圭人くんの開発
「じゃ、…かんぱーい!」
それを合図に店内がいっそう賑やかになる。
人は誰しも仮面を被って生きている。よく言ったもんだ。勿論そんな言葉にぴんとこない人もいるかも知れないが、俺にはしっくりとくる。だって、本来の俺は酷く凡庸で面白味のない人間だ。
(…ワイン一杯1400円かよ、たっか……。)
飲み放題にも関わらず、店のカウンターにチラリと見えたメニュー表に釘付けになった。いかん、いかん。相変わらず、みみっちい事をしてしまう…。
「よー、圭人、久々!」
「久々ぶり〜。」
俺は声の方を振り向いた。そこには見知った友達が2人こちらに手招きしていた。今日は同窓会なのだ。
「お前は相変わらず緩いなー。」
「今、何してんの?」
「保健室の先生〜。」
「ははっ、まじか!」
まじかって、なに?内心波風たつが、ここの奴らは官僚や大企業勤めばかりだ。そんな学校だったから、この反応は仕方ないんだろうけど…。
とは言え、話し始めると気のいい奴らだ。一方的に僻んでも仕方ない。普通に楽しい。面倒な事は右から左へ受け流せばいいんだ。
「そういや、お前とこの兄ちゃんすげーな!」
(あ…)
「最高学府の医学部いったろ?」
「しかも首席卒業。」
「うちの高校から、凄い奴出たって一時期もちきりだったよな!」
「やっぱ、なんか高校の時から違ったよなー」
「そうそう、仲良い人達もなんか浮世離れしてたし。」
誰かが一度話し始めると、あれが凄かった、これが凄かった。皆が話し始める。
「………」
俺の実家は、代々αばかりの医者一族だった。しかし俺のバースはβだ。バースが分かってから、家族は俺に期待をしなくなり、俺は家族から離れたくてこの中高一貫校から転校もした。このド庶民の性も、転校して1人暮しをした結果身についたのだ。
対する兄はαの特性がいろ濃く、何をしても秀でており、学校では有名ですらあった。俺が自分を偽るのも、兄の存在が大きい。親に未練はないが、兄は俺にとって大きい存在だ。兄に近づきたい。兄を知りたい。
「へー。鬼塚くんって鬼塚先輩の弟なの?」
「そう。」
急に声をかけられ、顔を上げると知らない奴だった。小綺麗な雰囲気で、やたらスタイルが良い。表情は少なく眼鏡もしているのに、整った顔立ちが見て取れた。高校から入学組の奴か?
「あんま似てないね。」
「つか、お前、誰?」
あ、しまった。兄さんに似てないとか言われて、ついカッとなってしまった。
俺と話していた相手はきょとんとして押し黙った。
「へー。」
「…えと、思わずごめんね〜。申し訳ないけど、顔に覚えがなくて〜。」
俺は慌てて取り繕うように笑う。しかし、俺に声をかけてきた奴は真顔でじろじろと俺を見下ろすだけだ。嫌な感じ。観察されてる感が凄い。
「直樹!直樹じゃん!」
「来てたんだ!来ないかと思った!」
「久しぶり。」
直樹。こいつの名前らしい。1人が直樹に気づくと、わらわらと沢山の人が集まってくる。この華やかな見た目、この皆にチヤホヤと囲まれる感じ、αか?ますます、いけ好かないな。
「そっか、圭人は直樹知らないよな?」
「あぁ」
「直樹は、高校から入ってきた組だからな。」
やはりか。
「へー、鬼塚くんは、高校から違うとこ行ったんだ。珍しいんだね。」
「もっと、緩いとこが良かったんだ〜。家も出たかったし。」
直樹と呼ばれた奴は尚も話しかけてくる。しかし何処となく、こいつと話すのは居心地が悪い。俺は気を紛らわそうと、テーブルの料理に目を向けた。
そう。元々今日は、レストランの飯を腹一杯食うのが目的なんだ!
