を膝の上に乗せた。
「…!」
そしてパソコン画面をみて驚愕した。
「ほら、俺の大切な人。」
画面には病院と思しき部屋で寝る二子川が映し出されていた。目を瞑った二子川はチューブで繋がれており、顔や体にはガーゼや包帯が巻かれていた。重症の意識不明患者という有様だ。
「事故に遭って…意識が戻らないんだ。俺の恋人。」
(恋人ではない。しかしこれは…)
二子川も何も考えられず、ただただ呆然と画面を覗き込んだ。
(そう言えば犬になる前…俺は何をしていたっけ…?思い出せない…。)
「…にこちゃん…。」
功が膝に乗せた犬の二子川の頭に、自分の顔を埋めた。
「この人とは、付き合って半年ちょっとで離れ離れになっちゃったんだけど、ずっと前から好きだったんだ。にこ先輩は、あった瞬間から他の人とは違った。」
「…。」
功がパソコン画面の中の二子川を撫でる。
「二つ上の先輩なんだけど、ちょっとお金に困ってるみたいだから、何かしてあげたいと思って、一番稼げる親の会社で働いたりさ…」
「…。」
「親とは、先輩と同じ高校に行きたくて進路で揉めてからはほぼ勘当状態だったんだけど、なんとか頭下げて…」
「…。」
「面倒なことや辛いこともあったけど
、先輩の笑顔が、見れるだけで幸せだった。」
(…ちょっ、ちょちょちょ!聞いてない!聞いてないよそんな事!俺の為にわざわざそんな事してたの?俺めっちゃダメな先輩じゃん!)
てっきり、親にたんまりお小遣いを貰っていると思っていた二子川にとって、功の告白は意外だった。
「先輩…笑って…先輩……」
そしてまた功は、画面の中の二子川を見てぽろぽろと涙を流した。
「俺は…どんな事でも、先輩の笑顔が見れればやって行けたのに…大学で先輩と別れて辛かった時も、就職直後に辛かった時も、仕事が辛い時も…」
(…ん?)
「先輩はジュース好きで、よく買ってあげたんだ。りんごのパックジュース。美味しそうに、ほっぺたをふくらまして飲んでた。」
功がくりくりと犬二子川の垂れた耳を触る。
(こんな時に悪いけど…手つきも気持ち悪いんだよなこいつ…)
押し倒されてされま交尾発言は、軽くトラウマだった。
二子川は身を揺すって功の手から逃げた。しかしまた直ぐに捕まり、耳を触られる。
「ふふっ、飲み終わった先輩のジュースのパックは捨てるふりして、毎回俺が回収してたんだ。間接キス…興奮したなぁ…。」
(は?)