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ヤンデレ後輩に頼るしかない話

「功の弱点はなんだ⁈」
「…んぁ?」
夜寝ていると急に起こされ、半裸の男に詰め寄られる。
「あぁ、にこ先輩、また人間に戻れたんですか。」
「いいから、教えろ!」
(それが人にものを頼む態度かねぇ。)
釈然としないが、にこ先輩は先輩で必死なのだろう。
にこ先輩のおかげでゆずくんを言いなりに出来るから、まぁ今晩位は許容するか。
早く済ませて寝たいし。
「功ですか…。んーあったかなぁ。」
「あるだろう⁈人には誰しも、弱点の1つや2つ!」
「そうですね…。あぁ、何だっけ…虫とか割と苦手だったかな?」
「虫⁈」
と言うやり取りをしたのが昨晩。
あれがこうなるわけか。と、静流は目の前の光景を見て考えた。
昼下がりの庭(勿論、脱走防止に高い壁で囲っている)、にこ先輩は口に棒を咥えていた。
「にこちゃん⁈」
「わふっ」
にこ先輩はどっから見つけて来たのか、その棒切れにトカゲを乗せている。
今のにこ先輩は犬だけど分かる。
へらへらと笑っている。
功に一矢報いいるつもりなんだろう。
にこ先輩が功に飛びかかろうと飛び上がった。
功が身構える。

…が、

「にこちゃん♡」
「わふ⁈」
しかし功は怖がるどころか飛びかかったにこ先輩を抱きとめた。
そのままぎゅっと抱きしめ、頬擦りしている。
にこ先輩は目を白黒させ驚いた後、急にワナワナと震えだした。
(犬なのになんと分かりやすい…。)
めっちゃ怒っている。
怒りで震えている。
こちらを睨み、ガチギレしている。
「…いやいや、にこ先輩…トカゲは、虫じゃないですよ……爬虫類や…」
そんな静流の声は、功と二子川には届かなかった。
「にこちゃん、そんなのに俺のこと好き?好きなんだね⁈嬉しい…!」
「…」
「あ、やべ…嬉し過ぎて……」
「わ゛ん⁈ぐるるるるっ」
「え?…おぉ!」
にこ先輩を抱きしめていた功が、何かに気づいた様に足元から枝を拾い上げた。
「凄い、綺麗な色したトカゲじゃん!」
「わんっ」
功は棒を拾い上げるが、にこ先輩は怒って功の腕から飛び出し、そのまま室内に戻っていく。
「わふわふ…わっ…ふがふが…」
もごもごと、犬の身なりに不平を漏らしながら…。
「にこちゃ〜ん、ごめんね〜、見せたかったんだね〜!ね〜!にこちゃんってば!」
(あーあ、会社の人間には見せられないな…。)
功は会社ではかなりの切れ者で通っている。
隙もなく、仕事も出来る。次期社長。
そんな功のこんな姿、誰も想像できないだろう。
(犬相手にあんなヘコヘコしちゃって…)
功の弱点?そんなの明白だ。
「…」
そんな事を考えていると、ポケットでスマホが震えた。
『柚木 : 今日は、シフトが遅番なので、会えません。』
「…ふーん。」
ほら、君達の反応次第で、こっちはこんなに気持ちがぐらつく。
こちらが優位な様で、本質的には違うのだろう。
気づいていないのは、本人達だけだ。
(功にしても、にこ先輩を使えば手玉に取れるかもしれない。)
「…」
しかしそんな邪な考えがバレたのか、にこ先輩を追っていた功が不意に足を止め、こちらを振り向いた。
その目は鋭い。射抜く様に睨んでくる。
殺す勢いとは正に今の功の様子だろう。
「…大丈夫だって…。」
そんな功に、静流は口を尖らせてこぼした。
「…はぁー…」
(やっぱり敵わないなー。まぁ…、競合しないからいいけど…。)
今まで他の人間はどうにでも出来たのに、何故か功にだけは敵わない。
それはこの先もきっと、そうなのだろう。
(…そろそろ、にこ先輩の事が功にバレた時の事も考えて動かないとだな…)
それはそう遠くない日だろう。
その時には上手く立ち回らないと、自分の首が絞まる。
「あー、やっぱり俺にも癒しが必要だね。」
静流は再びスマホを手に取り、メッセージを入力した。
『それなら泊まりで行くから。22時半には家に戻るよね?』
『柚木:』
ゆずくんにメッセージを送ったのに、またいつものスルーだ。
静流は舌打ちをした。
先程ゆずくんから返事が来たばかりだ。シフトの時間を加味しても、まだスマホを見ているはずだ。
『柚木くんの返信が遅れた時間分、今夜は我慢しながらしようね。』
静流のメッセージには、直ぐに既読がついた。
『そっちの方が締まりも良くて俺もー』
『柚木:23時には帰ります。』
そして案の定、直ぐに返事は来た。
「本当に…」
メッセージを無視されると我慢ならない位嫌だし、会えると決まると今夜が楽しみで堪らない。
本当に心を翻弄されっぱなしだ。
ふと部屋の中に目を向けると、暴れる二子川を抑えこみ、無理矢理抱きしめてキスしている功が見えた。
「類友だねぇ。」
静流はこっそり笑った。
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