「そうだよなー。圭人が、転校したのは意外だったよな。圭人んち、皆αでうちの高校御用達って感じだったろ?圭人も、αって雰囲気だったし。」
ははっ。そうそう。俺はそれらしく振る舞ってる。兄さんの弟って思われたい。友達の反応は自分が上手く立ち回れている証拠のようで、俺は幾分気をよくして笑った。
(しかし、なんか……立食だからか、どれも高級感が今一つ…。もっとあからさまにエンゲル係数高い飯はないのか…。)
「へー。圭人くんは、どっちかって言うと、Ωっぽいって思った。」
はん?!直樹……お前、本当なんなの。俺は食べる手を止め、思わず鋭い視線を直樹に向けそうになる。しかしそれをぐっと堪えて、にへらと直樹に向かって笑った。
「そっかな〜。初めて言われた。」
「そうなんだ。それは意外。」
俺はお茶を濁す様に笑うが、直樹は無表情で意外だと言う。
本当、なんなの、この子……。俺は曖昧に笑いながら、その場を離れた。
----
「圭人、二次会は人も多いしさ、俺らで個別に飲み見直さないか?」
先程話していた仲のいい同級生がニコニコとほろ酔いで話しかけてくる。
「うん〜。そだねー。いこいこ〜。」
俺はゆるゆると笑い返事をした。そして、飲み屋まで向かうタクシーに乗り込みながらふと隣を見ると…直樹、お前が何故いる。
「…直樹くんも行くの?」
「そうだよ。」
そうー。なんか、嫌だ。直樹とやらはそんなにコイツらと仲良かったの?高校の交友関係はよく分からないしな。
「圭人くん、…さっきはごめんね。お兄さんと似てないって言われるの嫌だった?よね?」
「え?あー、いや別に〜。初対面だったから、びっくりしただけだよ〜。」
タクシーに乗っていると、隣から申し訳なさそうに直樹が話しかけてくる。
なんだ。気にしてたのか。ほぼ無表情で分からなかったが、案外普通の感覚の奴なのかも。俺も直樹の事をよく知りもしないで腹を立てて、大人気なかった。
「うちの兄さんとは、知り合いなの〜?」
「知り合いってか、大学の数学の講義で会って、数式の証明でこんてんぱんに言い負かされた。」
「…あ、そか…。でも、兄さんに悪気無いと思うよ。そういう人だから。」
兄さん、興味を持った人間以外にはびっくりするぐらい何も感じてないしな。多分、直樹の事ももう覚えてないだろうし。……それが問題なんだけど。
「うん。それは分かるよ。授業の終了ベルなったら、それまでの会話速攻で切り上げて帰ってったし。俺とのやり取りになんの感情もなかったんだなぁと思ったよ。」
「あ、…そう…。まぁ…誰にでもそういう感じだし、気にすんなよ…。つか…ごめんな…。」
兄さんはそういう人なんだ。そこに何の感情もない。そして人は、相手が自分に無感情な事に1番傷つくんだ。
俺は何故か申し訳ない気持ちがしてきた。
「……へー。圭人くんはお兄さんより優しいんだね。よっぽどお兄さんより人間出来てる。好感もてるね。」
「え?い、いやいや〜。そんな〜。…いや、そうかもっ〜、ははっ。」
これは素でちょっと嬉しかった。逆の事は言われても、こう言われる事はほぼなかった。俺は顔が赤くなるのを止めれず、歯に噛んで笑ってしまう。そんな俺をみて、無表情だった直樹がくすりと小さく笑った気がした。
----
それからなんやかんや、個別に二次会をしたメンバーで呑むようになった。そして自然と、直樹ともよく遊ぶ様になった。
「こんちゃ〜。おじゃまーしゃーす〜。」
「圭人くんやっときた。ご飯食べた?」
今日もこうして会って、一緒にDVD観鑑賞をする約束だ。直樹は結構いい奴だった。話も合うし。今では表情の少ない不器用さが兄に似てる気すらして、愛着が湧いていた。
「うん。食べた〜。」
「そうなんだ。俺まだから、なんか出前とるけど、圭人くんも何か食べる?」
「いや、いい〜。」
(ここらの出前、高いし…。)
そして直樹は金持ちだ。直樹は株の個人トレーダーをやっているらしい。ITにも強くて、システムトレードも自分で組んだプログラムでやったりと、都内の広いマンションに住む程度に儲けている。
「奢るよ?ここまできてもらっちゃったし。」
「いいって〜。食べてきたし、おつまみ買ってきたから、俺それを食べるし〜。」
「そか。分かった。」
直樹は割と奢ってくれる。でも、友達間でそんなに奢って貰うのも気が引ける。俺が言うと、直樹は頷き出前を注文し出した。
「直樹ー、テレビ付けていい?」
「いいよ。前お勧めしてもらったDVD借りてそこに置いてる。」
今日見るのは、サイコパスの殺人犯を専門の捜査機関が追うという、海外の捜査ドラマ。
俺はDVDをセットし、視聴の準備を進めた。
----
「圭人くんさぁー、こういうサイコパス出てくるドラマとか映画、お兄さん意識して観ちゃうの?」
ソファに並んでドラマを見ていると、不意に直樹が話しかけてきた。結構な時間観ていたので、外がもう暗い。特に意識をしていないが、確かに…俺はこの系統を観ることが多い。でも、深く考えてなかった。まぁ……これで兄さんが少しでも理解出来ればとか…考えてなくは、ない。かも。
「え〜。」
「圭人くんのお兄さんサイコパスっぽいから、圭人くんはこの手のばっか見るのかなって。」
「はは、なにそれ〜?ただ好きだから観てるだけだよー。てか、俺の兄さんをサイコ呼ばわりするなよ〜。」
「へー。本当、お兄さん大好きだね。」
「………まぁ…。」
まぁ、兄弟だし。
「ふーん。」
直樹は気のない返事をしながら、つまみを食べた。
「………」
「………」
確かに、兄さんには悪いけど、犯人と兄さんを重ねてみているのかも知れない。俺も大概だな…。
「ねぇ、お兄さんとセックスしたいとか考える?」
「はぁ?!いや、直樹が言ってる意味分かんない。何、急に…。」
「へー。素だね。本当にそこは興味ないんだ。」
まじでなんだ。そんなわけあるわけないだろ。直樹、なに考えてんだ。
「へー。圭人がお兄さんの真似ばっかりするのは、唯の憧れなんだね。」
「え?何それ…。」
「圭人くんって、素は違うじゃん。なんか、いつも変な人装ってる。」
「……」
「服も、暗い色ばっか。お兄さんと一緒だね。圭人くんには、暖色の方が似合うのに。」
「……別に…」
「じゃあさ、憧れのお兄さんがどんなセックスしてるか、気にならない?」
「いやなんで、頑なにそのルートに乗せんの?え?なに、お前…」
『俺としたいの?』
怖くてその先が言えなかった。
「俺、お兄さんと同じαだよ。興味ない?」
「ねーよ。大体友達同士で変だろ。」
「………」
俺の問いかけに、直樹はいつもの無表情で見下ろしてくる。
「……え、友達…だよね?」
違ったの??αと庶民βが友達って……思ってたの俺だけ?
俺はこんな状況なのに、相変わらずの無表情で何も言わない直樹に軽くショックを受けていた。
「……ふ、ふふっ、そうそう友達だよ。俺達、お友達だよ。」
今度は珍しく笑顔を見せて、俺の手を掴んでくる。なんでここに来て、普段見せない笑顔見せるんだよ。逆に怖いよ…。
「でもいいじゃん。やろうよ?」
ずいっと、直樹が近づいてくる。
「やっ……、だ、だから……しないって…」
「なんで?300年前からアダルトグッズはあって、つまり、300年前から、セックスなんてただのお遊びなんだよ。遊ぼうよ。俺とも。」
「いやいや、そんな遊び、1人でしろよ。俺とお前でしたら…関係が変になるだろ…。」
「変にならないよ。やっぱり、圭人くんはお兄さんと違って普通だなぁー。」
「はぁ?」
「いつもの圭人くんはどこいったの?もしかして、びびってるの?」
なに?煽ってんの?普通にスルーだけど…そんな煽り。
「いや、知らんし。」
「まぁ、良いけど。」
「え、何?なに?!」
直樹は俺の手にカチャリと手錠をかける。どこから持ってきた…。
「え、あの、直樹…俺のこと……その…す、好きなの?」
「ははっ、圭人くん、声が震えてる。」
「いや、まじ…っ、ほんと、やめてくれる?」
「ふふふっ」
なに?!ふふふって……いつもほぼ無表情な直樹が甘く笑う。もはや不気味だ。やっぱり、直樹は兄さんのこと恨んでて、その腹いせを俺にしたいのか?
直樹はそんなに体格ががっしりしているわけではない。しかし手の動きを塞がれて腹の上に乗られると、それだけで大きく見える。
「な、直樹っ!えとっ、俺、βだから…」
「なに、急に。」
直樹は俺のベルトを外しながら、俺の顔を見もせずにいった。もういつもの無表情に戻っている。ほんと、怖いんだけどっ!
「お前っ、前、俺の事Ωっぽいとか言ってたから…」
「あぁ…。あれ、嘘。ああ言うと、嫌われそうだったし。俺別にバースとかどうでもいい。見た目でバースとか分からなくない?」
「え?じゃぁ、なんで……」
「一回軽く嫌われたら、次に好かれて心許されるハードル下がらない?」
「………おまっ、…うわっ!!」
話してる途中でいきなり腹を舐められ、俺は思わず声をあげた。カチャカチャと手錠が鳴り、それが更に俺の恐怖心を煽る。
「……ちょっと、直樹!兄さんの事怒ってる?それでこんな事するのか?!」
「怒ってないよ。変な人だなとは思ったけど。…てかさ、圭人くんこっちに集中してよ。」
「いやっ、だからっ」
意味わからん!!集中とか言われても……気持ち悪いだけだ。寧ろ、この感覚から逃れたい。
「いったっ!!ちょっ、それっ!ケツ用のローションとかちゃんと付けてる?!付けろよ?!!い゛っ、いったいっっ!ケチらずつけろよ?!」
「ははっ、そんなおねだり初めてされた。本当に面白いんだけど。ちゃんと付けてるって。」
ケツに指を入れられる。あぁ、やっぱ、そっち…。内部をぐりぐりと押されて、異物感が気持ち悪い。何より痛い。
「うそっ!いっ、痛いって!!」
「はぁー、圭人くん、全然じゃん。まぁ、じっくりしてあげる。」
直樹は勝手にそう言い、くいっと眼鏡の位置を直し1人で頷く。兄さんを変だと言うけど、直樹も変だろ…!俺は息をあげて心の中で直樹を罵った。
「はー、疲れてきた。」
「もっ、もう、やめろって。」
「んー…そうだね…。」
カプっ
「ふっっ!!」
体が跳ねた。直樹は急に屈み込み、俺のものを咥え込んだ。
「ふぁっ……っ!」
あ、やばっ。これは、気持ちいい…。
最初は急に咥えられ恐怖で跳ねたが、次は気持ち良さで腰が跳ねる。
「あっ、やばっ、やっ、やっ、」
冷え切っていた体に熱が回り、どくどくと頭の中で脈打つ。下を見ると、じっとこちらを見る直樹と目が合った。なんでっ、…っ!みっ、見るなよっっ!!
「あっ」
もうっ、でるっ……!
「じゃ、また後ろの続きしようか。」
「っ最後までしてよ!」
折角、あとちょっとで出そうだったのに…。寸のところで放り出された。
「いやでもさ、ほら、」
「…っつ!」
「やっと指が奥まで入るようになったから。」
ぜ、前立腺…。まじか。
直樹は俺の反応を観察しているんだろう。再度俺を見つめながら、俺の中を刺激してくる。
見るなよっ!見るなっ!!
都度都度感じる、直樹のじっとりと見つめる視線が俺の羞恥心を煽る。
「ふぁっ!」
「ここ?」
「んんっっ!ちがっうっ!」
俺が口答えすると、直樹は「嘘ばっかり」と、今度はそこばかり触る。確かに、緩い快感?みたいなものがあるが、恐れていた程でないかも…。ホッとしたような妙な気持ちだ。だって男としての矜恃が守られた一方、これだと入れられた時、結構痛そう…。
「んー、前立腺さわってもあんまりだね。圭人くん、才能ない。」
「ふっ、だからっ、やめろってっ!!」
「んー、どうすればいいのかな?」
だから、やめろと…。
直樹は真顔のまま首を傾げて俺に聞いてくる。
「ねぇ、圭人くん。」
「あ?」
呼ばれて思わず直樹を見た。すると、
「っ!」
直樹が口付けてくる。ねっとり、直樹の舌が俺の口をこじ開け、やわやわと俺の舌を擦る。
「んっ、ふぅっっ!!」
「はっ、そうか。圭人くんはキスが好きなんだね。それならいっぱいしてあげる。」
「ばっ、…っ!んんっっ!」
直樹はこれまで見た中で1番興奮した様子で、またしつこく舌を絡めてくる。同時に、右手で前立腺を刺激してくるのでたちが悪い。
うっわっ…、なっ、なんでだ…。めっちゃ…気持ちいいっつ!
俺は自分の反応に戸惑った。
「ふふっ、圭人くん、オロオロしてる。ほら、いつもみたいに、頑張って、お兄さんの真似しなくていいの?」
「うるさいっ!……んっ!」
元より俺の言葉を待っていないのか、口答えする隙も与えられない。キス、しつこい。
「はぁっ、じゃ、しようか。セックス。」
「…あ、」
やばい。そう思った時には、俺の後ろの穴に、直樹のものが押し当てられていた。
「ぐっ、……っ、いっだっ!!」
やっぱ痛い。痛い痛いっ!
「んー、まだまだ、だね。」
「ん゛ーーっ!」
「でも、大丈夫。これからいっぱい、圭人くんを開発してあげるね。」
「かい、は…つ?」
なに、言ってんだ。俺を、開発する?
「ふふっ」
だから…、それ、怖いって…。
青筋立てる俺を他所に、直樹はまたふんわりと笑う。そして身をかがめ俺に甘いキスをしてくる。
「最初は、鬼塚先輩の弟っていうから、面白そうだしちょっとからかってみようと思ったんだ。」
「んっ、ふっ…っ、」
「虐めてもいいし、たらし込んで突き離してもいいし…」
「あっ、!!くっ…っ!!」
なんだよ。結局、兄さんの事恨んでんじゃん…。はぁっ、てか、なんかっ、ちょっと気持ちよくなってるのが怖いんだけど。
俺は自分を保つために、手をギュッと握った。
「だけど、…ははっ、俺、案外、圭人くんにハマっちゃった。」
「んんっっ!」
「圭人くんってさ、強いフリして、何でも軽くこなしてますって顔して、…本当は裏で必死に取り繕って…」
「ふぁっ、もっ、やめろっっ!」
「仮面をひっぺがしたら、こんな…。」
直樹が甘い息を吐き俺の頬を撫でた。
「だからっ、ふっ、もうっ、やめっっ!!」
「圭人くん…、もっと。もっと俺を、圭人くんで満たして。」
「…っ!」
もはや、直樹の言ってる事の意味が分からない。
ここから解放されたら、もう絶対に直樹に会わない。俺はそう固く誓った。
----
「何してんだ…お前…。」
「あ、やっと帰ってきた。圭人くん、お仕事遅くまでお疲れ様。」
俺が仕事から帰ると、俺のマンションの前に直樹がいた。
「はっ、ふざけんな。帰れ。」
「あっ。」
俺は直樹を脇に押しやり、無視して家に上がろうとした。
「圭人くん、この前はごめんね……。」
「……」
「俺、圭人くんのお兄さんにムカついてたからって、あんな事…。本当に馬鹿だった。」
「……」
「本当に、圭人くんには悪い事した。ごめんね…。」
「…」
「それだけ、最後に伝えたかったんだ。じゃ、俺、帰るね。」
直樹はそれだけ言い残し、背を向けとぼとぼと歩き出した。
「………はぁー……直樹、」
----
「おい、ふざけんなっ!なんでこうなる。」
「え?圭人くんを開発するって、俺、言ったよ。」
部屋に入ると、俺は直ぐに直樹に押し倒された。
「だからっ、さっきの茶番はなんだったんだ!…っん!!」
喚いていると、急に直樹にキスされる。
「今日はね、前回の失敗から学び、開発用の道具持ってきたよ。」
「だから、退けろって!!」
「今日が金曜日だから、丸々2日、いっぱい開発してあげる。」
俺がどんなに暴れても、直樹はそれを意に介さず、俺を軽々と拘束していく。
「さぁ、圭人くん。今日も、沢山一緒に遊ぼう。そして、俺を満たしてよ。」
「っ!」
「ふふふっ…」
そう言って、直樹はまたうっとりと甘い笑顔を浮かべた。
もうっ!なんなんだこいつっ!
それを合図に店内がいっそう賑やかになる。
人は誰しも仮面を被って生きている。よく言ったもんだ。勿論そんな言葉にぴんとこない人もいるかも知れないが、俺にはしっくりとくる。だって、本来の俺は酷く凡庸で面白味のない人間だ。
(…ワイン一杯1400円かよ、たっか……。)
飲み放題にも関わらず、店のカウンターにチラリと見えたメニュー表に釘付けになった。いかん、いかん。相変わらず、みみっちい事をしてしまう…。
「よー、圭人、久々!」
「久々ぶり〜。」
俺は声の方を振り向いた。そこには見知った友達が2人こちらに手招きしていた。今日は同窓会なのだ。
「お前は相変わらず緩いなー。」
「今、何してんの?」
「保健室の先生〜。」
「ははっ、まじか!」
まじかって、なに?内心波風たつが、ここの奴らは官僚や大企業勤めばかりだ。そんな学校だったから、この反応は仕方ないんだろうけど…。
とは言え、話し始めると気のいい奴らだ。一方的に僻んでも仕方ない。普通に楽しい。面倒な事は右から左へ受け流せばいいんだ。
「そういや、お前とこの兄ちゃんすげーな!」
(あ…)
「最高学府の医学部いったろ?」
「しかも首席卒業。」
「うちの高校から、凄い奴出たって一時期もちきりだったよな!」
「やっぱ、なんか高校の時から違ったよなー」
「そうそう、仲良い人達もなんか浮世離れしてたし。」
誰かが一度話し始めると、あれが凄かった、これが凄かった。皆が話し始める。
「………」
俺の実家は、代々αばかりの医者一族だった。しかし俺のバースはβだ。バースが分かってから、家族は俺に期待をしなくなり、俺は家族から離れたくてこの中高一貫校から転校もした。このド庶民の性も、転校して1人暮しをした結果身についたのだ。
対する兄はαの特性がいろ濃く、何をしても秀でており、学校では有名ですらあった。俺が自分を偽るのも、兄の存在が大きい。親に未練はないが、兄は俺にとって大きい存在だ。兄に近づきたい。兄を知りたい。
「へー。鬼塚くんって鬼塚先輩の弟なの?」
「そう。」
急に声をかけられ、顔を上げると知らない奴だった。小綺麗な雰囲気で、やたらスタイルが良い。表情は少なく眼鏡もしているのに、整った顔立ちが見て取れた。高校から入学組の奴か?
「あんま似てないね。」
「つか、お前、誰?」
あ、しまった。兄さんに似てないとか言われて、ついカッとなってしまった。
俺と話していた相手はきょとんとして押し黙った。
「へー。」
「…えと、思わずごめんね〜。申し訳ないけど、顔に覚えがなくて〜。」
俺は慌てて取り繕うように笑う。しかし、俺に声をかけてきた奴は真顔でじろじろと俺を見下ろすだけだ。嫌な感じ。観察されてる感が凄い。
「直樹!直樹じゃん!」
「来てたんだ!来ないかと思った!」
「久しぶり。」
直樹。こいつの名前らしい。1人が直樹に気づくと、わらわらと沢山の人が集まってくる。この華やかな見た目、この皆にチヤホヤと囲まれる感じ、αか?ますます、いけ好かないな。
「そっか、圭人は直樹知らないよな?」
「あぁ」
「直樹は、高校から入ってきた組だからな。」
やはりか。
「へー、鬼塚くんは、高校から違うとこ行ったんだ。珍しいんだね。」
「もっと、緩いとこが良かったんだ〜。家も出たかったし。」
直樹と呼ばれた奴は尚も話しかけてくる。しかし何処となく、こいつと話すのは居心地が悪い。俺は気を紛らわそうと、テーブルの料理に目を向けた。
そう。元々今日は、レストランの飯を腹一杯食うのが目的なんだ!
「そうだよなー。圭人が、転校したのは意外だったよな。圭人んち、皆αでうちの高校御用達って感じだったろ?圭人も、αって雰囲気だったし。」
ははっ。そうそう。俺はそれらしく振る舞ってる。兄さんの弟って思われたい。友達の反応は自分が上手く立ち回れている証拠のようで、俺は幾分気をよくして笑った。
(しかし、なんか……立食だからか、どれも高級感が今一つ…。もっとあからさまにエンゲル係数高い飯はないのか…。)
「へー。圭人くんは、どっちかって言うと、Ωっぽいって思った。」
はん?!直樹……お前、本当なんなの。俺は食べる手を止め、思わず鋭い視線を直樹に向けそうになる。しかしそれをぐっと堪えて、にへらと直樹に向かって笑った。
「そっかな〜。初めて言われた。」
「そうなんだ。それは意外。」
俺はお茶を濁す様に笑うが、直樹は無表情で意外だと言う。
本当、なんなの、この子……。俺は曖昧に笑いながら、その場を離れた。
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「圭人、二次会は人も多いしさ、俺らで個別に飲み見直さないか?」
先程話していた仲のいい同級生がニコニコとほろ酔いで話しかけてくる。
「うん〜。そだねー。いこいこ〜。」
俺はゆるゆると笑い返事をした。そして、飲み屋まで向かうタクシーに乗り込みながらふと隣を見ると…直樹、お前が何故いる。
「…直樹くんも行くの?」
「そうだよ。」
そうー。なんか、嫌だ。直樹とやらはそんなにコイツらと仲良かったの?高校の交友関係はよく分からないしな。
「圭人くん、…さっきはごめんね。お兄さんと似てないって言われるの嫌だった?よね?」
「え?あー、いや別に〜。初対面だったから、びっくりしただけだよ〜。」
タクシーに乗っていると、隣から申し訳なさそうに直樹が話しかけてくる。
なんだ。気にしてたのか。ほぼ無表情で分からなかったが、案外普通の感覚の奴なのかも。俺も直樹の事をよく知りもしないで腹を立てて、大人気なかった。
「うちの兄さんとは、知り合いなの〜?」
「知り合いってか、大学の数学の講義で会って、数式の証明でこんてんぱんに言い負かされた。」
「…あ、そか…。でも、兄さんに悪気無いと思うよ。そういう人だから。」
兄さん、興味を持った人間以外にはびっくりするぐらい何も感じてないしな。多分、直樹の事ももう覚えてないだろうし。……それが問題なんだけど。
「うん。それは分かるよ。授業の終了ベルなったら、それまでの会話速攻で切り上げて帰ってったし。俺とのやり取りになんの感情もなかったんだなぁと思ったよ。」
「あ、…そう…。まぁ…誰にでもそういう感じだし、気にすんなよ…。つか…ごめんな…。」
兄さんはそういう人なんだ。そこに何の感情もない。そして人は、相手が自分に無感情な事に1番傷つくんだ。
俺は何故か申し訳ない気持ちがしてきた。
「……へー。圭人くんはお兄さんより優しいんだね。よっぽどお兄さんより人間出来てる。好感もてるね。」
「え?い、いやいや〜。そんな〜。…いや、そうかもっ〜、ははっ。」
これは素でちょっと嬉しかった。逆の事は言われても、こう言われる事はほぼなかった。俺は顔が赤くなるのを止めれず、歯に噛んで笑ってしまう。そんな俺をみて、無表情だった直樹がくすりと小さく笑った気がした。
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それからなんやかんや、個別に二次会をしたメンバーで呑むようになった。そして自然と、直樹ともよく遊ぶ様になった。
「こんちゃ〜。おじゃまーしゃーす〜。」
「圭人くんやっときた。ご飯食べた?」
今日もこうして会って、一緒にDVD観鑑賞をする約束だ。直樹は結構いい奴だった。話も合うし。今では表情の少ない不器用さが兄に似てる気すらして、愛着が湧いていた。
「うん。食べた〜。」
「そうなんだ。俺まだから、なんか出前とるけど、圭人くんも何か食べる?」
「いや、いい〜。」
(ここらの出前、高いし…。)
そして直樹は金持ちだ。直樹は株の個人トレーダーをやっているらしい。ITにも強くて、システムトレードも自分で組んだプログラムでやったりと、都内の広いマンションに住む程度に儲けている。
「奢るよ?ここまできてもらっちゃったし。」
「いいって〜。食べてきたし、おつまみ買ってきたから、俺それを食べるし〜。」
「そか。分かった。」
直樹は割と奢ってくれる。でも、友達間でそんなに奢って貰うのも気が引ける。俺が言うと、直樹は頷き出前を注文し出した。
「直樹ー、テレビ付けていい?」
「いいよ。前お勧めしてもらったDVD借りてそこに置いてる。」
今日見るのは、サイコパスの殺人犯を専門の捜査機関が追うという、海外の捜査ドラマ。
俺はDVDをセットし、視聴の準備を進めた。
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「圭人くんさぁー、こういうサイコパス出てくるドラマとか映画、お兄さん意識して観ちゃうの?」
ソファに並んでドラマを見ていると、不意に直樹が話しかけてきた。結構な時間観ていたので、外がもう暗い。特に意識をしていないが、確かに…俺はこの系統を観ることが多い。でも、深く考えてなかった。まぁ……これで兄さんが少しでも理解出来ればとか…考えてなくは、ない。かも。
「え〜。」
「圭人くんのお兄さんサイコパスっぽいから、圭人くんはこの手のばっか見るのかなって。」
「はは、なにそれ〜?ただ好きだから観てるだけだよー。てか、俺の兄さんをサイコ呼ばわりするなよ〜。」
「へー。本当、お兄さん大好きだね。」
「………まぁ…。」
まぁ、兄弟だし。
「ふーん。」
直樹は気のない返事をしながら、つまみを食べた。
「………」
「………」
確かに、兄さんには悪いけど、犯人と兄さんを重ねてみているのかも知れない。俺も大概だな…。
「ねぇ、お兄さんとセックスしたいとか考える?」
「はぁ?!いや、直樹が言ってる意味分かんない。何、急に…。」
「へー。素だね。本当にそこは興味ないんだ。」
まじでなんだ。そんなわけあるわけないだろ。直樹、なに考えてんだ。
「へー。圭人がお兄さんの真似ばっかりするのは、唯の憧れなんだね。」
「え?何それ…。」
「圭人くんって、素は違うじゃん。なんか、いつも変な人装ってる。」
「……」
「服も、暗い色ばっか。お兄さんと一緒だね。圭人くんには、暖色の方が似合うのに。」
「……別に…」
「じゃあさ、憧れのお兄さんがどんなセックスしてるか、気にならない?」
「いやなんで、頑なにそのルートに乗せんの?え?なに、お前…」
『俺としたいの?』
怖くてその先が言えなかった。
「俺、お兄さんと同じαだよ。興味ない?」
「ねーよ。大体友達同士で変だろ。」
「………」
俺の問いかけに、直樹はいつもの無表情で見下ろしてくる。
「……え、友達…だよね?」
違ったの??αと庶民βが友達って……思ってたの俺だけ?
俺はこんな状況なのに、相変わらずの無表情で何も言わない直樹に軽くショックを受けていた。
「……ふ、ふふっ、そうそう友達だよ。俺達、お友達だよ。」
今度は珍しく笑顔を見せて、俺の手を掴んでくる。なんでここに来て、普段見せない笑顔見せるんだよ。逆に怖いよ…。
「でもいいじゃん。やろうよ?」
ずいっと、直樹が近づいてくる。
「やっ……、だ、だから……しないって…」
「なんで?300年前からアダルトグッズはあって、つまり、300年前から、セックスなんてただのお遊びなんだよ。遊ぼうよ。俺とも。」
「いやいや、そんな遊び、1人でしろよ。俺とお前でしたら…関係が変になるだろ…。」
「変にならないよ。やっぱり、圭人くんはお兄さんと違って普通だなぁー。」
「はぁ?」
「いつもの圭人くんはどこいったの?もしかして、びびってるの?」
なに?煽ってんの?普通にスルーだけど…そんな煽り。
「いや、知らんし。」
「まぁ、良いけど。」
「え、何?なに?!」
直樹は俺の手にカチャリと手錠をかける。どこから持ってきた…。
「え、あの、直樹…俺のこと……その…す、好きなの?」
「ははっ、圭人くん、声が震えてる。」
「いや、まじ…っ、ほんと、やめてくれる?」
「ふふふっ」
なに?!ふふふって……いつもほぼ無表情な直樹が甘く笑う。もはや不気味だ。やっぱり、直樹は兄さんのこと恨んでて、その腹いせを俺にしたいのか?
直樹はそんなに体格ががっしりしているわけではない。しかし手の動きを塞がれて腹の上に乗られると、それだけで大きく見える。
「な、直樹っ!えとっ、俺、βだから…」
「なに、急に。」
直樹は俺のベルトを外しながら、俺の顔を見もせずにいった。もういつもの無表情に戻っている。ほんと、怖いんだけどっ!
「お前っ、前、俺の事Ωっぽいとか言ってたから…」
「あぁ…。あれ、嘘。ああ言うと、嫌われそうだったし。俺別にバースとかどうでもいい。見た目でバースとか分からなくない?」
「え?じゃぁ、なんで……」
「一回軽く嫌われたら、次に好かれて心許されるハードル下がらない?」
「………おまっ、…うわっ!!」
話してる途中でいきなり腹を舐められ、俺は思わず声をあげた。カチャカチャと手錠が鳴り、それが更に俺の恐怖心を煽る。
「……ちょっと、直樹!兄さんの事怒ってる?それでこんな事するのか?!」
「怒ってないよ。変な人だなとは思ったけど。…てかさ、圭人くんこっちに集中してよ。」
「いやっ、だからっ」
意味わからん!!集中とか言われても……気持ち悪いだけだ。寧ろ、この感覚から逃れたい。
「いったっ!!ちょっ、それっ!ケツ用のローションとかちゃんと付けてる?!付けろよ?!!い゛っ、いったいっっ!ケチらずつけろよ?!」
「ははっ、そんなおねだり初めてされた。本当に面白いんだけど。ちゃんと付けてるって。」
ケツに指を入れられる。あぁ、やっぱ、そっち…。内部をぐりぐりと押されて、異物感が気持ち悪い。何より痛い。
「うそっ!いっ、痛いって!!」
「はぁー、圭人くん、全然じゃん。まぁ、じっくりしてあげる。」
直樹は勝手にそう言い、くいっと眼鏡の位置を直し1人で頷く。兄さんを変だと言うけど、直樹も変だろ…!俺は息をあげて心の中で直樹を罵った。
「はー、疲れてきた。」
「もっ、もう、やめろって。」
「んー…そうだね…。」
カプっ
「ふっっ!!」
体が跳ねた。直樹は急に屈み込み、俺のものを咥え込んだ。
「ふぁっ……っ!」
あ、やばっ。これは、気持ちいい…。
最初は急に咥えられ恐怖で跳ねたが、次は気持ち良さで腰が跳ねる。
「あっ、やばっ、やっ、やっ、」
冷え切っていた体に熱が回り、どくどくと頭の中で脈打つ。下を見ると、じっとこちらを見る直樹と目が合った。なんでっ、…っ!みっ、見るなよっっ!!
「あっ」
もうっ、でるっ……!
「じゃ、また後ろの続きしようか。」
「っ最後までしてよ!」
折角、あとちょっとで出そうだったのに…。寸のところで放り出された。
「いやでもさ、ほら、」
「…っつ!」
「やっと指が奥まで入るようになったから。」
ぜ、前立腺…。まじか。
直樹は俺の反応を観察しているんだろう。再度俺を見つめながら、俺の中を刺激してくる。
見るなよっ!見るなっ!!
都度都度感じる、直樹のじっとりと見つめる視線が俺の羞恥心を煽る。
「ふぁっ!」
「ここ?」
「んんっっ!ちがっうっ!」
俺が口答えすると、直樹は「嘘ばっかり」と、今度はそこばかり触る。確かに、緩い快感?みたいなものがあるが、恐れていた程でないかも…。ホッとしたような妙な気持ちだ。だって男としての矜恃が守られた一方、これだと入れられた時、結構痛そう…。
「んー、前立腺さわってもあんまりだね。圭人くん、才能ない。」
「ふっ、だからっ、やめろってっ!!」
「んー、どうすればいいのかな?」
だから、やめろと…。
直樹は真顔のまま首を傾げて俺に聞いてくる。
「ねぇ、圭人くん。」
「あ?」
呼ばれて思わず直樹を見た。すると、
「っ!」
直樹が口付けてくる。ねっとり、直樹の舌が俺の口をこじ開け、やわやわと俺の舌を擦る。
「んっ、ふぅっっ!!」
「はっ、そうか。圭人くんはキスが好きなんだね。それならいっぱいしてあげる。」
「ばっ、…っ!んんっっ!」
直樹はこれまで見た中で1番興奮した様子で、またしつこく舌を絡めてくる。同時に、右手で前立腺を刺激してくるのでたちが悪い。
うっわっ…、なっ、なんでだ…。めっちゃ…気持ちいいっつ!
俺は自分の反応に戸惑った。
「ふふっ、圭人くん、オロオロしてる。ほら、いつもみたいに、頑張って、お兄さんの真似しなくていいの?」
「うるさいっ!……んっ!」
元より俺の言葉を待っていないのか、口答えする隙も与えられない。キス、しつこい。
「はぁっ、じゃ、しようか。セックス。」
「…あ、」
やばい。そう思った時には、俺の後ろの穴に、直樹のものが押し当てられていた。
「ぐっ、……っ、いっだっ!!」
やっぱ痛い。痛い痛いっ!
「んー、まだまだ、だね。」
「ん゛ーーっ!」
「でも、大丈夫。これからいっぱい、圭人くんを開発してあげるね。」
「かい、は…つ?」
なに、言ってんだ。俺を、開発する?
「ふふっ」
だから…、それ、怖いって…。
青筋立てる俺を他所に、直樹はまたふんわりと笑う。そして身をかがめ俺に甘いキスをしてくる。
「最初は、鬼塚先輩の弟っていうから、面白そうだしちょっとからかってみようと思ったんだ。」
「んっ、ふっ…っ、」
「虐めてもいいし、たらし込んで突き離してもいいし…」
「あっ、!!くっ…っ!!」
なんだよ。結局、兄さんの事恨んでんじゃん…。はぁっ、てか、なんかっ、ちょっと気持ちよくなってるのが怖いんだけど。
俺は自分を保つために、手をギュッと握った。
「だけど、…ははっ、俺、案外、圭人くんにハマっちゃった。」
「んんっっ!」
「圭人くんってさ、強いフリして、何でも軽くこなしてますって顔して、…本当は裏で必死に取り繕って…」
「ふぁっ、もっ、やめろっっ!」
「仮面をひっぺがしたら、こんな…。」
直樹が甘い息を吐き俺の頬を撫でた。
「だからっ、ふっ、もうっ、やめっっ!!」
「圭人くん…、もっと。もっと俺を、圭人くんで満たして。」
「…っ!」
もはや、直樹の言ってる事の意味が分からない。
ここから解放されたら、もう絶対に直樹に会わない。俺はそう固く誓った。
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「何してんだ…お前…。」
「あ、やっと帰ってきた。圭人くん、お仕事遅くまでお疲れ様。」
俺が仕事から帰ると、俺のマンションの前に直樹がいた。
「はっ、ふざけんな。帰れ。」
「あっ。」
俺は直樹を脇に押しやり、無視して家に上がろうとした。
「圭人くん、この前はごめんね……。」
「……」
「俺、圭人くんのお兄さんにムカついてたからって、あんな事…。本当に馬鹿だった。」
「……」
「本当に、圭人くんには悪い事した。ごめんね…。」
「…」
「それだけ、最後に伝えたかったんだ。じゃ、俺、帰るね。」
直樹はそれだけ言い残し、背を向けとぼとぼと歩き出した。
「………はぁー……直樹、」
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「おい、ふざけんなっ!なんでこうなる。」
「え?圭人くんを開発するって、俺、言ったよ。」
部屋に入ると、俺は直ぐに直樹に押し倒された。
「だからっ、さっきの茶番はなんだったんだ!…っん!!」
喚いていると、急に直樹にキスされる。
「今日はね、前回の失敗から学び、開発用の道具持ってきたよ。」
「だから、退けろって!!」
「今日が金曜日だから、丸々2日、いっぱい開発してあげる。」
俺がどんなに暴れても、直樹はそれを意に介さず、俺を軽々と拘束していく。
「さぁ、圭人くん。今日も、沢山一緒に遊ぼう。そして、俺を満たしてよ。」
「っ!」
「ふふふっ…」
そう言って、直樹はまたうっとりと甘い笑顔を浮かべた。
もうっ!なんなんだこいつっ!